映画がないと生きていけない 豊岡マッシー

ドレミはどうやってできた? 純正律

二胡の練習を始めたころです。フレットのない楽器ですから、自分で音程を探していくのですが、なにが正しい音程なのかがまず分からない。なんたって弦が張ってあるだけの楽器ですからねー。それで考えたのがチューニング用のリード笛を吹きながらその音に合わせて音程を探すという方法です。

例えばドの音をずっと吹きながら二胡でミやファ、ソなど他の音を探していくのです。するとリード笛のドが基準になってなんとなく二胡の音程の位置が「ここだ」と分かるようになります。そしてこの練習、やっていてなにか非常に気持ちがいいのですね。音程がピッタリとれると調子笛と二胡の2つの音がキーーーーンとひとつになるというか、初めて経験する気持ちよさです。実はこれこそ「純正」という音階の響きだったのです。

音階といえばピアノやギターなど、みんな同じものだと思われていますが、あれは「平均律」という音律で、世の中には他にもたくさんの調律があります。民族音楽などは音程が違うように聞こえませんか?別に音が狂っているわけではなく違う法則の調律に合っているのです。「平均律」は転調が自由にできるように開発された音律です。最初から自然界に存在していたわけではなく人が発明した音律です。転調を可能にするために音程がピッタリ調和する位置から正確にずらされています。

この音が調和するということを視覚的にみてみます。2つの同じドの音がでていたとします。2つの波が重なっています。

これを片方の音を少しだけ音程を高くしてみます。音が高くなると振動する回数が増えるので波の間隔が少し狭くなります。

互いの微妙に違う波が干渉しあって模様が浮かび上がって来ました。これは音ではウワーンウワーンと聞こえます。「うなり」といいます。この2つの音程は微妙な違いですが同時に聞くとそのわずかな差を人の耳はうなりとして関知します。 この「うなり」がいろいろ重なってひどくなると音が濁ってきて、きちんと調和してきこえないのです。

つぎに片方の音程をソにしてみます。

ソの波の間隔はドの2/3になります。お互いのズレがピッタリ3対2で均一になるので音がひとつに解け合ってキーンと調和して聞こえます。このソを少しずらしてみます。

きれいに出ていたパターンが消えてしまいました。音が濁って聞こえます。ピアノやギターの「平均律」はこのように少しズラした調和しない音にチューニングされています。それがあたりまえだと思っていたため、初めてズレていないピッチリとした純正のハーモニーを体感するとけっこう衝撃的です。ダイレクトに脳を刺激する気持ちよさがあります。元々この気持ちよさが先にあって音階やハーモニーを人は生み出してきたのではないかと思います。このような快感はCDやシンセサイザーではなかなか感じにくいと思います。生音ならではなのかもしれません。特に弓奏楽器や管楽器などの音がクッキリした音で感じやすいです。

このようなピターと調和する音を集めて純正律という音階を作ります。ドに対して2対3とか3対4などの簡単な比にきちんとなっていれば2つの振動がひとつになります。弦の押さえる位置でみてみると、ちょうど3/4とか4/5のような分かりやすい場所に勘所がきます。

まずドという音程です。弦がこんな感じで振動してます
 (1) ド
半分のとこを押さえてみます。半分なるとオクターブ上のドになります。
 (1/2)ド

三等分されたとこを押さえるソの音になりました。
 (2/3)ソ
では次に四等分。ファがでてきました。
 (3/4)ファ

そして五等分です。 ミですね。
 (4/5)ミ
五等分は押さえるとこがもう一カ所あります。
 (3/5)ラ
これでド、ド、ソ、ファ、ミ、ラの音ができました。ならべるとドミファソドですね。
あと足りないのがレとラです。

レはソの音から作ります。
 (2/3)ソ
ソの音を三等分します。するとオクターブ高い音になるので、オクターブ下げます。長さを二倍にするんですね。するとこの位置にレがきました。
  (2/3)×(2/3)×2=(8/9)
次はソを五等分しますと。シができました。
 (2/3)×(4/5)=(8/15)シ

これでドレミファソラシドが全部でました〜。
ギターのフレットのように並べてみます。
上が平均律。ギターのフレットですね。



下の純正律はガクガクした並びです。
レファソはだいたい両者近いですがその他はけっこうズレますねー。平均律より低めの音が多いでしょうか。ミラシは低いですね。きれいにハモる時は低めにするほうがいいというのはこのことですねー。

