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膜宇宙と5次元以上の世界


宇宙はどのように始まったのか、宇宙は何でできているのか、宇宙はこの先どうなるのか?ここ20年ほどで、宇宙論と素粒子物理学は飛躍的に発展してきた。

東京大学ビックバン宇宙国際研究センターが主催した2001年11月の宇宙論に関する国際会議の最終日、スティーブン・ホーキングによる「BRANE NEW WORD」と題する特別公演会が開催された。当時宇宙論の世界で最もホットな話題となっていた「ブレーン(膜)」に関するものだった。ブレーンとは、超ひも理論で現れる膜で3次元の構造をもち、我々はその3次元空間の中に住んでいる(相対性理論は時間を加えた4次元)。この「ブレーン」の概念は、もともと素粒子の研究から出てきたもので、宇宙論に取り入れられて活発に研究されるようになったのは、1999年の夏頃ランドールとサントラムの二人が行った提案が切っ掛けとなり、宇宙の誕生や進化について、これまでとは違ったシナリオが書けるかもしれないという話題になった。1929年ハップルは宇宙が膨張している事を発見し、1946年ガモフ「ビックバン」モデルを提示した。1980年代、誕生直後の宇宙は急激に膨張したと言う「インフレーション」モデルを佐藤勝彦教授が提唱し、ホーキングは量子論的なゆらぎによって宇宙は無から誕生したという仮説を出した。

このようなシナリオのうち、最初の誕生の部分についてはまだ仮説にすぎない。宇宙の始まりから終わりまでを統一的に説明できる理論を作ることが、宇宙論研究者の最終的目標と言われる。そのためには、大きさサイズをあつかう一般相対性理論と、ミクロサイズをあつかう量子論とを統一する必要があるが、両者は全く相容れない理論で(非常に相性が悪い)、未だ統一されていない。宇宙の初期段階を扱うには、一般相対性理論では特異点が生じて理論が破綻する。宇宙モデルは一般相対性理論と量子理論の両方を使って説明されているが、統一したエレガントな理論が期待されている。宇宙の始まりから終わりまでを説明できる理論は「万物の理論、大統一理論」と呼ばれて、研究者達は探し続けている。


●リサランドールの膜宇宙

リサ・ランドール(1962年6月18日〜)理論物理学者。専門は量子力学と宇宙論。ハーバード大学物理学教授。プリンストン大学物理学部で終身在職権をもつ最初の女性教授となる。また、マサチューセッツ工科大学およびハーバード大学においても理論物理学者として終身在職権をもつ初の女性教授となる。1999年ラマン・サンドラム博士とともに発表した「(ワープした余剰次元)」により物理学会で一躍注目を集める。出版された日本語訳の『ワープする宇宙―5次元時空の謎を解く(日本放送出版協会、2007年)』は、一般向けの判り易い本であったために日本でもベストセラーとなった。量子力学ではSFを超える現象が色々と確認されている。たとえば、量子の属性が遠く離れた別の量子に、その属性が瞬間的に移動するテレポーテーション現象が観測され確認されている。それとは別だが、リサ・ランドールは偶然、核の素粒子の中に反応させると消えてしまう物がある事に注目した。その消えた素粒子は何処に行ったのか?また、宇宙に存在する物理力には、電磁気力、強い力、弱い力、重力の4つがあるが、何故重力だけ極端に弱いのか(40数桁も小さい)も疑問だった。そこで試行錯誤しながら、五次元宇宙論の仮説を立てた(5次元の存在自体は何十年も前から信じられていたので、別に目新しくわけではない)。

人間が観測できるこの世界は、縦・横・高さの3次元で時間を加えて4次元となる。リサ・ランドールは、物理的5次元である高次元世界を、次のようなモデルを構築して分かりやすく説明する。我々の宇宙はバスルームのシャワーカーテン(膜、ブレーン)のようで、我々はシャワーカーテンに着いた水滴のようなものと考えれば良い。水滴はシャワーカーテンの上を移動できるが、シャワーカーテンから離れてバスルームには飛び出せない。バスルーム全体が高次元(5次元、6次元などの異次元)の世界だと譬える。我々は3次元のブレーン(膜宇宙)の中を移動できるが、高次元の世界へ飛び出す事は出来ず、また高次元の世界を見る事も出来ない。また、我々の膜宇宙以外にも、別の異なるブレーンがいくつもあると考えているる。ブレーンが高次元の空間全体の境界になっていて、この全体の空間を「バルク」と名付けている(ひも理論では数学的余剰次元である7次元は巻き上げられて微小だとされるが)。自然界には重力・電磁気力・原子核に関係した弱い力と強い力の4つの力があり、これらの力はグルーオン・ウイークボソン・光子・グラビトン等のゲージ仮想粒子の介在により伝えられると考えられている。

