以下の記事は書き改めました。

バイオメカニクス・ノートへ


はじめに

 投球や打撃など、末端のスピードを上げるための体の使い方を考える上で欠かせないものに運動連鎖の原則と呼ばれるものがある。

 バイオメカニクスの基本的な事柄については既に言及してきたが、ここで運動連鎖を中心にもう少し詳しく考えて見たいと思う。

 学習ノートのようなもので、 公開に値するとも思えないが、少なくとも「野球の動作研究のために、このようなことが用意されている」という紹介にはなるだろう。

 本を読んで理解したことと、自分で考えたことが混在しているが、特に区別はしていないので注意して欲しい。


文献

著者 略称
打つ科学 平野裕一
投げる科学 桜井伸二
スポーツの達人になる方法 小林一敏 達人
スポーツ上達の科学 吉福康郎
上達
スポーツバイオメカニクス20講 阿江通良、藤井範久 20講
Biomechanics A Qualitative Approach
for Studying Human Movement.
Kreighbaum E、 Barthels KM Biomechanics


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エネルギーの転移

定義

 「打つ科学」p37-9にエネルギーの転移についての記述がある。

 エネルギーの転移とは
ある部分のエネルギーが減少して先の部分のエネルギーが増え、しかも先の部分を動かす筋肉がエネルギーの増えた分をすべて受け持ったのではない
と定義されている。

 これを読んだのでは何のことか良くわからないだろう。私なりの解釈を述べてみる。



剛体リンクモデル

 「20講」p89〜に載っている剛体リンクモデルを紹介しておく。

 身体を摩擦のない関節で連結された剛体の集まりと考える。前腕、上腕などの体の一部分を抽象化して剛体のセグメント(部分)と見なすわけである。
 筋収縮は関節でセグメントを回転させるトルク(関節トルク)を生じるものと考える。

 このような単純化によって、各セグメントの質量、慣性モーメントや地面反力などがわかれば、位置、速度、加速度などのキネマティックなデータをもとに、セグメントに働くトルクや関節力を推定できるとされている。

 Feltnerは3次元動作解析から肘の伸展トルクを算出したのである。

 但し算出される関節トルクは関わる筋出力の正味の量であって主動筋と拮抗筋のそれぞれの出力は筋肉を調べないと判らない。


 以下の議論ではさらに単純なモデルを考える。
 体の中心に近いセグメントを近位のセグメント、遠いセグメントを遠位のセグメントと呼ぶことにする。


関節力と関節トルク

 セグメント間の相互作用で働く力は関節を介して働く関節力と関節でセグメントに回転を与える関節トルクである。

関節力による転移

 近位のセグメントが関節で力を及ぼして正の仕事をし、遠位のセグメントのエネルギーを増やす方に働けば、近位のセグメントはエネルギーを失う。
 関節力によるエネルギーの転移が起ったことになる。

関節トルクによる転移

 関節トルクが働いて、遠位のセグメントを動かす場合でもエネルギーの転移は起こる

 セグメントA、Bの簡単な2次元モデルを考え、A、Bを繋ぐ関節bは固定されているとする。

例1

 2つのセグメントの間で筋収縮による関節トルクが働くとする。
 AがBに反時計回りの角運動量を与えると、反作用でAは時計回りの角運動量を得る。 簡単のためにA、Bは同じものとして、大きさω0の角速度を得たとする。


 



例2

 今仮にA、Bが接点bを軸として時計回りにω0の角速度で回っているものとする。
 そこで例1と同じ筋収縮を起こせばBは停止しAは2ω0の角速度を得るだろう。


 



 このとき回転運動のエネルギーは
 E0=1/2・・ω0
から
 E=1/2・・(2ω0=4・E0
になる。 
 そのうちもともと持っていた分(E0)と筋収縮の分(2・E0)を除くE0がBからAへ転移したと考えることができる。

 両方セグメントを回転させておき、筋収縮が近位のセグメントに負の仕事をし、遠位のセグメントに正の仕事をするように仕向ければ、筋収縮によるエネルギー発生と共にそれを契機としてエネルギーを近位のセグメントから遠位のセグメントに流すことができるのである。



定義について

 「打つ科学」の定義が何故あのような回りくどいものになったのかということについて考えて見たい。

 『ある部分のエネルギーが減少して先の部分のエネルギーが増えてもエネルギーの転移が起ったとは言えない場合がある』ということを付け加えたいのだろう。

例3

 簡単な思考実験を試みる。

3つのセグメントがbを軸として角速度ω0で反時計回りに回っているとする。


     

