「原子炉を緊急停止!キングストン弁を開け、着底させる。」             
「艦長……」                                   
CIC内からざわめきが聞こえる。                         
「相手の手にこいつが渡っても暫く…最低でも数カ月は…動かせない、我々にとってこの馬
鹿げた戦争は、もう終わったんだよ。」                       
戦闘艦艇の頭脳を沈黙が支配する。                         
「……が着艦を求めていますどうしますか?」                    
「済まないもう一度言ってくれ」                          
僅かな意識の空白で聞き逃した通信員の報告を聞き返す。               
「統合軍の救難ヘリです、医師と医薬品それと…海軍第4艦隊司令です。」       
「さっきの命令は撤回する、各員復旧作業を最優先とする」              
フライトッデッキに上がる副長!君がここの指揮を取れ!そう言い残すと彼は、フライトッ
デッキへ出て行った。                               
武装ヘリに先導された五機の中型輸送ヘリの内一機は、甲板へ着艦すると同時に機体側面の
ドアから荷物を下ろす、その荷物の山の間から将官と海軍中佐章を付けた副官が現れた。 
「この船の艦長は、どこに居る?」                         
呼び掛けられた士官が無線機で艦長を呼び出そうとしたその時後ろから探していた人物が現
れた。                                      
 
一機のT−4…構造が単純あるが故に機械としての信頼性の高い練習機が教科書どうり着陸
する、滑走路北端から2番タクシーウエイを通りハンガーの前でエンジンを停止させてから
キャノピーが機体正面から見て右側へ開きパイロットが降りてくる、それを見ていた何人か
の地上クルーが機体とパイロットに向かって走って来る。               
「調子はどうですか?大尉」                            
この機体ではなく本来の愛機…作戦中に失ったF−4、そして新たに配備されたF−14の機
付き整備長が問いかけてくる。                           
「まだ感が取り戻せない、機体に飛ばしてもらってるような感じがする」        
「あれから二週間たってるんですよね…」                      
「ああ…」                                    
クーデター軍の補給物資投下を阻止する為の作戦でSAM(地対空ミサイル)に撃墜され機
体から脱出した時の事が脳裏に浮かぶ、操縦の何処かに恐れを感じている。       
「午後からトムキャットで飛んでみる」                       
そう言うとロッカールームへ向けて歩いて行った、汗でびしょびしょに濡れたフライトスー
ツと下着を脱いで替えの下着と作業用のつなぎを持ってシャワー室へ行き熱いシャワーを浴
びる。                                      
「大尉、カーター大尉!司令からで第三中隊はブリーティングルームに集合だそうです」 
「直ぐにブリーティングルームに行く」                       
ブリーティングルームに艦載機のパイロットと機体によって搭乗するナビゲーター、整備兵
合わせて50人近い数が集まっていた。                       
「クーデター軍の機動艦隊の一部が行動を開始した、現在敵機動艦隊は沿岸を哨戒中だがモ
コナのロケット打ち上げ基地とスカリー諸島の海軍根拠地の奪還作戦を阻止する為に南下す
る可能性がある以上我々としてはほかって置けない、奪還作戦の支援と敵艦隊撃破ため海軍
の機動艦隊へ部隊の一部を派遣することになった、受入先は第4艦隊旗下で艦隊再編成が終
わった第52任務群の空母セントアーク、向こうの受け入れ準備は三週間以内に完了する、
それまでに第三中隊のパイロットは全員空母着艦資格をとってもらう、以上解散」    
パイロット達が次々と席を立ち各々何処かへ行こうとする。              
「傷は、大丈夫か?」                               
「生きて帰って来れたな、また暇な時に飲みに行こう」                
何人かの顔見知りのパイロットと話している時に部隊司令から声を掛けられた。     
「済まないが後で部屋に来てくれ」                         
気軽な話し方だが命令だった。                           
ドアをノックすると中からどうぞと声が聞こえて来た、部屋の中に入り扉を閉める。   
中に司令のシュナイター少将と見かけない顔の空軍将校が立っていた。         
「空軍からの御指名だ」                              
「指名ですか?」                                 
「第774戦闘爆撃隊参謀のパーシングだ手短かに説明する、二週間後に空軍単独の作戦と
して行われるスーフィールド航空機工場奪還作戦の護衛で参加して欲しい。」      
「護衛だけなら空軍機だけで充分では?」                      
「この写真を見て欲しい」                             
通常の機体とカラーリングの違うF−16二機が写っている…             
「何年か前に解隊された海軍第二戦技研究隊の保有機だった機体だ、乗っているパイロット
は、クーデター軍の傭兵で二人ともかなりの腕利きだ」                
「この二人の撃墜…それが目的か!」                        
「こちらも前線部隊への航空支援やCAP(戦闘航空パトロール)で割ける機体が無いが最
大限の支援を約束する」                              
 
