Trane's Works 55, 56
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■ トム・ウィルソンについて
●トム・ウィルソンは1931年テキサス州ウェーコ生まれの黒人、1978年心臓麻痺で死去。享年47歳。
●ハーバード大学卒業後、55年に Transition レーベルを興し、以後60年代前半までUnited Artists、Savoy 等でハード・バップ系のアルバムを多く手がけた。
Transition レーベルでの High Step のセッションについては、セッションの概観参照。
High Step session ( 1956, 4/20 ).
●ジャズ・プロデューサーとしての仕事の中ではセシル・テイラーとの関係が目を引くし、コルトレーンがサイドマンとして参加したものもあり、なかなか面白い存在でもあるので少し触れておく。
●50年代に発表されたセシル・テイラーのアルバム5枚のうち、3枚がウィルソンのプロデュースによるもので、最初の1枚はテイラーの初リーダー作 "Jazz Advance" ( Transition. 56, 9/14. )。スティーヴ・レイシーによれば当時のグループのやや保守的な側面が捉えられているというが(註1)、同時代のハード・バップの連中に比べれば1歩も2歩も先へ進んで······というより横へ逸脱していてそれが妙にすがすがしい。
●2枚目は "Hard Drivin' Jazz ( Stereo Drive )" ( United Artists. 58, 10/13. )で、後 Blue Note からコルトレーン名義の "Coltrane Time" としてリリースされ現在に至っている。人選はテイラーによるものなのかウィルソンによるものなのか定かではないが、コルトレーンの参加はテイラーの求めに応じたもの。当時プレスティッジとの契約下にあったためジャケットには "Blue Train" の偽名でクレジットされている。テイラーと他のハード・バッパー達との折り合いが悪く、中途半端な内容。テイラーの幾分地味で抑えたプレイでの歩み寄り(?)にもかかわらず、その複雑きわまる奏法にコルトレーンは何がなんだか分からなくなってしまったと後に語っている(註2)。実際、セッションの後半、テイラーの破格なヴォイシングにあたかもコルトレーンが戸惑っているかのように感じさせる箇所が幾つかあり、この時期コルトレーンがピアニストの存在に大きく左右されるプレイヤーであったことの例証にはなっている(或いはテイラーのホモセクシュアルなオーラに怯んでしまったか!?)。
●最後はこれがセシル・テイラーのアルバムか?と店頭で手にして一瞬引いてしまったことを覚えている、まるでロクシー・ミュージックのシングルのような(もちろん逆が真だが)ジャケットの "Love For Sale" ( United Artists. 59, 4/15. )。内容はジャケットを懸け離れた良い出来で、特にトリオでやったポーターの3曲は秀逸。単にスタンダードを取り上げて妥協を図った、というよりはポーターの主題に基づく3つの変奏(解体)、とでもいった趣ですっかりテイラー自身のものにしている。ジャケットのアイディアは前作に続いてこれも売れねえや、と判断したウィルソンによるものか!?
●ウィルソンは60年代半ばからはフォークやロックの分野でプロデュースするようになり、Columbia ではボブ・ディランやサイモン&ガーファンのアルバムを手がけ、金銭的な成功も収めた。しかしプロデューサーとしてのハイライトはやはり MGM/Verve に移って以降の仕事だろう。ヒット・メイキングに煩わされることなく、マザーズ・オヴ・インヴェンション、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ニコ、ソフト・マシーンといった一癖も二癖もある連中の1stアルバムを次々と世に問うた功績は大きいといわねばなるまい。
●とりわけヴェルヴェット・アンダーグラウンドは後々まで続くその影響力、未だ汲み尽くされずしかも超えられてもいないその可能性により、ウィルソンが関わったアーティスト中最も傑出した存在となった。1stアルバム "The Velvet Underground & Nico" のジャケットにはアンディ・ウォーホルがプロデューサー、ウィルソンは編集とリミックスの監修者として、また Sunday Morning のみがウィルソンのプロデュースとクレジットされているが、ジョン・ケイルによると、I'm Waiting For The Man、Venus In Furs、All Tomorrow's Parties、Heroin、これら重要曲もウィルソンのプロデュースによるものであり、さらにヴェルヴェッツは以後ウィルソンに匹敵する優れたプロデューサーに出会わなかったとも証言している(註3)
