正しいIC乗車券の使い方。

解説 三鷹逆織

キーワード:Suica、振替乗車、運転見合わせ

目次:
    1事例
    2対策
    3総括


 ※2006年に書いたものですがPASMOや他地域のIC乗車券との相互利用が始まり、状況は大幅に変わっています。ただしココの内容は概ね普遍性があるので加筆減筆修正を加えそのまま公開しています。

1.事例と考察

 Suicaは首都圏で使える電子マネーの一種です…。
 …って、そういうメンドイ話はここではしません。読者の皆様がSuicaで電車を乗り降りできることを前提に話を進めさせて頂きます。
 
 さて。首都圏の電車はしょっちゅう止まることで有名ですね。最近やたら叩かれるようになりましたが、こんなのは大昔からずっと続いていることです。
 しょうがないでしょう。動かせないものは動かせません。鉄道会社に文句言ったところでどうしようもないです。
 でもね…。
 最近普及してきているSuica、特にSuicaイオカード、この商品には非常に大きな欠点があること、ご存知でしたか?
 先月の大停電のとき、一部で問題にされたことです。

 すなわち。
 Suicaでは振替乗車票をもらえない。
 この点は非常に重要なので、このページを訪れた方は、これだけでも覚えて帰ってください。

 具体的な事例を説明しましょう。
 
・2006年9月5日 京浜東北線人身事故の例(まあ、これだけしか例はないんですが…)。

 筆者こと三鷹は南行の電車に乗っていて、人身事故とニアミスしつつ、約20分遅れで東神奈川駅に到着しました。
 京浜東北線は運転見合わせということで、横浜方向ヘは当面運行の見込みが無いようです。
 隣接する京浜急行に振替輸送をするから乗り換えてくれと、放送でやたらやかましく案内されました。
 ここでまずキーポイント。
 三鷹は新子安以東の某駅から、Suicaイオカード(SF利用)で乗車しています。
 
 さて。案の定改札口は長蛇の列。
 長い間並んで、Suicaイオカードを見せて振替乗車票を受け取り改札外へ出ました。
 ……ん?
 もらっちゃっていいのか?
 まあいいや、くれるんだからもらっとけ。
 というわけで改札を出て、京急の仲木戸駅へ向かおうとして、ふと。
 そういえば、このSuicaには出場記録が書き込まれていないことに気づきました。
 この状態で次回改札を通れば、最悪の場合キセルを疑われます(実際には、次回使う時、改札機は確実に私を閉じ込めるでしょうが、駅員に事情を説明すれば大丈夫みたいですね)。
 めんどいことが嫌いなので、今ここで出場記録を作ってもらおうと、説明にあたっている駅員をつかまえて処遇を訊ねることにしました。
 そうしたら、この方、改札口の駅員がSuicaの客に振替乗車票を渡していたこと自体気づいていなかったようですね。
 私が、普通に改札機で出てきたものだと思ったようで。
「え? 改札機通ってないの? じゃあ今機械にかけて処理しますからお待ちください」
 と言ったあと、私の手を見て。
その振替乗車票は返してくださいね
 あ、やっぱり。

 ちなみに、恥ずかしながら頭に血が上った私は、精算を終えて帰ってきた駅員に。
「振替票もらえないの?」
「規則ですから」
「……じゃあ、もういいからSuica解約してください」
「それは後ろの、みどりの窓口へ」
「あっそ」
「でも手数料がかかりますよ」
「……」
 上らせた血の行き場もなくし途方に暮れ、空腹の体を引きずって長蛇の列の仲木戸駅で切符を買って帰りました。

 ……状況は以上です。
 いいですか。
 本来160円で乗車できる区間に(うわ、乗車区間特定されるw)、私はJR150円+京急130円、都合280円払わされたわけです。
 人を20分も電車の中で閉じ込めて立ちっぱにさせた挙句、しっかり金を巻き上げておいて「振替はできない」ですよ。
 これがICカードの本性です。ご理解いただけたでしょうか。
 ……しかしながら、規則は規則です。
 これから、JRの対応にも一理だけはあることを伝えておきたいと思います。
 