T

 セグメントA、Bに関節トルクが働き、Aが時計回りに角速度ωa(>ω0)を得たとする。(回転が逆になることに注意)
 セグメントAのエネルギーは増えたことになる。(E∝ω

U

 Bは反作用で反時計回りの角加速度を受けるが、ここで同時にcを軸としてBを時計回りに回転させるように関節トルクが働いたとする。 bを固定してあるのでBはbを軸として時計回りの角加速度を得る。加えるエネルギーの大きさを調整することによって、Bの角速度の大きさωbをωb<ω0にすることが可能だろう。
 セグメントBのエネルギーは減ったことになる。

 TUより、「ある部分(B)のエネルギーが減少して先の部分(A)のエネルギーが増え」た状態が実現した。
 しかし、このような場合は「エネルギーの転移が起こっているとは言えない」と言いたいのだろう。
 エネルギーの流入がないのだから、Aのエネルギーが増えた部分は「筋肉が受け持った」と言うことができる。

 Cは反時計回りの角速度を得る。筋収縮はCに対して角速度の値ω0を増やす方に働いている。図を逆さまにしてCを例2のA、Bを例2のBと見做せば、BからAではなくBからCにエネルギーの転移が起こったことが理解できる。


エネルギー概念

 エネルギー概念を導入することで、相互作用をエネルギーのやり取りという面から眺めることができる。
 「近位のセグメントからから遠位のセグメントへエネルギーが流れた」というような言い方も可能になる。

 スポーツの動作の中には、体の中心部の動きを末端に伝えることを意図するものが多い。
 「体の中心部分でエネルギーを生産し、それを末端に送る」というエネルギー的表現は動作について持つイメージと合致するようにも思える。


 投球や打撃の動作をエネルギー論的に書くと以下のようになるだろう。
 エネルギーを強い筋肉を持つ下半身や体の中心部分で生産しながら、末端へと伝えることによって球や打撃部分に集約させる動作である。

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ムチ動作

Hillの言葉

 「投げる科学」p87にHillの言葉が引用されている。クリケットボールの遠投記録について述べられた、
運動量が伝達され最も軽い部分に集約されるという『むちの原理』が用いられない限り、このような速度は普通では達成できない」
というものである。

 「打つ科学」p38の
からだの端の部分ではそれを動かす筋肉の出力だけではとうていまかないきれないほどの大きな速度になる

も意味は同じだろう。

 筋収縮によって生産されたエネルギーを前章で述べた転移によって末端に伝えるという見方では不十分なのである。


エネルギー転移とムチ動作

 エネルギーの転移ムチ動作は同じものではない。
 ムチ動作とは関節を介したセグメント間のエネルギーのやり取りではなく、ひとつのセグメント(打撃で言えば例えばバット)の並進運動を回転運動に変えることによって、セグメントの中の末端部分のスピードを上げることが基本になければならない。

 
 ひとつのセグメントの手前を、先端をとする。
 筋収縮による関節トルクは近位端のを軸とするセグメントの角速度を増やすことで遠位端の部分を加速することができる。
 しかし、の部分が筋収縮以上のスピードを得たとすれば、関節力によって角速度の値がそれよりさらに増えたということであり、それをムチ動作というのである。

 ムチ動作ではセグメントのエネルギーは増えなくても良い。


 この原理を利用して複数の部分セグメントを介してスピードを上げ、末端のスピードを非常に早くすることができる



筋収縮がある場合

 関節トルクの発生によるエネルギーの転移に伴ってムチ動作が起こるのは以下のようなケースである。(’Biomechanics’p340)

例4


   


cを軸としてセグメントA、Bが時計回りに回転しているとする。
 aを加速する目的で、bでセグメントAを時計回りに、Bを反時計回りに加速する関節トルクが働いたとする。
 下の部分Cが動かないとするとセグメントBはcを軸とする反時計回りの回転を得てbでセグメントAに左方向の関節力を及ぼす。左方への関節力は逆方向なので運動エネルギーを減らす方に働くが、回転の角速度を増加させるように働く。
 このような力を得て初めてムチ動作が起こるのである。


 例2は空中にある場合を考えればよいと思うが、エネルギーの転移が起こるがムチ動作は起こらない。
 ただし遠位にさらにセグメントA’があり、AA’間でトルクが働く場合、Bの慣性モーメントが大きければ関節aで左方向の関節力が働きムチ動作が起こることになる。

   



筋収縮がない場合

 バッティングやゴルフスイングのモデルとして殻竿(唐竿、flail)が引き合いに出されることが多い。

 殻竿は麦落としとも呼ばれる農具で、ムチ動作の簡単な例である。
 「達人」に取り上げられているが、
 手元Bをゆっくりと振り動かすだけで、先端Aはうなりを上げて回転する

