コ リ オ リ の 力 2003−6−12
井 上 浩 芳


今から50年ほど前、中学の社会科の先生(女教師)が、アフリカと南アメリカとは海岸線がぴったりと重なると話していたのを思い出す。ドイツの気象学者ウェゲナー( A. Wegener )が1915年ごろ大陸移動説を唱え、1950年に入って、学会でも認められ出した頃である。この大陸移動が地震発生のメカニズムとも繋がっており、私達の実生活にも身近な関心となっている。ウェゲナーが唱えた頃は、こんな重たい大陸が動くわけがないと、世間の物笑いだったのが、今では誰もが知っている地学の知識になっている。
さて、もう一つ地学の知識で、あまり馴染みがないが身近なものに、
コリオリ(Coriolis)の力がある。
このコリオリの力を平易に説明し、私達の身近な気象にどう絡んできているか述べてみたい。
注 記; 更に詳しく知りたい方は、Yahoo等で’コリオリの力’と入れて調べて戴きたい。
http://homepage2.nifty.com/eman/analytic/coriolis.html
には、この力の計算式が出ている。


コリオリの力とはどのようなものであろうか。分かりやすい例で説明しよう。
今、赤道から真北に向う飛行機があるとする。地球は東方向に自転(回転)しているから、この飛行機は北方向の速度と共に、地球の表面と同じ東方向の速度(周速)を持っている 。

注 記; 赤道上での地球表面の周速は簡単に計算できる。
赤道上での地球の円周長さは 4万kmであり、地球は24時間で1周する。
したがって、赤道上での周速は;
40000,000 /(24*60*60) =463m/s
となり、音速 (1気圧、15℃で約320m/s) よりも早い。

余録1 地球の極から赤道までを1万mとして、長さの単位1mを決めた。そして、長い間、フランスにメ−トル原器があったのは案外知れれていない。昔はメトリック単位をContinental Unitsと呼び、それに対しヤ−ド・ポンド単位をEnglish Unitsと呼んでいた。

余録2 その昔、技術系の入学試験に
「この答案用紙を使って地球を覆うとすれば、何枚必要か求めなさい。但し表面の山や谷はないものとする。」
という問題が出た。
これを解くには、まず、地球の面積を知らなければならない。 それには地球の半径と球の面積を求める計算式を知らなければならない 。
地球は一周が4万Kmであるから、半径(r)は40,000Km=2π*rで求まる。
球の面積は、4πr*r (4パイrの2乗=酔っぱらいにルル2錠と、覚えておけばよい)
次に、答案用紙の面積を知る必要がある。スケ−ル持ち込みなら簡単であるが、なければ縦と横の長さを目測する必要がある。技術系をめざすなら、それぐらいは、正確に目測出来ないといけないと、問題作成者が考えたかどうか分からないが、紙のサイズというのは規格で決まっている。
Aサイズは、A0の面積が1平方米(1u)ときまっている。答案用紙がA4なら、その面積は1平方米(1u)の1/16である。また、答案用紙がBサイズだと、B0が1.5平方米(1.5u)でスタ−トし、B5だと、その1/32の面積である。
これで、計算尺(今では電卓)があれば、簡単に計算できる。


余録3 紙のAサイズは国際的に通じるが、Bサイズは日本独特の規格で、長い間、霞ヶ関から市町村の役所で使われてきた。しかし、行政も民間で広く普及しているAサイズに切り替えているようである。私はAサイズに慣れ親しんできたので、Bサイズを見るとお役所仕事と見えてくる。
アメリカでレポ−ト用紙として広く使われるのは、A4に近いがインチ系で、縦はA4より短く、横はA4より若干広い。レポ−ト用紙に使うとA4の縦長より上品に見える(これは私の主観であるが)。
ところがそれを倍につなぐと、大変な縦長になる(長手方向が長くなる)。AサイズやBサイズのように、1:ル−ト2(√2)になっていないからである。だから、アメリカではこのA3相当のサイズがあまり使われていない。我が国の企業ではA3用紙を使って、自社の製品と競合の製品とを比較し、商品企画をするのが普通である。我が国では競合を徹底的に調べ上げ、すぐにそれの上をいった製品ができあがるが、アメリカではむしろ他社に類似の製品を作ることは恥で、独創的なものを世に出したいとの思想(商品哲学)がある。紙のサイズが商品企画のやり方まで影響を与えた一例だろう。

