佐久の草笛
                                               2002.7.16

 去年の春、長野の高峰高原ホテルに泊まったときのことだ。
『夕食後に草笛の実演と指導があります』というポスターが目に留まった。藤村の「小諸なる古城ほとり」に出てくる佐久の草笛に違いない。これは良い時に来たと思い、けいこさんと早速会場に行った。

 講師は佐久の草笛の会から派遣されて来た年配の男性であった。哀愁を帯びた音色でいくつかの曲を聞かせてくれた。講師の手ほどきを受けて若葉を舌に押し付け、吹いてみるのだが、いくら力んでも音が出ない。夕食に呑んだビールのせいであろう、そのうち目が回ってしまって続けられなくなってしまった。


 草笛にはこんな思い出があった。
 それは1970年のことだ。私が坐禅の教えを受けていた斎藤先生とフランスに坐禅を伝えた弟子丸泰仙氏は共に澤木興道老師を師とした兄弟弟子であり、お二人の企画で佐久の貞祥寺を会場にして、日仏合同の一週間の坐禅合宿が催されたのだ。

 着物姿で筆ペンを上手く使って手紙を書くフランスの青年と、赤や黄色のTシャツを着てボールペンで記録をとる日本の学生との合宿は、日本文化を継承しているのはどっちなのかと疑われてしまいそうな光景であった。

 その合宿の帰途、斎藤先生はもう一人の兄弟弟子のところに案内してくださった。その方は懐古園でひたすら草笛を吹いておられた横山祖道さん。私たちは横山さんの「千曲川旅情の歌」の草笛演奏を息を呑んで聞き入るばかりであった。


草笛の講師に、横山祖道さんの思い出を伝えると、その草笛の会は横山さんの草笛を継承するためにできたものであるとのこと。

その夜、私は音を出そうと若葉を舌に押し付けて息を真剣に吹き続けたのだった。



貞祥寺で日仏合同の坐禅合宿 懐古園で草笛を吹く横山祖道さん


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