と説明されている。(p63〜9)
 。

      

 

 二つの接合部分aは自由に回転する。接合部分の力の加減で先端を加速するのである。
 下の方に2つの逆方向の矢印があるのは両手でトルクを掛けてBを加速することを意味する(打法で言えばV型)。
 

 バッティングについては手首の関節トルクが小さく、その点で殻竿の喩えは適切である。
 関節トルクが小さく、先のセグメントのエネルギーの増加がない。並進運動を回転運動に変えることによって先端のスピードが上がるのである。

 ヌンチャクのような武具も殻竿をもとにしたものであり先端のスピードを上げる原理は同じである
 

吉福氏のモデル

 「投げる科学」p79に吉福氏の投球のモデルが紹介されているが、それをさらに簡単化すると以下のようになる。(吉福氏のモデルとは記号を変えてある)

       

 速度Vで進んできた棒の下端aが点Pにぶつかり、点Pを中心に回転を始めたとする。棒は点Pから右向きの力を受け重心gの速度はVから3/4Vに減速する。ところが、bの速度はgの2倍の3/2Vに増えることになる。
 棒の下の部分は衝突により減速し、上の部分は増速しているので、エネルギーの面から言うと、棒全体のエネルギーは3/4に減少するが下の部分のエネルギーが上の部分に移ったということができる。

とある。

 の先に質量の軽い部分が接続していれば、同じ原理でさらに先端の速度を増すことができる。(吉福氏のモデルは始めから考慮に入れている)

 のところで体の近い部分と接続しているとすると、近い部分が先の部分に負の仕事をし、エネルギーの逆流が起こったことになる。
 従って「スピードを上げるには先端へなるべく多くのエネルギーを送ればよい」というような単純なエネルギー論では説明できない現象なのである。

 

サッカーのキック

 サッカーのインステップ・キックを例に挙げる。

 大腿四頭筋の収縮でひざが伸展し、下腿にエネルギーを与える。
 大腿はエネルギーを失い、下腿のエネルギーが増える。「ひざを通してエネルギーが大腿から下腿へ流れた」ということができる。

 下腿のエネルギーの増加で足首の部分のスピードも増す。
 しかしそれだけでは末端のスピードを説明できないので、ムチ動作を仮定しなければならない。

 股関節の伸筋、屈筋などの働きで脚に十分な運動エネルギーを与えておく。
 続いて、股関節の伸筋群によって大腿の回転を抑えることで、ひざのところで下腿に後ろ向きの関節力を与える。
 ムチ動作の原理で、下腿の回転の角速度を上げ、足のスピードを上げることができる。

 「打つ科学」p117の図1-80では、大殿筋がテイクバックで収縮するが、一度弛緩し、ひざを伸展させてボールを蹴る頃に再び収縮していることを示している。
 
 ’Biomechanics’p377にも大殿筋の重要性が説かれているが、ックスイングと共にフォワードスイングにおける肘の伸展にも寄与するとある。
 
 さらに、蹴る瞬間にはひざの屈曲トルクが働いているということである。
 ただしこの場合も屈曲トルクは主動筋と拮抗筋の差であって、ひざの伸展筋(大腿四頭筋)が収縮していないというわけではない。
 また、腓腹筋もひざを屈曲させる働きがある筈である。


エネルギー的見方

 吉福氏の表現にあるようにムチ動作の結果をエネルギーのセグメント内シフトとして表現できるが、そこまでエネルギー概念に固執することはないだろう。セグメントの角速度を増やすという方が解りやすい。

 エネルギーは運動の形態(方向性)を捨象して「勢い」をもの(のようなもの)として扱い、「セグメント間でやり取りをする」という言い方を可能にするがムチ動作を考えるには運動の形態が問題になる。エネルギー概念ではその原理をはっきりと表現できないのである。

 ただし、エネルギー概念を導入することで、一般に言われる「やたらに力を入れればよいというわけではない」という技術に関するひとつの基本的な考え方に根拠を与えることができるだろう。
 エネルギーを注入し続けることで、スピードが上がって行くという図式は必ずしも成り立たないのである。



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運動連鎖

 
 「運動連鎖」は「20講」の中の第16講に取り上げられているが、「文献」にあるように’Biomechanics’を参考にしている。


 邦書p121の図16.3と似たような図が原書に載っている。多少異なっているのが判るると思う。(biomehanics、kineticlink1〜3)
 原書は、邦書とは逆に図16.4に描かれたモデルの説明から始まる。



外的トルク(局面1)

