「風の谷のナウシカ」 セリフの考察と応用

 

・「女だ まだ若い」 (1巻65頁)

 クシャナが女であることを知った風の谷の民のセリフ。なぜそれまで判らなかったかというと、鎧で全身を完全に覆っていたからである。トルメキア装甲騎兵の鎧は極めて重厚で防御力に優れている。こんなものを着用した兵士をのせるトリウマが気の毒だが、おそらくセラミック製で見た目ほど重くないのだろう。騎兵の重要な役割として、偵察(捜索)と襲撃が挙げられるが、この鎧を見る限りトルメキア装甲騎兵は全く偵察を念頭においていない。偵察の際には、身を隠しやすい軽装での方が任務を果たしやすいし、もしも発見されても快速で逃げればよい。あくまで、トルメキア装甲騎兵は乗馬襲撃を旨とする打撃部隊なのだ。
 トルメキア装甲騎兵の主兵装は刀なので、白兵戦に持ち込むまでは敵に一方的に撃たれざるを得ない。突撃時の騎兵は敵の火線に全身を暴露するため、損害を受けやすい。幸運にも銃弾を浴びなかった者だけが敵陣に突入し、その威力を発揮することが出来る。そして、突撃時の損耗を最小限に食い止めるのがスピードと厚い鎧である。なるだけ軽快な装備でスピードを獲得し、敵の銃火を浴びる時間を短くするか、スピードを犠牲にして厚い鎧で身を守るか。トルメキア装甲騎兵は後者を選んだわけだ。同様に刀を主兵装とする土鬼騎兵もその点同じで、彼らもまた全身を鎧で覆っている。
 両者とはっきり異なるのが土鬼皇帝親衛騎兵で、彼らの鎧は比較的薄い。しかし、ここで彼らの主兵装が小銃(銃剣付き)であることに注意せねばならない。おそらく、親衛騎兵は突撃時に発砲し、敵の反撃を抑える道を選んだのであろう。騎射は極めて難しいものとされているが、取り敢えず敵が落ち着いて照準できない程度に撃てば良いのだし、仮にも親衛兵、そのくらいの技量は身につけているものと考えられる。

応用例 :性別不詳の方にどうぞ
「この4月より我らの部署に配属された中村君だ」
「中村です。よろしくお願いします」
女だ!まだ若い!
「・・・って、見てわからんのかい!」

 

・「危険なものではなさそうだ」 (3巻15頁)

 巨神兵の秘石を動かした際のペジテ市民のセリフ。直前のコマで巨神兵が動く可能性が示唆されているにも関わらず「危険がない」と判断する根拠が未だにわからない。ここで気になるのが巨神兵のエンジンである。骨格はセラミックで出来ているものの心臓や筋肉がきちんと存在する以上、巨神兵の内部構造は基本的に動物に準ずるものと考えられる。となると、エンジンとは活動のためのエネルギーを生み出す存在なのだろうか。そう言えば、同じく生物兵器であるヒドラには餌をやっているシーンがあるが、巨神兵にはない。実際、あれだけの巨体を維持するための餌を用意するのは大変だろう。放射光を連想させる”毒の光”の存在、また無補給で長時間の行動が可能である点からも巨神兵の動力源は核と推測される。いざ掘り返してもペジテ市民にとってはかなり厄介な存在となりそうだ。
 なお、1巻で描写される人型兵器(の残骸)には操縦席が設けられたものや角が生えたものなど、様々なタイプが確認でき、これはペジテで発掘された巨神兵(東亜工?製)以外にも複数の人型兵器が存在したことを示唆する。或いはそのなかにモーター等を組み込んだ完全な機械式のものがあり、本物の巨神兵にエンジンは無いにも関わらず「人型兵器=巨神兵=エンジン入り」とペジテ市民が誤解していた可能性も存在する。

応用例 :自分を納得させる時にどうぞ
「なになに・・・『あの人気女優の盗撮ヌードを特別公開!今すぐクリック!!』・・・危険なものではなさそうだ・・・(click!)」

 

・「装甲兵 前へ!!」 (3巻118頁)

 土鬼攻城砲を潰しに出撃するクシャナ殿下の号令。個人的に3巻の乗馬襲撃シーンは「ナウシカ」でも屈指の名シーンである。宮崎駿氏は、筆者など遠く及ばぬ重度のミリタリーマニアだが、氏の本領発揮ともいうべき場面。「装甲兵」という響きだけで、胸がときめいてしまう。
 余談はさておき、この襲撃を通して、クシャナが将兵に支持される理由が丁寧すぎるほど丁寧に描写されている。目の前の状況を即座に理解して適切な作戦目的を設定し、直ちに実行案に仕立て上げる頭の良さ。最も危険な襲撃の先頭を走る勇気。戦死者を悲しむ愛情の深さ。こんな指揮官がいたら、誰でも喜んでお供する。おそらく、片時も油断のならない王宮に育ったクシャナにとって、初めて全面的な忠誠心を寄せてくれたのが第3軍の兵士たちだったのであろう。その信頼に応えようとする姿勢が、指揮官としての資質を開花させたと推測される。

応用例 :出発の景気づけにどうぞ
「今日は、皆さん待ちに待った遠足ですね。危ないですから、隣のお友達と手をつないで、きちんと列になって歩きましょう。それでは、装甲兵、前へ!!