1、強い力:素粒子同士を結合させて原子核を形成する力(グルーオン、質量がある粒子)
2、弱い力:原子核のベータ崩壊などに関する力(ウイークボソン、質量がある粒子)
3、電磁気力:電波や光や磁気に関する力(フォトン、質量がゼロの光子)
4、重力:物体が互いに引き寄せる力(グラビトン、質量がゼロの重力子、未発見)

前述したように、重力は他の3つの力に比べてあまりにも極端に弱い。例えばクリップは地球の重力が引っ張られていても、小さな磁石(電磁力)で地球に重力など問題とせずに簡単に持ち上げられる。このように重力が極端に弱いのは一体何故なのか?それは重力エネルギーが次元を超えて行き来しているのではないか、と考えると説明がつくと言う。光子・グラビトンは質量がゼロなので無限に遠くまで力を伝えられる(拡散はするが)。しかし、本当に余剰次元は存在するのだろうか?検証されなければ、ただの仮説になってしまう。高速の高エネルギー粒子が衝突するとエネルギーが粒子に変化したり、自然界には見られない素粒子が生まれるが、ある確率で一部の粒子が姿を消す事を予想している。そこで、スイスのジュネーブ近郊の研究所CERN(欧州素粒子原子核研究機構)で陽子を加速衝突させ、その際に発生する粒子の一部が消える事を観測できれば、その仮説の実証への一歩前進になる・・・と言う事で、2008年9月10日に実験を行おうとしたが、残念な事に全長27Kmに及ぶ素粒子加速器の一万箇所の接合部分のたった一箇所での接合の不具合で、実験は延期になってしまった。現在のところ5次元以上がなければ、素粒子についてうまく説明できない現象があり、5次元を否定する確固たる推論もない状況のようだ。質量に関与するヒッグス粒子は、2012年上記の施設の実験で99.9999%間違いないレベルで実証されたが、余剰次元は今後の問題となった。

最新の宇宙論を研究する素粒子物理学の世界では、エドワード・ウィッテンのプリンストン大学・プリンストン高等研究所やマイケル・グリーンのケンブリッジ大学などを中心とする「超弦(ひも)理論」派と、リサ・ランドール等のハーバード大学を拠点とする「モデル構築」派の、二つの学派の対立がある。「モデル構築」派は「超ひも理論」を数学上の夢想だと言い、反対に「超ひも理論」派は「モデル構築」など時間の無駄と言っているとか(又聞きに過ぎないが)。そこで次に、この「超ひも理論」派の仮説について簡単に(無茶だけど)。

余談:超ひも理論派のブライアン・グリーンはコロンビア大学物理学部教授だが、ニューヨーク市立の理数系高等学校スタイヴァサント高等学校時代のクラスメイトがリサ・ランドールというめぐり合わせ。グリーンの専門は超ひも理論だが、理論物理学の最先端を一般向けに紹介する著作やTVメディアへの出演で広く知られる。ちなみに両者とも美男美女。


●超ひも理論における膜宇宙

ひも理論は、1960年代イタリアの物理学者ガブリエーレ・ヴェネツィアーノが核子の内部で働く強い力の性質をベータ関数で表し、その式の示す構造がひも(弦)で記述される事に南部陽一郎などが気付いた事から始まる。従来の量子論では素粒子は点であると考えられていたが、0次元の点ではなく1次元のひも(長さがある振動するエネルギーのひも)と考える。開いた1本の線のようなひもだったり、輪ゴムのように閉じたひもだったりして、そのひもが振動したり回転したりして粒子になっていると言う仮説だ。ひも理論は力の統一理論を追求する過程から生まれたとも言える。自然界の4つの力のうち2つは既に統一理論が完成し(電弱統一理論)、3つの統一もメドが立っているが、重力だけは、「くりこみ」ができないためにどうしても統一できない(くりこみとは、素粒子の計算の途中で必然的に無限大が出てきてそのままでは計算が続けられないので、数学的な操作で有限の値にくりこむという手法)。素粒子をひもだとすれば、無限大が出てこなくなるのでくりこみを行う必要がなく、またすべての素粒子を1本のひもで説明できる事から、ひも理論は万物の理論となりうる可能性があると言われる。

