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ワンピースチームワーク

「職場の空気が悪い」

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 みなさんは、「職場の空気が悪い」と感じることはありませんか? 特に自分がその現場のリーダーだったら、どうでしょうか? 自分のリーダーシップによって、現場の空気が生き生きとなる場合がある一方、逆にその空気が息苦しくなる場合もあります。

リーダーとして現場の空気をよくするには、どうすればよいでしょう? 今回、この疑問のヒントとなるチームワークをテーマに、人気アニメ「ワンピース」を取り上げます。主人公ルフィは、海賊王になるため、集めた仲間たちと共に「麦わらの一味」として、「ひとつなぎの秘宝(ワンピース)」を手に入れる冒険の旅をしています。

これから、この「麦わらの一味」に加えて、彼らが出会う「世界政府の海軍」や「白ひげ海賊団」を、それぞれチームモデルとして、みなさんといっしょに考えていきたいと思います。


「おれのやることは全て正しい」―ピラミッド型

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@特徴

 まずは、分かりやすいので、麦わらの一味などの海賊を取り締まる世界政府の海軍のチームモデルを見てみましょう。海軍の組織は、大佐などをリーダーとして、海兵を末端メンバーとするピラミッド型(階級構造)です。その特徴は、海賊を取り締まるという目的の達成(目標達成機能)のために規律が厳しいこと、そしてこの集団を維持(集団維持機能)するために上下関係(師弟関係)が絶対的であることです。

 

A二面性

プラス面としては、統率・統制がとれることで、マニュアル行動には長けていることが挙げられます。しかし、マイナス面として、その統率・統制により絶対服従が求められ、メンバーたちに自由がありません。そして、リーダーが横暴になり、パワーハラスメントのリスクが高まることです。例えば、モーガン大佐は「この基地で最高位の大佐であるこのおれは最高に優れた人間であるということだ」「だからおれのやることは全て正しい」と言っています。

このピラミッド型のチームスタイルは、実際の私たちの社会でも、自衛隊、消防隊、官僚組織、公的組織、大企業などで多く見られます。決められたことを協力して成し遂げることができる一方、昨今は、情報化により多様化している私たちの価値観や激動する社会構造にそぐわなくなってきています。管理主義により順応さや従順さを求められたメンバーは、チームの現状の批判や新しいアイデアでチームをより良くしていこうという創造性を抑えられます。その結果、メンバーがその葛藤から次々と辞めてしまったりチームが時代の流れに着いていけずに衰退するリスクがあります。また、メンバーは、チームの間違い(チームエラー)を指摘することを憚ってしまい、隠ぺい体質を生み出すリスクもあります。例えば、不良品の回収に時間がかかってしまった某化粧品会社の不祥事が挙げられます。

 

1 海軍(ピラミッド型)の二面性

プラス面

マイナス面

統率・統制

→マニュアル行動

リーダーの横暴(パワーハラスメント)

創造性の抑制

メンバーの葛藤

→チームの衰退、隠ぺい体質

 


「おれが親父でよかったか・・・?」―ファミリー型

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@特徴

 次に、白ひげ海賊団のチームモデルを見てみましょう。白ひげ海賊団では、船長(リーダー)の白ひげは船員たちを息子と呼びます。そして、船員たちは白ひげをオヤジと呼んでいます。まるで家族のような人間関係(擬似家族)を築いており、ファミリー型と言えます。このチームの特徴は、強くて懐の深いリーダーシップによってメンバーたちとの人間関係(家族愛)を重視し、規律(ルール)がほとんどなく自由であることです(集団維持機能)。また、集団の目的の達成(目的達成機能)に、家族の結束があることです。これはピラミッド型と対極です。

 

A二面性

このファミリー型にも二面性があります。プラス面としては、何より家族の一員なので居心地が良い点が挙げられます。白ひげが死に際に船員のエースに問いかけるシーンが印象的です。「言葉はいらねえぞ・・・1つ聞かせろ、エース・・・おれが親父でよかったか・・・?」と。そして、エースは心の底から「勿論だ!」と答えています。

一方、マイナス面としては、プラス面の裏返しで、規律の緩さや居心地の良さによってリーダーもメンバーたちも現状維持を望み、消極的になりがちです。そもそもチームの目標がチームの維持そのものとなってしまい、何かをチームとして成し遂げるという価値観が弱くなります。例えば、白ひげは、ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)がある場所への行き方を聞けるチャンスがあった時でも、「聞いても行かねえ」「興味ねえからな」と答えています。白ひげの「興味」は、いっしょにいる船員たち、つまり家族そのもの(家族愛)だけなのです。

