関節力


動作解析法の関節力と、実際に関節において骨にかかる力は異なる。


剛体リンクモデル

 剛体リンクモデルを使って、キネマティックな情報から、キネティックな量(隣接するセグメントに働く力:関節力と関節トルク)を計算することができる。
 こちらのサイト(Young-Hoo Kwon)のTheoretical FoundationJoint Torqueの項に、その証明がある。関節に働く力と筋肉が引く力を関節力と関節トルクに置き換えることによって解が求まるのである。

 Feltnerらは投球動作に関する論文Feltner&Dapena(1986)で、動作解析によって関節トルクと関節力を求め、数値から、

などを導いている。


 簡単な例について、具体的な計算方法が、

に載っている。


関節力

 関節において骨面に働く力と逆動力学的計算によって求めた関節力は異なる。

Winterは関節力を”joint reaction force”と呼んでいる。
それに対して実際の力は”bone-to-bone force”である。これをここでは関節間力と呼ぶことにする。

前節で紹介したJoint Torqueの記事では、”joint reaction force”はここで名づけた関節間力のことである。それに対して、関節力は”net joint force”と呼んでいる。


 例えば上腕二頭筋の収縮で肘関節を屈曲させるばあい、肘において上腕から前腕に及ぼす関節力と関節間力の方向はだいたい下図のようになるだろう(向心力は無視できるとする)。




関節間力

 Winterはこの点に関して以下のように述べている。

Link-segment models assume that each joint is a hinge joint and that the moment of force is generated by a torque motor. In such a model the reaction force calculated at each joint would be the same as the force across the surface of the hinge joint (i.e., the bone-on-bone forces). However, our muscles are not torque motors; rather, they are linear motors which produce additional compressive and shear forces across the joint surfaces. Thus we must overlay on the free-body diagram these additional muscle-induced forces. (以下略)

剛体リンクモデルでは、各関節は蝶番関節で、力のモーメントはトルクモーターが生み出すと仮定している。そのようなモデルでは、計算された各関節の関節力が蝶番関節の接触面で働く(すなわち、関節間力に同じ)と見なして構わない。
しかしながら実際の筋肉はトルクモーターではなく、いわばリニアモーターだから、関節力に関節の骨表面を通して働く圧縮力および剪
(せん)断力が付け加わる。したがって、フリーボディーダイアグラムに筋肉由来の力を重ね描きする必要がある。


 セグメントの一端で腱を通して働く筋力Fmによって関節まわりに生じるモーメントは(モーメントアームをとすると)、×Fmであり、逆動力学的計算により得た関節トルクに一致する。しかしFmで置き換えると、関節力についてはに新たに−Fmを付け加える必要がある。それが関節間力Fbとなる。
 −Fmを付け加えることによって得た(FmFb)の組は、()の組と等価になる。すなわち、同じキネマティックなデータに対する運動方程式の解となるのである。

Winterには、足関節について実際に骨表面に働く力を圧縮力、剪断力に分けて求めた数値がある。
逆動力学的計算で得た関節トルクからFmを概算により求め、やはり計算により求めた関節力に加えている。


関節力と関節間力

 関節力は関節間力と筋力の関数であり、どちらかの値を反映するものではない。この点で紛らわしいのに加えてバイオメカニクスの専門用語に問題があるようで、Young-Hoo Kwonのサイトでは1章を設けて解説している。


 具体的な問題点として、野球の投球に関する論文(Fleisig et al. 1995)を引用しているので、抄訳する。
 
 上の図は論文からの引用である。グラフでわかるように、最近の投球動作の研究には関節力という用語が用いられている。
 面白いことに、他の2つの方向に対しては、前後(上のグラフ)、上下(真ん中のグラフ)という言葉で表現されているのに対して、上腕が受ける長軸方向の関節力(肘→肩)に、圧縮(compression)という言葉が使われている(1番下のグラフ)。

 関節力は関節間力と肩から上腕に及ぼされる筋力を合成したものに過ぎないが、このグラフの場合、体幹から肩への関節力は引く方(肘→肩)になっている。体幹が上腕を引っ張っているのだから、「圧縮する」というより、「引っ張る」という方が表現としてふさわしい。用語の選択が間違っているのである。
 無用の混乱を避けるためにも、「引く」という、上腕と体幹の相互作用の性格を正しく記述する用語を使うべきである。

 さらに、圧縮という言葉は、肩の引く力が肩の圧縮力の原因になっているという錯覚を与える。
(訳注)関節力の値が引く方になっていると、その引く力で圧縮力が生じると思うのは間違いである。関節間力の長軸成分が肩→肘の時に「圧縮力が働く」と考えるのが、実際上は正しい。