左右の可変翼の付け根に取りつけられたランチャーに整備クルーの人力で四発のAIM−9
Lを取り付けIRシーカーの安全装置が外される、機体下の半埋め込み式のハードポイント
のAIM−120BアムラームへFCSから接続信号を送る。             
「空気を送れ」                                  
スターターが無いF−110へ外部機材から圧縮された大気を送り込む。エンジンスタート。
車輪止めが外されたのを確認しタキシング、基地の58B滑走路――北から東側へ58度斜
になった二本の滑走路の西側のそれ――の北側から離陸を始める、800メーター程の滑走
で機体が浮き上ると同時に車輪を収納しABをカット、巡行速度で空軍機との合流ポイント
へ向かう。                                    
                                         
「3時の方向に四機編隊の空軍機、トーネードの編隊だ、更に四機接近中」       
「03エッジより01へ確認した」                         
編隊の中一機が翼を振る。                             
前後の護衛機八機に囲まれた攻撃隊が中高度…約五千メートル付近から目標へレーザー誘導
爆弾を投下し目標を破壊、戦果を確認する為に偵察ポッドを装備した偵察機が目標上空を二
回通過それを確認したら帰投、敵が迎撃しなければ遊覧飛行と同じだ。         
「今回は楽に終わりそうだな」                           
「楽に終わって欲しいですよ」                           
表面上は気楽な会話だったが何処かで戦う事に恐れを感じているのが判る、今まで意識しな
かった恐怖…今は戦闘中だ、落ち着け落ち着くんだ、そう自分に言い聞かせる。     
 
幹線道路を改造して作られた滑走路脇の倉庫――数年前から借り手が付かず放置されていた
――の中から二機のF−16が引き出されてくる。                  
「目標は爆撃機か?」                               
「BかDタイプのトムキャットで明るい灰色、垂直尾翼に赤いフェニックス」      
「例のやつか?」                                 
そこへ空中待機の編隊から無線で連絡が入る。                    
「敵編隊が防空圏内へ接近、付近を哨戒中の機体は迎撃をお願いします」        
 
レーダディスプレイ上に敵迎撃機の姿が写る。                    
「ドラグーンリーダより編隊各機へドロップタンクを捨てろ手荒い歓迎が来るぞ!」   
「スターダストリーダーよりドラグーンリーダあの四機はこちらで処理する。」     
空軍の付けた護衛部隊のユーロファイターが加速し編隊の前でふた手に別れる。     
「02今ロックしたFOX2シュート」                       
「03リード後ろに29右、右に旋回しろ!」                    
「リード02応答しろ」                              
「02今援護に回る」                               
ユーロファイターと敵部隊との交戦空域から離れた所で攻撃機を護衛しながら他の敵が接近
して来るか監視を続ける。                             
時折無線から味方機同士の会話が入り防空部隊を押しているのがわかった。       
「スターダスリーダーよりクルナス05へ目標付近の敵航空兵力を排除、くり返す排除した
ショータイムだ。」                                
濃緑の機体が目標物…クーデター軍が制圧している航空機工場の変電施設へレーザー誘導爆
弾での爆撃を開始したその時だった。                        
 
急上昇と同時にサイドスッティックの操縦桿を握る手に力が入る、レーダ上で目標――工場
から少し離れた所を旋回している小型機をロック、イヤホンから電子音が連続して聞こえる
中距離ミサイルを発射し誘導する為敵を追い続ける、HUDのカウンターのカウントがゼロ
を目指し時を刻みはじめた。                            
 