 そもそも振替輸送とは何なのでしょうか。
 通常、切符(普通乗車券)には発駅と着駅、あるいは金額が表示されています。
 我々は切符を買う際に「どこからどこまで輸送してもらいます」という契約を、鉄道会社と結んでいるのです。その契約の証、一種の有価証券が切符なのです。
 仮に私が160円の普通の切符を持って「とある鉄道」に乗っていて、電車が止まってしまったとします。
 私はその切符の発駅から160円でいける区間まで輸送してもらう契約を結んでいますが、運休になったことによりその契約は不履行になってしまいます。
 そうならないために鉄道会社は振替乗車票を配布し、私が元の切符と振替乗車票を持って約束の駅まで行けるようにしてくれるのです。
 ……厳密に言えば切符には「何時までに目的地に着く」という約束事はありません。ですから鉄道会社の立場で言えば、たとえ電車が数時間止まろうとその後で運転再開をして目的地まで送り届けたならば、切符を買うときに客と鉄道会社が結んだ「目的地まで輸送する」という義務は一応果たしたことになります。
 ただ、それではあんまりにも客がかわいそうなので、ある程度迅速に目的地に着ける振替乗車という制度が存在します。
 一種の救済措置なんですよね。

 では、私がIC乗車券のチャージ部分(すなわち、定期券で利用できる区間ではない区間)で乗車していたらどうなるでしょう?
 ちょっと業界っぽい用語で言うと「SF利用」といいます。要はチャージしてあるお金を使って普通乗車券の代わりにすることです。
 約款とか読んでないから詳しいことは知りませんが、IC乗車券のSF利用時は、入場時に改札機で入場情報を記録し出場時に料金を引き去るシステムになっています。
 ということは、料金は後払いです。
 つまり出発駅の改札を通るときに「どこから乗ったか」という情報は鉄道会社と交わされていますが、目的の駅で降りて改札機を出る寸前まで「どこまで行くのか」という情報はやりとりしていません。改札機を通った時初めて「ここまで来た」という情報を交わしてお金を払うのです。
 だから、ICカードのSF利用で電車に乗っている人はみんな、鉄道会社に「どこに行く」という約束をしないまま電車に乗っているんですよね。
 では途中で電車が運休したらどうなるのでしょうか。
 当然鉄道会社は私の行き先を把握していません。また私も運賃を支払っていません。
 すると、乗車券とセットで使う振替乗車票は出せないことになります。だって、目的地がわからないのですから。
 

 ちなみにICカードであっても利用区間が明示されている定期券であれば話は別です。利用区間が定まっていますからこの区間内で運休が起きれば当然振替輸送も受けられます。

 
 とにかく、ICカードのSF利用では目的地がわからないから振替乗車票が貰えない。
 では運休になった時に目的地を言えばよいのではないか? という疑問もあります。私もそう思いました。
 しかし、もしも行先を乗客の自己申告で良いことにしてしまうと、私は自分の目的地をどうとでも言えます。悪意を持った人が、本当は近くの駅に行くつもりだったのに急遽遠くに行くことに変更してしまったら、どうなるでしょうか。
 また運賃後払いですから、運休が決まった時点で私はお金を払っていません。となると乗車駅から目的地への運賃を鉄道会社にその場で納めなければなりませんが、ただでさえ修羅場になっている改札口で私が乗車した駅から私の申告した目的地までの運賃を計算して、更にSuicaの入場情報の取消も済ませるというのはかなり困難です。
 さらに振替乗車票を出すにしても、私は輸送契約の証である切符を持っていませんので、駅員は切符に代えて私がどこまで行くつもりだったのかを他社にも解るように証明する何らかの代替物を発行しなければなりません(駅員が他社駅まで出向いて一人一人証明するわけにはいきませんので)。しかし、これは付箋紙や式紙に書いて印鑑を捺した程度では信用に足りません。逆に言うと、普通乗車券や定期券の券面表示にはそれだけの重い意味と信用があるのです。先に申し上げた通り、契約を証明する証券ですから。
 まあ要するに、SuicaのSF利用で乗っている客の行先を証明して普通乗車券と同じように振替乗車票を出すことは、方策を尽くせばたぶんできなくはないでしょうけど、非常にややこしいということです。切符が無い状態で私の行先を証明する方法を私は知りませんが、手段があったとしても運休により混乱を極めている駅で一人一人にそんなことをするのは恐らく不可能に近いと思われます。できないのであれば、Suicaの客は運休時にその駅で降車させて、乗車駅からこの駅までの運賃を支払ってもらい、ここから先の他社の運賃はそちらで別途払わせることも、次善の策として妥当であることになります。
 事例で私が買った切符はJR160円でしたが、私が実際に乗ったのはJR130円+京急150円の280円分ですから、それをそのまま徴収することが暴利とも言えません。
 