 さらに詳しく分析すると、関節力が引く方になっている場合、2つの可能性がある。筋力は常に張力だが、関節間力は、状況によって、圧縮力であったり張力であったりするのである。
 なぜかというと、

ケース1
筋肉の張力が関節力の引く力より強ければ、関節間力は圧縮力
ケース2
筋肉の張力が関節力の引く力より弱ければ、関節間力も張力


のはずだからである。

 ケース1は遠位部(投球腕)を主として筋力によって加速する場合に起こる。
 ケース2は近位部を動かして遠位部を加速する(引っ張る)場合に起こる。

 いずれにせよ、関節力が引く方の値になっている時に、圧縮という言葉を使うべきではない。実際には(関節間力は)押す可能性も引く可能性もあるからである。

 この混乱の結果深刻な問題が起こる。この用語に慣れていないと、圧縮力という言葉を聞いて、実際、肩関節に圧力がかかっていると思いがちだからである。言葉を注意深く選べばこういう問題は避けることができる。

 一般に興味が持たれるのは、故障との関連で、実際働いている関節間力の方である。the EMG-assisted optimization (Cholewicki & McGill, 1994)のような高度なモデリング・最適化技法によって、関節間力を評価できるようになっている。関節力単独の使用法やその意味については限定的でなければならない。


 

 投球に関するケース1、2について検討しておく。

 肩にかかる力についてのFeltner(1989)のデータをアニメーションにしたものがある。上腕の肢位を想定しながら眺めていただきたい。
 長軸方向に関節力が働くのは、5の肩→肘方向と、6、7の肘→肩方向である。
 5はステップした直後に体幹にブレーキが掛かった時で、関節トルクは小さく、関節力が押す方の値(肩→肘)になっている。ケース1の特殊な場合と見なすことができる。
 6、7は体幹の左傾と上腕の回転に対する向心力によるものである。体幹で上腕を引っ張ってエネルギーを付与した後に、勢いづいて離れようとする上腕を引き止めているのである。この時に働く長軸方向の力をFleisigらは圧縮と表現しているが、骨頭に力は加わっていない。

 Feltnerのデータに関しては、ケース1は目立たないが、このことは投球の本質を表している言えるかもしれない。

 ケース1を下の図で説明する。

  とする。

 関節力の長軸成分の値は(Bが動かないとしているから)Aを上腕、Bを体幹に例えれば肘→肩である。
大きさはAの回転速度に依存するが、比較的小さい(向心力が弱い)とする。

 この時、筋肉の張力は関節力よりも強く、従って関節間力の長軸成分(肩→肘)が大きくなる。関節においてBがAを押しているのである。
 向心力が大きくなると、関節間力が逆転し、肘→肩になる。


Chung論文

 バレーボールのスパイクに関する論文Chung(1988)に筋収縮に伴う関節トルクと関節力の関係についての記述があり、「野球の投球動作のバイオメカニクス」2003宮西智久にその部分が引用されている。


 宮西論文から引用する。
図3は関節トルクと関節力の関係(Chung1988)を示したものである.例えば,図の上段(a)は,2つの部分(剛体)間に反時計回りの関節トルクTのみが発生している.この場合,2つの部分は互いに作用・反作用の結果,部分Aはその重心(G)回りに反時計回り,部分Bは時計回りの回転(角加速度;α)が生じることになる(図3b).次に,下段(c)は,2つの部分間に同様に反時計回りの関節トルクTに加え,さらに部分Bの近位端(部分Aと連結しない側)に反時計回りの関節トルクT’(例えば,関節トルクTと同値)が発生している.この場合,部分Bはその両端の関節トルクの作用によって回転せず,部分Aは上段のケースと同様に関節トルクTにより回転しようとする(図3d).しかし,この状況において,部分Aがその重心回りにそのまま回転してしまえば,関節の脱臼を惹起することとなり,実状にそぐわない.そこで,実際には,関節の脱臼が生じないように部分AからBへ右方向の関節力Faが発生する.そして,この関節力の反作用として,逆向きの力つまり左方向への関節力Frが部分BからAへ作用する(図3e).この結果,部分Aは・反時計回りに回転(α)しながら同時に左方向へ並進する(加速度:a)ことになる.このように,部分BからAに作用する関節力Frそれ自身は,関節トルクTとT'に起因して生じたものであると考えることができる.


 Young-Hoo Kwonの記事はこのような表現に問題があるとしているのである。
実際には,関節の脱臼が生じないように部分AからBへ右方向の関節力Faが発生する.そして,この関節力の反作用として,逆向きの力つまり左方向への関節力Frが部分BからAへ作用する

などと書くと、実際の力(関節間力)が左方に働いて脱臼を防いでいるかのような印象を与えてしまうからである。実際にセグメントAに及ぼされる力の左右方向成分は、

である。


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