このファミリー型は、実際の私たちの社会でも、家族経営だけでなく、中小企業、集団登山、護送船団、サークル、マフィアなどで多く見られます。かつて年功序列と終身雇用が維持されていた多くの企業では、このチームモデルが機能していました。しかし、国際的にも国内的にも競争力が求められる昨今の新たな社会構造の中で、このスタイルは限定的な職種(チーム)にしか生かせなくなってきています。

家族のように「なあなあ」になってしまったチームのメンバーたちは、現状を批判しにくく、気を遣ってミスや怠けをかばい合い、うやむやにしてしまいます。それほど必死になってチームに貢献しなくなることで、チームとしての競争力を落とすリスクが高まります。さらには、家族的な関係ならではの心理的距離の近さや人間関係の固定化により、長期的には逆に、古株のメンバーが既得権を振りかざしたり、不仲なメンバー同士が足を引っ張り合うなど人間関係が煮詰まるリスクもあります。

 

2 白ひげ海賊団(ファミリー型)の二面性

プラス面

マイナス面

居心地が良い

消極性

→チームの競争力の低下、人間関係の煮詰まり




「海賊王に、おれはなる!」―フラット型

@特徴

 いよいよ、ルフィが率いる麦わらの一味のチームモデルのご紹介です。麦わらの一味は、ルフィを船長(リーダー)として、彼が誘った数人の仲間たちをメンバーとするフラット型です。その特徴は、ルフィの目標(ビジョン)がメンバーに共有されていること(目標達成機能)、メンバーの役割がはっきりしていて役割意識があること、そして仲間意識(友情)があること(集団維持機能)です。

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ルフィの目標とは、「海賊王に、おれはなる!」との宣言通り、海賊王になることです。そして、そのためにワンピースを手に入れることです。さらに、そのためには仲間を集めて協力して航海することです。このルフィのビジョンを通して、それぞれのメンバーは、自分の目標を達成させようとしています。そして、その目標につながる自分たちの役割が、チームの中ではっきりしています(3)。そのため、それぞれの状況で最も力を発揮できるメンバーが決定を任され、強い役割意識を求められます。

 ルフィを含むメンバーたちは、そのメンバーの決定を尊重します。つまり、チームへのそれぞれのメンバーの影響力(フォロワーシップ)がとても強いと言えます。裏を返せば、相対的にルフィによるリーダーシップは弱くなります。つまり、フラット型は、それぞれのメンバーの役割が違うだけで、立ち位置はリーダーもメンバーもフラット、つまり平らであるということです。実際に、ルフィは、メンバーを部下ではなく仲間であるといつも協調しています。また、コックのサンジが剣豪のゾロに彼の刀で料理を手伝わせるシーンでは、サンジはゾロに「黙ってやれ。コックに逆らうと餓死すんぞ」と言っています。このようなメンバーの決定への尊重が、仲間意識(友情)を強めていきます。

 

3 麦わらの一味のそれぞれの役割と目標

 

役割

目標

ルフィ

船長

海賊王になる

ゾロ

剣豪

世界一の剣豪になる

ナミ

航海士

世界中を航海して自分で世界中の海図を書く

ウソップ

狙撃手

勇敢な海の戦士になる

サンジ

コック

伝説の海、オールブルーへ行く

チョッパー

船医

何でも治せる医者になる

 

A二面性

 このフラット型にも二面性があります。プラス面としては、目的のためのチームへの批判も含めて言いたいことを言い合える関係が築けることが挙げられます。ピリピリした関係のピラミッド型やベタベタした関係のファミリー型とは違って、リーダーのミスやチームエラーへの指摘に遠慮はありません。なぜなら、彼らは自分の夢や目的を叶えるために集まっているからです。これは、創造的でより強いチームワークを発揮します。

一方、マイナス面としては、ルフィのもとに集まった仲間たちは、全員とてもユニークで、一筋縄ではいきません。いざという時には一致団結しますが、平素は性格が合わないので些細なことでしょっちゅうケンカをしています。リーダーやメンバーは批判に耐える図太さも必要です。

