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新・夜話:地球の見えざる盾/地磁気が弱くなる


地磁気は生物に危険な宇宙線が地球上に届くのを防御している。普段はこの見えざる盾に守られているが、現在、南大西洋と南米のある地域で地磁気が弱まっている。このままでは、致死性を持つ可能性のある放射線に曝されるのだろうか?地球はやがて地磁気を失い、火星と同じような運命を辿るのだろうか?研究者によれば、その答えは古地磁気学的データにあり、この弱まりは地磁気が逆転する前兆であると言う。前回、地磁気の逆転が起きたのは78万年前、まだ人類は存在していなかった。

1.太陽風(太陽から放出される荷電粒子)

太陽表面には、コロナと呼ばれる100万度以上の密度の低い薄い大気層がある。超高温のために、この気体は電子とイオンに電離したプラズマ状態で、太陽の重力でもコロナガスを繋ぎ止められず、陽子や電子が放出される。電気を帯びた粒子(プラズマ)が放出されたものが太陽風と呼ばれ、百万トン/秒もの質量が太陽から放射されている。この風が地球に達する時の速さは約300〜900km/秒で、地球磁場に影響を与え、オーロラ発生の原因の一つとなっている。高速の太陽風は、コロナホールや太陽フレアに伴って放出されていると考えられている。太陽風には水素・ヘリウムおよびそれらの同位体が含まれており、月などの大気のない天体表面にはそれらが堆積していて、特に核融合燃料として有望なヘリウム3が月面に豊富に堆積している事が確認されており、その利用が月開発の目標の一つとなっている。

●危険な太陽フレア

太陽フレアは、太陽面で発生する爆発現象。大きさは通常数万km程度、威力は水素爆弾10万〜1億個と同等である。100万度のコロナプラズマは数千万度にまで加熱され、多量の非熱的粒子が加速され、同時に衝撃波やプラズマ噴出が発生し、時おりそれらは地球に接近して突然の磁気嵐を起こす。フレアが発生すると、多くのX線、ガンマ線、高エネルギー荷電粒子が発生し、また太陽コロナ中の物質が惑星間空間に放出される(CME)事が多い。この高エネルギー荷電粒子が地球に到達すると、デリンジャー現象、磁気嵐、オーロラ発生の要因となる。1989年カナダのケベック州をおそった強力な太陽嵐は大規模な停電などを起こした。2003年は、大規模なフレアが頻発し、デリンジャー現象により、地球上の衛星、無線通信に多くの悪影響を与えた。また地球磁気圏外では、フレア時のX線やガンマ線による被曝により、人の致死量を超える事もある。フレア時の高エネルギー荷電粒子の地球への到達、あるいは、フレアの発生そのものを観測・予報する事は宇宙天気予報と呼ばれ、太陽研究者にとって重要課題となっている。




2.銀河宇宙線(銀河宇宙放射線)

太陽系外から太陽系内に入り込んだ高エネルギー荷電粒子で、銀河を由来とする宇宙線は、陽子、電子、完全にイオン化した軽元素の核からなり、地球大気中において核破砕の強力な発生源となる。この銀河宇宙線の流入量は、太陽風を伴う太陽活動と相関にあり、太陽活動極大期に銀河宇宙線量は最小になり、太陽活動極小期に銀河宇宙線量は最大になる。これは太陽風が太陽系外から流入する銀河宇宙線をブロックするためと考えられている。銀河宇宙線のエネルギーは強大で、ほぼ真空の宇宙空間を飛翔する岩石結晶には銀河宇宙線による細かい傷が見られる。銀河宇宙線が生物の細胞に直接当たれば、細胞はひとたまりもなく破壊される。太陽風自体も危険だが、一方太陽風はこうした強大なエネルギーを持つ銀河宇宙線から地球生命を守っている。ボイジャー探査機は、太陽系を離れるにつれて次第に強い銀河宇宙線が検出している。銀河宇宙線は有人宇宙船による惑星間旅行計画を邪魔する最も重要な障壁の一つである。