ただし当初の理論では、弦の振動に理論の不安定性を表すタキオンが含まれるという欠陥があったり、マイナスの確率などが出たりしたので、矛盾を生じない10次元の数学モデルとなった(余剰の6次元の内容や意味は不明だが、この理論では余剰次元は巻き上げられて丸まっており極めて小さいと言う)。1971年フランスのラモン、ヌヴォ、アメリカのシュワルツの3人によりボース粒子とフェルミ粒子の両方が扱える模型が提唱された。この模型が超対称性粒子を組込んだ超ひも理論へと発展していった。1984年、グリーンとジョン・シュワルツによって、10次元の超重力理論および超ひも理論で矛盾のない理論が示されると、超ひも理論は脚光を浴びる。しかし、余剰6次元がコンパクト化されるメカニズムが不明などが残った。また5つもの超ひも理論が提唱されてしまい混乱を来たす。1995年、ウィッテンによりこれまで知られていた5つの超ひも理論を統一する11次元のM理論が提唱されると、超ひも理論は再び脚光を浴びる。超ひも理論は、現時点では観測や実験事実を説明するまでには至っていないが、ブラックホールの問題への回答、宇宙論や現象論の模型への多大な影響、ホログラフィー原理の具体的な実現などの成果が認められる。当初、超ひも理論に懐疑的だったスティーヴン・ホーキングも、近年は超ひも理論の成果を用いた研究を発表している。しかし、「ひも」の大きさが実証不可能に思えるほど小さい(10のマイナス35乗m)ので、実証されるかどうかも未知数で、物理学の定説には至っていない。超ひも理論を物理学の仮説として扱うことに疑問を持つ物理学者も多いが。

カラビ-ヤウ空間

超ひも理論も、10次元(時間を含めて11次元)という大きな空間の中で、我々の宇宙はブレーンという膜の宇宙だと考える。そして重力子を除く物質粒子は、三次元の膜にひもの端が固定されていて、このような膜が十次元の空間に浮かんでいる。そして10次元空間には他の膜も一杯存在している可能性が高い。LHCという加速装置実験で、ブラックホールが観測されるかもしれないという予言もなされている。インフレーション理論で有名な東京大学数物連携宇宙研究機構特任教授・佐藤勝彦は「超ひも理論の中からも、マルチバース(多元宇宙)を予言している。三次元以上の空間は非常に複雑な空間だと考えられています。それをカラビ・ヤウ空間と呼ぶわけですが、極めて難解な空間です。その空間の中のいろいろなところに膜の宇宙があり、その膜宇宙は三次元に限らず四次元、五次元とさまざまなものがあります。しかも物理法則もそれぞれの宇宙で異なります。そう考えると、無限に近い宇宙が存在することになります。そして無限に近い宇宙があるという話は、曼陀羅によって表されている仏教の三千大千世界につながります。われわれの住む宇宙はどの宇宙なのか。また他にどのような宇宙があるのか。これを解明することが膜宇宙論の大きな課題と思っております」と語る。私たちが暮らしている宇宙は決して唯一のものではなく、無数にある宇宙の一つ (マルチバースの一つ)にすぎない、独立した数々の物理学的理論がマルチバース理論という一つの共通した結論を示している。専門家の中にも、隠された宇宙が存在している可能性があると考える者は多い。たとえば、無限に広がる宇宙、泡宇宙、並行宇宙、妹宇宙、子宇宙、孫宇宙などなど。

超ひも理論では、ビッグバンは膜同士の衝突で起こったと考える研究者がいる。膜は平坦ではなく揺らいでいて、時に衝突する事があり、それで新たなビッグバンが起こって新しい宇宙が生成されると考える(ホーキングはこれを否定しているが)。こうなると、多次元宇宙は永遠の昔からあり、永遠に続くと言う事になる。始まりも終わりも無い、変化があるだけと。こうして超ひも理論は、宇宙論を一気にスケールアップさせた。

 


