ホーム  イエスの生涯とパウロの生涯の電子書籍はこちら

共感とは、共感の欠如『サイコパス』


●『サイコパス・インサイド―ある神経科学者の脳の謎への旅』
(ジェームス・ファロン著、影山任佐訳、2015年1月金剛出版)

(出版社の内容紹介文引用)

著者である神経科学者のジェームズ・ファロンは、精神病質(サイコパス)の脳の構造上のパターンを探していたところ、なんと自分が精神病質の脳の持ち主である事が判明。「山積されたスキャン写真の最後に読影した脳スキャン画像はひどく奇妙なものであった。それまで私が記載してきたスキャン画像の中でもまさしくもっとも異常なものに思えた。この画像のかわいそうな持ち主はサイコパスであるか、少なくともこれとかなり一致する画像特徴を有している事を示していた。このスキャン画像の主が誰かに気づいた時に、何かの間違いであろうと思いこまないではいられなかった…しかし間違いではなかった。あろうことか、このスキャン画像の持ち主とはなんと私であった」。成功した一人の科学者、幸せな家族に囲まれている一人の男、暴行歴もない男がどうしてサイコパスになりうるのであろうか?彼の生物学的要因はその行動にどの程度影響を与えるのであろうか?サイコパス(精神病質)とは。その人格のために本人や社会が悩む、正常とされる人格から逸脱したものである人で、連続殺人など凶悪犯に多いとも言われている。

(本の要旨)

サイコパスの定義はまだ正確に確立していない。一般的には「精神病質」と言われるものに相当する。有名な例として、映画『羊たちの沈黙』『ハンニバル』のレクター教授のようなものだろうか。特徴は、主として平板的感情の動きと人に対する共感性の欠如、それ以外に人を思い通りに操縦しようとする、ウソに長け、口が上手く、愛嬌があって人の気持ちを引きつける等の特徴があるとされる。では、その脳にはどのような特徴があるのか?脳スキャン画像では、健常な人の脳と比べ、眼窩皮質と扁桃体周囲の活動が低下している。この活動の低下は、人を衝動的にして他者の感情を共有する事が出来ない可能性が高い。つまり、情動にかかわる認知(熱い認知)に使用される「前頭前皮質腹側システム」機能が低下するが、理性的な認知(冷たい認知)の「前頭前皮質背側システム」は活発なままだ。そのため、良心の呵責や共感を伴わず、冷静な計画で他人を操る事が出来る。

このような脳機能の特徴は一体何から来たのか?。著者は母親から衝撃の事実を聞かされる。父方の家系に数多くの殺人者がいて、そのいずれもが近親者を殺害した疑いがあると言う。だが著者は動じない。サイコパス由来の遺伝子があるとの科学的事実があろうと、これまでの幸せな人生とは符合しないからだ。そこで、発育の過程におけるエピジェネティクス(DNAの配列変化によらない遺伝子発現を制御・伝達するシステム)に注目した。たとえば、3世代以上に渡り幼児のうちに社会的暴力を経験すると、好戦的な精神が形成されて暴力的になる可能性が高い(戦士の遺伝子と呼ばれる)。この研究結果から著者自ら命名した「三脚スツール」理論を打立てる。サイコパス要因の3本の脚は、

  1. 前頭前野皮質眼窩部と側頭葉前部、扁桃体の異常なほどの機能低下
  2. いくつかの遺伝子のハイリスクな変異体
  3. 早期幼少期の精神的、身体的、あるいは性的虐待

である。自分にサイコパス的な症状が現れていないのは、上記のような経験がなかったせいだと結論づけた。彼はこの理論を広くめるためTEDで講演も行った。しかし、これはパンドラの箱を開ける行為でもあった。ある日、講演前の打合わせで同席した医師から、貴方は双極性障害(躁うつ病)を患っているのではと指摘された。この時、彼の人生で起こた出来事(喘息、アレルギー、パニック発作、強迫性障害、高度の宗教性、不眠、快楽主義、個人主義)、様々な症候群が1本の線で繋がりだした。自分は共感が欠けていたのだと確信した彼は、周囲の人に彼自身の人物像を聞いて回る。人は失ったものには気づきやすいが、初めから欠けているものには気づきにくい。やがて自分自身が向社会的サイコパスである事を受け入れる。反社会的な特徴はなく、怒りをコントロール可能で、犯罪歴がない事は事実だが、対人関係的特性、情動的特性、そして行動的特性に関してサイコパスの特性となる項目の多くが該当していたからだ。しかし、サイコパス=犯罪者という固定観念を相対化し、サイコパスが社会的に適合する場合がある事を示す。先天的な脳の構造がサイコパスでも、生まれてからの環境や自分の意思でコントロールが出来る事を自ら証明する。