●気象に影響を及ぼす銀河宇宙線

仮説の一つに、雲の核形成による下部対流圏における雲量の変化に対する銀河宇宙線の影響がある。まだ証明されていないが、地球の気候変動に対する太陽変動の影響に関する仮説の一つである。雲に及ぼす銀河宇宙線の影響を実験的に調べるため、CERNでは2006年に陽子シンクロトロンから発生させた荷電π中間子の加速器ビームを用いて、チャンバー内における核形成の測定が予備段階の実験として行われている。一方、顕生代にわたる長期の気候変動におよぼす銀河宇宙線の影響を調べた研究によれば、地球は1.35億年の周期で、銀河系のらせん状の腕を通過し、その銀河系の腕から多量の宇宙線を浴びたときに寒冷化傾向を示しており、過去5億年にわたって地球が浴びた宇宙線量の変調と気温変化の間に強い相関が見出されている。


3.ヴァン・アレン帯

地球の磁場にとらえられた、大気圏外からの荷電粒子である陽子と電子からなる放射線帯。太陽風や宇宙線からの粒子が地球の磁場に捕らわれて形成されるが、電子は太陽が起源、陽子は宇宙線が起源とされている。地磁気の磁力線沿いに南北に運動しており、北極や南極では磁力線の出入口であるので、大気中に入ってきて大気と相互作用してオーロラが発生する。太陽活動が盛んなときは極地方以外でも観測されることがある。磁場を持つ惑星の木星、土星でも存在が確認されている。ヴァン・アレン帯は地球を360度ドーナツ状にとりまいており、内帯と外帯との二層構造で、赤道付近が最も層が厚く、極軸付近は層が極めて薄い。内帯は赤道上高度2,000〜5,000kmに位置する比較的小さな帯で陽子が多く、外帯は10,000〜20,000kmに位置する大きな帯で電子が多く、磁気嵐によって激しく変化する領域。外帯が磁気嵐とともに大きく変化する事で引き起こされる人工衛星の故障が、一般社会にとって大きな問題となってきた。

●ヴァン・アレン帯の異常構造・南大西洋異常帯(SAA、South Atlantic Anomaly)

ヴァン・アレン帯の異常構造で南大西洋異常域、ブラジル異常帯とも呼ばれる。通常、内ヴァン・アレン帯の最低高度は約1,000km以上だが、この領域では300〜400km程度に下がっており、同高度で比較すると放射線量が異常に多い。地球の磁場はブラジル上空で最も弱くなり、これが原因でバンアレン帯が落ち込んで地球に最も接近する。1958年アイオワ大学ヴァン・アレンが発見し、スプートニク1号のデータでもこの領域での放射線レベルが予想以上で、ここで故障が起きた事が確認された。人工衛星や宇宙船では、このSAAは放射線被曝の点で問題で、またコンピュータトラブルが起きやすい領域なので、国際宇宙ステーションも放射線被爆量を抑えるために、宇宙飛行士はこの領域を通過中は船外活動を行わない(1日2〜5回通過)。ハッブル宇宙望遠鏡もこの上空通過時に故障が頻発するので、通過する際は主要な装置を停止させている。




4.地磁気

方位磁針のN極は概ね北を指す。地球は北がS極で南がN極の大きな磁石(かなり不完全であるが)と言える。磁石のまわりには磁力が作用して磁場を形成していて、これを地磁気と言う。方位磁針のN極は概ね北を指すが、厳密には北を指していない。自転の真北と磁北のなす角度を偏角と言うが、この偏角は時間と場所により異なる。北磁極は、北半球の地表面で磁力線の方向が鉛直になっている地点だが、この北磁極も時と共にゆっくりと移動している。北磁極は20世紀中に1100km動いたが、その動きは加速しており、1970年には9km/年だったのに対し、2001年から2003年までの平均速度は41km/年であった。2005年の時点では、北磁極はカナダのエルズミーア島の西方であったが、現在の速度と方向で変わらず移動すれば、50年後に北磁極はシベリアになると予測されている。この大きな動きに加え、北磁極が不格好な楕円を描く日周的変化もある。これは太陽からの荷電粒子等の外部磁場で地球の磁場が歪むからである。

