飲み会にて


 国土調査が終了し、その地図が17条に指定された地域で業務を行っている私にとって公図
地域の建物登記の調査、測量はどのように行われているのか、全く知る機会が無く、チャンス
があればいつか公図地区の業務経験豊富な方に実情を聞きたいものだと考えていた。

 逆に、公図地区のみで業務を行っている調査士にとっては、法17条地区の建物の調査、測
量の仕方について興味のあるところであろう。勿論卜建物自体の測り方に変りがある訳はな
く、建物図面に記載する建物所在地の土地の形状、そして建物の位置の特定の仕方というこ
とである。

 そんな折り、気心の知れた調査士が集まり建物の登記の話を酒の肴にして飲み会になっ
た。



● 公図地区の土地の形状について

 「建物の位置を表示する場合、法17条地図の地域であれば、建物が所在する土地について
は地図があり、ある程度特徴のある地形(道路や水路または隣接の土地境界)から、建物の
距離をとり、それを地図に合わせて建物の位置を特定していますが、そういった地図のない公
図地区ではどうしているんですか。」

 「当然、以前に地積測量図が提出されていれば、その測量図を使用しますが、それ以外な
ら、建物からの距離をとり、後はオフセットの要領で土地の形状を作成したり、確認通知書に
記載の図面を使用したりします。」

 「私は全部土地の形状を測ります。しかし、大きな屈曲点のみを測って、地図を作成しま
す。」

 「いやいや、やはり建物といえども、我々が作成する図面で職印を押印するわけですから、
土地の測量と同様にきっちり測って地図を作成します。」

 「しかし、それでは料金がすごく高くなってしまうのではないのですか。建物の登記でそこまで
やる必要がありますかね。」

 「後で問題にならないためにも、私はやるべきだと思っています。」

 「すごいなあ‥・・。」

 「私は、境界を全部測る必要は無いと思いますが、少なくとも位置を特定するために寸法を
入れる部分の土地の境界については、隣接の方との立ち会いは行っています。」

 「境界が不明な場所とか、お互いの土地を交換して、利用形態が違っているが、分筆登記
や、所有権移転登記がされていないものも、現況で測ってしまうと誤りの元になりますよ。」

 「私は17条地図地区なんですけれど、ちょっと境界が疑問に思えたら、隣接や反対側の明確
な境界、例えば長狭物から特定するようにしています。」



● 建物の位置を特定するための距離について。

 「私は、ほぼ10センチ単位で記載しています。もし、隣接土地との境界で紛争があった場合、
裁判の資料として我々調査士が作成した建物図面の距離の記載が証拠として採用される場
合もあり。私は明確に距離を記載しない様にしています。もともと、建物の位置の特定が出来
れば良いのであって建物登記であるから、そこまでやる必要は無いと思います。」

 「余りそんな事を考えた事はないないあ。大体申請人さんに聞いた境界からの距離をセンチ
単位で記載してます。」

 「我々調査士が作成するのだから。境界についてもきっちりして、距離も、境界線からの距離
を正確にいれて置くべきだと思う。」

 「私はずるいのかもしれないけど、そこまではしません、出来れば10センチ単位程度にした
い。正直に言って建物の登記でそこまでしなくてもという気持ちがあります。」

 「いや、やっぱり調査士として料金をいただいている以上は、きっちりと立ち会いした境界か
らの距離を土地の測量と同様な単位で表示すべきだと思いますよ。よく、土地の境界で争って
裁判になっている場合、その土地の地積測量図はもちろんですが弁護士さんは建物図面の境
界の距離まで証拠として採用されます。
 こんな場合、調査士が自分の職印を押して提出したにもかかわらず、土地だから、建物だか
らといって言い訳はできないんじやないのかな。」



