| 漂流37日から生還した武智さん あきらめたから、生きられた |
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1.自衛艦「あたご」と漁船には、通信手段がなかった
イージス護衛艦と漁船清徳丸衝突事故が連日報道されているが、報道内容は、自衛艦の誰に過失があったかなど、微細な衝突原因探しに集中している。しかし、防衛省、海上保安庁、各メディアのどれも、今回の衝突事故を誘発した海上通信制度上の問題に言及した例がない。
衝突を引き起こした誘因、それはイージス艦と漁船間には気軽に交信できる通常の通信手段がなかったことだ。もし、両船間で気軽に交信ができていれば、お互いに相手船をどのように認識しているか、あるいは気づいていないか、そしてどう回避すれば安全かを確かめあい、異常接近を未然に防ぐことができたはずである。その手段が現実には取れなかった。
船団を組んでいた4隻の漁船間では、常時無線交信していた様子が報道されている。これは「漁業無線」によるものだったと思われる。このとき、事故船である清徳丸は僚船の呼びかけに応答していなかった模様であるが、「あたご」も漁船の交信を傍受できていなかったようだし、漁業無線に呼びかけてもいなかった。
2.近距離船舶間の通信は、「国際VHF」が唯一の方法である
一般船舶(貨物、旅客など船種を問わず)には、「国際VHF」搭載が国際基準として定められ、当然自衛艦も装備していたはずだ。
これは高出力の業務用機種運用であるが、その他に、小出力(5W)のハンディタイプなどは、多くの国で無免許や簡単な手続きなどで手軽に保持できる仕組みを用意しており、プレジャーボートや小型漁船など、小型船舶もこの小出力型「国際VHF」を保持するよう奨励している。
モーターボート、ヨットなどのプレジャーボート数が日本の数十倍もある米国、自動車並に数世帯に一隻の所有率を誇るニュージーランドなどでは、ほとんどすべてのボートがVHF無線機を搭載しているという。
こうして大型船と小型の釣り船やプレジャーボート間でも、常時交信できる状態が守られている。
一方、日本では、海上保安庁がプレジャーボートに対して、“海の110番”として118番(電話)の活用PRに努めているが、これは本末転倒の啓蒙活動であはないだろうか。なぜなら、
第一に携帯電話は携帯海岸局からせいぜい10海里以内の沿岸でなければ通話できず、今回の事故現場のような野島崎から40km(約20海里)沖合では、“圏外”になり、使用は不能になる。
第二に、相手船の電話番号がわからなければ、船舶間の通信は元々不可能だから、携帯電話は一般的通信手段になり得ないのでもある。
毎年、小型ボートや小型漁船の漂流事故が発生しているが、その多くは携帯が圏外になると連絡できず、発見されるまで漂流するに任せている。もし「国際VHF」を持っていれば、水平線上に船影が見えさえすれば即座に救助要請できるのである。
世界中で、近距離海上通信は「国際VHF」に統一されている。ところが、日本では小型船舶が「国際VHF」無線を保持するのは厳しいハードルのために事実上禁止されているような結果になっている。
(この海難例については、同じ「海国日本・鎖国日本」の〈7.VHFと海難〉を参照されたい。http://www.geocities.jp/tiarashore/kaikoku7.htm)
多くの国ではプレジャーボートが国際VHFを持つよう奨励しているが、日本では持たせないように規制しているのである。
3.「国際VHF」とはどんな無線機か
「国際VHF」無線は、アマチュア無線や一般の無線機と違って、周波数を調整する必要がない。1〜88チャンネルまでが150MHZ帯で固定され、全船舶がその応答チャンネルである16チャンネルを航行中は常時受信する決まりで、スイッチを入れておく定めになっている。
チャンネルの選局はTVチャンネル選局と同様に、ボタンを押すだけでその周波数に固定され、交信技術はなにも必要ない。左は、国際VHFハンディ機。120ドルのもの。
16チャンネルに向かって呼びかければ、交信圏内の全船舶や海上保安庁がそれを受信するわけで、小出力型ハンディタイプでも海上で数海里程度の交信能力がある。
東京湾口、関門海峡など海上交通の要所にある海上交通センター(マーチス)は、空港の管制塔のような機能をもつが、マーチスと船舶との交信はすべて「国際VHF」でする決まりであり、全国のすべての海上保安部、保安署、巡視船も24時間、16チャンネルをワッチ(監視)している。