●地磁気は「地球の見えざる盾」

永久磁石は数百度に熱すると磁石の性質がなくなる。地磁気は高温の地球の内部で作られているので、永久磁石では説明出来ない。地球は地殻、マントル、核から成り立っていて、核は鉄やニッケル、外核は流体で内核は固体。地磁気を作っているのはこの外核の部分だと考えられている。外核はとても電流を流しやすい性質があり、電流が流れると磁場が作られる。これが地表まで現れると、地磁気として観測される。流体の運動、電流、磁場(地磁気)は互いに影響を及ぼすので非常に複雑だが、これを研究するのが電磁流体力学という分野で、地磁気の成因は特にダイナモ理論と呼ばれる。このダイナモ理論に基づく研究が、スーパーコンピュータの活用などで行われている。地磁気は地下約5000kmの地球内部の内核で生成され、磁南極から噴水のように噴出して、地球全体を繭のように包み、磁北極に吸い込まれてゆく。この繭が太陽風をブロックしている。太陽風は太陽から数100万km/時のスピードで撃ち続ける超高温の荷電粒子。メリーランド大学ダニエル・ラスロップ教授は「太陽風が磁気圏にぶつかると衝撃波を起こしながら磁気圏を回り込む。横から見ると巨大なオタマジャクシのようだ。地球を回りこんだ放射線は、そのまま流れ去ってゆくが、少しは下りてきて極地方の大気とぶつかる。磁場が最も弱い極地方では、このときオーロラができる。この大自然のスペクタクルは、太陽風の粒子が大気のガスと激しくぶつかって光るもので、太陽風が強いほど、オーロラは大きく輝く。美しく感動的だが、実は太陽の銃弾爆撃を地球の見えざる盾が防衛している激しい戦いなのだ」と述べる。


5.地磁気が変化している

地磁気は繰り返し逆転している

過去の地磁気逆転時には、ある種の生物が突然に絶滅した事が確かめられている。このことから地磁気逆転と生物の進化・生存に関係があるとする説がある。地磁気がゼロに近い状態になると、太陽風や宇宙線は磁場に妨げられる事なく地表に達して生物に影響を与え、結果として生物を死滅させたり突然変異を起こしたりすると言う考えだ。しかし、地球大気は充分な厚みがあるので、太陽風のかなりの部分は地表へ届く前に吸収されると考える学者も多い。しかし、超高層大気の組成が変わったりする可能性は非常にく、地上の生命に悪影響を及ぼす可能性は大いにあり得る。また、地磁気がなくなったり大きさが変わったりすると、電離層の性質が変わり、これが気候変動の原因の一つであると考える人もいる。

噴火時に流れ出た溶岩が冷えて固まるときに、その時点の地磁気で磁化され、規模の大きな磁石になり長期間安定しているので、堆積した溶岩をしらべると噴火した当時の地磁気の向きが判る。また、海底などの堆積物中にも小さな磁石(磁鉄鉱粒子など)が含まれており、溶岩と同様に堆積した当時の地磁気の向きが判る。地層分析から、地磁気の逆転は過去数千回起こっている。間近では、78万年前にN極とS極は逆転しており、少なくとも過去360万年の間に11回は逆転している。磁気圏がなければ全ての生物は高エネルギーの宇宙粒子の危険にさらされ、この粒子は体の組織を通過して、細胞を破壊する。磁気圏が弱くなるほど宇宙線は大気圏の低いところまで降り注ぐようになる。磁気シールドが弱くなった時の影響の1つに、放射線に被曝する人が増え、癌の発症が増加することが挙げられる。放射線は生物の最も根源的レベルの損害、DNAを突然変異させる。

●南大西洋異常域SAAは、全地球的な磁場の弱体化の表れなのか?