● 建物の位置特定のための距離の測り方

 「建物の位置の特定で、建物の外壁からの距離となっていますけれど、皆さんどうされていま
すか。」

 「私は、建物の壁芯からの距離にしています。建物の柱が出ている場合は距離がおかしくな
ってしまうでしょう。」

 「私は国土調査地区で業務を行っていますので、建物が土地一杯に建っている場合に、建物
の形状は柱芯で表示し、建物の外側からの距離を取った場合、17条地図が正確に表示されて
いる場合は建物からの距離が柱半分づつ距離が短くなり、本当に地図の線の表示が1本分ず
れていたら建物ははみ出してしまったり、境界までの距離が0センチであるにもかかわらず、建
物を入れこんだ建物図面では20センチ程隙間が出来たりしておかしくなる場合があります
ね。」

 「建物の位置の特定のために何箇所、土地境界までの距離を測りますか。」

 「とれるだけ測ります。建物の延長線にとれる場所については全部測って、建物図面作成の
際に、おかしいものは省いて、大体3、4箇所で特定します。」

 「私は、3箇所ですね。最も、これは使用出来る位置という事で、測るのは最低でも3、4箇所
でしょうか。2箇所では、特定の仕方が難しいですから。」

 「先程申し上げたように、私は国土調査地区なもので、建物の形状を500分の1で作成し、同
一縮尺の土地の図面に当て込む場合、寸法を測られたらごまかしようがなくなるのですが、そ
のまま建物を当て込むと、はみ出す場合も少なくありません、それに更に境界迄の距離があり
ますから、完全にはみ出してしまう場合があるんです。皆さんこんな場合どうされてますか。」

 「国土調査完了地区は楽だなあと思って聞いていたけれど、そんな問題もあるんですね。こ
の場合、方法は決まっているんじやないかな。まず建物の図面の寸法を各階平面図ではきっ
ちり距離をいれて記載するのだから、建物図面については土地の図面に入るように縮小をか
けて当て込む方法。
 逆に土地については、公差範囲の誤差なのだから、建物の形状、境界までの距離とも本当
の数字を使用して、土地の形状も実際の形を記載する方法。土地の地図訂正の後、建物の
登記をする方法の三通りじやないかな。」

 「やはり、登記官に説明したり、地図訂正の申し出を必要とされるのも面倒だから、現実の寸
法や、面積は各階平面図で記載しているという事で、どうしても建物図面を縮小をかけて土地
の図面に入るように調整して登記する事が多いですね。」

 「登記官により、そのあたりの公差の考え方が色々ですから、難しい面がありますよね。17条
地図が絶対で、誤差は無いと主張される登記官から建物図面と17条地図を合わせて、少し地
図がおかしいといわれて、公差について説明したんですが。なかなか解ってもらえず、国土調
査実施機関の証明とかをつけるよう要求された事もあります。」

 「現在の登記官はそのあたりについては、かなり柔軟に対応していただいているんじやない
でしょうか。」



● 建物自体の測量について

 「私は、確認通知書の有無にかかわらず建物全部の外周長を現場で測量をして、辺長を調
節し、面積を算定し、その後確認通知書を参考にします。その結果、辺長で2、3センチ程度の
誤差までで形状に相違がなければ、確認通知書に合わせた形状と面積にする様にします。」

 「木造建物の場合、測った後で柱一本の分を増減して計算する訳ですが、昔は大体10セン
チか12センチくらいで、時に大きい立派な住宅はわざわざ柱をむき出しにしていたので調整も
簡単だったんですが、最近の住宅ではその調整の値が10センチから16センチ程度となかなか
種類が多くなっていますよね。」

 「最近、金融機関が面積の事をかなりうるさくいっていますね。まあ、木造の場合、我々は中
迄めくって測る訳にも行きませんので、実測と確認通知書の図面にあまり差が無ければ、その
まま登記してしまいますね。ただ、木造の注文住宅の場合どうしても設計変更が多いので、注
意が必要です。
 面積によっては金融機関の融資条件が変わってくる場合もあり、もし、その場合は事前に確
認して、それなりの対応を決めてから登記するようにしています。」