 あと、これは少し特殊な事例ですが。
 振替乗車の依頼を受けた私鉄は途方もなく混雑することがあります。
 特に今回の事例であげた京浜急行という私鉄はそれが顕著で、JRがダウンすると駅の改札の段階で入場規制をする、なんてこともよくあります。2006年でいえば、例えば5月11日に起きたJRの大運休。京浜急行の改札口はまるでコミ何とかのような長蛇の列、機動隊も出動して大騒ぎになりました。当然電車の方も、ダイヤは意味を無くし、特急や快速特急などの優等電車と普通電車の区別だけはありましたが、とにかく来た電車にひたすら詰め込むといった状況でした。
 横浜駅以外の駅でも、階段が狭いために乗車客と降車客の流れが共存できず、警察の応援を得て時間ごとに乗降を分けるなんてこともしていました。こっちもまるでコミ何とかのようです。当然自動改札機などはドアを開けたまま電源を落としてしまいます。こうなると私鉄のもう駅員は振替乗車票だけを見れれば良いほうで、行先のチェックなんてとてもできやしません。振替乗車票を持っていない乗客だってやむを得ず通してしまうことが多々あります。「貰って来い」と言おうにも、将棋倒し寸前の状況で流れを止めるわけには行きませんし、その客を列から外して駅から出すことなんてまず無理です。「できないことはない、怠慢だ」と思う人は、一度コミケの日の初電の京葉線新木場駅を体験してください。あんな感じです。5月11日の場合は機動隊が来ていたので走る人は殆どいませんでしたが、何千何万という人の流れを止めることの難しさは理解していただけると思います。
 振替乗車、とくにJRから私鉄への振替の場合、このような事態になることはよくあります。すなわち、振替乗車票が事実上のフリーパスになってしまうことがよくあるということです。
 私鉄の駅員が、他社であるJRの運賃を見て行先を判別するのはあまりに時間を食いますので、膨大な乗客を前にしてとてもそんなことをする暇はありません。改札で流れを止めれば列は一向に進まなくなりますし、暴動の火種にもなりかねません。
 逆に言えば、本題の時に挙げた「運休時に改札口で目的地を申告し、その運賃を支払って行先の証明書と一緒に出してもらうことにすれば振替乗車票をもらえるのではないか」ということも、同じように難しいということです。だから、さきほど事実上不可能と言ったのは、過言ではないでしょう。
 
 余談も長くなりましたが、いずれにしてもこのICカード特有の問題は、客に不利益があるとしても改善は難しいものであることをご理解いただけましたでしょうか。
 

2.対策
 いよいよ本題です。
 すなわち、「ICカードのSFをどう使うか」ということについでです。
 事例と考察で挙げた問題は、ICカードのシステム上どうあっても避けることの出来ない課題です。規約を改正すれば済む問題でもありません。
 ではどうすべきか。
 二つ方法があります。
 防衛策と次善策。
 
 防衛策は簡単です。
 カードをただのプリペイドカードとして使いましょう。
 時間に余裕が無い時は、どうしたってタッチ&ゴーの迅速性に惹かれ、ついついそのまま改札に通してしまうでしょう。リスクを覚悟ならそれも当然よろしいです。
 しかし時間に余裕がある時は券売機へ行ってカードを券売機に入れ、「切符を購入する」を選択します。
 そしてチャージされているお金を使って切符を買えばよろしいのです。
 鉄道会社に運賃として支払う額は結局一緒ですから、私達が損しているのは切符を買う手間と時間だけです。
 鉄道会社はせっかくICカード化で削減した切符の紙代を損してしまいますがね。
 でもこうすることで、ICカードを利用していながら振替乗車を受けることが可能になるのです。