ブラジル沖海域は磁場が急速に弱まっていて、南大西洋異常域SAA(South Atlantic Anomaly)と呼ばれる。その面積は約800万kuだったが、陸地に向かって拡大続けている。原因はまだ完全には解明されていないが、結果は恐ろしいものになる可能性がある。SAAで発見された高エネルギー粒子、および太陽風が新たに注入した粒子などの組み合わさった結果、人工衛星を全く交信できない状況が多数発生している。上空を横切る衛星が決定的な損傷を受ける事もあり得る。ハッブル宇宙望遠鏡も異常域にさしかかる時には重要な装置を一時停止している。このSAAの磁場がさらに弱くなれば、更に低いところまで放射腺が下りてきて、人工衛星以外のものにも影響が出始めるだろう。ジョンポプキンス大学ピーター・オルセン教授は「旅客機で磁場が弱くなった地域を飛ぶとすると、その高高度では放射線量が増大しているので、機体が重大な損傷を受ける可能性がある」と言う。無線機器などが使えなくなれば、パイロットや乗客は非常に危険になる。地磁気研究者達は、SAAが磁場の全地球的な弱体化の表れだと考えている。その証拠は過去の地磁気の変化のデータに隠れている。

リバプール大学ミミ・ヒル博士は、過去の地球の磁力を知るために過去の土器や陶器を使い、「粘土には磁鉄鉱など磁性鉱物の微粒子が含まれ、この磁力はある温度以上になると運動エネルギーの方が強くなり、一旦消えてしまう。でもその温度より下がると、地球の磁場の方向にそろって再び磁化され、さらに冷えるとその磁性は完全に固定化されるので、その時の地球の磁場の強さが正確に保存される。こうした古代の土器の小さな破片からコアを取り出し、マイクロ波を使った磁気強度測定器で測定する。土器や陶器の磁性鉱物を測定した結果から、それらが焼かれた時の地球の磁場の強さを正確に計算出来る。測定結果を過去400年間の様々な土器や陶器のサンプルと比較する。1640〜70年当時の地磁気は現在より約10%強かった事が分かった」と言う。この研究から地球の磁気圏が不安になるほど衰えている事が証明された。ハーバード大学ジェレミー・ブロックスハム教授は「これまでは、ある瞬間に磁力の発生が止まっても、磁気圏は約15000年はもつと考えられてきた。でも過去150年間の減衰率から考えると、磁力の発生は止まってないのに、1500年後には消えてしまいそう」だと述べる。つまり、磁気圏が予想より10倍早く消えてしまうかもしれない。


SAA

●火星の地磁気が消失した理由

地球の磁場がなくなれば何が起きるのか?1996年NASAは「Mars Global Surveyor」を打ち上げた。そのミッションの一つは火星全体を測量する事だった。火星と地球はとてもよく似た惑星で、どちらも同じ物質から構成されていて、硬い地殻と高密度の核を持ち、大気の成分も似通っていて、数十億年前には火星にも海があったと考えている。今は凍りついた砂漠の惑星となっているが、その理由を知るためにも、表面を観測してデータを集めた。太古の火星を研究しているMITベン・ワイス教授は、「現在の火星は、核が全球的な磁場を作り出していない。しかし、南部高地の周辺には地球と同じくらい強い磁力が発生している場所が点在している。ただし。それらの磁場では磁力線がバラバラの方に向いて北を指していない。地殻の傍に強い磁場が発生している事を発見した。今でも一部にとても強い磁気圏があることを考えれば、過去には磁気圏があったことは間違いない。磁場を作っている岩は磁気圏がなければ磁化しなかったからだ」と語る。何故火星は磁気圏を失ったのか?またそれを失った結果、何が起こったのか?その答は火星の岩に隠されている。

