自作53cmドブソニアン

最終更新平成10年8月8日


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月刊天文ガイド 1992年8月号 より
私の愛機
ついに完成! 手作りミラー
軽量53cmドブソニアン製作記
大口径の集光力が気軽に楽しめる
友田 哲

53cmドブソニアン

  白川天体観測所の口径84cmチロ望遠鏡の製作には、全国の自作ファンが注目していました。極端なシン(thin=薄い)ミラーのため、初めのうちは実用を危ぶむ声もありましたが、その後の改良で大口径の威力を発揮したのは皆さんもご存じのとおりです。私も福島県浄土平で行われていた「星空への招待」で星雲・星団を見ましたが、その集光力には圧倒されました。その後、茨城県取手市の前原正道氏が、56cmドールキルハムを、厚さ48mmのシンミラーで製作された事を知りました。
 軽量化とガラス材の安さの利点から、私もシンミラーの自作に取り組み、手磨きで31cm F5.6(厚さ18mm)、25cm F6(厚さ15mm)を磨きました。できる限り大口径を作りたいという欲望はありましたが、家の狭さ、完成後の置き場所、さらに使い勝手を考えて、53cmという口径に落ちつきました。50cmより3cm大きいところがミソです。「数ヵ月でできるかもしれない」などとアマイ考えで取りかかりましたが、できてみると4年の歳月が流れていました。

@主鏡研磨

53センチ主鏡

 鏡材は、外径54cm、厚さ(薄さ?)30mmのパイレックスです。凹作は、チロ望遠鏡と同様、ダイヤモンドツールを振子で下げる方法によりました。凹作以降の研磨場所が問題となりましたが、自宅六畳間の畳の上にビニールシートを敷いて研磨機を置くことにしました。畳の上で磨いた鏡としては、おそらく世界最大ではないでしょうか???
 研磨機は、前村力氏に作っていただきました。主鏡回転用と盤の往復運動用と、2個のモーターを使用しています。砂ズリに使用した盤は、直径50cmのマンホールの蓋(スクラップ品です。念のため!)にタイルをエポキシ樹脂で貼り付けたものです。タイル盤の欠点としては、硬度が不足しているため、砂ズリの各段階で異常に時間がかかる事です。マンホールの周囲や裏面にはサビが落ちないようにエポキシ樹脂を塗っておきましたが、研磨中にはがれた樹脂とサビが鏡面に落ちて慌てた事が何度かありました。また、タイル中に含まれる砂ツブによると思われるスリークができてしまいました。
 全面磨きの際は、砂ズリに使ったタイル盤の上に、両面テープでセリウムパッド(レンズ研磨でピッチ盤の代わりに使われているスポンジゴムのような物)を貼り付けて使用しました。部分研磨は、直径25cmのガラス板でピッチ盤を作って使用しました。

★整型時の失敗その1
 どうにかこうにか磨き上げてフーコーテストをしたところ、中央と周辺で焦点が20cmも違う二重球面でした。おまけに、かなり強いアスがありました。これでは磨きによる整型は不可能と判断し、泣く泣く砂ズリに戻りました。原因は研磨機の回転テーブルに主鏡をベタ置きしたため、主鏡がテーブルに沿ってたわんでしまった事と、タイル盤がやわらかすぎて、主鏡と充分になじまなかったためと思われます。

★整型時の失敗その2
 今度はベタ置きではなく、主鏡の下に3点のゴムパッドを敷き、砂ズリも各段階10時間近くかけて念入りに作業を進めました。ところが、フーコーテストをしたところ、影の形がなんとなくおかしいのです。あわてて人工星をアイピースで見ると、なんと星像が三角形になっていました。研磨中にパッドのあたった3ヵ所だけが多く磨けてしまったためでした。

★三度目の正直・・・
 主鏡の裏面を18点支持にしようかと思いましたが、研磨時の圧力に耐えられる物を作る自信がなかったため断念。もっと簡単な方法はないかと考え、主鏡の下にエアーキャップ(梱包用に使う透明で小さな気泡のついたビニール。ヒマつぶしの時に使うアレです)を敷く事にしました。これなら一部分が強くあたる事もありません。
 全面研磨を終え、フーコーテストをしてみると、弱い偏球面でした。25cmのピッチ盤をイチョウ型にしたもので修整し、最終的に焦点距離は2330mm、F4.4に仕上がりました。