さらには、リーダー(チーム)と自分の目標(ビジョン)に違いが分かった場合は、チームを去る必要があります。例えば、壊れたゴーイングメリー号()を乗り換えるかどうかで、ウソップは、ルフィとやり合い、言います。「おれは傷付いた仲間()を置き去りに、この先の海へだって進めねえ」「いいかルフィ、誰でもてめえみたいに前ばっかり向いて生きていけるわけじゃねえ」「お前は海賊王になる男だもんな。おれは何も(そこまで)高みへ行けなくていい」と。ウソップは麦わらの一味を一時期退きます。このようなビジョンの違いは、私たちの職場でも常に起こり得ます。例えば、病院の利益か患者の利益か、臨機応変かマニュアル化か、効率か後輩教育か、家族優先か仕事優先かなど様々にあります。

このフラット型は、実際の私たちの社会で、職場のプロジェクトチーム、航空機のコクピットクルー、手術チーム、当直メンバー、チームスポーツなどで多く見られます。10人くらいまでの少人数で、比較的短期間のチームであることが多いです。麦わらの一味も9人で、一時的に2年間ほど航海を休止して、メンバーがそれぞれ修行をするというエピソードもありました。

 

4 麦わらの一味(フラット型)の二面性

プラス面

マイナス面

言いたいことを言い合える

→創造的で強いチームワーク

平素は些細なことでケンカ

ビジョンの違いで脱退

 

5 チームのタイプの違い

 

ピラミッド型

ファミリー型

フラット型

モデル

海軍

白ひげ海賊団

麦わらの一味

目標達成機能

厳しい規律

家族の結束

ビジョンの共有

役割意識

集団維持機能

上下関係

(師弟関係)

家族愛

仲間意識(友情)

実際の例

自衛隊

消防隊

官僚組織

公的組織

大企業

家族経営

中小企業

集団登山

護送船団

サークル

マフィア

プロジェクトチーム

航空機のコクピットクルー

手術チーム

当直メンバー

チームスポーツ



なぜ麦わらの一味は強いのか?

 これまで、海軍、白ひげ海賊団、麦わらの一味のチームモデルをそれぞれ見てきました。それぞれのプラス面とマイナス面がある中、なぜ麦わらの一味は強いのでしょうか? その答えは、仲間意識(友情)、役割意識、仲間選びの3つです。

それでは、これらの理解を深めるため、原始の時代の私たちヒトに遡ってみましょう。

 

@仲間意識(友情)

 ヒトは、700万年前にチンパンジーと共通の祖先から分かれて、体だけでなく、実は心も進化させてきました。その最大の進化とは、アフリカの森から草原に出て以来、食糧を手に入れ猛獣から身を守るため、助け合い、力を合わせたことです(社会脳)。この時、血縁関係を超えて、これらの同じ目的のために協力することを心地良く思う種がより協力して生き残り、子孫を残してきました。この心地良く思う心理こそが、仲間意識(友情)の起源です。

 多くの人が、友情とは一緒にいる心地良さ(親近感)や好感などの純粋で情緒的なつながりであると思っているでしょう。そして、心地良いから協力して目的を達成するものだと思っているでしょう。しかし、現代の私たちに原始の時代のヒトたちの心理が受け継がれていると考えると、逆なのです。同じ目的(ビジョン)を持つという理性的なつながりがあるから、強い友情が生まれるのです。つまり、協力して目的を達成するからこそ心地良いのです。そして、この心地良さが仲間意識(友情)として麦わらの一味をより強くしていくのです。

 

A役割意識

 友情は、単なる情的なつながりではなく、理性的なつながりがあって初めて強まることが分かりました。実際に、アメリカの大学の寮でルームメイトになった学生たちの友人関係の形成について調べた研究で確かめられています。学業成績の向上という目標に注意が向かう状況(目標あり)とそうでない状況(目標なし)で、それぞれ役に立つ友人と役に立たない友人に対しての親近感を評価しました。その結果、最初の目標なしの状況では親近感にほとんど差がなかったのに対して、その後に目標ありの状況に仕向けるとその親近感に大きな差が出てしまいました。つまり、助け合い(互恵関係)が成り立たない、つまり協力関係によってお互いに得られるものがなければ、友情は表面的なものになってしまうということです。

 だからと言って、損得勘定で意識的に友人を選んでいるのではありません。私たちヒトの進化の過程で得た心理は、同じ目標を持って協力をする必要がある状況であればあるほど、意識せず意図せずに心地良さ(親近感)がより沸き起こるように遺伝子にプログラムされていると言うことです。

よって、友情による見返りというものは、短期的には期待されません。しかし、先の目標を見据えて長期的には期待されます。実際にルフィは、自分が強くなければ仲間から認められなくなると危機感を募らせているシーンが分かりやすいです。この時のルフィのように、仲間の関係(友情)を維持するためにチームに自分のできることをして貢献したいという心理が動機付けられます。この心理が役割意識です。そして、ルフィたちのそれぞれの役割意識が、麦わらの一味をより強くしています。

 

B仲間選び

ルフィの仲間選びに注目してみましょう。最初に仲間になったのはゾロでした。ルフィは、自分よりも弱い者を守るゾロの姿を見て、「いいやつだ」と好感を持ち、自分の仲間になることを勧めています。しかし、ルフィはただ単に「いいやつ」という理由だけでゾロを仲間にしようとしたのでしょうか? 