ワイス教授は火星の隕石を手に入れ、「地球には、火星に小惑星か彗星がぶつかった破片が飛んでくる。隕石は磁気的にシールドされた特別な部屋に保管されている。この隕石の磁場をスクイットと呼ばれる超伝導量子干渉計で測定する。この極めて敏感な装置は、隕石の磁力を正確に測定する。様々なサンプルを分析して、その結果から原始の火星の磁場を描き出す。45億年前の火星が生まれた当時の岩もある。その隕石の磁力を測定した結果、当時の火星は現在の地球とほぼ同じ磁力を持っていた事が判った。火星は誕生から5000万年の間は強い磁気圏を持っていた。サンプルごとに磁場の強さが全く違うので驚いている。例えば45億年前の岩の磁場の映像では、大きな全く磁気がない部分を挟んで、磁気異常が点在していた」と語る。何故火星の磁気圏が消えたのかは不明だが、その結果起こった事は明確だ。ブロックスハム教授は「火星から磁場が消えた時に、太陽風と宇宙線から火星を守っていたシールドも同時に消えた。その結果、大気にとてつもない変化が起こった。磁気圏が弱くなると太陽風が火星の大気を吹き飛ばし、海が蒸発し、温度が急激に低下した。もし原始的生命がいたとしても全て絶えただろう。磁場を失った火星は死の星になり、今見るような赤い惑星になった」と言う。地球の磁場も急速に弱くなっている。もしこのまま衰え続ければ、火星と同じ運命を辿るかもしれない。今解明すべき問題は地球の磁場のエネルギーはどこから来るかだ。

●地球ダイナモによる磁場の変化

地球の磁場がどこでどのように生まれるのかを知るには、地球内部を直接調査しなければならないが、それは困難だ。直接調べる方法がない現在、科学者達は強力な自然現象を利用して地球内部の構造を研究している。その現象とは地震である。日本では地震科学者が地球の裏側にたくさんの検知器を設置し、地下を通り抜けてくる音を聞く。そうすれば地球内部を視覚化できる。地震波は地球を直線的には進まず、構造や物質が変化する場所で速度と方向を変える。この波を測定した結果、地球はタマネギのようにたくさんの地層から出来ている事が判った。一番外側の地殻は、ほんの数kmの岩盤、その下はマントルで地殻より密度が高い半ば溶けた岩。地表から2900kmの地下は外核と言い、溶けた鉄とニッケルが渦巻いている。地下5000kmから中心までは月ほどの大きさの鉄の塊の内核で温度は太陽の表面とほぼ同じ。科学者達はこの外核が磁気を生んでいると考えている。永久磁石は約650℃で磁力が消えるので、地球の磁場は別の方法で生まれている。

ラスロップ教授は大掛かりな実験を行った。メリーランド大学に直径3mの核の模型がある。「解明したいのは、何故ある星では磁場が生まれ、ある星では生まれないのか。装置を使って磁場が出来る時と出来ない時の条件を見分ける実験をした。この球体の中には液体金属に囲まれた固形の鉄球がある。液体金属は鉄ではなく、より低い温度で溶けるナトリウムを使う。これは2重構造で、外側に入った液体ナトリウムが外核、内側に入った鉄の球が内核で、外核と内核はそれぞれ別のモーターで回転する。外核は1秒間に4回転まで上がり、内核は15回転まで上げられる。これが成功すれば、地球の磁場の発生の仕組みを解明できる。巨大な球体が最高速に達すると凄い事が起こった。核の内部と外部に磁気アークが発生したのだ。磁場は直接見れないが、周囲にセンサーをたくさん配置して測定する事が出来る。その測定結果を描画すれば、磁力線が表れて回転する様子を見る事が可能だ」と言う。溶けた外核と固体の内核の間で起こる相互作用を「ダイナモ作用」と言い、強力で安定した持続的な磁場を形成する。ダイナモとは発電機の事だ。ラスロップ教授は「この実験で地球の磁場は地球の中心にある地球ダイナモが作り出しているという理論が証明された」と語る。この作用には外核の溶融金属の動きが不可欠で、地球ダイナモは外核が熱で溶けているからこそ働く。