●ところが、続くニコの "Chelsea Girl" では、ウィルソンがオーヴァーダビングしたどの曲も判で押したようなアレンジのフルートとストリングスが、ニコとルー・リードに痛く嫌われてしまう(註4)。しかし他方で当時のヴェルヴェッツのマネージャー、ポール・モリッシーはかなり好意的で(註5)、立場や好みで大きく意見は分かれている。ストリングス、フルートなしのIt Was A Pleasure Then、Eulogy To Lenny Bruce の2曲を聴くと、やはり余計なことだったと惜しまれるし、ルー・リードとジョン・ケイルにアレンジを委ねた方が無論今日的にはより価値のあるものになっただろう。しかし、ヴェルヴェッツにいまだそれほどのステイタスがなかった当時の状況に鑑みれば、ウィルソンの処置はプロデューサーとして当然のものでもあったのではないかと思われるし、Larry Fallon なる人物によるアレンジは "Love For Sale" のジャケットに比べればまだましで、アレンジの陳腐さに些かも揺るぐことの無い圧倒的なニコの声の存在感は、逆にほとんどのアレンジを陳腐に感じさせてしまう程のものなのだから、あまりウィルソンを責めるのも可哀相かなと思う(ヴェルヴェッツを除けば、ニコの声に相応しいフレームというかバックグラウンドを提供できたのは結局ジョン・ケイルだけではないだろうか)。
●ウィルソンとヴェルヴェッツの関係は "White Light / White Heat" で終わる。前作を上まわる過激な音で、スタジオの技術的な限界を超えてヴェルヴェッツの連中は好き勝手し放題したようにスターリング・モリソンは証言している(註6)。Sister Ray についてルー・リードはセシル・テイラーとオーネット・コールマンの影響を語っているが、あくまでインスパイアされたということで無論結果は別ものだ。ルー・リードはウィルソンと出会う以前からフリー・ジャズを聴いていたようなので、ウィルソンの影響の程は定かではない。が、二人の間で話題に上ることくらいはあったかもしれない。ヴェルヴェッツの面々がエンジニア泣かせの異形の音を次々に繰り出すことに動ずることはおろか美少女達をスタジオに連れ込んで楽しんでいたというウィルソンの(註7)音楽的な貢献度は不明だが、小賢しく容喙することなく常に鷹揚に構えていたのがプロデューサーとしてのウィルソンの美点だったのかもしれない。
●ソフト・マシーンの1stアルバムは、ウィルソンがエンジニアの Chris Stone、Gary Kellgren らと共に立ち上げたオープン間もないレコード・プラント・スタジオでレコーディングされた(1968年、ジミ・ヘンドリックスのUSツアーに同行して当時アメリカに来ていた機会を捉えたもの)。この辺でプロデューサーとしてのハイライトは終わり、以降特筆すべきようなアーティストとの仕事をウィルソンは残していない。
(敢えて挙げると1976年、Gil Scott-Heron の "It's Your World" に Associate Producer として参加。同アルバムにはコルトレーンに捧げられたアリス・コルトレーンの曲 Gospel Trane にギル・スコット-ヘロンが詞を付けた Trane ( Tomorrow's Trane ) が収録されている
●ちなみにレコード・プラント・スタジオはオープン当時、イギリスから有能なエンジニアのエディ・クレイマーを迎え、後にジミ・ヘンドリックスの "Electric Lady Land" やジョン・レノンの "Rock 'n' Roll" がレコーディングされ、伝説的なスタジオとなった。
●ロック時代の仕事に目を見張らせるものの多いウィルソンのキャリアだが、その真のハイライトは、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやニコといった名前に、一人の黒人プロデューサーを介して、セシル・テイラー、サン・ラ、コルトレーンらの名前も関わってくるということにあるように思われる。
■註
註1).『この旅には終わりはない』間章著、「スティーヴ・レイシーとの対話」p.32。 →本文へ戻る
註2).『マイルスとコルトレーンの日々』植草甚一著、「またもやコルトレーンが話しかける」p.190。フランソワ・ポスティフによるインタヴュー。→本文へ戻る
註3).『Up-Tight』p.94。ビクター・ボクリス、ジェラード・マランガ共著、羽積秀明訳。 →本文へ戻る
註4).『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド——彼ら自身による証言』p.47。デイヴ・トンプソン編、伊藤英嗣日本語版監修、松田葵訳。 →本文へ戻る
註5).『Up-Tight』p.75。 →本文へ戻る
註6).『Up-Tight』p.114-115。及び『彼ら自身による証言』p.35。 →本文へ戻る
註7).CDボックス・セット”Peel Slowly and See”のライナー・ノーツでジョン・ケイルが証言しているらしい。残念ながら俺は持ってない。 →本文へ戻る
(吉野)
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