Trane's Works 55, 56
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■ コルトレーンのスタイル、その影響関係について
●影響関係といっても、コルトレーンが被ったものについてで、当然、55,56年のコルトレーンのスタイルが与えた影響ではありません(ちょっと残念なような気がしますが、恐らくそれは皆無ではないでしょうか)。またあくまでも音楽的知識のない者が耳だけを頼りに聴き取ることのできた範囲の報告に過ぎません(結果を先に言っちゃうと、結局デクスター・ゴードンの影響しか認知できませんでした。識者の方の具体的な指摘を仰げれば、と思います)。
●レスター・ヤング、ジョニー・ホッジス、チャーリー・パーカー、コールマン・ホーキンス、ベン・ウェブスター、タブ・スミス、エディー・クリーンヘッド・ヴィンソン、デクスター・ゴードン、ワーデル・グレイ、ソニー・スティット、ジーン・アモンズ、ビル・バロン、ジミー・オリヴァー、ジミー・ヒース、アール・ボスティック等の名前を影響を受けたサックス奏者としてコルトレーン自らは挙げています。さらに評論家達はドン・バイアス、ポール・ゴンザルベス、ソニー・ロリンズ、スタン・ゲッツ等の影響を指摘しています。なんかすごい数の名前が並んでいてボーッとしてしまいますが、無論アルト時代のものも含まれ、中にはテナーを始めたごく初期や一時期に熱中しただけのものもあるでしょうし、全てが55,56年の演奏に直接反映されているわけではないでしょう。
●ここに挙げられた奏者全てを検討したわけではないですが、よく挙げられるものについて言及してみたいと思います。
●55,56年のコルトレーンの演奏を聴きますと、まだ不安定で確固たるものとなってはいないとはいえ、既に他の誰とも違う、コルトレーン独自なスタイルのベーシックなものは出来ている、と感じられます、つまり他の誰でもないコルトレーン、という風に紛れもなくちゃんと認知できるんですね。したがって、アルト時代にパーカーから受けた影響に匹敵するようなものはテナーにおいてはなかったのではないか、とも思えますが······
デクスター・ゴードン
●しかし他方で、じゃあ、デクスター・ゴードンはどうなの?と自問してしまいます。主に8分音符だと思いますが、その単切的な、1音1音を区切って吹くような吹き方が、44年の終わりから47年ぐらいまでのゴードンによく似ていて容易く認知できるからです(註)。和声的なことやフレーズは別にして、そのテイストを模倣した数少ない影響の一つではないでしょうか(ほとんど唯一?)。ただその単切的な吹き方も、コルトレーン独自の非常にタンギングが際立ったタイトな音でなされるので、充分自分のものにしているといえるし、そのわかりやすさが影響を誇大に感じさせてもいるといえるかもしれません。それはあくまでも部分的な影響であって、ゴードンの他の特徴、緩さだとかレイド・バック感などは、わずかな例、例外的な2,3の演奏を除けば、模倣していないと思いますし、ホンクに至っては皆無です。したがって、部分的な影響ではあるが、大きな部分、といったところでしょうか。
(付記:吉野さんが「55, 56年の多様性について」で、“鈍くさいブルース”として括った3曲はもしかすると Daddy Plays The Horn ( 55, Sep.) あたりの影響かもしれません)
パーカーのフレーズ
●フレーズについては、パーカーのものがわりと耳に付きます。詳しくは → phrase index を参照していただくとして、実はこれは意外なことでもありました。というのも、このサイトを作るということで55,56年のコルトレーンを聴き直しも含めて聴き始めた頃には、パーカーの名前はわれわれ3人とも皆一様に浮かばなかったからです。ある程度聴き込んだ現在から振り返ると、恐らくそれは、パーカーを強く感じさせるフレーズを使っていない、もしくはパーカーのフレーズを使っても、そのテイストは模倣していないためではないかと思われます。その辺がパーカーの影響を強く感じさせるソニー・スティットとは違う所なのではないでしょうか(もっともスティットの場合、思わず出てしまった、というより故意にパーカーっぽくやっているように聴こえることもありますが)。コルトレーンの場合、かなり一般化されてパーカー以降のサックス奏者は誰でも使うようなものが多く、これをパーカーの影響と言ってしまっていいものかどうか、ちょっとためらわれます。少なくとも、コルトレーンに固有の影響ではないように思われます。
ソニー・スティット?