さて、この東方向の周速を持った飛行機が、北へ飛べば、緯度が上がった北での地球の周速は、赤道上での周速より小さい。
飛行機が真北に飛んで地球の周速が小さいところに行けば、飛行機は地球の自転(回転)よりも先に行くことになる。即ち、真北に飛んだ飛行機が東にそれるのである。これはコリオリの力が作用したためである。

図で説明する。
地球の自転で、単位時間後ABの距離を回転するとする。A点から真北C点に向かった飛行機は、単位時間後、北方向にはACの距離を飛び、東方向には地球の周速を受けてABの距離を飛ぶ。そしてE点に着く。
B点から見た真北はD点である。飛行機はE点まで進んでいるので、真北に向かったが、DEだけ東(右)にそれたことになる。
この東にそれたのはコリオリの力が働いたと見なすのである。
別な形で説明する。
飛行機が北極から赤道上の、あるタ−ゲットに向かったとする。左図のように飛行機は絶対座標からみると目標のル−トを飛んでも、地球が東方向に自転しているから、地球上からみると、飛行機はタ−ゲットよりも西にそれたことになる。

この力は、半球では北に向かうと東方向に働く。南に向かうと西方向に働く。北半球では右にそれるのである。一方南半球では左にそれる。
この力は、円運動するときに働く遠心力と同様、架空の力である。地球の様に球体(円錐など、先が萎んだ物体でもよい)で、それ自身が回転しているときで、その表面を移動したときに働く力である。
このコリオリの力の影響で、台風が渦を巻き、海流やジェット気流、貿易風が生まれるのである。


今年も台風シ−ズンがやってきた。台風4号が、5月としては何十年ぶりかで本土上陸し、5号も近海を通過した。我が国では毎年数個の台風が本土上陸して、風や雨・高波などによる被害を与える。
いったい、
台風はどのようにして生まれ、渦を巻くのであろうか。


<2002-8-17 21:00>


台風は地球規模の熱機関である。平均的な台風の持つエネルギーは広島、長崎に落とされた原子爆弾の10万個分に相当する巨大なものである。
そのエネルギ−源は、太陽に熱せられて上昇する湿った上昇気流である。モクモク立ち上る入道雲が熱源である。熱帯地方ではこの上昇気流が激しすぎて、その日の内に雨(スコ−ル)となって落ち、エネルギ−が解消される。
しかし、北緯(南緯)15−20度あたりだと、程良い上昇気流で上空にエネルギ−が持ち上がる。さらに、(後述のように)これらの上昇気流が渦を巻くので、入道雲が収束する(入道雲がくっつく)。
空気が上昇して圧力が下がると、空気中に含むことのできる水蒸気の量が少なくなる。このため、空気中の水蒸気(気体)が凝結して水滴(液体)となる。この時、潜熱を出す。この潜熱で周りの空気の温度が上がり、空気が軽くなり(正確には空気の比重が小さくなる)、更に上昇する力が働く。このメカニズムで上昇気流は激しく上昇する。
地球の表面(海面)では上昇した空気を補うために、周りから湿った空気が流れ込み、その空気が上昇する。
この様に暖かく湿った空気が上昇空気のエネルギ−源である。台風がくると、激しく雨が降り、強風が吹き、蒸し暑いのはこれらのメカニズムによるのである。
周りから流れ込む空気が、北半球ではコリオリの力を受けて右に曲がる。だから、台風は北半球では左巻きになるのである。

注 記;
右図のように、台風の中心に向かった風は右にそれるため、台風は左巻きになる。
これを時々、間違って解説してあるのを見かける。

一方、上昇した空気は上空で中心から吹き出す。それは右巻きに吹き出すのである。台風の衛星写真を見ると、吸い込む空気による雲と、上空で吹き出す雲とが重なって見えている。