ゾロは、もともと「海賊狩りのゾロ」という異名を持ち、魔獣と恐れられていました。そんな彼の剣豪としての腕前や戦闘員としての役割を見込んで、ルフィは仲間に誘ったのです。つまり、仲間としてチームにどう貢献できるかを見抜く目を持つことがリーダーには必要です。逆に先ほどの友情の心理の起源に照らし合わせれば、ルフィはゾロの能力に惚れ込んだからこそ好感を持ったとも言えそうです。

ナミは、航海士としての技術を買われ、当初は「手を結ぶ」「手を組む」というビジネスライク(競争的共同)の関係で、仲間に入りました。しかし、その後は仲間意識をより強めて、麦わらの一味の陰のリーダーになっています。

ウソップは、それほど能力が高くなかったのですが、仲間になりました。この理由は何でしょう? もちろん、彼は狙撃手としての役割があります。しかし、それ以上に、逆説的にも、彼がネガティブだからです。彼のネガティブさの裏返しでもある慎重さが、ルフィのボジティブ過ぎる暴走を止めるストッパーとしての役割を担っているからです。これは、役割分担と言うよりも、キャラ分担とも言えそうです。こうしてメンバーの性格(パーソナリティ)のバランスがとれ、チームがあまりにも偏った方向に流れる(集団的浅慮)のを防ぐことができます。

 実際に、メンバーはあまりにも似たり寄ったり(均質性)ではない方が、生産性が高まることが分かってきています。例えば、同性だけの集団より男女混合の集団の方が、集団としての業績が良いという実験結果が出ています。その理由は、同性の集団は競争的になりやすく、男女混合の集団は協調的になりやすいからです。この結果から、現在の男子校や女子校の効果や意義については検証をし直す必要があるかもしれません。某球団のように、他の球団の強打者ばかりを集めても、期待されるほど成績を上げられないことも一例です。また、テレビのお笑いバラエティ番組でも、ボケ役ばかりでも、突っ込み役ばかりでも、盛り上がりに欠けるでしょう。つまり、メンバー選びにおいて、役割だけでなくキャラクターも、チームのバランスを保つ上で大切な見極めのポイントであると言えます。

このように、ルフィは誰でも仲間に入れていません。ルフィの適確な仲間選びが、麦わらの一味をより強くしています。

 


ピラミッド型とファミリー型の限界

それでは、実際の私たちの職場はどうでしょうか? もともと日本の文化は、儒教の影響を強く受けており、年齢の違いで敬語とタメ語を器用に使い分けるなど上下関係や師弟関係などの縦の関係を当然だと思う傾向が根強いです。とてもピラミッド的です。また、島国という地理的条件、300年近い江戸時代の鎖国、ほぼ単一民族という均質性により、人間関係はとても閉鎖的で集団同調的です。それは「出る釘は打たれる」ということわざが端的に示しています。とてもファミリー的でもあります。さらに、特に医療の現場は、本来、決まったやり方が重視され、医療ミスを起こさないという保守的な要素が強く、革新的なことはためらわれます。フラット的ではありません。このような要素から、今まではピラミッド+ファミリー型の職場が、うまく回っていました。

しかし、情報化によって時代が大きく変わってきています。私たち医療者も患者も価値観がより多様化してきています。医療技術が日々進歩し業務が多様化・複雑化し、競争力や創造性が求められています。もはや純粋なピラミッド型やファミリー型の職場では、限界にきていることが分かります。つまり、このままでは、職場の機能が衰退し、現場の空気がどんどんと悪くなっていくことが分かります。

 


職場のフラット化のポイント―表6

 それでは、最初の疑問に戻りましょう。リーダーとして職場の空気を良くして、活性化するには、どうすればよいでしょうか? それは、現在の職場をよりフラット型に寄せていくこと、つまりフラット化です。

