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物語と「かいまみ」  NF


はじめに
 王朝時代の物語には、しばしば「かいまみ」の場面が描かれています。その特徴と現代との繋がりを考えて見ます。

予期せぬ「かいまみ」
 「かいまみ」の一つのパターンとして、男性が偶然に屋外から屋内の女性を垣間見てしまうというものがあります。これは「伊勢物語」の「初冠」を始めとして「源氏物語」など数多くの物語で用いられた場面設定です。こうした類の「かいまみ」は、しばしば恋愛物語の始まりとして用いられる傾向があります。例えば、前述の「初冠」において男性が垣間見た姉妹に求愛の歌を送ったり、「源氏物語」において柏木が女三宮を垣間見た事が不義密通の切っ掛けとなったり、薫が八宮の二人の娘を垣間見た事が宇治を舞台とする恋物語の始まりになった事が挙げられます。

意図的な「かいまみ」
 もう一つのパターンとして、男性が意図的に女性を屋外から垣間見ようとするものも認められます。「伊勢物語」「大和物語」などでは、男が妻や恋人の本心を知るために垣間見をする話や、男が興味を持った女を垣間見する話があります。

現代的な視点と当時の価値観
 こうした「かいまみ」について考える際、当時の習慣について考慮する必要があります。当時は、女性は夫や親兄弟以外の男性の前に顔を出す事は基本的にありませんでした。恋愛も男性が女性の噂を聞きつけ相手の顔を知らない状態で歌の贈答をして行われる事が通常でした。そのため、「源氏物語」の「末摘花」のような喜劇も生まれ得たのです。
 そうした点も考えると、恋愛の端緒としての「かいまみ」は単なる一目惚れというレベルの問題ではなさそうです。当時の価値観では、女性が見知らぬ男性に顔を見られるのは本来あってはならない衝撃的な状況で、女性としては恥ずかしい事とされていたのです。現代の感覚で言えば、入浴中や着替え中といった場面で初対面の男性と鉢合わせするというのに近いでしょうか。常識で考えるとまずあり得ない非現実的な話ですね。
 と思ったのですが、物語の設定としては今日でも話が別であるようです。1980年ごろより、安定した好況を背景に「週刊少年サンデー」を中心として高橋留美子「うる星やつら」「めぞん一刻」やあだち充「陽当たり良好!」「みゆき」「タッチ」などに代表されるラブコメと呼ばれる恋愛漫画が人気を博すようになりました。90年代以降は経済的不景気や趣味の多様化もあり一時ほどの勢いはありませんが、それでも赤松健「ラブひな」のような人気作品が存在しています。これらラブコメ作品には、恋に落ちる事になる男女が入浴中や着替え中に偶然鉢合わせする事から始まる作品も多く見られます。昔も今も考える事は余り変わらないんですかね。確かに衝撃的な場面には違いないですし、相手を性的に意識もするでしょうが、何だかなあとも思います。
 そうした視点から意図的な「かいまみ」についても少し考えておきましょう。夫が妻の本心を知るために垣間見をするのは、上述の状況とは少し話が違います。もはや他人ではない間柄ですから、本来なら普通に対面しても問題はありません。現代的に言えば、隠れて女性の本音を知ってしまう場面がラブコメにもありますから、それに近いでしょうか。一方、興味を持った女性への「垣間見」は当時としては出歯亀同然と言う事になり、ラブコメというよりはやや成人向け寄りになるんでしょうかね。

おわりに
 今も昔も人は恋物語に興味津々ですが、そのシチュエーション作りにおいても似たような発想だったんですね。そして、読者は「そんなバカな」とか「あり得ない」とか「何だかなあ」とか言いつつも、結局読んでしまうんでしょうね。

参考文献
拙稿「日本民衆文化史」(http://kyoto.cool.ne.jp/rekiken/deta/2002/021206.html)
伊勢物語の表現史 室伏信助編 笠間書院
源氏物語の言説 三谷邦明著 翰林書房
「三省堂全訳基本古語辞典第三版」より「物語になぜ『垣間見』が多いの?」
物語世界における絵画的領域 平安文学の表現方法 川名淳子著 ブリュッケ
校注大和物語 柳田忠則編 新典社
伊勢物語 大津有一校注 岩波文庫
新編日本古典文学全集20-25 源氏物語 小学館


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