インド古典舞踊とは? 〜まずは概論〜 インド舞踊について詳しく


インド舞踊」ときいて、はじめにどんなものを想像するでしょうか?

インド舞踊は世界最古の舞踊と言われており、その起源は四千年前までさかのぼることができます。
踊り手は、古くから寺院の壁画や浮彫などに多く描かれてきました。古代インダス文明のモヘンジョ・ダロ遺跡、そしてハラッパーの遺跡からも、踊り子と思われる像が発掘されています。
かつてインド舞踊は、純粋な意味の舞踊としてでなく、人と神との交流手段として発達してきました。感情や精神を微妙に表現し得る優れた踊り手と、「ヴェーダ」Veda (古代インド、バラモン教の聖典の総称)によってのみ、神に応えて舞うと考えられてきました。そのため、わずかな目の動き、手の動きにもそれぞれ意味が、そして魂が込められています。ここが西洋のバレエなどと異なる特徴です。

二世紀頃には、世界最古の舞踊・音楽の教典、『ナーティヤ・シャーストラ』NatyaSastra が聖バラタ・ムニによって書かれました。つまり『風姿花伝』(1400年頃、能楽の大成者・世阿弥の著した最初の能楽論書)のようなもの。 この理論書『ナーティヤ・シャーストラ』はインド古典舞踊の体系づけを詳細に記したものですが、その影響は今日のインド舞踊の中に見られるだけでなく、他のアジア諸国に伝わる民族舞踊の原型にもなっています。中でもタイ、ビルマ、インドネシアなどではそれが最も顕著です。 その後もまた、『アビナヤ・ダルパナ』や『サンギータ・ラトナーカラ』などの理論書が書かれています。

インド舞踊は、踊り手がソロで踊るいわゆる“舞踊”、さまざまな役をもった踊り手が登場し、演じられる“舞踊劇”、そして地域色豊かな“フォークダンス”の3つに分けることができます。 『ナーティヤ・シャーストラ』などの理論書に大きく依存しているものが舞踊(古典舞踊、芸術舞踊)として、それらの理論にとらわれないものがフォークダンス(民俗舞踊)としてみなされています。

インドには数々の舞踊がありますが、そのうちのバラタナティヤムBharatanatyam、カタカリKathakali、カタックKathak、マニプリManipuriの4つが、インドの四大古典舞踊とされています。 そして、最近ではこれらに加えて、クチプディKuchipudi、オディッシーOdissi、モヒニアッタムMohiniyattamも古典舞踊として認められています。 その他には、民俗舞踊劇のヤクシャガーナ、仮面劇のチョウなどがあります。

いずれの舞踊にもそれぞれ大きな特徴があり、それらは全く違うものと言ってもいいくらいです。そんな中でも共通する踊りの要素として、「ヌリッタ」と「ヌリティヤ」があります。 ヌリッタとは、特に意味をもたない純粋舞踊の部分のことで、歯切れの良いリズムを踏み鳴らすステップの集合です。 一方、ヌリティヤとは、手話の単語のような手のジェスチャーや、顔の表情などによって物語や情景、特定の神への思いや祈りなどを表す表現部分を指しています。

インド古典舞踊はこの2つで構成されます。演目ごとに、あるいはひとつの演目の中でも、ヌリッタとヌリティヤは明確に区切られ、切り替わり、踊られます。ある曲はヌリッタ中心、ある曲はヌリティヤ中心、またある曲は2つが交互に現れ、ミックスされた曲…といったぐあいです。



インド古典舞踊のひとつ、バラタナティヤムの手の型には、片手のジェスチャー(Asamyuta Hasta)が28種、両手のもの(Samyuta Hasta)が24種あります。この手の型のことをムドラーMudora 、またはハスタHasta と呼んでいます。 たとえば、右の2つのハスタは、左のものが、もっとも基本である「パタカ」、左が孔雀の意味をもつ「マユーラ」です。踊りの中で“孔雀に乗った”カーティケイヤ神を表す時には、この「マユーラ」のハスタによって、それを表現します。

ところで、密教ではムドラーのことを印相、あるいは印、密印と呼んでいます(左図:如来像の印相、来迎印)。使われる意味合いは違っていても、元は同じ処から来ていることを示しているのでしょうね。興味深いと思いませんか?
下のものは両手のハスタ「プシュパプタ」です。これは蓮の花を両手に持っているさまを表しています。


・・・つまり

バラタナティヤムのプログラムの多くで序曲として踊られる曲、プシュパンジャリPushupanjali の中などで使われます。プシュパンジャリは、手にした花を大地に捧げ、舞台の成功を祈願する踊りです。

いずれの舞踊にも共通する、もうひとつの特徴は、「神に捧げる踊り」という大前提です。主にインド舞踊は、寺院において神々に奉仕する女性(巫女:デーヴァダーシーあるいはマハリ)により受け継がれてきた、奉納舞のようなものでした。

踊りの中には、数々の神様が登場してきます。中でも、 インド舞踊にとって最も特別な神様は、踊りの神様ナタラージャNataraja 。つまりシヴァ神です。

    

現代のインドにおけるインド舞踊の位置づけとは、どんなものでしょうか。

寺院において神々に奉仕する巫女や、宮廷に仕える踊り子などにより受け継がれてきたインド古典舞踊は、長い間人々の前で踊るようなことはありませんでした。 一般に人々の前で踊られるようになったのは20世紀のはじめからのことで、ここでインド古典舞踊は再構築され、神々に奉仕する目的から、芸術的表現へ―― という本質的な転換が行われました。つまりインド古典舞踊は、その歴史は古いものの、ある意味現代的な舞踊なのです。

バラタナティヤム、オディッシー、クチプディなどの古典舞踊は舞台芸術として、新しい創作舞踊も行われ、現在進行形で脈々と歴史を刻んでいます。また女性によるソロの古典舞踊は、インドの上/中流階級のお稽古事としての位置ももっているようです。

そしてインドから世界へ飛び出して、アメリカや、フランス、日本で、インド古典舞踊は今日もレッスン、公演が行われています。

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