ルフィ率いる麦わらの一味から分かったフラット化のポイントをまとめてみましょう。それは、フラットな枠組みをつくること(構造化)、フラットな状態が目に見えること(客観化)、フラット化の限界を示すこと(限界設定)です。

 

@フラットな枠組みをつくる―構造化

 ルフィは、仲間たちと力を合わせて航海し、ワンピースを手に入れ、海賊王になるという未来(ビジョン)を仲間たちに示しています。このように、フラットな枠組みをつくるポイントとして、まず、リーダーがこういう職場にしたいというビジョンを具体的に示すことです。そして、メンバーがそのビジョンに納得することです。例えば、リーダーがメンバーに「あなたには何ができる?」「何が期待されているか?」「リーダーに何を求める?」と確認することです。こうしてビジョンが共有されることで、協力して目標に向かう心地良さである仲間意識(友情)、さらには信頼関係が生まれます。

 仲間意識の高まりから、メンバーは自分のできることをして貢献したいという役割意識が生まれます。その役割意識によって細かいことはメンバーの裁量に委ねられることで、メンバーは、もはや「やらされてる感」がなくなり、自分の行動に責任を持つようになります。仕事は、単なるノルマやデューティ(義務)などのやらなければならないことではなく(外発的動機付け)、やりたくてやっていること(内発的動機付け)に変わっていきます。例えば、すでに多くの医療機関で取り入れられている受け持ち患者担当制では、この患者のことは一番自分がよく知っている自信や責任感が沸き起こってきます。気持ちの持ち方が違います。

 また、業務の多様化や専門化が進んでいる中、はっきりとした役割分担は、メンバー同士の仕事の奪い合いや押し付け合いなどの縄張り意識の葛藤を回避することにもつながります。メンバーだけでなく、リーダーも目標に向かって役割を果たしているという姿勢を見せることで、もはやリーダーもメンバーも人としては対等で、職場においての決められた役割が違うだけになります。逆に、最悪なのは、「とにかくリーダーである私の言うことを聞きなさい」という関係です。これは、共有すべきビジョンもメンバーの役割も曖昧です。

 

Aフラットな状態が目に見える―客観化

 ルフィたちは言いたいことを言い合い、しょっちゅうケンカをしています。このように、フラットな状態が目に見えるポイントとして、まず、トラブルはオープンにすることです。ただし、主観的で抽象的で感情的にはならず、あくまで客観的で具体的で理性的に伝えることです。例えば、「あなたのやり方はムカつく」と主観的に言えば、感情的に巻き込まれてドロドロになるでしょう。とても、破壊的です。そうではなく、「あなたの○○のやり方は、私の□□の考えとはズレている」「だから△△のやり方にはできない?」と客観的に具体的に、そして建設的に代替案も提案するのです。また、「そんなこともできないの(分からないの)!」と言い放つのではなく、「○○まではやってくれて(理解してくれて)ありがとう」「□□がまだできていない(分からない)理由やその必要性をいっしょに整理しようか?」と持ち掛け、リーダーは状況を整理して、常にメンバーとの妥協点や着地点を見据えることが大切です。

さらに、コミュニケーションの風通しを良くしてチームの創造性を活性化させるために、会議では、リーダーを含むメンバーが違う意見や反対意見、間違った質問をわざと言う役割をつくる取り組みがあります。これは「悪魔の擁護者」と呼ばれ、ディベート用語から来ています。根回しによって同調を促す「さくら」とは真逆の役割です。そうすることで、他のメンバーたちも違った意見を言いやすくなり、チームエラーの早期の共有につながります。

オープンで透明性の高いチームにするには、メンバーにも公正な判断材料が十分にあり、お互いが客観的にチェックできることが必要です。そのために、例えば、チーム内でのメールは公開し、それぞれの指示などもメンバーがチェックできるようにすることです。また、仕事の評価は、リーダーからメンバーたちだけでなく、メンバーたちからリーダー、メンバーからメンバーにも行うことです(360度査定)。このように、お互いの能力や責任を評価し合うことで、自分は評価しているし評価されているという意識が高まり、他のメンバーだけでなく、自分自身への客観的な視点を得やすくなります。

 逆に、よくありがちな最悪な例をご紹介しましょう。チームにいる2人の個の強いメンバーが、お互いの批判を他のメンバーに言う場合です。本人には直接は言いません。板挟みとなった他のメンバーに葛藤が生まれ、職場の空気が重苦しくなっています。最悪なのは、この時にリーダーが、この2人に気を使い、批判(=問題点)の解決については、その2人を除いた会議で決定したことにして、うやむやにすることです。これでは「臭い物にふた」で、メンバーたちの葛藤は募る一方です。