 「おふた方とも真面目ですね。私の場合、建物は測るよりも、見るという感じですね、私の地
域では新築の場合、市が検査済証が無いと税の軽減を受けるための専用住宅の証明を出し
ませんので必ず確認通知書と検査済証があります。だから外形があっていれば、確認通知書
のとおりやってしまいます。」

 「私の市でも同様ですね、ただ建て売り住宅が多い関係で、どうしても、確認通知書どおり、
施工しなければならず、その結果、建物の窓の数があっていれば測量せず、位置の特定だけ
をしてそのまま登記してしまう事が多いようです。」

 「私は建築士も兼ねているから良く解るんですが、確認通知書や検査済証があり、書類が万
全のようにみえても、設計変更をして審査変更の手続きを取る事はやらない事が多いんです。
だから確認通知書があるからといって現場で見るだけの状態だと、その設計変更に気がっか
ない事例も多くなるんじやないかな。やはり、このことも最終的には職印をついた我々調査士
の責任になり、最低限実際に測ってみる必要は有るんじやないですか。」



● 2階の形状の測り方

 「実際に測られる方で、2階の形状はどうやって、測られますか。私の場合、上を見上げなが
ら外側から大体測っていく訳なんです。当然、吹きぬけの場合は中を見ます。」

 「2階に上がって、内側を測るようにしています。それから、柱の分を調整するようにしていま
す。」

 「大体、2階の形状は1階に比べて簡単な場合が多いから、下から測ってもいいような気がす
るけれど、小さな出入りがある場合はどうしても、2階に上がって測る必要があるでしょうね。」

 「田舎であるほど、屋根裏の部屋が多いですし、どうしても2階には上がって実際に見ておく
必要がありますね。」

 「これは笑い話みたいな話だけれど、日本建築の立派な入母屋づくりの家を調査にいったん
ですが、これは屋根裏に部屋がありそうだからと思って、2階に上がって屋根裏の部屋がない
かどうか確認したんですよ。
 ところが、そこへの行き来の出来る場所にはきちんと壁がついているし、本人さんにその場
で確認しても屋根裏部屋は無いと言うんですよ。
 それで、そのまま表示登記を提出したんです。ところが、登記官が実地調査に行って帰ってく
るなり、ちょっと来てください、という事で登記所まで行くと、立派な屋根裏部屋がありますが、
見落とされたんですか。
 と聞かれる訳なんです、私の方は完全に寝耳に水で、訳が解らないですが。どうも大工さん
が勘違いされて、調査士が調査をしたときに屋根裏部屋が解らなければいいんだと思われ
てわざと壁を造って、本人に無いと言いなさいと知恵を付けた様なんですよ。
 調査士の調査が終わったので、それっとばかり、壁を壊し、その後、登記所の現地調査とな
ったようなんです。
 最初からありのままに言っていただくと、いろいろ対処する方法もあるんですが、これほど見
事にやられると対処の仕方がなくなりますね。」



● 不定形の建物の測り方

 「海岸地帯の土地の狭い場所なんかによくある、土地の形状ぎりぎりに建っている不定形の
建物についてどうされていますか。」

 「通常に測って、三斜法で算出しています。時には土地の形状から逆にオフセットで建物の
形状を出す場合もありますね。」

 「光波測距儀を持っていって測ります。計算は座標法で提出します。それの方が簡単です
よ。ついでに土地の形状も測ってしまえば全部チェック出来ますしね。」

 「広大な土地にある建物、この間も2ヘクタール程の山の中のお寺の奥の院の位置の特定に
ついては、特徴のある地形と基準点を基にして光波測距儀を使用して決めました。」

 「確かに、光波測距儀を使用する方が簡単で現実的な場合がありますよね。」



● 建物の調査(二重登記の防止)