 局面1で先ず、末端を動かそうとする方にセグメントAを回す。このときAに加えられる力を「外的トルク」と呼ぶ。系A、B、Cに外から加えられるという意味である。
 

 末端を加速しようとする場合に、いきなり「内的トルク」を使ってBを回しても無理である。セグメントAの逆回転によって基盤の部分で加速するのとは逆方向の力を受け、系全体が腕を振る方向と反対方向に加速されてしまうからである。
 従って、局面1の「外的トルク」を掛ける動作は必須である。

 邦書は原書の図を改変した図16.3によって、Aを上腕、Bを前腕、Cを手とした場合の運動連鎖を説明している。この場合も、やはり1で「外的トルク」をかけることが前提になる。従って矢印が付け加えられているのである。



外的トルク(局面2)

 原書は局面2でセグメントAに逆の「外的トルク」をかけた場合の運動連鎖について、角運動量保存則を使って説明している。
 角運動量を持って回転運動をする系(A、B、C)に対して、セグメントAの回転を「外的トルク」を掛けることによって止めると、角運動量保存則によってB、Cの部分の角速度が著しく増える

 というものである。


 バットを使って簡単な実験を試みた。原書ではもちろん重力を考えていないが、末端が加速される感じを掴んでもらえると思う。
 

簡単なモデル

 軸bでセグメントBに働く力はトルクが働かないとすると、逆方向の関節力のみである。
 この力は軸bの周りの角運動量を変えない。従って、軸bの周りの角運動量は保存される。

 原書の説明(資料)は理解できないところもあるので、簡単なモデルを使って自分なりの説明を試みたい。

   

 セグメントA、Bは均質の棒のようなものとし、長さをLa、Lbとする。
 セグメントAの質量を、重心まわりの慣性モーメントをgとする。

 aを中心とするセグメントAの角運動量は、セグメントAの重心まわりの角運動量に、質量が重心に集まったと仮定した場合のaを中心とする角運動量の和である。
 局面2で「外的トルク」が掛けられる直前直後でaのまわりの角運動量を比較すると

 oからAの重心までの距離は1/2La+Lbであり、重心の右方向の速さはそれにωを掛けたものだから、

 直前の角運動量は、
 *ω+(1/2・La)**((1/2・La+Lb)・ω
=[g+(1/4・La2+1/2・La・Lb]*ω1

 直後の角運動量は、
 *ω+(1/2・La)**(1/2・La・ω2
=[g+1/4・La2]*ω2
となる。

 [ ]内は前と後の慣性モーメントと見ることができる。それぞれをと書くと
   1・ω12・ω2

 12だから、明らかにω1<ω2である。


 いま、さらに簡単にしてA,Bの形状が同じとし、La=Lb=L と置く。
 g=1/12・L2だから、(計算略)

 1=1/12・L2+3/4・L2=10/12・L2
 2=1/12・L2+1/4・L2=1/3・L2

となり、

 ω2=5/2・ω1

を得る。


 セグメントAについて

 末端のスピードは、2L・ω1からL・ω2で、1.25倍になる。

 エネルギーは、1/2・・ω12+1/2・・(L・ω12から1/2・・ω22で、約0.9倍になる。


 吉福氏のモデルと同じで、セグメントのエネルギーは減るが末端のスピードは上がっている。
 簡単なモデルだが、ムチ動作の特徴を表していると思う。
 「内的トルク」働かない場合でも、「外的トルク」がセグメントBを固定するように働き、逆方向の関節力をセグメントAに及ぼせば、末端を加速できるのである。


 考察については「力学」T(原島鮮、裳華房)を参考にした。  




一般的な場合

 原書のモデルについては、局面1、2でそれぞれ順回転、逆回転の「外的トルク」を仮定し、局面2でトルクが発揮されないという条件を付けている。
 その条件が「軸bでスピードを減らす方に働く力で、却って末端のスピードが増す」というムチ動作の特徴を明確に表現するためと、角運動量保存則を適用するためである。

 実際の運動連鎖については「外的トルク」、「内的トルク」共にさまざまなケースがあると述べられているが、邦書のように2つに分けて論じてはいない。同じムチ動作の中のことで本質的差異ではないということだろう。

という点に注意する必要がある。


 邦書の最初の図16.3は「内的トルク」が発揮される場合である。
 このようなケースは前章で述べた「筋収縮がある場合のムチ動作」である。
 図16.3の局面3に描かれているようにセグメントAは逆回転する。軸bでセグメントBに逆方向の関節力が働き、図16.4の「外的トルク」と同じ効果を与えるのである。




