アンコール遺跡−1 出発編

 今年の夏休みは、急に決まった。

 昨年と同じく、今年も研修を担当するのだが、この研修がなかなかスケジュールが決まらない。昨年と同じく8月中旬に実施となれば、僕の夏休みは自動的に9月になってしまう。やきもきしながら待っていたところ、この研修が9月末に実施されることが、7月末になって決定した。そうなると、9月は準備に当てなければならないので、8月中に夏休みを取らなければならない。上司の夏休みが終わってからの出発となると、8月19日から5日間くらいが適当となる。
 そこで、慌てて7月30日にYahoo!の旅行にアクセスし、海外旅行のツアー予約のページで、8月19日出発の5日間のツアーに5件ほど申し込みの乱れ打ちをした。(この段階では正式な予約ではない。)
 一年間で一番混んでいる時期でもあり、間に合うか不安ではあったが、翌月曜日に、幸いにして1件回答があった。旅行のコース名は次のようなものであった。

《ベトナム航空で行く!!》 アンコールワット フリー5日間 【スタンダードクラス】

 早速メールで申し込みの上、電話にて問い合わせたところ、カンボジアに入国するにはビザが必要とのことであり、旅行会社が手続きを代行してくれるとのことなので、会社の昼休みに代金とパスポートを持って旅行会社に向かった。
 実は、僕はツアーの参加は生まれて初めてである。今までの海外旅行は、飛行機代は全てマイレージだったのだが、昨年の杭州でそのマイレージも使い切ってしまった。海外出張の少ない部署に異動になってしまったので、なかなかマイルが貯まらない。そこで今年はツアーに参加することにしたのだ。ただし、ツアーとは言っても、往復のベトナム航空とホテルだけが確定で、後は自由行動である。僕は、一緒に行ってくれる人がいない一人で行くのが好きなのだが、ツアーで一人だと残念ながら料金が割高になってしまう。今回は一人参加料として10,000円のプラスになってしまった。それでも、往復の飛行機とホテル3泊(機中1泊)込みで約110,000円ではリーズナブルだと判断した。

 手続きが終わった後、担当者に聞いてみた。
「すいません。僕はツアーで旅行するのは初めてなんですが、今回のツアーは何人参加なんですか?」
「今日の時点では、虎羽様お一人です。
 僕は驚いた。出発のかなり間際になって、申込者がたった一名。
「あの、ツアーだと最少催行人員ってありますよね?」
「こちらのツアーは一人でも催行されますから、大丈夫ですよ。」
 団体行動が苦手な僕ではあるが、一人といわれるとかえって不安になってしまう。日本国民は先日のプノンペンの人質事件を気にして、カンボジア旅行は控えているのだろうか?(僕は申し込んでから事件を思い出した。)
 それともこの旅行会社は問題あるのだろうか?確かに初めて知った旅行会社ではある。この旅行会社のホームページを見たところ、このツアーは掲載されていない。オフィスも雑居ビルの7階だ。オフィスの中には、僕以外に客もいないようだ。それでも、Yahoo!に掲載できる会社なのだから、という妙な理屈で自分を納得させた。



 出発当日(2005年8月19日(金))。
 成田空港のカウンターで、旅行会社のカウンターでチケットをもらうときに聞いてみた。
「すいません。今回のツアーで同行の方はいらっしゃるんですか。」
「えー、女性がお一方いらっしゃるのですが、ベテランの方で、現地でも友人の家に泊まられるそうです。」
 今回のツアーは僕一人であることが確定した。

 今回のフライトは以下のような行程である。
成田(NRT) 10時30分発
ホーチミンシティ(SGN) 14時25分着(時差2時間・所要時間5時間55分)
ホーチミンシティ(SGN) 15時40分発
シェムリアップ(REP)  16時40分着


 アンコール遺跡群の最寄の空港は首都プノンペンではなく、シェムリアップである。シェムリアップにもプノンペンにも日本からの直行便はない。成田からはバンコク経由の便を使用する人が多いようである。

 ベトナム航空に乗るのは初めてである。成田を離陸してすぐ、隣の席の男性二人の会話が耳に入った。手に持っているガイドブックを見ると、彼らはホーチミンシティに行くようである。
「奥さんには何て言ってきたの?」
「女房には、出張だって言ってきた。」
 奥様には内緒の、男性二人のホーチミンシティ旅行。奥様に嘘を吐いてまで、ホーチミンシティに来る理由ははたして何か。何が彼をホーチミンシティに駆り立てたのだろうか。
 出張であれば当然交通費は会社負担のはずだが、今回はそれも出ない。彼はどのようにしてその場を乗り切るつもりなのか。
 奥様がパスポートを見れば、ホーチミンシティに来たことは判明してしまう。彼はホーチミンシティに仕事がある会社に勤務しているのだろうか。
 聞き耳を立てたが、残念ながら二人の会話は別の話題となってしまった。

 ホーチミンシティからシェムリアップへの飛行機では、窓側の席であった。窓からカンボジアの大地が見える。生まれて初めて見るカンボジアの景色である。

飛行機の窓からの風景

 人家らしき建物は見当たらない。視界に入るのは、木と土と水だけである。これは思っていたよりも、表現は悪いが、発展が遅れているのかもしれない。翌日からの3日間のことを考え、自然と気が引き締まった。