2.いつ、どこで、だれが、どうして名前を付けたの?


 ここに1枚の「オセロ新聞」というプリントがあります。
通称ガリ版印刷、正規には孔版印刷と呼ばれ、コピーやファックス印刷の出回る前には、
学校で、この印刷しかできませんでした。
当時のオセラー(オセロをやる人)の気持ちが表われていますから、
第26号をそのままコピーしました。

 あまり上手でないネズミ、牛、トラ、ウサギの絵も説明も、
ヤスリの上のロウ原紙に鉄筆で孔(アナ)を空けて、ローラーで手刷りしたものです。
200を超える5手目までの形から、
そのころ打たれていた良い手を、竜(タツ)猿(サル)も同時に発表したものです。
勤務していた江別高校の生徒諸君も、1978年に転勤していった野幌高校の諸君も、
オセロ同好会顧問の私も、全日本選手権大会の上位に入賞して、
首都圏の皆さんと競い合っていましたから、幸いに津軽海峡の向こうにも読者がいました。

市役所や役場に届ければ名前が決まるのとは大違いで、
定石の名前が全国のオセロフアンに使われるのには何年も、いや十数年もの月日がかかりました。

3冊目のオセロの本が1978年に書かれました。
やはり長谷川五郎さんの「オセロ」(デイリースポーツ事業社)です。
9ページからネズミ、牛、トラ、ウサギが代表定石と紹介されて、
棋譜説明にも、しきりに名前が出てきます。
14ページにある絵はかなり上手です。

「アスキー」という雑誌がコンピューターどうしのオセロ大会を、
毎年開催したのがそれから間もなくです。
ある号で全日本女子の部チャンピオンの国枝交子さんが
長文の丁寧な解説で、いわゆる代表定石だけでなく、
ツバメ定石という名前まで使ってくれました。
国枝さんは「逆転の発見」(井上博著1977年株式会社企画室ネコ)
という日本で2冊目のオセロの本を企画して構成編集もされた、
当時日本オセロ連盟の武蔵野支部長でした。
この本の著者は世界チャンピオン、執筆協力者が学生チャンピオン長谷川正行さんでした。
隅の斜め隣を「星」と呼び、長谷川五郎さんの「X」打ちという言葉とともに長年使われています。
今は「闘牛定石」と呼ばれる形を「双方危険」と評して、
「とびだし」の言葉とともに、普及しました。
後世に語り伝えられる高い水準の本です。

もっと若いオセラーの研究も次第に進みました。
人材豊かな首都圏の皆さんは「ウイング」というミニコミ冊子(編集責任者岡田三男さん)を1982年に創刊し、
たくさんの名選手が執筆していますし、北海道で三村卓也さん(全日本チャンピオン)と
高柳直哉さんが「偶数理論」紙(1981年)を出しています。
国枝さんによれば、「TheBest Move」、
「One Side Love」といった研究誌も相次いでこのころ、発行されました。
ファックス印刷が主流ですが、「全関東オセロ選手権大会棋譜集」は活版印刷でした。

こうした熱心な研究の積み重ねに、定石の名前もじわりじわりと定着してきました。
名前をつけても、たくさんの方が長年みんなで使わないと、消え去る運命をたどるものです。
幸いに、大会で上京するたびに、
種々のプリントを選手や役員の皆さんにお配りして読んでいただき、
そうした研究誌や、棋譜解説に定石の名前が使われて、
私は思いがけず、「定石の名付け親」と呼ばれはじめて本当に光栄でした。
英語に翻訳された長谷川さんのオセロの本も出ましたし、
「デイリースポーツ」紙にはオセロ名局の解説欄まで誕生。
私も原稿をせっせせっせと送りました。
村上公昭さん、河村末告名人、大野正治さん、高崎禎夫さん、
菊島正夫さん、岩崎匡明さんや安井次男さんも執筆仲間です。

わが勤務校野幌高校の生徒でもあった佐々木一憲さんを、
コウモリ定石で破って優勝した谷田邦彦さんが
「図解早わかりオセロ」(1986年日東書院)を出しました。
ネズミ、牛、トラ、ウサギ定石の変化も含めた詳しい解説に加えて、
牛定石系統の大量取り、コウモリ、ヨット、飛行機、谷口流、
バッファロー、タヌキ、飛び出し(双方危険)、ヘビ、
ウサギ系統の三村流、トラに近いロケット=トンボといった新顔も紹介されました。
私のアイディアを、いぶかりながら取り入れてくれたこの著書は、
今や多くの有段者に推賞される定石書となっています。
谷田さんはさらに「絵でわかるオセロ入門」(1987年同上)
「改訂版図解早わかりオセロ」(1988年同上)と
新しい傾向や研究を発表しています。
ストーナーや、逆偶数理論、開放度理論、
ローズオープニング、フラットローズ、シャープローズ、
手塚システム2、縦取り殺し、縦取り殺され、馬定石、ネコ定石、羊定石、
野ウサギ定石、闘牛定石、裏コウモリ定石、ブロック、双方C打ちもその一部です。
コウモリ、トンボを除く生き物の名前は、私の命名ですが、
こう並べてみると、実に多数の方々が人知れず名付け親になっているのが解ります。

一方、長谷川五郎さんも「オセロ百戦百勝」(1990年講談社)、
「オセロ大観(l・llの2冊)」(1995年近代文芸社)、
「オセロの勝ち方」(2001年河出書房新社)と、
たくさんの実戦譜や大会成績とともに、まことに貴重な史料となる著作を続けられています。
ブラックライン、ホワイトライン、山手線内回り、外回り、爆弾、
トーチカ、ヤスリぜめ、山などなど、多様な用語で読者を魅了し続けてもいます。

さて、もう一冊、国内で刊行された本があります。
連盟のいくつかの支部に割り当てられて、
北海道からは私が、苦手な終盤を任され、
高柳、三村さんらの広い協力を仰いでまとめた
「図解オセロ入門」(198?年虹有社)です。
吟味に吟味を重ねて仕上げたにもかかわらず、
序盤担当の某支部が力をいれないために、全体は不出来な代物となりました。
終盤は当時のレベルでは最高と自負していますから大丈夫です。

連盟発行の「オセロニュース」は年4回のペースで出され続け、
解説の分かりやすさ、レベルの高さに、とも感心しています。
何号でしたか、ネコ定石からも快速船になった実戦が
世界チャンピオンの村上健さんによって解説されていました。

長い、回りくどい説明になりましたが、
定石の名前が総じてどんな広がり方をしてきたか、想像がつくでしょうか。
勝って他人にマネされて、紙誌や著書に取り上げられて、
ゆっくり定着してきたわけですね。


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---目次---
○●前書き●○
1.定石の名前って何のこと?
2.いつ、どこで、だれが、どうして名前つけたの?
3.どうして5手目までの黒石だけの形に?
4.名前は「ね、うし、とら、う」だけ?
5.十二支にない動物はどうやって登場したの?
6.定石って、流行したり消えちゃったりする?
7.コウモリって、7手目じゃない?
8.裏ヘビとか、裏コウモリって何?
9.飛行機とかヨット、快速船まであるの?
10.定石の本って、どこかで売ってるの?
11.インターネットで定石の研究できるの?
12.新しい名前はどうやってつけるの?


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