A斜鏡研磨

斜鏡

 鏡材は、外径165mm、厚さ30mmのパイレックスで、円形のまま使用しています。こちらは手磨きで仕上げました。
 直径160mmもの基準平面や球面鏡がなかったため、基準平面の仮作(3面磨いてお互いにテストして一番良い面を基準にする方法)によりテストしました。

B鏡筒部

接眼部

 接眼部を低くするために、いわゆる斜めニュートン式を採用しました。接眼部は、ペンタックスのヘリコイド接写リングを使用しています。
 鏡筒部は、イレクター(鉄パイプに樹脂コートしたもの)で組み上げました。ジョイント部に加工して、完成後も接眼部や耳軸の位置を自由に変更できるようにしました。

主鏡セル

 主鏡セルは22mm厚のベニヤ板を使い、主鏡の下にはエアーキャップを敷いてあります。鏡周部ををバンドでつるす例が多いようですが、かえってバンドにより主鏡が変形してしまうケースもあるようなので、鏡周押えは4点にし、常に接するのは下の2点になるようにしています。おそろしく簡単な構造ですが、今のところ特に悪影響はないようです。フレーム構造なので、遮光のため使用時には黒いラシャ紙をテープで貼っています。

C架台部

 典型的なドブソニアンです。22mm厚のベニヤ板で組み上げました。水平回転部にはキャスターを入れてありますが、車輪が小さいために、使用中にはドアがきしむような音がします。上下回転部分には、ネジ押し式の上下微動装置を取り付けてみましたが、見事に何の役にも立っていません。クランプ力が弱すぎたようです。

D製作費

 総製作費は、ガラス代・メッキ代も含めて30万円ほどでした。
 製作中に大変だったのは、製作可能な環境を整えることでした。フーコーテストをするために家具を移動したり、家の前で道路工事が始まって砂ボコリのために数ヵ月間研磨作業ができなかったり、主鏡の洗浄のために風呂場まで主鏡を抱えて行ったり・・・
実際に星像を見ると、80倍程度なら実用上充分です。200倍くらいになると鏡面精度の不足と光軸不良によるアラが目立ってきますが、主鏡の変形はさほど気になりません。
 また、架台・鏡筒とも軽量のため、ヤル気になれば1人でも組み立て可能です。ちなみに、私はいつも軽自動車の1BOXで持ち運んでいますが、ギリギリ一杯の大きさで、どこかがあと1cmでも大きかったら車に入らなかったところでした。最大の長所は、どこにでも移動が可能なところでしょう。子供会の観望会などでは、小口径の望遠鏡では見えにくい星雲・星団もラクに見せる事ができます。欠点としては(星像が多少甘いのは目をつむって・・・)架台部分の強度・重量が足りないため、風に非常に弱く、転倒の危険もあります。移動型の機材としては頭の痛いところです。
 最後に、研磨機を作っていただいた前村力氏と、助言をいただいた前原正道氏と白河天体観測所の岡田好之氏に、誌面をお借りしてお礼申しあげます。

★係より

 口径53cmの巨大なドブソニアンです。鏡面の研磨から鏡筒の製作、実際の使用までの間に、様々なドラマがあった事と思います。完成した望遠鏡は、もちろん非常に価値のある物ですが、製作の過程で得られた経験の価値も大きい事でしょう。これこそ自作の醍醐味です。ドブソニアンは、星雲・星団の観望を目的とした低倍率専用の望遠鏡です。この事を充分に把握した上で構想をたてると、一般には絶対厳禁!といわれている極端に薄い主鏡でも、目的の望遠鏡ができそうな感じがしてきます。
 口径53cmの有効最低倍率は80倍です。友田さんの主鏡の焦点距離は2330mmですから、80倍を得るためのアイピースは約30mmになります。30mmのアイピースはルーペに換算すると約10倍の倍率です。ですから主鏡の結像能力(鏡面精度の良さ、歪みの少なさ)は、焦点像を10倍に拡大してもバレない程度であれば良い訳です。λで表わせば1λ以下でもOKという事でしょうか。大変な苦労の末、ドブソニアンとしてうまいバランスの光学系を完成された事に敬意を表します。 (編集部・Ta)



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