●さてそのスティットは、あちこちでその影響が指摘されているにもかかわらず、実感するのはなかなか難しいです。少なくとも、40年代後半から50年代前半の、あの明るく伸びやかで流暢な、それでいてちょっと懐かしいような切ないようなスティット独自のテイストは模倣していないのではないかと思います。ただ両者に共通するフレーズはいくつかあって、“影響”ということにもいくらか納得できるのですが、その多くはパーカーのものであったり、スタン・ゲッツも使っていたりして、もしかしてスティット独自のフレーズというのは、The Theme(55, 11/16)で使っている語尾的フレーズぐらいなのではないでしょうか( → The Theme(55, 11/16). )。ただ、パーカーのフレーズをもともとのコンテクストからずらして応用するその仕方などに影響があったりするのかもしれません。
ソニー・ロリンズ?
●ソニー・ロリンズもスティットの場合と似たり寄ったりで、確かに同じフレーズを使っていることもありますが、影響というよりは、共有財産の使用といった感じのものが多いのではないでしょうか。
その他、レスター・ヤング、スタン・ゲッツ、ジーン・アモンズ
●その他では、レスター・ヤング、スタン・ゲッツが使っていたフレーズもちらほら聴かれます。それと、最初の 'Round About Midnight のセッションではジーン・アモンズの影響がわずかに感じられます。
コールマン・ホーキンス、ドン・バイアス?
●コールマン・ホーキンスとドン・バイアスについては、テナーを始めたごく初めの頃か、57年以降の恐らく和声的なコンテクストでの影響として名前が挙げられているのでしょうが、55,56年に関しては、耳で聴いて実感できるものは今のところありません。
タブ・スミス?
●タブ・スミスについてはカウント・ベイシーの所で少しと、コールマン・ホーキンスとやったものぐらいしか耳にしておらず、ラッキー・ミリンダー・オーケストラ在団時のものはほとんど聴いていないんですが、ホーキンスとの On The Sunny Side OF The Street でラストのカデンツァを聴くと、コルトレーンの単切的な吹き方にはデクスター・ゴードンばかりでなく、もしかしたらタブ・スミスの影響もあるのかもしれないと思われてきます(吉野さんの → We Six へのコメント参照)。
アール・ボスティック、R&B
●アール・ボスティックはR&Bということで高を括って未だにほとんど聴いていないんですが、The Ultimate Blue Trainのライナー・ノーツと言いますか、ブックレットというんでしょうか、その中に、ロイ・ヘインズの次のような回想があるのでちょっと気になります。ある時、ロイ・ヘインズがコルトレーンが吹いたフレーズを後で口ずさんで見せ、どこからインスピレーションを引き出したのか訊ねたところ、コルトレーンはアール・ボスティックからだと答えたそうです。この回想はコルトレーンが長時間のソロをいかに退屈させず、しかもトーン・ダウンすることなく演奏することが出来たか、そしてそれはアール・ボスティックの手法に倣ったのではないか、という推測に続いて語られているので、長時間のソロということと、ロイ・ヘインズとの共演という条件で考えると、早くても58年以降(9月11日セロニアス・モンクのグループでの共演)、あるいは61年のヴァンガード・セッション以降のことではないかと思うんですが、そんなに後にまでアール・ボスティックの影響が及んでいるのだとすると、やはり聴いてみる必要があるのかもしれません。
(ちなみに僕が聴いたことのあるアール・ボスティックは、40年代、ホット・リップス・ペイジ名義のセッションで、ドン・バイアスらとやった一曲のみ。しかしそのテクニックが凄いのはそれだけでも即座に分ります。パーカー以上ではないでしょうか。)。
ハノン、ツェルニー
●ルイス・ポーターがハノンとツェルニーの影響を指摘しているので(p.81〜83)両者の練習曲を幾つか聴いてみましたが、55,56年の演奏に関しては今のところ同じようなフレーズは見つかっていません。もっともそれほど熱心に聴いたわけではないので、どこかに埋もれているのかもしれませんが。
●というわけで、あれだけ多くのサックス奏者の名前が上がっていたにもかかわらず、われわれが今のところ実感できているのは、デクスター・ゴードンの影響と、幾つかのパーカー・フレーズだけです。しかし、このことは、とりもなおさず、コルトレーンが既に独自なスタイルを持っていたことの証でもあるように思われるのですが、どうでしょうか。
■註
註).例えていうと、20年代のリード奏者がビバップのフレーズを吹いているような。コルトレーンの同時代の奏者ではアルトのジャッキー・マクリーンにも認められます。ゴードンによってパーカーの影響から少しでも離れようとした、ということでしょうか。57年4月19日、二人の唯一の共演の機会となった、マル・ウォルドロンがリーダーのセッションで、マクリーンが堂々とゴードン風な単切的な吹き方をしているのに対して、コルトレーンは照れてしまったのかどうか、少し遠慮気味で、面白いです( "Mal-2", "The Dealers" )。 →本文へ戻る
(西内)
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