注 記; 台風はこの様なメカニズムで起こるが、東経180度より東側ではハリケ−ンと呼ばれる。従って東経180を横切ると名前が変わる。更にメキシコ湾やカリブ海で発生するものも、ハリケ−ンと呼んでいる。インド洋やオ−ストラリアではトロピカル・サイクロンまたはサイクロンとよばれる。いずれも、台風と同じメカニズムである。
余録4 地表から高さ10-16Kmまでは対流圏と呼ばれ、地表で暖められた大気が上昇する(対流)領域である。そこでは上空ほど気温が低く、1kmあたり6.5℃低下する。対流圏で高度が上がるに従って大気温が下がるのは、大気が上昇して断熱膨張するので気温が下がるのである。
(3,000mの山だと地表より20℃ほど低くなる。登山する人はこの数値を覚えておくといい。)
しかし、その上の成層圏と呼ばれるところでは、上に行くに従って逆に気温が上昇するので、対流が起こりにくくなる。即ち上昇してきた大気は天井にぶつかったように横にたなびきカナトコ雲になる。 成層圏で気温が上昇する原因は、そこに存在するオゾンが太陽からの紫外線を吸収して大気を加熱するからである。
成層圏が終わる50kmあたりから上空では、再び大気温が下がる。それは紫外線を吸収する酸素(オゾン)分子が少なくなるからである。 この50-100kmの範囲は中間圏と呼ばれている。
それより上空では再び温度が上昇し熱圏と呼ばれる。人工衛星が飛ぶのは勿論大気圏外(100km以上)・熱圏である。静止衛星は赤道上空の35,786 km の高さで、地球の回転と同じ角速度で回っている。
オ−ロラが光る(太陽風と呼ばれるプラズマ粒子が地球磁場と相互作用して光る)のは100-200kmあたりである。
余録5 地球から640光年離れているオリオン座の恒星ベテルギウスがまもなく超新星爆発する。この爆発で、回転軸から2度の範囲でガンマ線(電磁波・放射線)が放たれる。地球からは20度の位置にあるので、この放射線は地球には届かないと言われるが、もし放射線がやってきたら、地表のオゾン層が破壊され、人を含めた多くの生物は生きられないだろう。
過去にも数億年前に、このようなガンマ線爆発(Gamma‐Ray Burst GRB)で、多くの生物が絶滅したと言われている。


台風で上昇した空気や熱帯地方で暖められて上昇した空気は、5000m−10000m上空の成層圏 (対流圏と成層圏の境は季節や緯度で異なる)にぶつかり、北や南にたなびく。北に流れた空気はコリオリの力で東にそれる。上空では地上(海上)で働くような摩擦力が働かないので 、どんどん東方向の流れとなって、それが偏西風(ジェット気流)となるのである。勿論南半球でも偏西風である。
このジェット気流が流れる位置は季節によって南北に移動する。それは太陽の位置が季節によって変わるからである。冬には日本付近にまで南下する。その速度は200m/s位の時もあり、音速が地上では340m/sであるから、東西方向に移動する飛行機がこのジェット気流を利用したり、避けたりすることで、飛行が効率的になるのは当然である。

注 記; 真冬には、このジェット気流による雲が流れるのを目視できる。真冬のジェット気流の高さは約5,000mであるから、角度15度進む時間を計ることで、その速度がおおよそ推定できる。
速度(m/s)=5000*(2π/360)*(15/t)

上昇した空気は下降する。夏の太平洋高気圧は、熱帯地方で上昇した空気が、下降している所をいうのである。(大気が上昇するところは低気圧、下降するところは高気圧
そして、下降した空気は海面付近を南に向かう。その空気はコリオリの力の影響で、西にそれる(右にそれる)。即ち熱帯地方の海面では絶えず東風が吹いているのである。この風を
貿易風(Trade Wind)と呼び、エンジンがない昔はこの風を使って貿易船を移動させた。そこで、この風を今でも貿易風とよんでいる。ヨットでアメリカから日本に向かうときは、南下してこの風を利用する。
ハワイ島ではこの風がキラウエア等の高い山に当たり、東側には雨が降り、西側は乾燥する。東のヒロは多雨でサトウキビ畑が発達し、西にあるコナは半砂漠地帯でゴルフ場が多い。また、この風によりペル−沖で湧きあがった深層海流が西に流れ、エルニ−ニョ現象にも影響しているのである。

