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ジュブナイルポルノの歴史に関する覚え書きとささやかな考現学  みと


 最近急速に書店の片隅で勢力を伸ばしてきた書籍ジャンルに、ジュブナイルポルノと呼ばれるジャンルがある。簡単に定義してしまえば、エッチなライトノベル。いうより、ポルノ小説のライトノベル版、という書き方をした方が適切なのかも知れない。要するに、今現在の状況としては、アニメやマンガ系のイラストのふんだんに入った、「いわゆるオタク」向けのポルノ小説だと言って良いだろう。(*1)

 なお、他の「エロライトノベル」「ライトポルノ」等々の語に対してジュブナイルポルノという語が定着してきたのはここ数年であると考えられる(*2)が、本稿では特に意図的に使う場合を除いて、当初からジュブナイルポルノの語で統一して記述することにする。

 また、ジュブナイルポルノとそうでない作品の線引きは厳密には難しいが、ここでは取り敢えずレーベルを基準として叙述することにする。

1. 草創期の諸文庫レーベル

 ジュブナイルポルノ専門の最初のレーベルと考えられるのは、1993年にフランス書院より創刊されたナポレオン文庫である(*3)。フランス書院は元々官能小説の最大手として活躍していた会社であるが、当時のライトノベルやコミック業界の状況などから、ポルノ方面のライトノベル的な需要もあると判断して創刊したものと思われる。この時のナポレオン文庫の作品群は、ファンタジーを中心とした異世界ものがほとんどだった。

またこれに少し遅れて、従来クトゥルー関連などのファンタジー作品を中心に出版していた青心社文庫も、ジュブナイルポルノ的な作品を出版し始める。こちらの系統も似たようなもの――ファンタジーを中心としていたとまとめて良いだろう。
 まだそれに加え、やや時代が下がるが、プレリュード文庫(KKベストセラーズ)などその他のレーベルも(数はやや減るが)ジュブナイルポルノを発売している。

2. ゲームノベライズと新書レーベル

 その一方、1990年代中盤ごろから、徐々にパソコンにおける美少女ゲームなどの性描写を含むゲームの人気が上がってくる。この人気に乗って、このゲームをノベライズした作品が多数発売されるようになる。このレーベル名は枚挙に暇がないが、有名なところとしてはパラダイムノベルズなど(*4)を挙げることが出来るであろう。これらの小説群は、エロゲが時間的に、経済的に、あるいは環境的に(*5)なかなか出来ない読者層に人気を集めることになった。

 このような状況の中で、ジュブナイルポルノは一度はやや衰退期に入る。ナポレオン文庫は新書に版型を変えた上でナポレオンXXノベルスとしてリニューアルを図るが、発行点数から見ても売り上げから見ても、あまり成功しているとは言い難かった。
 このナポレオンをはじめ、この時期のジュブナイルポルノは、オリジナル作品も新書の版型で発行されたものが多い。例えば、ネオノベルス(辰巳出版)、キャンディーセレクト(パラダイム)、等々が挙げられる。90年代末頃には文庫レーベルでジュブナイルポルノを発行していたのは、細々と続いていた青心社文庫ぐらいだった。

3. 二次元ドリーム

 これらの状況に対する一つの転機となったであろう出来事が、二次元ドリームノベルズの創刊及び二次元ドリームマガジンの発刊(ともに当時はマイクロマガジン→現キルタイムコミュニケーション)であろうと思われる。特に後者はジュブナイルポルノ雑誌としては日本初のものであり、「健全な鬼畜青少年を育てる」という身も蓋もない煽り文句とともに(*6)、低調だったジュブナイルポルノ業界に衝撃を与えた。
 なお、これに対抗して英知出版から「ドレグラ」(*7)が創刊されたが、残念ながら2号まで発売されたところで休刊。現在に至るまで、ジュブナイルポルノを専門に扱う雑誌としてはこの二次元ドリームマガジンが唯一のものとなっている。(*8)
 このような煽り文句に代表される、例えば凌辱を多用するような、ストーリー性よりも欲望への直の訴えかけを前面に押し出した発行スタンスが、多くの読者の支持を得ることになる。その後、後述の美少女文庫の創刊と同時期に、従来の二次元ドリームノベルスは残したまま、二次元ドリーム文庫なる文庫レーベルを創刊している。

4.美少女文庫の誕生

 こうした中、老舗であったフランス書院は、従来のナポレオンXXノベルズを事実上の廃刊とし、代わって改めて美少女文庫を創刊する。
 このレーベルの特徴としては、わりあい従来からあるポルノ小説の文法に忠実であることが挙げられるだろう。例えば、小説のタイトルの中に必ずその作品の「属性」とも言うべき要素(姉、妹、眼鏡っ娘、アイドル、等々)が組み込まれていることなどが挙げられる。また、作品自体も従来のようなファンタジー作品よりは、むしろ普通の恋愛作品――あるいは、恋愛系のノベルゲームによくありそうな物語が中心となっている。書いている作家陣を見ても、ジュブナイルポルノを中心に書く作家とともに、従来から一般のフランス書院文庫で活躍している人物も見受けられる。
 ナポレオンレーベルは正直言えば低迷していたと言わざるを得ない状況だったが、この美少女文庫はそれなりの成功を収めた、と言って良いだろう。新人賞を設けて17歳の新人をデビューさせるなど、話題作りにも努め、現在にいたるまで安定した刊行態勢を敷いている。