「外的トルク」の功罪

 邦書には以下の文章がある。

実際の運動では末端の絶対速度は中心部の絶対速度に末端の相対速度を加えたものである。したがって中心部の減速が大きすぎると末端部の角速度が大きくても末端の絶対速度があまり大きくならない場合もあることに注意する必要がある


 逆回転の「外的トルク」による軸bの減速が大き過ぎると末端の加速のためには逆効果になるというわけである。

 しかし、邦書の図16.3を見た限りでは「内的トルク」でも中心部の減速が大きい。
 「内的トルク」によるムチ動作逆方向の関節力が軸bの速度を減らす方に働くからで、議論が中途半端なものになっているのである。

 比較するとすれば、局面2で「外的トルク」を順回転に掛け続ける場合を考えるべきだろう。
 これも一般的に良くあるケースで、Aを上腕とした場合に、肘の伸展時に、肩の回転トルクを掛け続ける場合などがこれに当たる。


 このように軸aにおける動作が
場合の運動連鎖を考え、20講の2つのケースと比較すべきだと考える。
 


慣性モーメント

 エネルギーの転移で述べたように、2つのセグメントがあり、筋収縮によって関節を中心に互いに逆回転する場合、角運動量保存則で角速度の大きさは慣性モーメントに逆比例する。近位のセグメントの大きな慣性モーメントは筋収縮によるパワーの発揮と、遠位のセグメントの末端のスピードに有効に働く。

 ムチ動作の中でも慣性モーメントの違いが動きに現れるのは確かである。
 しかし、ムチ動作の特徴として、直接筋収縮が関係するセグメントではなく、それより近位のセグメントが関係してくる点が重要だろう。

 図16.3の軸cにおいてBC間で筋収縮がある場合にセグメントAの慣性モーメントが大きく影響する。
 慣性モーメントの大きなAを利用して、Bの逆回転が軸bで反作用を受け、軸cにおける逆方向の関節力を得ることができるのである。
 軸bでの回転のときの基盤の役目を、軸cでの回転ではAが担うと言える。
 


空中の運動

二つのモデル(原書)

 そもそも原著で二つのモデルが示されたのは、『運動連鎖に「外的トルクに因るもの」と「内的トルクに因るもの」がある』と言おうとしたわけではない。


 原書は先ず、上述のような、
  1. 系が基盤に固定され、末端が自由に動く
  2. 末端に行くほどセグメントの質量、慣性モーメントが小さくなる
  3. 始めにセグメントAに「外的トルク」を掛ける必要がある。
 
 という特徴を持つ運動連鎖について解説している。
 その中で、局面2で「外的トルク」が働き、角運動量保存則が当てはまるケースとして、邦書図16.4に当たるモデルが提示されているのである。

 しかし、空中の動作については「外的トルク」を使えないので他のモデルを考えなければならない。
 そのひとつが原書の2番目の図に描かれたものである。局面2、3でセグメントAが基盤から離れているのはそのためである。

 原書に述べられていることの概略は以下のようになる。

 空中にある場合、角運動量は保存する。動きは体操や飛び込みの空中動作に近い。
 上半身でバックスイングを取ったり、腕を前方に振り出すと、それに応じて下半身は逆方向に回転する。

 
 原書のモデルでは、予めセグメントAに角速度が与えられていると仮定している。
 A、B間で筋収縮が起こるとBの角速度を増やすが、セグメントAの慣性モーメントが大きければ、その分Bの角速度が大きくなる。
 また予めセグメントAに与えられた角運動量によってエネルギーの転移が起こるが、ムチ動作は使えない。

 さらにB、C間で筋収縮が起これば、慣性モーメントの大きいセグメントAによって逆方向の関節力が発生し、初めてムチ動作が起こるのである。


慣性モーメントT

 脚部の大きな筋肉を利用して地面反力を得れば力強い動きが可能になるが、一方で慣性モーメントの大きい体幹を動かすという作業が必要になる。空中にある場合はその必要がない。

 甲野氏の居合いの「趺踞からの抜刀」を御記憶だろうか。ひざ抜きによって体を中に浮かして瞬時に抜刀している。足を一歩踏み出しながらの抜刀よりも素早い動作が可能になる。


慣性モーメントU

 空中の動作では、末端のスピードのためには、大きな慣性モーメントが必須である。

 慣性モーメントの大きさは姿勢によって変わる。
 バレーボールで、「20講」p85-6にあるように、体幹上部を横に回してスパイクを打つ場合、股を広げて下半身の慣性モーメントを大きくする。それによってスパイクのための安定した基盤を提供することができる。

 一方、肩関節の「打つ科学」p124-5にあるような肩の内転(屈曲)型のスパイクでは足を閉じることで慣性モーメントを大きくしている。

 

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