ジェームス・ファロンの講演:James Fallon, Neuroscientist - A Scientist's Journey Through Psychopathy


●サイコパス

精神病質(psychopathy、サイコパシー)とは、反社会的人格の一種を意味する心理学用語であり、主に異常心理学や生物学的精神医学などの分野で使われている。その精神病質者をサイコパスと呼ぶ。大辞泉「精神病質(その人格のために本人や社会が悩む、正常とされる人格から逸脱したもの)である人」とある。サイコパスは異常であるが病気(いわゆる精神病)ではなく、ほとんどの人々が通常の社会生活を営んでいる。そのため、現在では精神異常という位置づけではなく、パーソナリティ障害とされている。そのため、日本では反社会性パーソナリティ障害と名称されている。(Wikipediaより要約引用)

1.特徴(犯罪心理学者のロバート・D・ヘアは以下のように定義)

良心が異常に欠如している、他者に冷淡で共感しない、慢性的に平然と嘘をつく、行動に対する責任が全く取れない、罪悪感が皆無、自尊心が過大で自己中心的、口が達者で表面は魅力的。(Wikipediaより要約引用)

2.統計的傾向

その大部分は殺人を犯す凶悪犯ではなく、身近にひそむ異常人格者である。北米には少なくとも200万人、ニューヨークだけでも10万人のサイコパスがいると統計的に見積っている(別の研究者では人口の20%)。先天的な原因があるとされる。脳の働きを計測すると、共感性を司る部分の働きが弱い場合が多いという。ケヴィン・ダットンの調査による、サイコパスの多い職業の上位10位は次のとおり。会社経営者、弁護士、TVやラジオのジャーナリスト、小売業者、外科医、新聞記者、警察官、聖職者、コック、軍人。一方ヘアは、次のような職業の者に多いと推測している。金融商品関係者、政治家、警察関係者、中古車営業、傭兵、弁護士。また、他にも次のような者にも多いとしている。連続殺人犯、レイプ犯、泥棒、詐欺師、暴力亭主、ホワイトカラー犯罪者、株の悪徳ブローカー、幼児虐待者、非行少年グループ、資格を剥奪された弁護士や医師、麻薬王、プロギャンブラー、犯罪組織構成員、テロリスト、カルト教祖、金のためならなんでもやる人。(Wikipediaより要約引用)

3.サイコパスに関する10の事実

http://listverse.com/2014/03/20/10-crazy-facts-about-psychopaths/

(1)サイコパスは特有の話し方をする

米コーネル大学ジェフリー・ハンコック教授によれば、サイコパス殺人犯は、非サイコパスの殺人犯と比べて、事件を「過去形」で語り、普通の人間らしく振る舞うために「えーと」「うーん」などの間投詞を多用する傾向があり、あいだに「なぜなら」「だから」といった接続詞をはさむ事も多かった。話の内容に関しても、非サイコパスの殺人犯が家族や信仰に言及する事が多いのに対し、サイコパスは飲食物や現金といった必需品に対してより強い関心を示した。

(2)恐れ知らずの支配性を有する

(3)サイコパスは嗅覚が鈍い

サイコパスの眼窩前頭皮質の機能の低さは、嗅覚にも影響するとされている。

(4)向社会的(反社会的の逆の意)サイコパス

上記著者ファロンは、確かに人を操ろうとする傾向があり、競争心が強い事を認めている。また、実の孫娘でも赤の他人でも同じ程度にしか思えないという共感能力の欠如も自覚しているという。しかし一方で、社会の善良な一員として日々暮らしているという自負もある。ファロンは、自分が犯罪者ではなく科学者になったのは、優しい両親に十分な愛情を注がれ、健全な環境で育った事が大きいだろうと言う。

(5)ネット上の荒らしはサイコパス

(6)ビジネス界にはサイコパスが一杯

(7)サイコパスへは、厳しい刑が言い渡される傾向がある

米ユタ大学の研究者らが、同州の判事181名を対象に架空の事件をもとにした調査を行った。判事たちには、レストランに強盗に入ったという設定の犯人のジョナサン・ドナヒューは、まったく反省の念を見せておらず、またサイコパスであるという事実が提示された。加重暴行罪で起訴されており、判事らはそれに対する判決を言い渡すように指示された。事前アンケートでは、加重暴行罪には通常9年程度の実刑が課せられるとの事だったが、サイコパスであるという情報を与えられた判事たちのほとんどが、13〜14年の実刑判決を言い渡した。