呼びかけた相手船が応答すると、例えば「6チャンネルに移動します」と伝えて、呼びかけ専用16チャンネルから離脱し、16チャンネルを短時間で空けなければならない。
マリンレジャーの先進国である米国の例を紹介する。
米国ではコーストガード(日本では海上保安庁に相当)が、すべてのボートは「国際VHF」を保持して、スイッチを入れておくように普及活動を続けてきた。航行中の事故、故障、怪我、病気などなにかサポートが必要なときはコーストガードを呼べば、必要な施設に連絡をとったり救助出動もする。また、民間サービスとしてVHFから一般電話に接続できるようになっており、ウェザーチャンネルでは常時、その海域の天気予報まで流している。
5Wの小出力機やハンディ機は、簡単な手続きだけで無免許で、誰でも自由に使用でき、マリン用品店で豊富な機種が約10,000円前後から安価に販売されている。その機種のほとんどがアイコム、ユニデンなど日本メーカー製なのである。
ところが、これらを購入して日本で使用するのは事実上禁止されており、見つかれば電波法違反で処罰される。
4.なぜ日本だけが、「国際VHF」を使わせないのか。
かつて、プレジャーボートが普及しはじめたとき、ヨット団体から運輸省(当時)に外洋ヨットに「国際VHF」を解放して欲しいと要請をだしたことがあった。それに対する運輸省の回答は、
「プレジャーボートがVHFを乱用すると、大型船の交信に支障を招きかねず、東京湾など海上交通の危険を誘発しかねない」であったと記憶する。
狭くて往来船舶が多い東京湾などでの事故の危険は、大型船と小型船のコミュニケーション不能状態での“行きあい”や“交差”にある場合が少なくない。
小型船同士の無用で冗長な16チャンネル交信などが起きたときには、ワッチしているマーチスや保安庁が即座に割り込み、交信をやめさせれば済むことである。事実、昨今では日本に来航する主に中国、東南アジア系の船舶が、16チャンネルで長々と会話することも起きており、そういう場合、ワッチ機関が叱責してやめさせている。
米国西海岸のサンフランシスコ湾には、東京湾とは桁違いに多数のヨットやモーターボートなどがあり、週末などはプレジャーボートが一斉に海上に出て、湾内を埋め尽くすような景観を見せる。しかも、そのすべてが「国際VHF」を所持しているが、そのために一般船舶の交信が不能になるなどの問題は起きていない。それらからみても、運輸省の禁止理由はまったく意味をなさないものであった。
5.屋上屋を重ね、有名無実になった「マリンVHF」
運輸省は、「国際VHF」解放を拒絶する一方で、新たなプレジャーボート用国内限定のVHF無線、「マリンVHF」を創設した。
これは機能を既存の「国際VHF」の中から、チャンネル数を減らしたもので、他に発信者符丁送信機能も付けそれで一般船舶への妨害を防ぐ措置としたという。
それは多くの国で、無免許や簡単な手続きで解放している小出力機の小改造に過ぎなかったが、これを保持するための条件として以下の規制を新たに設けた。
@.海上特殊無線技士3級資格の免許試験に合格すること。
A.「マリンVHF」機は、郵政省(当時)認定の国内機種しか使用許可しない。
B.「マリンVHF」無線局開設手続きをし、一定期間ごとの更新を義務づける。
C、いずれかの海岸局に加入登録をし、一定期間ごとに検査を受けること。
アメリカで100ドル程度で販売されている日本企業製「国際VHF」の機能を若干低下させただけの「マリンVHF」機は、194,250円(2008年)の1機種だけが販売されている。一方、安価な米国販売の日本製機種は使用禁止のままだ。しかも、その無線局開設には煩雑な申請手続きを求めたから、一般消費者には手続きもできず、費用も過大すぎてほとんど普及せず、2008年現在普及無線局は約2000局で、普及率は1%にも満たない。
もし、マリンVHFが広く普及していれば、(あるいは義務化されていれば)海岸局などこれを運営管理する国土交通省の外郭団体は莫大な収益源をもてるはずだった。無線機の異常なまでの高価格と各種免許と過剰な費用負担を義務づけたことで、もくろみとは逆にほとんど収益は得られず、このシステムは破綻状態に置かれている。
6.「国際VHF」解放が、衝突事故防止の第一歩だ