では火星は核が冷めたために磁気圏を失ったのか?もし地球の核が冷めると、火星と同じになるのか?ワイス教授は「地球の核は冷め続けていて、外核が固まるので、内核が大きくなっている。いつか硬い内核しかなくなるかもしれない。あるいは完全に固まる前に、磁場が消えるかもしれない」と言う。SAAは地球のコアが冷めてきた徴なのか?ラスロップ教授の意見は違う、「一般には地球の磁力線の向きは南北方向だと考えがちだ。北を指す方位磁石は単純な例だが、地図を注意深く見れば、磁北と地理的な北は同じ場所ではない。地球の磁極は今はカナダにある」と。しかも磁北極は一定せず、探す度に違う場所で見つかる。カナダ地理測定所ラリー・ネウィットは、カナダ北部の氷河を動き回る磁北極を地図にしているが、「磁極の位置を特定するには、1ヶ所だけの観測ではダメだ。だいたい目星をつけた辺りで何ケ月も観測して絞り込んでゆく」と言う。磁北極が変わるのは地球ダイナモが揺らぐからだ。特にこの数十年はその動きが早くなっている。ネウィットは「過去100年くらい年に約10km動いていたが、1970年頃から早くなり始め、今は年に約40km動いている」と述べる。場合によっては後50年ほどで、シベリアに移動するかもしれない。移動が早くなったのは、磁場が弱くなっているからだろうか?




●南大西洋異常域SAAは何故起こるのか?

ブロックスハム教授はその答を探している。300年以上前から船乗りの記録を使って磁北極の移動を図表にしようとしている、「航海には磁場の観測がとても重要だ。17〜18世紀には、交易船でも探検航海でも、航海の時には磁場を非常に注意深く系統立てて測っていた」。彼はデータをコンピューターに入力して磁気変化を時系列の図表にし、「これはほぼ320年間の磁気圏の変化を表す連続画像で、始まりは1690年。赤とオレンジの部分は核から出ている磁力線で、色が濃いほど磁場が強い。青い部分は核に戻る磁力線を表している。過去150年間に地球全体の磁場は10%弱くなった。地球ダイナモが突然止まった時より10倍も早く消えている。しかし、磁場のある部分は違った変化を見せている、20世紀初頭まで進むとアフリカ南東の海上に青いエリアが出てきた。これはその後西に移動して、左下のエリアと合体する。その結果コア・マントル境界付近に巨大な通常と逆向きの磁場が出来ている」と。彼のコンピューターモデルによれば、SAAは他の場所に比べて磁場が弱いのではなく、極性が逆である事を示している。

●磁気圏が消えれば、あるいは逆転したらどうなる?

ラスロップ教授「南大西洋の一部には磁力線のSとNの向きが逆のエリアがあり、それは拡大している」と言う。磁場が逆転している場所では、地球には到達出来ないはずの宇宙線が入ってくる。SAAは5年前で約800万kuに広がり、南米大陸東の海上をほとんど覆っている。また放射線は高層大気圏に達しているため、人工衛星などが影響を受けていて、その範囲は陸地にまで到達する。その嵐は今はまだ生まれたばかりだが、その発達は太陽の放射線に対する大事な盾が薄くなり、太陽が味方から敵に変わる事を意味する。もし地球の磁気圏が消えれば、高エネルギーの太陽輻射が徐々に大気や水、そして生命を剥ぎ取る。対処法を見つけるには過去の研究が役に立つ。1969年7月20日アームストロングが月面歩行を果たしたが、この間、暗いアポロ11号のモジュールの中で輝く光を見て、目を閉じても見えた。地球に帰還後に報告したが、NASAの科学者達にもそれが何か分からなかった。6年後、それはモジュールの船体とクルーの瞼を通り抜けた宇宙線の高エネルギー重粒子だったと結論付けられた。「熱核融合反応で分裂して出来る極めて高エネルギーの電子と陽子が太陽から飛んでくる。有人宇宙飛行で磁気圏の外に出て太陽嵐に遭えば、莫大な量の放射線を浴びて、恐ろしい健康被害を受ける事がある」と語る。この荷電粒子は、磁気圏のヴァンアレン帯に捕えられて溜まっていて、宇宙飛行士にとって危険な場所だ。事実、少なくとも39人の宇宙飛行士がこの放射線を被爆してから4〜5年後、ある種の白内障に罹っている。地球を守る磁場が弱くなるほど、生物への危険性が高まる。