(8)共感スイッチを持つ

サイコパスの大きな特徴に「共感能力の欠如」が挙げられる。彼らには他の人間はチェスの駒のようなもの。しかし、2012年にオランダのフローニンゲン大学の実験結果では、実はサイコパスにも共感能力はあるが、通常はそれが「オフ」の状態になっており、自分がそうしたいときだけ「オン」にできる「共感スイッチ」が備わっている可能性が指摘された。自在に共感スイッチをオン&オフする事が出来るため、時に表面的には魅力的に見せる事が出来るのではないか。共感能力が全く欠如してなければ、更生への望みもあると期待を寄せている。

(9)ドーパミン依存症

悪名高いシリアルキラーのテッド・バンディは、「なぜ人を殺すのか」という問いに「殺すのが好きだから、殺したいから」と答えた。このようなサイコパスが殺人を犯し、人を操ろうとする要因に、神経伝達物質のドーパミンが挙げられる。脳の報酬回路を活性化し、快感や幸福感を伝えるが、サイコパスはそれを強く欲するドーパミンジャンキーなのだという。ドーパミンを強く欲するという事は、他者を顧みる事がなく、何としてでも自分の思い通りにして快楽=報酬を得たいという気持ちが強いという。

(10)恐怖を認識できない

ほとんどの人は他人の恐怖のサインを見いだし、「この人は恐怖を感じている」と認識出来る。しかし、サイコパスにはそれが分からない。そもそも恐怖という概念がない。研究の結果、サイコパスは、脳のなかでも特に恐怖の感情を司る扁桃体が普通の人よりも小さい事が分かった。連続殺人犯の女が「あの表情をなんて表現するのか知らないけど、私がナイフを振り上げたときにみんな同じ顔をしていた」と話す。


●共感について

1.共感とは

共感(empathy)は、他者と喜怒哀楽の感情を共有する事を指す、もしくはその感情。たとえば、知合いが辛い表情をしているとき、相手が「つらい思いをしているのだ」という事が分かるだけでなく、自分も辛い感情を持つ。通常は、人間に本能的に備わっている。しかし、例えば反社会性人格障害やサイコパスの人物では、共感の欠如が見られる。近藤章久は深い共感と直観を精神治療の根幹とした。共感性が友情を生み出す場合、友人になったきっかけは「何となく」である事が多いが、「何となく」の本性は共感性である。動物においても類似の例がある。日常一般的に使用する「共感」からどのようなイメージを想起するのか,また共感という言葉と似たような意味を持ち誤解をされやすい言葉を列挙すると

  • 相手の状態をそのまま感じる(情動伝染という現象で、共感のような人間独特の高度な認知過程は必要とされない)
  • 相手に同情的になる(受動的な過程、あまり肯定的には用入られていない)
  • 相手に感情移入する(同情とは異なり意識的に対象に入込む努力作業、共感の前段階)
  • 相手と一緒になって同じように感じる(双方向的で能動的な過程、これが共感)

2.共感はどのように生じるー脳神経生理学から

脳神経生理学では、共感はミラーニューロンの働きと論理的思考からなされていると言う。1996年にミラーニューロンを発見した科学者ジャコモ・リッツォラッティは、他者理解の根底にある脳のメカニズムについてミラノで公開講義を行い、『ここ20年にわたって主流となっている科学的理論によると、他者の行動を即時に理解できるのはミラーニューロンのお陰だ。私達の脳内で目にした行為をあたかも自身のもののように共鳴する運動神経細胞だ。確かにミラーシステムではすべては説明されないが、二次的な論理・推定システムが関与する。例えば耳たぶに繰り返し触れる人を観察している時、最初の頃私達は自分達と彼が似ている事と、彼がどのような仕草をしているかを認識し、それから推論を適用して、その人の行動が少し奇妙だと理解する。それは論理的能力にほ他ならない。ミラーシステムは周りで起きる事に対し、人が迅速に見通しを持ったり、同一化して感情移入を行う事で、他者の感情を体験したり、模倣学習を行ったりするのを可能にする』と語っている。

