エレベ−タ−死亡事故 2006−−12
井 上 浩 芳


東京都港区の公共住宅(23階建て)で、エレベ−タ−が突然動き出し、都立高校2年の男子生徒が、エレベーターに挟まれて死亡する事故が起こった。エレベ−タ−の外側・内側両方の扉が空いた状態でかご(搬機)が上昇したのである。メインテナンス会社の担当者が操作しても救出できず、東京消防庁のレスキュ−隊が、エレベーターの床と12階の天井の間を器具で押し広げて救い出したが、既に死亡していた。
このエレベ−タ−はスイスに本社のあるシンドラ−(Schendler)という会社製のもので、生産は中国の重慶で作られているという。


この会社は、世界的に見ると、マ−ケットシェア−が2番目に入る有力な会社であるが、日本ではシェア−が1%以下の後発会社である。競合よりも20-30%ほどは安いので、入札もので有利で公的建物に多く使われているという。
ところで、この会社の製品は、ニュ−ヨ−クや香港で死亡事故が起こっており(NYでの大学生死亡事故では17億円の補償金を支払ったという)、わが国でも、ドアが開いたまま動き出すなどの 異常な動きをするのが何百件と起こっていて、今回事故が起こったエレベ−タ−でも、トラブルが何度かあったと伝えれれている。


シンドラ−社は、今回の事故は製品そのものの問題でなく、定期点検とメインテナンスの問題といって逃げるつもりらしい。また、今の時点で、少しでも自社に不利な言動が、その後の裁判を不利にすることから、当初は一切マスコミにも語らないし、被害者にも謝罪しない 欧米メ−カ−らしい振る舞いであった。
ここは、刑事・民事両面から徹底的にこの会社を糾弾すべきである。

一般に、製造物に対しては、メ−カが無償修理する保証期間がある。この期間が切れると、メ−カはその製造物に対し、責任が全くなくなると考がちであるが、これは間違いである。保証期間とは、その製造物が故障したときメ−カの費用負担で修理する期間のことであって、保証期間が切れても、その製造物に対してのメ−カ責任は免れない。メ−カはその製造物に対しての使い方やメインテナンス、サ−ビス方法などを使用者に提供しなければならない。メ−カが指示する範囲内での使われ方やサ−ビス、メインテナンスを実施していても故障したらば、その責任はメ−カにある。これが、製造物責任を定めたPL法(Products Liability、製造物責任)の理念である。
例えば、製造物が中古で転売され、使用先で正しいメインテナンスが行われていなくて事故・故障を起こしたとき、マニュアル類が新しい使用先に引き渡されなくて、使用先ではメ−カからメインテナンス方法を知らされていなかったということで、その事故責任はメ−カに着せられる恐れがある。この為にメ−カは自衛上、その製造物にメインテナンス要領をリベット止めしておくのである。
今回の事故がメ−カの指示するサ−ビスやメインテナンスを実施しておらず、それが原因での事故なら、その責任はメインテナンス請負会社の責任であるが、サ−ビスやメインテナンスのマニュアルがずさんであるなら、サ−ビスやメインテナンスに起因しようとも、事故の責任はメ−カにある。


エレベ−タ−には油圧式もあるが、ケーブルを使ってかごと錘(カウンタ−ウエイト)をツルベ式に吊るして、それを上部のモ−タ−で駆動しているのが一般的である。この方式では、ケ−ブルが切れると、かごが奈落の底に落下する。このため、エレベ−タ−は、定期点検され、さらにその動きを電話線を使って常時監視しているものが多い。
ケ−ブルはドラムに巻かれ駆動されている。という事は、ケ−ブルには曲げ応力と引張応力の両方の応力が働く。さらに撚った細線(Strand)間で滑りが発生し、ケ−ブルの細線が摩耗する。これを放置すると細線が切れ、それがケ−ブル全体の切断につながる恐れがある。したがってエレベ−タ−の監視・メインテナンスではケ−ブル点検が重点項目になっているのである。
数センチのケ−ブルは、何本もの細線を撚ったものからできている。
ケ−ブルが撚られたものでなく、同じ径の棒でできていれば、ドラムに巻きつけるとき、とんでもない曲げ応力が働くだけではなく、曲げ加重も大きくなる。ケ−ブルは撚られた細線からできているので、曲げ荷重や曲げ応力が小さくなるのである。ケ−ブルが曲げられたとき、ケ−ブルの細線間で若干滑ることで、曲げ加重や応力を軽減しているのである。ここがケ−ブルの真髄である。この細線は細いほど、強度はあがり、ドラムに巻かれた時の曲げ応力は小さくなるが、摩耗に弱い。
ケ−ブルは稼働の都度、曲げ応力が発生するが、金属(鉄鋼材料)が、180度以上もの曲げの繰り返しで使われることは、ほかにはない。したがって、ケ−ブルは比較的低回数で疲労破断する(Low Cycle Fatigue)。だから、ほかの使われ方のように100万回や1000万回以上の繰り返しで使われるのでなく、10万回やそれ以内でケ−ブルを交換する。


ところが、今回、救出後に隊員が駆動電源を切ったところ、ブレーキがかかっていたにもかかわらずエレベーターは上昇を始め、徐々に加速して天井近くに衝突したという。
かごの重量よりも錘(カウンタ−ウエイト)の方が重たく設定されているので、ブレ−キがきかなかったために上昇したのである。
ブレ−キとコントロ−らの不具合両面から警察の手で調査されているが、今回の事故の原因を大胆に推定すると、ブレ−キ事故と考えて間違いないと思う。
ブレ−キパッドの摩耗が大きかったし、ケ−ブルのオイルが付着していたという。ケ−ブルは細線の摩耗を少なくするためにオイル(グリス)を塗布しているが、このオイルが飛び散ってブレ−キ部に付着したらしい。


エレベ−タの定期点検ではケ−ブル関係の測定やチェックに重点が置かれており、ブレ−キについては目視だけで済まされてきた。このことが最大の問題である。今まではブレ−キにまつわるトラブルが皆無であったことからこのようなことになっていたが、かごを停止している状態では、ブレ−キがそれを保持している構造であることから、現状の定期点検や構造そのものに信頼性が欠けるシステムと言わざるを得ない。


自動車では、車検時、ブレ−キ点検が重点チェック項目になっているが、エレベ−タ−では目視チェックだけで済まされているのは人を運ぶ機械に対するチェック体制としては大問題である。
さらに、クレ−ンの点検資格があればエレベ−タ−のサ−ビスやメインテナンスが実施できるが、クレ−ンよりも後でできた機械だからといって、これはお粗末である。
この際、エレベ−タについても自動車の車検制度にあたる公的な検査体制が必要だと考える。そして、ブレ−キについては、パッドの減り具合は勿論のこと、ブレ−キ力も測定し良否を判定すべきである。
また、構造的にも、ブレ−キを独立したダブル構造するか、今のブ−キ構造に加えて、それを補完する補助ブレ−キが必要と考える。


多くの人が日常普通に使っているエレベ−タである。国土交通省の監督責任が問われている。


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