あるキャリア官僚の没落 2009−2−14
井 上 浩 芳


警察庁のキャリア官僚が暴行容疑で送検された。
昨年の暮れ、成田空港で150cc入りの化粧水容器をとがめられ、プラスティック・トレ−を投げた容疑である。

この事件から、キャリア官僚のありようが透けて見えてくる。


事件の概要 <サンスポ 2009.1.23 電子版を一部転用>
成田空港で昨年末、手荷物検査担当の女性に「県警本部長を呼べ」などと暴言をはいて検査用トレーを投げつけた警察庁キャリア・人事課課長補佐、増田貴行警視(36)が22日、千葉県警に暴行容疑で書類送検された。また警察庁は同日、停職3カ月の懲戒処分にし、増田警視は辞職した。
警察庁などによると、増田元警視は昨年12月24日午後0時7分ごろ、成田空港の手荷物検査場で、150cc容器入りの男性用化粧水を持ち込もうとした。
30代の女性検査員が持ち込み禁止を説明したところ、「警察庁の警視だ」と名乗り、 「警察官だから持って行ってもいいじゃないか」「千葉県警本部長を呼べ」などと暴言を吐いたうえ、検査対象物を載せるトレーを放り投げた。トレーは女性検査員の肩や足に当たったが、けがはなかった。直後に男性官僚は県警空港警備隊などから任意の事情聴取を受けたが、逮捕はされず、そのままドイツへ出国していた。
女性検査員に対しては、事情聴取後に「申し訳ありませんでした」と謝罪したという。
警察庁は「職権乱用と受け取られかねない要求や暴行などの規律違反は、警察に対する信頼を失墜させた」と懲戒処分としたが、制裁理由はそれだけに収まらなかった。
増田元警視は、ドイツ行きの飛行機に搭乗しようとしていたのだが、一緒にいたのは20歳代の独身女性。増田元警視にはTBSの警視庁担当記者である妻がおり、一部で「不倫旅行」と報じられた。
同庁が事情聴取したところ、2人ともドイツに行ったことは認めているが、「(ドイツの)空港で別れており、規律違反に該当する不適切な性的関係はなかった」と釈明したようだ。
しかし、同庁は「外形上疑いを持たれてもしかたない行為をしたことも考慮の上、処分した」としている。
                       

警察庁では、内規で海外旅行の届け出が義務付けられているが、この警視は届けていなかったという。

増田貴行(36) 
 ・慶応大学経済学部卒
 ・東芝入社原子力営業担当1年で退社
 ・国家公務員試験1種受験複数回落ち浪人
 ・やっと合格2000年警察庁キャリアで採用
私立大学の経済学部から警察官僚になった珍しい経歴である。

警察官僚階級
警視総監; 警視庁長官 管区警察局局長 警視庁のトップ
警視監; 道府県警本部長 方面本部長 警察本部長
警視長; 道府県警本部長 方面本部長
警視正; 道府県警本部長 大規模警察署所長 警察学校長 警察署長
警視;  本部の課長 警察署長 副署長 本部の次長等 署の課長
警部; 本部の課長補佐 署の課長等
警部補; 本部、署の係長
巡査部長;  本部、署の係員 主任
巡査長;  本部、署の係員 指導係員
巡査;  巡査


キャリア官僚と呼ばれ国家公務員は、将来の省庁の幹部になるべく採用された官僚である。緻密な育成システムでお召し列車に乗って昇進し、その中から選ばれた人が官僚のトップである事務次官に上り詰める。不幸にして上り詰めなかった人でも、天下りや渡りを重ねて生涯給料5億円ほどが保証されるという。
50代の前半に事務次官になる人が出る前に、同期で入省した全てのキャリアが退官する。だから、天下り先が必要なのである。更にその天下り先でも長年頑張られると糞詰まりになるので、別な行き先に移る。これが渡りである。いま、国会で天下りや渡りの禁止が議論されているが、これが禁止されるとキャリア制度が根本的に崩壊するとの議論がある。即ち65才までキャリア全員が本省で勤め上げると、その分、本省での人件費(給料)がかかるのと、人事の若返りが計れないからである。


実際は最後まで本省で勤め上げて貰うほうが、ト−タルの経費(税金)は安くなる。次官まで勤め上げた人を含め、全てのキャリアは、天下りや渡りを繰り返すが、天下りや渡り先での高給で生涯給料が飛躍的にアップするのである。更に、後輩が 天下り先に便宜供与する事で税金のムダ使いになっているのである。
かっては、天下り先を作ることが本省課長の仕事であった。一つ作る毎に課長の評価が上がった。そして、今では天下り先を世話することに、仕事の半分以上も勢力を割いているというから恐ろしい腐敗官僚天国である。



生涯給料が5億円を保証できなくなれば、国家公務員に優秀な人材がこなくなる恐れがあるという説がある。この考えはもっともであるが、昔と違って、高給の生涯給料を保証して、きて貰うほど、国家公務員が優秀である必要はない。
優秀と言われるキャリアが900兆円近くの財政赤字を作り上げ、インチキな年金システムを作った。アメリカのポチと化した外交。どれをとっても、日本の官僚システムを根本的に変えないといけない時にきている。
一般の企業では、同期が昇進した後、全て退職することは考えられない。トヨタに52才の社長がに出現するが、それ以上の人が退職すれば会社は成り立たないであろう。


明治維新では、日本国を再生するために国を背負って立つ官僚の育成が急務であった。そのために帝国大学を各地に設立した。なかでも東京帝国大学はその中心であった。
第2次世界大戦に敗れ憲法が変わっても、官僚システムは殆ど変わることがなかった。


入省すると、将来の幹部になるべく色々な部署を渡り経験が積まれる。20代後半で地方の署長や所長を経験する。問題のない署や所が選ばれ、実務全部はベテランの副所(署)長が取り仕切りる。50−100人の職員のトップとなり、また地元の名士とつきあい、威張る練習を身につける。将来、省の幹部になったとき、国家国民の上に立つに相応しい練習を積み上げるのである。勿論海外留学も経験する。
このようにしてキャリア官僚は、最低限本省の課長になることが保証されている。


本省の課長ともなると、色々な場で、「政府と致しましては・・・」と答える。こんな事が言える力量と度胸を、若い内に身につけるのである。


恐らく、問題を起こした人物も40才代でどこかの警察本部長になったであろう。
たったトレイを投げただけで(相手に傷害も与えなかったが)これらの輝かしい将来を棒に振ったのは、非常に残念だろう。
ただ、警察庁の幹部の見方は違っていた。機内持ち込みが100ccと制限されているのを、150cc持ち込み、その事をとがめられると、私は警察庁のキャリアである、千葉県県警本部長とは知り合いである、本部長を呼べと叫んだ。警察なら規則が歪められるといわんばかりの態度であった。 全ての人は法の下に平等である。しかもその法を執行している人が、丸で特権的存在の振る舞いをしたのが問題である。
トレイを投げたとは、警察で容疑者を取り調べるときの様子を彷彿とさせる。今後密室の取り調べがえん罪をうみ、裁判員制度の始まりと共に警察の取り調べでも可視化しようと言われているが、日本の玄関でこのような振る舞いをしたのであるから、警察庁幹部も慌てたのだろう。



この男は、懲戒処分を受けて辞職したが、警察一家で天下り先が世話されるだろう。警備保障会社、信号機メ−カ−、青少年防犯協会、交通安全協会など、天下り先にはことかかない。


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