コックピット内に合成音声の警告音が響く、重力に逆らい一瞬首を後ろへ向けスロットルを
わずかに緩めチャフ/フレアポッドのボタンを押す、クソまだ食らい付いてくる。    
 
何キロか先を二機の戦闘機が通り過ぎる。                      
「フルシステムロックいつでも殺れるぞ」                      
「まだだ、スターダストリードを助ける」                      
「スラッシュよりリーダー、ワゴンホイール、九時からのもう一機食らい付かれるぞ!」 
左へ旋回している機体を一度水平にし垂直に上昇、機体の下を機銃の弾が通り過ぎる。  
「スラッシュよりドラグーン例の傭兵様のお出ましだ」                
 
レーダースコープ上から赤いドットが一つ消える、ミサイルが命中した証拠だった。   
しかし目でそれを確認していない…そのとき地上からの無線連絡でこの作戦での目標が現 
れたことが分かった。                               
 
「殺れ、今なら落とせる。」                            
「まだだ…FOX1を二発連続で発射する」                     
操縦桿のミサイルボタンを二回ゆっくりと押す、機体中央部に二本づつ前後左右に並べて装
備されていたミサイルが機体から離れると同時にロケットモーターが作動、ターゲットの一
つである黒い小型戦闘機へ向かう。                         
 
「アムラームだ!かなり厄介な物を持ち出してきたぞ」                
レーダー警戒装置からの警告音がイヤホンから聞こえる、ECMとチャフがまったく効かな
い。                                       
「トールマン落ち着け!サイドワインダー程素早い訳じゃ…」             
一発は回避した、二発目が見える――こっちに向かってくるミサイルは点にしか見えないの
か…                                       
 
「早い!糞この機体じゃ追従できない」                       
「いったん離れてBVRに…」                           
「莫迦野郎!爆撃隊がまだ残ってる」                        
バックを取れたが動きが素早く射撃体制に入れない、ヘルメットの中に断続的にトーンが聞
こえる、息が苦しくなり視界が少しづつ狭まってくる。                
「スラッシュいったん離脱して」                          
無線からの声でスロットルを緩めエアブレーキを開く、機体をロールさせて緩やかな左旋回
でその場を離れた、あのパイロットかなりの手練だがまさか俺と同じ…         
 
「04右だ右に旋回して」                             
「敵が見えない」                                 
「04が追われてる」                               
頭で考えるより先に身体が反応する、レーダーモードを確認しスロット、フットペダル、ス
ティックを操作し機体を敵に向ける。                        
 
僅か0.5秒の機銃射撃…機体内の配線や油圧パイプ、コックピットに座っている人間が引き
裂かれそれから戦う力を奪い取る。                         
一瞬の判断で機体を上昇しながら左旋回させキャノピーの上を見る。          
「来たか…」                                   
HUDで武装を確認、中距離ミサイルが一発、短距離の赤外線誘導のそれが四発、激しい 
ドックファイトに備えセレクターをFOX2へあわせる二機の戦闘機が絡み合うように接近
しシザース機動へ双方が旋回時に微妙にラダーを操作しお互いに優位な射撃体制を取ろうと
する。                                      
 
「レーダーモードチェック」                            
「チェック、キャプテン何時でも打てますぜ」                    
フライトオフィサーが答える、いったん上げたヘルメットのバイザーを再び降ろしマスクを
確認、異常が無い。                                
「もう一度行くぞ!」                               
「ドラーグン、スラッシュ助太刀に行くぞ!」                    
HUDの照準の中に四角いコンテナが写る、ロックオン。               
一発目のミサイルを発射しカウントダウンが始まる命中まで35秒           
「ドラーグンブレーク、後は任せる」                        
「了解した任せてもらう」                             
19…18…もう一発ミサイルを発射した。                     
 
トールマンが殺られたのもこいつか、ミサイルの接近方向を確かめセンサーの探知範囲外へ
逃れる為ギリギリまで引き付け右旋回、二発目が接近わずかに降下させながらチャフを三度
放出しその影に隠れるように左旋回、機体下方向へ抜けてから爆発しその破片が機体を貫 
く、左主翼のフラップ右主翼の燃料タンクと兵装配線、エンジンユニットの制御関係の警告
灯が点灯反射的にフェイスカーテンを降ろしキャノピーを飛ばすと同時に轟音、意識が深い
闇の中へ落ちて行く、再び光の注す事の無い闇の中へ…                
 
 
 
 
 
 


 NEXT MISSION MISSION13
TOY BOX