カリフォルニア大学ゲーリー・グラッツマイヤー教授は、磁気圏がどれくらい弱くなるのか研究し、画期的なコンピューターモデルを作り上げた。「過去に起こった事や、今起こっている事を正確に再現は出来ないので、その事象をモデル化してコンピューターで擬似的に再現させる」シミュレーションを実行させ続けた。現実の1年が、コンピューターでは十万年に相当する。地球の磁場が1000年単位でどう変化するのかを見ると、36000年経った頃に異常な変化が起こった。磁北極と磁南極の位置が入れ替わっていたのだ。核の複雑な動きにより、地球のN極とS極が自然に入れ替わる事が分かった。さらにこのモデルでは、逆転の前後に磁場が弱くなる事を示している。では、南大西洋で磁場が弱くなっているのは、磁極が入れ替わる前兆なのだろうか?ラスロップ教授は「人類は磁極の逆転を経験した事がないので、その時一体何が起こるか分からないが、推測は出来る。恐らく磁気圏は地表に向かって収縮して小さくなるはずだ」と言う。これが磁場の逆転の始まりなら、地球はこれから何千年もの間、宇宙線を被爆し続ける事になる。これまでのところ、磁場の逆転が起こるのが見られるのはコンピューターの中だけだが。

●過去の磁場逆転の具体的証拠

ハワイ大学エミリオ・ヘレーロ・ベルベラ教授は、「ハワイの島が研究に都合が良いのは、比較的薄い溶岩流が積み重なっているからだ。地層のように下のほうが古く、上にいくほど新しい。ハワイ諸島では、何百万年にも渡って溶岩流が蓄積されてきた。熱く溶けた溶岩流は、海に到達すると急速に冷えて陶器と同じようにその時の地球の磁力を固定化させる。時代の異なる溶岩を分析して、有史前からの磁場の変化をまとめた。そのデータからは、磁場の強度変化だけでなく、もっと重要な変化を読み取れる。そのためサンプルの採取場所を正確に記録する。研究所に戻り磁力計で分析する。溶岩が冷えて固まる時に、その粒子は方位磁石の針のように地磁気の向きに並ぶ。そして磁場の強さと方向を固定化する。このサンプルは70万年前のもので磁場の向きが今と同じだが、もっとも古いサンプルには、驚くべき記録が残っている。磁鉄鉱が南を指している。つまりその溶岩が流れた時代には、磁北極は南にあった。古い溶岩に磁場が逆転した証拠が残っていた。この地層を1つずつ測定してプロットした結果、磁極が一方の極からもう一方の極へ移動していった様子を図に出来た」と語る。

地球物理学者達は、溶岩サンプルを何千個も分析して地球の磁場が過去2000万年の間に約100回も逆転した事を発見した。そして逆転の前後には長い磁気圏の衰弱期が続くと言う。これまでの研究の結果、最後の逆転は78万年前に起こった。次がいつ起こってもおかしくない。多くの科学者はSAAが全地球規模の逆転の始まりだと考えている。だとすれば、生物の脅威となる磁気圏の衰弱期が始まる。磁場の逆転は地球では不定期で回数も比較的少ないが、太陽では極めて頻繁に起こっている。オルセン教授は「太陽ではほぼ11年ごとに磁場が逆転する。つまり太陽の磁場は規則的なふり幅がある。一方、地球の磁場は比較的長期間安定している。ところが急に逆転する」と語る。太陽の磁場が生まれる仕組みは地球とは違うが、科学者達は常にその状態を観察している。ラスロップ教授は、「地球ダイナモとは全然違うが、物理法則は同じで、環境は少し違う。そこで地球と太陽の両方を研究比較してその仕組みを学んでいる。太陽では磁場の周期に連動して活動も周期的に変化して、11年ごとに極大期に入る。11年周期の太陽活動には、太陽嵐のピークがある。極大期ごとに人工衛星が破損している。以前のピークでは、太陽嵐の1つが北アメリカ大陸でも大規模な停電を起こした。しかもこれらは小規模な嵐だった」と言う。しかし、地球の磁場は衰弱し続けている。近い将来、太陽活動のピーク時には送電網以外のものも壊れ始めるかもしれない。磁場の逆転は人類の文明を根底から覆しかねない。それだけではない、生物そのものが生存を脅かされる可能性がある。


●磁場の逆転は生物への脅威となるのか?