●スティーブン・ホーキングの膜宇宙

2001年スティーブン・ホーキングは、前述の「M理論」が大統一理論(万有理論)の有力候補だと語り、「この理論は、少なくとも私たちの知る限りにおいて、ひとつの公式をもっているわけではない。その代わり、見かけ上は互いに異なる理論であるけれど、それぞれ異なる場合の極限で、同じ基本理論の近似となる理論のネットワークを発見した。これはニュートンの万有引力の法則が、重力場の弱い極限では一般相対性理論の近似であるのと同じだ。しかし、未だにM理論のジグソーパズルの中心には大きく口を空けた穴があり、そこで何が起きているか分からない。この穴をふさぐまでは万有理論を見つけたとは主張できない」と言う。

光はブレーンの中しか進めないが、重力はブレーンが浮かぶ多次元の方向に飛んで行ける。そこで別のブレーンが存在すれば、そこには別の宇宙が存在している可能性がある。この別のブレーンは光では観測できないが、重力波(重力が急激に変化した際に出される重力ひずみの波)なら原理的に観測可能となるかもしれない。ブレーン上の物体の運動で生じた重力波は、高次元に逃げていき、そばにある2枚目のブレーン(シャドーブレーン、影の膜宇宙)が存在すれば、その重力波は跳ね返されてブレーンの間を飛び交うと言う(ホーキングはこれが暗黒物質の正体と示唆していた)。つまり宇宙で我々が見ているものはホログラムのように、重力波によって投影された他のブレーンからの情報なのかもしれない、「我々は4次元の時空に住んでいる事を当然と思っているが、しかし、ろうそくが洞窟の壁に投影した単なる影に過ぎないのかもしれない」と比喩的に語った。検証には素粒子の実験が使われる。粒子と粒子を衝突させて反応を見る実験だが、粒子どうしの衝突で高次元の方向に重力子が跳んで行く、それを観測できれば、高次元の存在を確認する事が可能となる。LHCの巨大粒子加速器では、陽子と陽子を14TeVまで加速して衝突させられるので、こうした研究が手に届く範囲に来ている。ブレーンの考え方では、高次元では重力はより強いと考えるので、もし高次元において重力がより強ければ、高エネルギー粒子の衝突によって小さなブラックホール(すぐにホーキング輻射で消滅するが)を作る事も容易になる」と語った。しかし、今現在までは実証されていない。


●重力波望遠鏡

こうした事やブラックホールの研究のために、重力波の直接検出が重要である事が分かる。アインシュタインの一般相対性理論から予測される物理現象として、重さを持つ物はその重力で周りの時空を歪めるが、その物体が運動をすると、周りの歪んだ時空が波のように宇宙空間に広がるが、これが重力波。間接的には1979年ハルスとテーラーが、公転周期の短縮変化が重力波が原因であると仮定して得られる理論的な予想と、誤差1%程度で一致する結果を得て重力波の間接的な存在検証を行い、1993年にノーベル賞を受賞している。しかし、重力波はあまりにも微弱なので、直接的検出には非常に高い精度が求められる。日本では「KAGRA大型低温重力波望遠鏡」が岐阜県飛騨市神岡町にある神岡鉱山の地下深くに設置されている(スーパーカミオカンデの近く)。重力波の発生源の代表的なものに「中性子星同士の連星とその合体」、「超新星爆発」などがある。超新星爆発は、星が一生を終えて爆発し、その質量の大部分を宇宙空間に一瞬にして解き放つ現象。更に、NASAのジェット推進研究所およびESA(欧州宇宙機関)が進めているのが重力波天体観測惑星。地球ー太陽軌道系(黄道面)に対して20度の傾きを持った人工惑星軌道に投入されて観測を行う予定。近々検出される可能性が高いと思われる。

以上、宇宙は人間などの生き物のためにあるのだろうか?それとも無関係に存在するのだろうか?宇宙の仕組みを創造した超越したものがあるのだろうか(否定的見解が非常に多いが)?このページでは一応?としておきたい。

(参考資料)
NHKスペシャル・神の数式(神の数式 完全版 DVD-BOX)

リサ・ランドール『ワープする宇宙―5次元時空の謎を解く』向山信治監訳、塩原通緒訳、2007年日本放送出版協会
リサ・ランドール、若田光一『異次元は存在する』 2007年 日本放送出版協会〈NHK未来への提言〉
ホーキング博士「膜宇宙論」東京大学安田講堂での講演(NHKの番組で紹介)
NHK「ドキュメント地球時間・あなたの知らない宇宙」11次元の膜宇宙(2002年BBC製作)
夏梅 誠 超弦理論の解説
超弦理論の魅力(PDF)京都大学基礎物理学研究所/杉本茂樹
KAGRA大型低温重力波望遠鏡

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