9−5.熱帯低気圧と台風

 大気大循環の項目で説明したように、赤道域はハドレー循環の上昇域になっており、周囲の風が集まる収束帯となっています。この収束帯を熱帯収束帯(ITCZ)と言います。特に、海面水温が高い太平洋西部・北太平洋東部やインド洋、大西洋のそれぞれの低緯度海域では、活発な対流活動が行われています。

 中緯度高圧帯からの吹き出しにより、低緯度では偏東風が吹いています。この偏東風には小さな波動が存在し、これを偏東風波動と言います。偏東風波動に伴って、対流雲が波動の低圧部に集まってクラウドクラスターと呼ばれる積乱雲群を作ります。これが成長したものが熱帯低気圧です。

 特に、周囲の風の鉛直シアーが弱い時には、この熱帯低気圧は発達します。熱帯低気圧は第二種条件付不安定CISK/シスク)と呼ばれるメカニズムで発達します。これは、以下のように説明されます。

 まず、熱帯低気圧の循環によって水蒸気が収束します。収束した水蒸気は上昇し、凝結を始めます。凝結により潜熱が放出され、周囲が条件付不安定な成層の時には空気は浮力を得てさらに上昇します。上昇流が活発になることで、地上付近の気圧が下がります。中心の気圧が低くなったことで、さらに多くの水蒸気が周囲から集まってきます・・・。これを繰り返して発達していくのです。

 ところで、熱帯低気圧が台風級まで発達するためにはいくつかの条件があります。以下に条件を列挙します。

  1. 緯度が5°より高緯度であること
  2.  台風ほどの強い渦を生成するためには、コリオリの力が不可欠となる。コリオリの力の大きさは赤道で0となるため、あまり低緯度では台風は発生しない。

  3. 海面水温が26〜27℃以上であること
  4.  台風のエネルギー源は潜熱であるため、発生するためには大量の水蒸気が必要になる。海面水温が低いと水蒸気が足りず、台風級にまで発達できない。このため、海面水温が比較的低い南東太平洋では台風級の熱帯低気圧は発生しない。

 最盛期の台風にはいくつかの特徴が見られます。以下に簡単に説明します。

  1. 台風の下層から中層にかけて反時計回りの循環があり、上層部には時計回りの循環があって大気が吹き出している。これは、台風が下層で収束し、上層で発散するという構造を持っているため。


  2. 台風の中心付近には強い上昇気流、台風の眼の部分には弱い下降気流がある。強い上昇気流に伴って、眼のまわりには活発な背の高い積乱雲が取り囲んでいる。この雲のことを眼の壁雲(アイ・ウォール)という。台風の中心は回転による遠心力が大きくなりすぎるため、低気圧性の強い回転が維持できない。このため、中心だけ弱い下降気流となり、いわゆる台風の眼ができる。


  3. 風の接線成分は地面の摩擦効果がなくなる境界層上端部で最大となる。また、風速は台風の中心に近づくにつれて大きくなるが、中心(台風の眼)では風が弱い。


  4. 中心に向かう風の成分は、地面付近で最大となる。これは地面の摩擦の効果を受けるため。この風によって、中心部に大量の水蒸気が送られている。


  5. 台風の中心部では、同じ気圧面で見たときに周囲よりも気温が高い。これは、水蒸気が凝結することによる潜熱のため。

 台風は上陸すると、勢力を急速に弱めます。これは、台風のエネルギー源となっている水蒸気の補給が保たれるためと、地面の摩擦の効果が強まることで中心気圧が上昇するためです。また、台風は北上して中緯度に達すると、傾圧不安定波と一体になって温帯低気圧化します。温低化すると一般には勢力が弱まりますが、温帯低気圧は台風とメカニズムが異なるため、むしろ温低化してから再発達することもあります。