国際的にみても、東京湾周辺、伊勢湾、瀬戸内海など日本国内には海上交通の過密海域が数多くある。そのような海域で、船の大きさや異なった船種間での日常的な通信手段がないまま放置されているのは、日本だけではないだろうか。
イージス艦の見張り員から「漁船は避けて通ると思っていた」という告白もあり、それが海上衝突予防法に違反しているのではないか、海上自衛隊の士気がたるんでいるなども指摘もあるようだが、漁船が「国際VHF」を搭載しているとわかっていれば、まず16チャンネルで呼び出せば、問題は簡単に解決していたはずだ。船舶間の通信がないのが常態である“慣れ”の中で、推測で判断しミスが起きてしまったといえないだろうか。
もしお互いに「国際VHF」を持っていれば、こんな交信も可能だったのではないか。
「(16チャンネルで)こちらは、海上自衛隊護衛艦「あたご」、こちらは「あたご」。本艦から2時の方角に見える船舶は、漁船ですか。応答してください」
(もし清徳丸がVHFのスイッチを入れていれば)、
「はい、護衛艦「あたご」、護衛艦「あたご」。こちらは漁船清徳丸、受信良好です。どうぞ」
「こちらは「あたご」。チャンネル6に移動します。どうぞ」
「了解、清徳丸はチャンネル6に移動します」
「(チャンネル6で)こちら清徳丸、チャンネル6に移動しました」
「本艦は針路○○○度で、10.5ノットで航行中です。本艦から、清徳丸は2時の方角に視認していますが、貴船との距離は2マイルとみています。本艦の前方には、貴船の他に3隻の漁船がおり、回避がやりにくいので、清徳丸は左に30度針路変更し、本艦を右にみて通過できませんか、どうぞ」
「こちら清徳丸、本船からは「あたご」の緑灯が10時の方角に見えています。貴艦の要請了解しました。本船は30度左転し、針路を△△△度に変更し、貴艦を右に見てすれ違います」
(針路変更を確かめると
「清徳丸の変針を確認できました。ご協力ありがとうございました。清徳丸のご安航を祈ります。これで交信を終わります、さようなら」
「了解しました。貴艦のご安航を祈ります。さようなら」
イージス艦でのワッチ交代が行われたあとの、午前3時55分〜午前4時までの5分間に、このような交信が「国際VHF」で交わされていれば、他の3隻の漁船も当然、そのやりとりを傍受できるわけだから、正体不明で直進してくるのが実は護衛艦であり、護衛艦が回避動作をせず直進させて欲しいと要請していることもすぐわかるから、他の漁船は交信しなくても、当然すぐ左に舵を切って「あたご」が東京湾口に向かって直進するのに協力できたはずである。
逆に清徳丸から、正体不明の大型船?に尋ねることもできる。このままでは衝突危険が生じるが、貴船はどちらに回避するか、清徳丸はどちらにも対応できるので、回答してくれ・・・と呼びかけてもいいのである。
こういう安全確認とコミュニケーションが、日本国内では日常では困難なままに置かれている。
7.その他
新聞報道によれば、当初、僚船が漁業無線で呼びかけたとき、他船は応答しているが清徳丸だけ応答がなかった様子だ。これが事故前か事故後かが、確認できていないことを断っておくが、それもいささか不審な点である。他の3隻の僚船がいずれも針路をどけないイージス艦を回避しているのに、清徳丸だけが100m以内の至近距離まで一切針路変更をしていないと報道されている(本当は衝突まで変針しなかったのかもしれない)。その事情は不明である。
これまでの経験からいえば、護衛艦が海上交通法規に従って自ら回避動作をするのは、あまり見たことがない。だから自衛艦をみればすぐ遠ざかること。
次に、漁船。漁船は漁撈中はあらゆる船舶に対して優先権がある。それを拡大解釈してか、航行中でも他船に配慮する船は少ない印象もある。もっとも無法ぶりをみせつけてきたのは遊漁船。次に沿岸漁船。逆に、イカ釣りやサンマ、遠洋マグロ、鰹などの長期操業漁船は非常にマナーがよい。
他船を回避しない性行のある船種に対しては、法規やマナーを超越して早めに距離を離すのが、クルージング・ヨットの保身術でもある。
(2008年2月)
追記:このページが元になった新聞記事
*3月20日付 朝日新聞(全国版)はpdf へのリンクをクリック
*3月21日付 東京新聞は、.2.pdf へのリンクをクリック
*4月4日付 Herald Tribune International版(朝日新聞記事の転載)は、
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