更にリッツォラッティは、「人がギターの演奏を学ぶ過程の実験では、教師によって演奏されたコードを観察する時も、同じコードが生徒によって繰り返される時にも、ミラーシステムの活性化を観察した。しかし、生徒が違う音を演奏して、事実上新しいコードをつくり出すとき、ミラーシステムは消えてゼロになる」と語り、模倣学習は人類と人類以外の霊長類とを区別するものの1つと考えているようで、「人間の子供は模倣による学習が非常に速いが、サルたちは非常に苦労する。多くの場合、サルたちの学習は観察学習。例えば缶を開ける場合、彼らにはやり方を反復する忍耐がなく、最後には缶を破壊してしまう。更にサルの場合、単純に動かしたり壊したりする事ではない複雑な動きに反応するミラーニューロンが見つかる事はほとんどない」と説明する。カリフォルニア大学脳認知センター所長ヴィラヤヌル・ラマチャンドラン(四肢切断された幻肢研究で有名)は、ミラーニューロンは人類の文化を築く「レンガ」であるかもしれないと言う。

多くの経験がミラーニューロンを活性化させれば、他者の理解が容易になり、人としての幅が広がる可能性がある。経験で行為の色々な雛形が頭に形成され、相手の意図が理解できる、共感も感じる、他者との対応が支障なく出来るようになる。良く観察し、良く理解する事で、ミラーニューロンがより良く活性化され、良い行動に繋がる可能性がある。子供も為に良い環境を提供し、良い手本を示す事は非常に重要だと言う事になる(特に幼児体験、共稼ぎ夫婦の子供さんの問題、親や周囲が悪い手本を見せる問題など)。サイコパスにならない、あるいはサイコパスを改善する事も可能なのだろうか。


自閉症に関係するとされている脳領域。ミラーニューロンは自閉症との
関連性が指摘されているが、確固とした証拠はまだ見つかっていない。


*ミラーニューロン)高等動物の脳内で自ら行動する際、他の個体が行動するのを見て電位を発生させる神経細胞群。他の個体の行動を見て、まるで自身が同じ行動をとる鏡のような反応をする事から命名され、共感能力を司っている。神経科学におけるこの10年で最も重要な発見の1つと考える者もいる。マカクザルでは直接観察され、人やいくつかの鳥類で存在が確認されている(人での場所は正確には示されていない)。人では、前運動野と下頭頂葉等でミラーニューロンと一致した脳の活動が観測される。機能については多くの説があるが、他人の行動を理解したり、模倣によって新たな技能を修得する際に重要であるようだ。このシステムで観察した行動をシミュレートする事で、心の理論の能力に寄与していると考える研究者がいる。言語能力と関連しているとの説もある。ミラーニューロンの障害は、特に自閉症などの認知障害を引き起こすという研究もあるが、その関係性はまだ十分検証されていない。


●他人に尽くす人、自分の事しか考えない人の違い

http://www.huffingtonpost.com/2012/07/19/altriusm-brain-temporoparietal-junction_n_1679766.html?icid=hp_science_popular_art

スイス・チューリッヒ大学のアーネスト・フェール博士達の研究で、30人の健康な大人の被験者を集め、見ず知らずの人とお金を分け合う事について被験者に質問した。その結果、一部の人はお金を分けるのに賛成したのに対し、一方で少額のお金ですら他人に渡したがらない人がいた。同じ人間でどうして違いがでるのか?MRIで脳を解析すると、他人を優先するタイプ(利他主義)の脳は、側頭葉と頭頂葉が接する領域の側頭頭頂接続部に、灰白質がより多くある事が判明した。側頭頭頂接続部は、「自他の区別」や「心の理論」に関わる重要な役割を担っており、意思決定に関わる部位として知られ、この領域が損傷を受けると道徳的判断に影響が出ると考えられている。他人を思いやり自分を犠牲にする利他的タイプなのか、他人より自分を優先する利己的なタイプなのかは、あらかじめ脳にプログラムされているのか?博士は、「他人に尽くす考えや行動が、脳などの生物学的な原因だけで決まると急いで結論づけるべきではない」と言う。博士は、灰白質は自らを取り巻く社会環境により広がっていくと考える。この持論を検証するため、子どもが大人になるまでの成長過程で「他人を思いやる気持ち」を学ぶ機会を増やす事、自分より他者を優先する事が、結果的に自分に幸をもたらす事を理解させる為のケーススタディーを繰り返し行い、脳の灰白質が広がっていくのかどうかを調査していくという。博士は、子どもを持つ親にこうアドバイスする、「まず自分が率先して、子供の前で他の子供にも同様に愛情やもの、お金を分け与えるところを見せる。また、何かを決める時には、他の人がどう考えているかを考えさせる。そういった事を絶えず繰り返し子供に教えていく事で、他人を思いやる気持ちが芽生えてくる」と語る。


前← TOP →次