 

Bフラットの限界を示す―限界設定


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 ウソップは、船長(リーダー)のルフィとの妥協できないビジョンの違いを知り、麦わらの一味を一時脱退します。このように、フラットの限界を示すポイントとして、ビジョンが違えばチームを脱退する潔さや割り切りが求められるということです。リーダーは、ピラミッド型のように抑え込んだりしないことです。また、ファミリー型のように、うやむやにしたり、
主張の強いメンバーに気を使ったりしないことです。つまり、リーダーはブレないことです。

 麦わらの一味は、新しいメンバーの加入はあっても、基本的なメンバーは減っていません。そのためか、2年間ほど航海を休止して、メンバーがそれぞれ修行をする時期があります。このように、メンバーの入れ替え(流動化)を定期的にしたり、チームを一時解散することで、リーダーを含むメンバーがチームにいる期間を限定させることが必要です。

その理由は、時が経つにつれて、チームがファミリー化して、煮詰まり(硬直化)、老いる(衰退)のを防ぐためです。個人の老いがあるのと同じように、チーム(集団)にも老いがあります。もっと言えば、集団にも、幼い時(小児期)、盛りの時(成人期)、そして老いの時(老年期)というそれぞれの発達段階を経る発達モデルがあります(グラフ)。小児期はピラミッド的、成人期はフラット的、そして老年期はファミリー的と言えそうです。リーダーシップがリーダーからメンバーへの影響力であるのに対して、フォロワーシップはフォロワー(メンバー)からリーダーへの影響力であると言えます。老年期のフォロワーシップの高まりは、一見チームワークが高まるように思われがちですが、実際は、メンバーのそれぞれのフォロワーシップがぶつかり合い、チームとしては収集がつかなくなり、チームワークを低めます。つまり、たとえその時にどんなにチームワークがうまくいっているように思えても、やがてチームの老い(老年期)が訪れることを予測し、チームを定期的に一新していくこと(変革のタイミング)が必要です。例えば、リーダーもメンバーも、3年から5年でチーム(職場)を順番に変えることです。先ほどの例の不仲な2人への限界設定は、構造化や客観化をしても改善が見られなければ、その時こそ2人が職場を移動する変革のタイミングであるということです。

 

6 フラット化のポイント

 

構造化

・リーダーがビジョンを具体的に示す

・メンバーがビジョンへの取り決めに納得する

・細かいことはメンバーの裁量に委ねる

客観化

・トラブルが起きたらオープンにする

・客観的で具体的で理性的に伝える

・違う意見や反対意見、間違った質問をわざと言う役割をつくる

・リーダーを含むメンバーがお互いをチェックし評価する

限界設定

・ビジョンが違えばチームを脱退する

・リーダーを含むメンバーがチームにいる期間を限定させる


「ひとつなぎの秘宝(ワンピース)」とは?

ワンピースは、かつての海賊王ゴールド・ロジャーが遺した「ひとつなぎの秘宝(ワンピース)」を探し求める冒険の旅物語です。最後にルフィたちが手に入れるその秘宝とは、冒険の先々で出会った仲間たちとの「つながり」でもあるような気がしてきます。

 また、ワンピースのストーリーでは、海賊王ゴールド・ロジャーは次の世代に夢を託していますし、子どもの時のルフィを救い左腕を失った赤髪のシャンクスはルフィに自分の麦わら帽子を託しています。つまり、その秘宝とは、描いた同じ未来(ビジョン)を託すことのできる次世代との「つながり」そのものでもあるような気がします。

私たちも人生という冒険の旅の主人公です。人生の大きな部分を占める職場においても、このつながりを意識してこそ良い仕事ができます。ルフィから学ぶことは、より良いチームワークのためには、現在の自分の属する職場のあり方を見つめ直し、3つのチームモデルのどの要素を重視すればよいかを見極めていくことではないでしょうか。

 


参考文献

1)山口裕幸:チームワークの心理学、サイエンス社、2008

2)釘原直樹:グループ・ダイナミックス、有斐閣、2011

3)北村英哉・大坪康介:進化と感情から解き明かす社会心理学、有斐閣アルマ、2012

4)安田雪:ルフィの仲間力、アスコム、2011

5)安田雪:ルフィと白ひげ、アスコム、2012

6)富田英太、藤岡良亮:「ワンピース」はなぜ人の心をつかむのか、ベストブック、2011