 ちなみに今回の事例の場合ですが、
 私がもし切符を買って利用していれば、東神奈川駅で振替乗車票を受け取り、私の本来の予定通り、160円だけを支払って目的地に辿り着くことができたはずです。
 ICカードでで改札に入ったばっかりに、同じ区間で280円も払わされたのが現実の私です。
 毎回切符を買うのは手間であろうとも、決して無駄な保険ではないことがお解かり頂けるのではないでしょうか。
 
 そして次善策。
 運賃後払いのICカードのSF利用では振替輸送はできませんでした。
 ですがもう一つ、振替輸送以外に「運休時の救済措置」があることをご存知でしょうか。
 
 普通乗車券の場合、実をいうと振替以外に「発駅への無賃送還」という取扱があります。振替輸送と無賃送還、二つの制度のどちらかを選んで利用することができます。
 ただしPASMOの普及と相互利用化によって様々な事業者でICカードを使える今、会社によっては取扱が異なる場合もありますから注意してください。
 で、無賃送還とは何か。
 簡単に言えば「運休? じゃあもういい、帰る」という人のために存在する制度です。
 難しく言えば、鉄道会社と客の間で交わされた、行先まで輸送するという契約を破棄することです。その責めは鉄道会社にありますから、客は鉄道会社に対しその契約を「無かったこと」つまり乗車した駅に戻ると同時に支払った切符代の返還を受け、契約を結ばなかったことにさせることができます。
 そしてこの制度は、ICカードでも利用することができます。
 乗った駅の情報は改札機を通った時点で鉄道会社も把握しているからです。
 
 ただし、ただしです。
 運休により出かける目的そのものを喪失した場合以外、このやり方は全く無意味です。
 お金は戻ってきても時間は戻ってきません。
 運休しているのであれば乗車した駅に戻ってくるのも相当の時間が経過した後になります。それなら運転再開を待って目的地に向かうことだってできます。
 しかし、事例の場合を考えてみましょう。
 160円で済むはずの移動に280円かけた私の事例です。
 もし無賃送還制度を使えば私は発駅に戻ることができました。そしてその駅から京浜急行を使い、190円払って目的地に着くこともできました。
 まあ、戻らなくてもその頃にはJRで目的地に着けていたと思いますがね。即ち当初の予定通り160円で行けたことになります。
 やっぱりあんまり意味無いですね。
 
 例えば乗車する駅で改札を通った後、電車が来るまでの間に運休になってしまった場合は、どうでしょう。
 ICカード乗車券は、基本的には乗った駅で降りることができません。ですがこの場合は例外的にそれが可能になります。無賃送還の一種とみなせます。
 ただ、ここからが重要。
 その場合にも当然、ICカードであれば振替は受けられません。
 普通乗車券で入場していれば振替を受けられます。
 ICカードのSF利用で振替乗車を受けられない問題の解決策は、ICカードのSF利用で電車に乗らない。コレに尽きます。
 
 
3.総括
 
 ICカードのSF利用で乗車すると万が一運休した時に振替乗車票がもらえません。
 これは制度というよりシステムの問題であり、決して鉄道会社が利用客にイジワルしているわけではありませんし容易に改善できるものでもありませんから、文句を言っても始まりません。
 振替乗車票をもらえるべく、利用客も賢くなる努力をするのが先決です。
 すなわち、ICカードのSF利用で改札に入場するのをやめるのです。
 方法は2.で説明しました。

 …でも、何で俺振替乗車票もらえたんだ?確かにすぐ取り上げられたけどさ。
 まわりでもSuicaで振替乗車票もらって出て行った人がいたけど、次からSuica使う時どうするんだろう?
 
 余談なのですが、ICカード乗車券は改札の入場と出場を厳しく管理しています。
 入場後に入場、出場後に出場は絶対にできません(乗換改札などでは、1回の改札で出場と同時に他社に入場している場合があります)。
 ですからあの時Suicaで振替乗車票を貰って改札機にタッチせず出場してしまった人達は、次にSuicaを使う時に改札機に弾かれたはずです。
 もし当日振替乗車票で京急に乗り目的地に行っていたとしても、後で駅員さんに事情を聞かれてトラブルになるかもしれません。
 運休で大混乱の駅の中ではそのようなことが起こりうるということは知っておいてください。駅員のミスが原因とはいえ、、そんな面倒ごとを避けることができるのは自分の知識です。
 
 

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