実はヴァイオリンやブラスバンドは微妙な音程が調整できるのでハモる時は「純正律」でやっているのだそうです。そんな微妙な調節ってたいへんじゃないの?思うのだけど、うねりの少ないハモリポイントにまるで磁石に吸い付くように自然にあってくるんですね。そこから微妙にズレた平均律に合わせる方が逆に難しいのかもです。

しかしピアノやギターのように音程が固定されている楽器を純正律に調律してしまうとコードチェンジができません。ドミソを完全に調和させるとド#ファソ#はガタガタになって全然調和しないんですね。

鍵盤などでも自由に転調できるように開発されたのが平均律です。ドミソもド#ファソ#も完全に調和しないかわりに、同じように調和する。完全に調和しないといっても微妙な違いですから、コード進行の美しさを優先たせたわけです。これは音楽史上最大の発明ではないのでしょうか。コードの転調は音楽を立体的な奥行きを与え、まるで白黒映画がカラーになったかのようです。それが近代のPOPs、クラシック、ジャズ、フラメンコ、ボサノバ、タンゴなどなど美しい音楽を生み出してきました。

その中で育って、平均律の音楽を聞いてきて、民族音楽はチューニングが変わっていて面白いなーなどと感じつつも、ドレミはピアノのドレミだと、思って生きてきた訳です。が、実際に自分で二胡というフレットレスな楽器を演奏することで、完全調和を体感すると、なんというか、こんな音楽的快感があったのかーと衝撃的でした。完全調和の共鳴につつまれる感覚は瞑想状態にも通じるような、麻薬的とでもいいましょうか、とにかくダイレクトに気持ちがいいんですね。自分の声とユニゾンしたりすると、なにか体の頭から足まで太い柱につつまれているよう感じがします。

ところが中国音楽は純正律ではないようで、三分損益という音律で演奏されるようです。ドを三分割するとソができるのですが、そのソをまた三分割するとレができます。ここまでは純正律と同じなのですが、その先も三分割をどんどんくりかえしていって音階を作っていくのです。不思議なことにヨーロッパのピタゴラス音律とまったく同じ音律です。ヴァイオリンのチューニングからは自然にこの音律が生まれるそうです。

この音律はメロディを弾くのに適しているといわれております。調和の快感が純正律ならメロディが心地よいのがピタゴラスということなのかな。平均率より高めに聞こえます。二胡奏者の演奏といのは平均律より、ちょっとうわずって聞こえます。ききなれた沖縄民謡などを聞くとはっきり解ります。特に沖縄民謡は純正律的で低めですから、より違いがでますね。


倍 音

実は倍音はあらゆる音に含まれています。ドーという音にはその〜倍の音が無限にかさなって同時に鳴っているというのです。このような弦からドーという音がでているとします。

ド〜
この音の2倍音を見てみます。山と谷ができて振動数が2倍です。音程は1オクターブ上がります。なんか物理でこういうのをやりませんでした?

ド〜

3倍音です。弦が三分割されています。1オクターブ上のソになります。

ソ〜

4倍音だと4つに分割です。2倍音の倍ですから2オクターブ上のドになります。

ド〜

5倍音です。2オクターブ上のミになります

ミ〜

そしてこれらが重なって同時になっているというのです。だいだいこんなイメージでしょうか。


といっても人の耳には不思議なことに基音のドしか聞こえません。しかし実際は倍音がなっているんですよね。その後も倍音はさらに重なり続けていきます。

1倍音
2倍音
3倍音
4倍音
5倍音
6倍音
7倍音
8倍音
9倍音
ド2
ソ2
ド3
ミ3
ソ3
(ラ#)3
ド4
レ4
10倍音
11倍音
12倍音
13倍音
14倍音
15倍音
16倍音
17倍音
18倍音
ミ4
(ファ#)4
ソ4
(ラ♭)4
(ラ#)4
シ4
ド5
ド#5
レ5

ド3などの数字はオクターブ数の意味です。3オクターブ高いドという意味です。

2倍、8倍、16倍はドになっています。2の2乗がドということです。ソは3倍、6倍、12倍とでてきます。これは3の2乗です。そして2で割れない数字ごとに新しい音階がでてきます。5倍はミ、7倍はラ#。9倍はレ。

