7−7.温帯低気圧

 温帯低気圧は、傾圧不安定波と大きな関係があります。温帯低気圧の一生を、傾圧不安定波と関連づけながら見ていこうと思います。

<発生期>
 下層にある前線や、すでに閉塞して衰弱した低気圧の残骸に、上層から傾圧不安定波の谷の部分が西からやってきて、下層の低気圧と結合します。両者は水平距離でおよそ500〜1000kmの位置関係にあります。

<発達期>
 上層の傾圧不安定波の谷部の方が下層の低気圧より西にある状態(これを渦管の西傾という*1)では、低気圧は発達しやすくなります。どうしてそうなるのか簡単に考えてみましょう。下図を見てください。

 この図は傾圧不安定波の谷と尾根の東西断面を模式的に表したものです。赤線が低気圧または谷部、青線が高気圧または尾根部を表しています。図にある○に・を書いた記号は北よりの風を表し、○に×を書いた記号は南よりの風を表します(電磁気学でよく使われる記号です)。このように気圧の谷や尾根が西に傾いていると、地上の低気圧(高気圧)で収束した(発散した)分だけ、上空の尾根部(谷部)で発散する(収束する)という関係が成り立ちます。すると下層と上層の差を補うために、図のような上昇流や下降流が生じます。この運動によって、気圧の谷や尾根がさらに強められて傾圧不安定波は発達します。

 上空には強いジェット気流があるため、上空の渦は地上の渦よりも遙かに速く東進しようとします。このため、そのままではトラフの軸はすぐに直立し、逆に東に傾いてしまいます。トラフの軸が東に傾くと、先ほどの図と逆の現象が起き、傾圧不安定波は急速に衰えることになります。しかし、実際にはそのようなことは起こっていません。これは、空気が下層で収束し上層で発散することにより、下層の渦は速度が速められ、上層の渦は速度を遅められているからです。こうして、傾圧不安定波が発達するのに十分な時間が与えられるのです。

 以上のことから、低気圧が発達する時には次のような特徴が見られます。(下図は立体構造。500hPa面の黒線は等高度線、黄線は等温線)

  • 下層において、低気圧の前面に暖気の移流、後面に寒気の移流がある。
  • 地上低気圧の中心に対して、上空の気圧の谷と渦度の極大域が西側に位置している。
  • 低気圧の前面に上昇流域、後面に下降流域がある。

気象予報士試験の実技試験では、天気図を見て低気圧の発達の有無を述べさせる問題がよく出題されています。その意味でも、これらの特徴は要注意です。


<閉塞期>
 低気圧がある程度まで発達すると、トラフの軸はしだいに直立するようになります。傾圧不安定波は大きく発達し、時に渦がジェット気流から切り離されることもあります。

 このように、渦がジェット気流から切り離されると、上空の渦は長期間保たれることが多いです。こうして生じる低気圧を切離低気圧といいます。また、ジェット気流の波動の振幅が極端に大きくなると、高気圧や低気圧が発達し、流れが大きく蛇行して、その状態が長期間続くことがあります。これをブロッキング現象といいます。

 さて、閉塞期の地上では、寒冷前線が温暖前線に追いついてきます(これは寒冷前線の方が温暖前線よりも移動速度が速いため。前線面の下側にある寒気は沈み込もうとしている。このため、寒気が沈み込もうとする方向と前線の移動方向が一致する寒冷前線は速く移動するが、逆の温暖前線はゆっくり移動する)。寒冷前線はやがて温暖前線と一体となり、閉塞前線を形成します。このような状態になると、傾圧不安定波はもはやこれ以上発達することができません。やがて低気圧や傾圧不安定波は衰弱していくことになります。

 以上のことから、閉塞期の低気圧には次のような特徴があります。

  • 低気圧前面の暖気移流は低気圧の北側に、後面の寒気移流は低気圧の南側に回り込む。
  • 地上低気圧の中心と、上空の気圧の谷や渦度の極大域が直立した関係になる。
  • 低気圧後面の下降気流が低気圧中心まで回り込み、ドライスロットと呼ばれる乾燥した領域を作る。


脚注

*1
流体力学によく精通された方であれば、この表現がおかしいことに気付くかもしれません。渦管というよりは、トラフの軸と言った方が適切です。このことについては、小倉(2000)p.37で詳しく述べられているので、興味のある方は参照してください。