3−6.大気の安定度(有限変位)

 前節では、空気塊をわずかに上昇させた時の安定性について述べました。ここではその中でも条件付不安定の時に、空気塊をある程度大きく持ち上げた時の不安定性について見ていきましょう。下図を見てください。

この図のように、気温や断熱線、そしてここには記入していないのですが、露点温度や等混合比線などの鉛直図をとったもののことをエマグラムといいます。

 今、地表面にある未飽和の空気塊をゆっくりと断熱的に上昇させていくとします。はじめは、飽和していないので乾燥断熱線に沿って気温は減少していきます。空気塊はある高さまで上昇すると、水蒸気が飽和して凝結を始めます。この高さのことを持上げ凝結高度(Lifting Condensation Level:LCL)といいます。雲で言うならば、雲底の高度にあたります。ここからは、水蒸気の凝結に伴う潜熱の影響を受けるために、気温は湿潤断熱線に沿って減少することになります。

 さらに上昇させると、ある高度で空気塊の気温が周囲の大気の気温と等しくなります。この高度のことを、自由対流高度(Level of Free Convection:LFC)といいます。この高度を越えると、空気塊は浮力を得て自発的に上昇するようになります。ここからもっと上昇させていくと、やがて再び空気塊の気温が周囲の気温と等しくなります。この高度のことをゼロ浮力面(Level of Zero Buoyancy)といいます。これより上空へは自発的に上昇することができません。ちょうど雲頂高度がこのあたりとなります。

 さて、このような時の大気の安定性について考えてみましょう。図の水色に塗った部分では、空気塊は強制的に持ち上げないと上昇できませんでした。つまり、対流を抑止するエネルギーがあるわけです。そのエネルギーのことを対流抑止エネルギー(CIN)といいます。逆に、図のピンク色に塗った部分では、空気塊は自発的に上昇することができました。つまり、対流を促進するエネルギーがあるわけです。このエネルギーのことを対流有効位置エネルギー(CAPE)といいます。当然のことながら、CAPEが大きくCINが小さい方が対流が起こりやすく、不安定であることになります。以上のようなことから、条件付不安定な大気では次のような不安定性の分類をします。

  • CAPE=0・・・安定型
  • CIN>CAPE・・・偽潜在型
  • CAPE>CIN・・・真正潜在型

これら3パターンをまとめて潜在不安定といいます。

 では、CINやCAPEの大きさはどうすればわかるのでしょうか。もちろん、それぞれ厳密な定義があるのですが、ここではエマグラムに書き表した時の水色やピンクに塗った部分の面積におおよそ比例するものと考えてください。そうすれば、実際のエマグラムを目にした時にも、潜在不安定の判断を容易にすることができます。

 また、もっと簡単に不安定性を判断する方法として、ショワルター安定指数(SSI)と呼ばれるものがあります。これは、850hPaにある空気塊を断熱的に500hPaまで上昇させたとした時の気温(Tc)を、実際の500hPaでの気温(Te)から引いた値(Te−Tc)を1℃単位で表したものです。この値が負になると、持ち上げた空気塊の気温の方が高いことになるから、空気塊は自発的に上昇することになります。つまり、値が小さいほど不安定であるということです。おおよその目安としては、SSI<-3の時は雷雨になる可能性があるとされています。ただ、この目安は季節や地域によって多少の差があります。


 さて、ここで少しまとめておきましょう。前回と今回の不安定性の分類で大きく異なるのは、前回は空気塊をわずかに上昇させた時の変化に着目したのに対し、今回は空気塊をかなりの高さだけ上昇させた時の変化に着目しているという点です。具体的には、前者は穏やかな晴天時のような、強制的に大気が動かされないような環境を想定していて、後者は何らかの原因(前線の接近、山の斜面に沿った上昇など)によって、大気が強制的に持ち上げられるような環境を想定しています。つまり、これらの分類は、場合によって使い分けていく必要があるのです。