真冬の西高東低の気圧配置時(冬型の気圧配置)に吹く北西の風や、真夏の太平洋高気圧の縁を通って吹く風など、気象予報士が、テレビで等圧線に沿って風が吹くと説明しているのを時々見かける。
このように、風
は高気圧から低気圧の中心に向かっては吹かない。空気は、気圧の高低差による力とコリオリの力と遠心力の3 力が働き、更に地上や海上では摩擦力が働き、結局、等圧線に沿って風が吹くのである。

赤道付近で貿易風によって西に流れた海流は、コリオリの力を受けて北半球では右回りで流れる。したがって大陸の東側(例えば日本列島)は夏、蒸し暑い。一方大陸の西側は、極から寒流が流れ下りてくるので、夏でも涼しく少雨で、一般には砂漠地帯であることが多い。アメリカのカリフォルニアなどはそれに当たる。アフリカのナビブ砂漠など南半球でも大陸の西側は砂漠である。
南から寒流が流れてくるガラパゴス島は、赤道直下であるのにペンギンが生息するので有名である。これらはいずれも海流が北半球では右回り、南半球では左回りになるからである。
フィリッピン沖からスタ−トした黒潮暖流は、一部日本海に入って対馬暖流とよばれ、北海道まで流れている。真冬大陸から吹きだす乾燥した冷たい北西の風は、暖流の流れる日本海を渡るとき、海面からたっぷりと水蒸気を吸収する。これが日本列島にぶつかり雪を降らせるのである。日本海側の平地や日本列島の背骨をなす山脈は、世界でも有数の豪雪地帯となっている。このような位置関係は、世界地図を眺めても、日本列島だけである。
アメリカの五大湖に突き出たミシガン半島は、日本列島と位置関係が似ているが、五大湖は湖で暖流がない。また、たっぷりと水蒸気を吸収するほどの長い距離を風が流れない。また、アメリカ大陸の東海岸を沿ってメキシコ暖流が流れているが、更にその東側に日本列島のような島は見あたらない。

日本から北米のシカゴ、デトロイトに飛ぶと、カナダの北方では沢山の湖が点在するのを確認できる。その最も大きいのが五大湖である。
これは氷河時代、アメリカ大陸の東岸を流れるメキシコ湾海流(暖流)から、水蒸気が盛んに蒸発し、北米大陸の北に雪を降らせ氷河になって大地を削った痕である。
ニュ−ヨ−ク市のセントラル公園に行くと、氷河に乗って置き去られた迷子石を見ることができる。さらに、地表にでた岩に、氷河によって削られた擦過傷を見ることができる。それは氷河が流れた南北方向に傷がついている。

竜巻(Tornado)の発生メカニズムにも、コリオリの力が関係している。別掲ぺ-ジ <竜巻とは> でまとめてみた。
(2006-11-14 追記)


この様に、コリオリの力やその影響を知ることで、地球規模の気象現象が理解でき、社会生活や文化生活まで影響を与えていることがわかってくる。

注 記;
風呂の栓を抜くと、北半球では左回りに渦を巻くと言う話があるが、それはコリオリの力ではない。この力が影響するには半径30km以上運動するときである。風呂の水が渦を巻いて排水されるのは、栓や風呂桶の形状によって、流れの抵抗にアンバランスがあるからである。
真冬、韓国の済州島で発生した渦が、九州を通り越して太平洋まで流れている様子を、衛星写真で見ることが出来る。これはカルマン渦で、台風の渦とはメカニズムが違う。戦前、千島列島の風下に(東)に、この渦を予測した日本人科学者がいたが、実際に確認できたのは衛星写真で見ることができてからである。
また、鳴門の渦潮は、陸側の浅いところの抵抗と、海底の凹凸によるカルマン渦とが複雑に絡み合った渦である。


<2002-11-9 15:00>


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