5.分析

 何故、こうしてジュブナイルポルノは復権したのだろうか。――大きく、3つの点を指摘しておきたい。
 まず第一に、ライトノベル自体に対して光が当たったことにより、同時に浮上した、というのが大きい。ジュブナイルポルノの復権は、ライトノベルが単なる「絵付きの子供向け小説」から小説の一ジャンルとして確立する過程と軌を一にしている。そのようにライトノベルへの一般的な評価が落ち着くと同時に、その裏返しとしてのジュブナイルポルノもまた復権したと言って良い。
 第二に、美少女ゲーム・もしくはエロゲと呼ばれるアダルトゲーム文化の発展と鎮静化が挙げられる。これらのゲームの消費者は、そのままジュブナイルポルノに親和性を持った消費者として参入してくる。また、ゲームの方が先に隆盛したことにより一時期は前述の通りノベライズ作品が隆盛したが、ブームが落ち着いた結果として、一時期はゲーム文化にばかり走っていた消費者が、再びそれ以外のジャンルにも少し帰ってきているのではないだろうか。
 それに加えて、レーベル側の「官能小説」としての意識が強まったことも強調して良いように思える。初期のジュブナイルポルノは、ライトノベル的な側面との間で自らの立ち位置がまだ安定していなかった。それに対し最近の小説は、あくまで官能小説であること――“実用性”――を足場として、感情移入しやすいシンプルな設定(あるいは「お約束」)、そしてコンスタントに挿入される性描写、という官能小説特有の特徴を押さえている。官能小説的なライトノベルではなく、ライトノベル的な官能小説。この自己認識の変革が、現在のジュブナイルポルノの地位を築いたと言えるだろう。(*9)

6. 現状

 現在、ジュブナイルポルノ業界は、現代もの純愛路線の美少女文庫、ファンタジーもの鬼畜路線の二次元ドリームシリーズの二大レーベルに、その他の出版社が続いている、という状態でいったん安定期を迎えている、と言えそうである。しかし、特にこの手の業界の移り変わりは早い。おそらく数年後には、この叙述もあまり使い物にならなくなることが予測される。本稿は、2007年春段階での状況を簡略にまとめたものとして読んで欲しい。

注釈

*1なお、1987年創刊の富士見文庫(富士見書房、現在の富士見ファンタジア文庫とは別)を嚆矢とする説もあるが、「くりぃむレモン」のノベライズ以外は一般作品の方がメインだった点、内容的にもポルノ寄りと言い難いと考えて本稿では扱っていない。
*2不思議なことに、小説においてはいわゆる18禁規制のようなものは存在していない。書店などで成年コミックなどと並べて18歳未満購入禁止としていることはあるが、あくまで書店の判断である。おそらくは過去に問題となっていないこと(成年コミックのマーク付与も90年代以降である)、文学性とのかねあい、市場が小さいことなどが理由ではないかと考えられるが……。
*3「ジュブナイルポルノ作家わかつきひかるのホームページ」でこの語が使用されたのが定着の一つの契機だったという説が存在する。
*4ハーベストノベルス、キャロットノベルス、パンプキンノベルス、等々。正直数が多い上に細かいレーベルも多いため完全に把握できていません。
*5エロゲを堂々と出来ない中高生にも手頃なものとして重宝されたらしい。
*6現在はもう少し穏健なものに変わっているが……
*7身長153cm以下の女の子限定、というコンセプトでロリ方向に特化した需要を狙ったと思われる雑誌。インターネット図書館に残る過去の公式ページの残骸(http://web.archive.org/web/20021010202944/http://blue.ribbon.to/~doregra/)でその片鱗をかすかに覗くことができる。
*8ただし、コミック誌の中で小説が掲載されるようなケースは他にもある。
*9中にはそもそもフランス書院文庫で出版された作品を一部改稿してイラストを付けた上で再発売したものも混ざっているらしい。


参考資料

元「二次元学部ジュブナイルポルノ科」(ウェブ連載、サイト消滅)
 ※ジュブナイルポルノに関するほとんど唯一と言っても良いまとまった論考。
  ……しかしビブロス倒産の煽りで掲載されていたサイト自体が消滅。
  この文章を書く段階ではキャッシュなどを利用して何とか拾って書いてます。
  失われるのは惜しいのでどこかで拾ってもらえないものでしょうか……。
ジュブナイルポルノのページ(http://juv-porn.halfmoon.jp/)
 ※キーワード辞典はとても便利です。今回の記事でも多く参照しました。
その他、ネット上の断片的なデータなどもいくつか参考にしています。

                   ……ごめんなさいもうしません。


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