前の日 / 表紙ページ / 2005-03

首大 またはクビ大 あるいは首都大学東京 についての個人的見解 / 2005-03-31

2005-03
SMTWTFS
12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031

2005-03-31

歪んだものさし [この1年余を振り返って][このサイトについて]

さて,当初の希望としては,2004年1月の近代経済学グループ声明から始めて,同年10月のCOE事業正式辞退までを振り返ろうと思っていたのだが,途中で時間切れとなった。3月の半ば以降非常に多忙で,サイトを更新する時間があまりとれなかったためである。私は,本日をもって大学という場を離れるので,これ以上本サイトの更新を続けるつもりはない。(できれば)近日中におそらく多少手を加えた上で,「保存版」としたいと思う。

この1年数ヵ月の間,私は,去る者の義務であると考えて首大批判を行って来た。少なくとも経済学分野については,(いわば柵のない)私が語らねばいったい誰が語るというのだ1。時間の制約から,十分に書き尽くしたとは到底言えないが,できる限りの努力はしたつもりである。

既に知られていることを単に解説するだけの自称研究者ではなく,学問を発展させて(人類の共有知識に新しく付け加えて)いこうとして,厳しい競争の中に身を置いている(本物の)研究者の見方を代弁するつもりで,私はこのサイトの文章を書いて来た。もちろん,各研究者によって考え方の違いはあるだろうが,核の部分は共感していただけたのではないかと思う。

もちろん,教科書を書いたり,一般向けの講演をしたり啓蒙書や解説書を書いたりして知識を普及させることにも,社会的価値はある。ひとりの生涯においても,研究(新しい知識を生み出す仕事)に重きをおく時期もあれば,解説(知識を普及させる仕事)に重きをおく時期もあるだろう2。しかしながら,より敬意を払われるべきは,当然,知識を創造する人々(仕事)である。研究を解説と同等以下に扱うような「歪んだものさし」が,(マスメディアの勘違いならともかく) 日本の学問を担うようなまっとうな大学にまで侵入することを認めてはならない。

首大構想は,まさしくそのような「歪んだものさし」である。そして,経済学部の分裂と崩壊は,「歪んだものさし」を受け入れることを拒否するグループが愛想を尽かして出て行き,ものさしの歪みが自分にとってはむしろ好都合であるグループが東京都に尻尾を振って残った,というようにまとめることができる。

確かに,(たとえば)有力国立大学の多くが,東京都ほど無知で愚かであるとは考えにくい。したがって,首大問題は,結局,東京都の大学が,それまで抱えていた有能な研究者達を他の国立・私立大学に進んで「譲渡」し,知識の創造などに関わりを持たない「首都圏に約200もある」(都官僚談) 大学のひとつに自らを格下げしただけで,日本の学問の発展自体には影響を与えないかもしれない。実際,通常であれば雇うことが困難である人材を労せずして引き抜くことができた私立大学や地方国立大学の関係者は,「首大様様」とほくそ笑んでいると聞く。

しかし,都立大学で起こったのと同様のことは,他の有力大学では絶対に起こらないだろうとまでは言い切れないように思う。「歪んだものさし」をこれ以上普及させてはならない。首大構想が体現する「歪んだものさし」の一般化は,現在世代の研究者に対する(世界の常識に則った)公正な評価を破壊することももちろんであるが,日本の学問の将来に対して深刻なダメージを与える。自らは知識を創り出す志も能力も持たない「解説屋」指向の人間たちだけが学問の世界(その場合は,もはや似非学問の世界と言うべきだが)に参入してくるようになってしまうだろう3

そのような「万が一の事態」が現実に起こらないよう,このサイトに記録した事実が,多くの研究者にある程度の警戒感を持ってもらうきっかけになれば幸いである。がんばれ研究者,「解説屋」に負けるな。

1 「後腐れがないと思って好き勝手なことを」と感じる読者がいるなら,そう思ってもらって一向に差し支えない。そういう読者は親首大派だろうから。:-)

2 かく言う私も,次世代への知識の引き継ぎとして,この数年間,学部上級/大学院初級向けの教科書を書いて来た。現在の見通しでは,秋頃には出せるのではないかと思う。本当はもう1冊 (大学院中級向け) 書く予定であったのだが,首大騒ぎに時間をとられたこともあり,果たせなかった。できれば,今後2冊目も書きたいとは希望しているが,時間がとれるかどうか現段階では何とも言えない。

3 上の注で言及した教科書を書いていて改めて思ったのは,本当に「解説屋」とは楽な仕事であるということだった。この本には(ある「仕掛け」のため)たぶん通常の3倍は手間がかかっているし,かなり分厚い本(550ページ程度)でもある。それでも,研究と比べれば何と楽な仕事であることよ。

おわり

2005 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
2004 : 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12