  「ところで建物の調査についてはどうされていますか。」

  「事前に登記簿を調査して、後は近所のおじさん、おばさんに誰の家か事情を聞くようにし
ています。」

  「確かに、近所の方は事情を良く知っていますね。ただ申請人と仲が悪いと、変な事になり
かねませんから、そのあたりは注意を要しますね。」

 「二重登記の防止について、どのように調査されてますか。古い未登記の建物の表示登記に
ついては、どうしてもこの問題が出るようですが。」

  「私の地域では、国土調査が実施され、その時に地番が新地番に全部振り替えられている
んです、そのため単純に地番が変更になっている場合は登記官の職権で建物登記簿の所在
地番は変更になっているんですが、所在が複数の土地にまたがっている場合の所在地番が変
更されていないものがあります。
 また未登記建物や登記があっても台帳一元化前の古い建物は課税の便宜のため、複数の
建物を所有している場合でもその所有者の本籍や住所地に所有する建物全部を記載してある
場合も多いんです。
 だから、登記依頼のあった土地の地番の登記簿のみを調査しても、調査もれになり二重登
記の危険があるんですよ。」

  「市町村役場の税務課の課税台帳や家屋の調査台帳を閲覧すれば、建物の形や、所在、
所有者それに家屋番号の記載があり参考になりますね。ただ閲覧させてくれる市町村がどの
程度あるかわかりませんが。時折、登記簿で台所、便所、居宅、玄関と別々に登記されている
分についても、これなんかを閲覧すると、一棟の建物である事が解ります。
 また、長屋風の建物で区分建物の条件を満たす建物なんかが、別々の一棟の建物として登
記されている事が解り。非常に参考になりますね。」

 「私の町では閲覧させてくれますが、時々調査もれの物件がありますね。」

 「私の処でも、公開はしていませんが、お願いして見せてもらっています。安心感が全然ちが
いますよね。」

 「そんなものがあったんですか。私の市では全然閲覧させてくれません。」

 「資料として、公開してもらうよう要望したいですね。」



● 所有権の調査について

 「建物の所有権については、我々が調査するものは確認通知書と申請人からの聞き取り、
金融機関、敷地所有者、建築業者そして先程も出た、近所の方から聞き取るといった方法で
確認されていると思うのですが皆さんこのあたりはどうされていますか。」

 「私もその程度ですが、現地に行けば建築確認済の表示板が建っており、新築の場合はよ
ほどの事が無い限りは所有権については、単有か共有にするかという事以外はあまり問題に
ならないと思いますね。」

 「確認通知書は案外そのあたりについては、ざっとしていますね。まあ、依頼人から聞き取り
をして、そのまま申請しているから仕方ないのかもしれませんが、依頼人の住所地番、単有、
共有については、きっちり調査されていない事が多く、修正を要する事が多いですね。」

 「特に、単有と共有については依頼人さん達の税金が関係しますからね。」

 「新築についてはその程度の注意で良いと思いますが、建物の図面が法務局に備え付けら
れていない古い建物については、本当に気をつけないといけませんね。
 課税台帳である程度は解りますが、代がわり、つまり相続が発生しているような場合、被相
続人所有であった事は間違いないが、所有権の相続人は誰なのかという事に注意しなければ
なりません。
 また、売買登記まではしていないが、途中で第三者に売買している場合、まあ、この場合買
った方から依頼を受けるようになる訳ですけれど証拠書類がどこにもなく、有るのは、そこに住
んでいる事実だけといった場合で、登記をするには非常に難しい事が重なる事が多いですね、
当然当該建物を売った相手は亡くなっており、相続人はどこか遠方にすんでいる。まだこれな
ら事情を説明すれば何とかなりますが、相続人が全く解らないという事も多いですね。」

 「私の住んでいる町では、代々襲名していくという風習があったらしく、同様な名前がどんどん
出でくるんですけれど、これをうっかり見過ごすと大変。
 現在の方の名前と思っていても、よく調査したり、年代に矛盾がないようにして調査すると三
代ほど前の方だったというのも多いですね。」

 「こういった事の専門的な事は司法書士にお願いするとしても、我々も必要最低限度の戸籍
を見る知識が必要ですね。」

 話の内容も熱が入り、お酒のピッチもそれとともに上がってしまった。

 折角の良い話合いなのに、私の頭はアルコールで汚染され、ここから記憶がとだえて
しまった。



建物調査の実務と本音
     
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