ただし( )がつく音は通 常のドレミからかなりはずれるどっちとも言えない音です。

10倍までを鍵盤の上にならべてみます。上に行くに従ってだんだん間隔がせまくなっていくようです。


口琴やディジリドウ、ホーミーのようなあのビヨーンという音は口の中をもう一つの共鳴体として元の音にすでにたくさん含まれている倍音成分のある部分を強調している音なのです。それで音が2つ出ているようにきこえるんですね。 ホーミ唱法がもっぱら男性なのは声に含まれる倍音成分が男性のほうが多いからなのです。 逆に倍音が少ない音はフーという感じの、笛のような音になります。こういう音色だと逆に「うなり」が気持ちよかったりします。対の楽器の音程をわざと微妙にずらすバリ島のガムランがまさにそれですねー。


 調 和

倍音はまるで化学の元素記号みたいです。2つの音が調和する度合いは倍音成分によって変わります。まず一番調和する組み合わせ、ドとソの両方の倍音列を見てみます。

1倍音
2倍音
3倍音
4倍音
5倍音
6倍音
7倍音
8倍音
9倍音
ド2
ソ2
ド3
ミ3
ソ3
(ラ#)3
ド4
レ4

1倍音
2倍音
3倍音
4倍音
5倍音
6倍音
7倍音
8倍音
9倍音
ソ2
レ3
ソ3
シ3
レ4
(ミ)4
ソ4
ラ4


グレーの部分の倍音が共通しています。ドは3つ目ごとに。ソは 2つ目ごとに共通倍音が出てきます。この共通部分が多いということはより調和して聞こえるということでもあります。そして、3つ目と 2つ目。3と2という関係があります。純正律ではドの2/3はソという関係がありました。

次にドとミを見てみます。

1倍音
2倍音
3倍音
4倍音
5倍音
6倍音
7倍音
8倍音
9倍音
ド2
ソ2
ド3
ミ3
ソ3
(ラ#)3
ド4
レ4

1倍音
2倍音
3倍音
4倍音
5倍音
6倍音
7倍音
8倍音
9倍音
ミ2
シ3
ミ3
ソ#3
シ4
(ド#)4
ミ4
ファ#4

5倍音と4倍音で共通していきます。5対4の関係です。これも純正律ではドの4/5がミになっています。同じ関係です。

ドとファを見てみます

1倍音
2倍音
3倍音
4倍音
5倍音
6倍音
7倍音
8倍音
9倍音
ド2
ソ2
ド3
ミ3
ソ3
(ラ#)3
ド4
レ4

1倍音
2倍音
3倍音
4倍音
5倍音
6倍音
7倍音
8倍音
9倍音
ファ
ファ2
ド3
ファ3
ラ3
ド4
(レ)4
ファ4
ソ4

ドの4倍音がド3。ファの3倍音がド3になります。4対3の関係でこれも純正律と一致。

全部ならべてみましょう。

ファをみてみますと、まずファの3倍音はド(3オクターブ)になります。この音はドの倍音だと4番目にでてくる4倍音です。この4と3という関係が純正律とピッタリ対応しています。

ドの倍音
 純正律、弦の押さえる位置
の1倍音=ド1
=1倍音
(1/1)
の8倍音=レ4
=9倍音
(8/9)
の4倍音=ミ3
=5倍音
(4/5)
ファ
の3倍音=ド3
=4倍音
(3/4)
の2倍音=ソ2
=3倍音
(2/3)
の3倍音=ミ3
=5倍音
(3/5)
の8倍音=シ4
=15倍
(8/15)
の1倍音=ド2
=2倍音
(1/2)

このように純正律は倍音の関係で導けます。ド、レ、ミ、ソ、シはすでにドの倍音に含まれている音。ファとラはその音の3倍音がドの倍音に含まれています。 一つの音の中にすでにドレミが入っているわけです。

倍音をオクターブ内に収まるようにフレットの上に並べてみました。(4倍、6倍、8倍など 抜けている倍音は同じ音です)

2倍音はオクターブのドで両者同じ。3倍音ソも同じ。5倍音ミも同じ。さてここで7倍音ですが割とメジャーな倍音なのに通 常のドレミにはあてはまりません。じつはこの音はブルースやジャズで使われるブルーノートといわれる音だそうです。ピアノなどでシ♭を弾く前に一瞬ラを弾きますが、それがこの7倍音の感じを出すためだとしたら…今でもさかんに使われる奏法ですから、やっぱり人の耳には7倍音は必要だということなのでしょう。9倍音はレ。11と13がずれますねー。これも7倍音のようにどこかの民族音楽に使われているかもしれません。15でシがでてきます。


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