リーズ大学リチャード・ホランド博士は、コウモリがソナー以外に地球の磁場も利用している事を発見した。そこで磁場が逆転した時に、コウモリがどうなるか実験する、「コウモリを捕まえて地球の磁場を変えられる装置にあてる。これはコウモリが地磁気を感じ取る器官だと考えられている細胞をかく乱させる。コイルから無害な磁気パルスを短時間に照射し、体内磁石をかく乱する。北に30kmくらいドライブして、そこでコウモリを放す。そして巣まで帰るルートを追いかける。この実験では磁場の逆転がコウモリの帰巣能力にどう影響するか確かめる。普段は1時間ほどで巣に戻るが、体内磁石をかく乱されたらどうなる?無事に飛んでいったが、北に向かっている。体内の磁気コンパスの南北が逆転して逆の方向に飛んでいった。だがすぐに修正されて巣に戻れる。体内磁石の修正には2〜3時間かかる。コウモリが地球の磁力線の向きを感じ取っている」と考えている。磁場の変化の影響を受けるのは、コウモリだけではない。長い間クジラの座礁は科学者達を悩ませてきた。しかし1980年代、クジラの座礁と突然発生する海底の磁気異常との間に相関性が見つかった。磁場が弱くなると、クジラのリーダーの体内にあるGPSが混乱し、群を危険な浅瀬に誘導する事がある。磁場がなくなれば、人を含む多くの生物が悲惨な道を辿る恐れがある。

●次の磁場逆転が始まりつつあるが、人類はどうなる?

約45億年前の地球誕生以来、磁場は何千回も逆転した。科学者達は次の逆転が始まりつつあると考えている。それがいつなのか、早く正確に予測しなければならない。2010年欧州宇宙機関(ESA)はSwarm衛星を打ち上げ、最新で精密な地球の磁気圏の地図を描き、将来の活動を予測しようとしている。コペンバーゲン大学ニールス・オイセン教授は、「Swarmが先進的なのは、3基の衛星で成り立っていること。まず1基を530kmの高い軌道に乗せ、残り2基はほぼ430kmの軌道に乗せる。最新の磁力計が搭載された3基の衛星が磁場強度の微細な変化を検知し、同時に磁極の移動先を発見する。科学者達はSwarmが磁場の逆転磁気の予測に役立つ事を期待している」と語る。もし成功すれば多くの命が救われる。逆転が近づくにつれ、地球の盾は弱くなる。そして宇宙線が地球表面に近づく。人類が生き延びるにはどうすれば良いか?オルソンは、「地球ダイナモには何も手が出せない。なるようになるしかない。でも衛星から精密に観測して有効な予測を立てれば、種として適応する道を見出せるかもしれない」と言う。致命的な放射線に曝され始める時、生活は一変するかもしれない。衰弱した地球の見えざる盾が空になるはずだ。オイセンは「これまで絶対に見えなかった赤道付近を始め、あちこちでオーロラが見えるようになる」と言う。

磁気圏は地球の進化を握ってきた。磁気圏がなければ生物は存在しえず、死の星になっていた。この盾は太陽風から生物を守っている。長い歴史の間に磁北極の逆転は起こってきたが、人類はまだそれを目撃した事がない。全ての生物は磁場の逆転の影響を受ける。しかし、過去の逆転が種の大量絶滅を引き起こしたという証拠はまだ見つかっていない。もし上手く適応できれば、生き残れるだろう。

(参照)

ナショジオ:サイエンスワールド6、エピソード1、地球の見えざる盾
http://www.ngcjapan.com/tv/lineup/prgmepisode/index/prgm_cd/8

気象庁・地磁気観測所 基礎知識Q&A
http://www.kakioka-jma.go.jp/knowledge/qanda.html

JAXA宇宙情報センター 太陽風
http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/solar_wind.html

JAXA宇宙科学研究所 粒子誕生の謎を解く 放射線帯の研究
http://www.isas.jaxa.jp/j/forefront/2006/miyoshi/


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