「・・・さん、着きましたよ。」
 優しい声に、うつらうつらしていたカカシは目を醒ました。
 任務でもなれければ先ず乗る事の無い『豪華客船』はとても心地良い揺れを提供してくれて。
 殺気所か敵意の一つも感じられない旅がカカシの気を緩ませていた。
  「あ、済みません。私ったら・・・」
  自分の失態に頬が赤くなる。それに
  「良いですよ、疲れていたのでしょう。」
  強行軍ですからね。
 柔らかく微笑んで労ってくれる、大切な人。
  初々しい二人の姿に、同乗していた人々の口元にも優しい笑みが浮かんでいる。
 「忘れ物は無いですか?」
  優しく訊ねられて
 「はい。」
  こくん、と頷く。そして、そろそろと下船した。
   手を取られ、腰を支えながら。
 

 

  それは、一昨日の事であった。
「はい!」
 火影の、執務室。
 普段ならば厳粛なる空気の漂う其処に、カカシの素っ頓狂な悲鳴が響く。
「な・何で俺がっ」
「煩い。」
 泡食ったカカシに、火影の無情な一言が返される。
「仕方あるまい。」
 お主が適任なんじゃ
 無表情に言い切られて、カカシは頭を抱えた。


  その男の家は、元は結構な忍の名家だったらしい。
  今ではすっかり寂れ、普通の商人となった彼等にある日悲劇が訪れた。
 『一人娘の病』。急変する訳ではないが手術無しには長くは生き延びられない、それ。
 が、大した蓄えも無い、小商人には手術代が工面出来なかった。
 故に、最後の手段として代々伝わって来た『術式』を売り払う事にしたのである。
 並外れて強い訳でも無く血系限界を必要とする訳でも無いこの術は、それ故に『大昔に廃れた』術であり。
  しかし、その独特の構成から近年『研究者』によって注目されているモノであった。
 それをオリジナルのまま伝えていたのである、この一族は。
  文献その他で裏も取れ、この取引に応じる事にした木の葉は、其処で問題に突き当たった。
  その『術』を使えるのは既に一族の長老だけであり。
 かなり御高齢のその方は現在他国の…それも高官が訪れる様なリゾート地に家を構えているのである。
 おまけに、相手の体調から言ってこちらに出向いて来いとは言い難い状況らしい。


 「で、お主じゃ」
  何、周囲に木の葉の忍が来た事を気付かれぬ様にさえすれば大した危険もない
 その長老に会って術式を『写して』来るだけじゃ
 「だったら!他の人間だって良いでしょう。」
  態々俺が行かなくても、幾ら複雑って言ったって安全に『写せる』のなら他の上忍でも良い筈っ
  そう、叫ぶカカシに
 「ほぅ、本当にそれで良いのか?」
  意味深に火影が笑った時
 「失礼します。」
  新たなる人物が、登場した。        

 

  数ある忍の里の中で、態々木の葉に取引を持ちかけたのは近隣であったからだけではなかった。
 嘗て、その長老は『木の葉の忍』に助けられた事が有り。その『忍』が指名の取引だったのである。
 その忍の名は『うみの』。…亡きイルカの祖父であった。
  と、言う訳で火影をして『隔世遺伝の象徴』と言わせたイルカが代りに取引する事となった訳で。(勿論先方には打診してある。)
 そして他目を避ける為、『旅行客』を装うとなった時…イルカが指名したのがカカシだった訳である。
 何故なら、その地は
有名な新婚旅行先なのだ!
 …イルカがナニを考えたのかは、言わずもがなであろう。
 そして、珍しく我侭を言うイルカに、里長がほだされ。
  任務が、決まった。


 「済みません、カガリさん。」
  俺が無理を言ったばっかりに 体キツいのでしょう
 「いいえ、イカリさん大丈夫ですわ。」
  『夫』の気遣いに『新妻』は気弱な笑みを浮かべる。
 そう、今は『夫』と『妻』なのだ。
  …イルカとカカシは。
 つまり、そう言う事だった。
 「済みません。」
  済みませんの色合いが変る。
  長老が覚えているのは「うみの」の祖父。幾らそっくりでも女体化したイルカでは確認し難かろう。
 何より『初めての海外で戸惑う物知らずな妻』は微笑みを誘っても
 『初めての海外で珍妙な事をやらかす夫』は悪目立ちする可能性があった。
  故に『妻』なのである…カカシ、が。
  はたけカカシ26歳。 バリバリの戦忍人生を歩んで来た末に。
  初めての『恋人』の『妻』として潜入任務付きの『お泊り旅行』に来たのだった。

  南国の楽園へ、と

 
   続く
 

  イメージはハワイ…