 

・「中枢を破壊しないとやつは不死身だ よみがえってしまう」 (5巻92頁)

 体中に剣をつきたてられたヒドラの息の根をとめたユパ様のセリフ。ミト爺がその存在すら知らなかったヒドラの弱点を適確に撃ち抜くユパ様の博識ぶりが際立つ。ユパ様はもともとナウシカの先生だが、作中では寧ろクシャナに大きな影響を与えている。ユパ様に出会う前のクシャナの周りには、忠誠心は豊富だが判断力に欠ける将兵(1巻でクシャナに不用意に叛乱を勧めている)、平均以上の能力を有するがあくまで実務派のクロトワなど、同でのレベルで会話が出来る人材はいなかった。クシャナにとって、ユパ様は超えるべき新鮮な存在だったのだろう。
 また、この場面で見逃してはならないのがセネイである。トルメキア第3軍の第1連隊長、セネイは初老の人物で、サパタ守備の際も将軍の無茶な命令に従った穏やかな性格の持ち主だが、いたずらに従順なだけでなく、しっかりと意見具申も行なっており、第3軍の頭号連隊を任されるだけのことはある有能な軍人である。また、ナウシカの警告を受けて本隊を脱出させる一方、自分は1個中隊を直率してサパタ守備の任務を続行するなど、責任感も旺盛のようだ。

応用例 :とどめをさす時などにどうぞ
「お父さん、ゴキブリホイホイに一匹かかって死んでいるよ」
「どれ、貸してみ(バン、バン)」
「うわ・・・なにも潰すことないのに・・・」
中枢を破壊しないとやつは不死身だ。よみがえってしまう

 

・「へへ・・・イテェ たまらねェ」「ヒドラの身体になっても苦痛だけは人間並とはまいったぜ」 (7巻5頁)

 巨神兵の熱線に重傷を負った皇兄ナムリスが、叛乱を起こした嫁の前で吐いたセリフ。ヒドラには痛覚が無いということが判る。体が両断されて上半身だけで活動したヒドラがいたが、たとえ命に別状は無くても痛みを感じていたら、とても動けなかっただろう。
 ヒドラを操る者は、歯に細工した一種の笛から高周波の音声信号を発して命令を伝える。一見すると単純なコミュニケーションだが、特定の人物(クシャナ)だけを生け捕りにしたり、ナウシカの服だけをむしったりと、かなり高度な内容も伝達できるようだ。また、その複雑な命令を実行するヒドラの知能も侮りがたい。痛覚を有せず、致命傷を負わない限り与えられた任務を忠実に遂行するヒドラは確かに優れた兵士だ。襲われた側からすれば、撃っても撃っても迫ってくるヒドラは大変な恐怖だっただろう。
 ただし、ヒドラの戦力をいたずらに過大評価するのは誤りである。トルメキア装甲騎兵は1個中隊の犠牲でヒドラ一体を一時活動停止まで追い込んでいるし、ガンシップの主砲は一発で下半身を吹き飛ばしている。また、ヒドラは全くといって良いほど判断力を有せず、独立して行動することができない。ヒドラの威力を発揮するには命令者が至近に占位せねばならず、これは重大な弱点となりうる。ナムリスの言うとおり、初代神聖皇帝がクルバルカ王朝を覆すことが出来たのは、数匹のヒドラより土鬼民衆を味方につけたことの方が大きいと思われる。

応用例 :怪我をしたものの命に別状は無い時にどうぞ
「おい鈴木!大丈夫か!ちょっと見せてみろ・・・こりゃあ、足の骨が折れてるな」
へへ・・・イテェ たまらねェ
「すぐ救急車を呼ぶから我慢しろ」
ヒドラの身体になっても苦痛だけは人間並とはまいったぜ
※あまり文句ばかり言っていると首だけになってしまいます

 

参考文献:

・風の谷のナウシカ 1〜7  宮崎駿

ふと思い立って書いたものです。ですから、細かい突っ込みは見逃して下さい。この作品は台詞回しも大好きです。特にユパ様とかミト爺の時代がかった喋り方とか。

 

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