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第6章別冊C   

QC7つ道具(客観説TQM)




0 はじめに

  QC7つ道具は、品質管理で最初に学習する次の8つの手法を指す。
  1. パレート図
  2. チェックシート(記録用、検査用)
  3. ヒストグラム
  4. 管理図
  5. 特性要因図(管理用、解析用)
  6. 層別
  7. 散布図
  8. グラフ
  このように本当は8つだが、グラフと管理図をまとめて1つに数え、7つということになっています。
  ところで、この分野は、専門家のふりをする素人が多く活躍していることを忘れてはなりません。
 (1) 「電気通信主任技術者−総合情報」というサイトでは、「グラフと管理図をまとめて1つにして、層別を加える場合がある」として、「層別」を含めないのが普通のように書いてあります。
 (2) 羽根田 修氏のサイトでは、「層別はパレート図、ヒストグラム、散布図などと組合わせて使えば、差異を発見する上で大きな力を発揮します(層別はQC7つ道具の1つではありません)」 と述べているは失当です。
  なぜなら、同様に考えれば、
  • パレートの原則は、棒グラフと折れ線グラフを組み合わせて使えば効力を発揮する。

  • 数値のバラツキの表示は、棒グラフと組み合わせて使えば効力を発揮する。
  • 3σの管理図の原理は、時系列折れ線グラフと組み合わせて使えば効力を発揮する。
  • 2元測定値の散布状況は、2次元の点グラフと組み合わせて使えば効力を発揮する。
〜という具合に、QC7つ道具の1つとして使えるのは各種のグラフだけになってしまうからです。グラフ以外のQC7つ道具は「解析手法」であり、その結果を図形的に表わすのにグラフを利用するのが正当です。
  「層別」が独立のQC手法であることは、疑う余地はありません。例えば、製品を縦に並べて処理した場合と横に並べて処理した場合 の差を調べます。
  有意な(偶然ではない)差があれば、有利な方に統一すべきです。この「層別」に、グラフ等は使いません。「層別」が解析手法であるのに対し、ヒストグラムや散布図などは表現手法であり、それぞれの役目があるに過ぎません。

  QC7つ道具を習った初心者が早速使ってみますが、大抵は役に立ちません。原因は、次の4つ誤解にあります。

 (1) 使う人の能力の問題
  「能力がなくてもQC7つ道具を使えば、問題を解決できる」とする誤解が多いようです。
  しかしQC7つ道具は、能力のない人には役立ちません。能力のない人がグラフを作っても、「こういうグラフになりました」というだけで、何の役にも立たないのです。


  また、「QC7つ道具は、初心者にも分かるやさしい道具」という先入感を持たれやすいようです。例えば、グラフを描いたこともなければ標準偏差の意味も分からない社員を集めて4H程度の講習で、やさしく分かりやすく教えれば、何とか使えるようになるとカン違いするのです。
  しかしQC7つ道具は決してやさしくありません。基礎を学ぶのに数ヶ月を要し、さらに多くの実務経験を積んで、少しずつ身についていくものです。

 (2) 教わる側の問題
  QCサークル活動で「やった振り」のためにQC7つ道具を使って発表することが多く、真の活動に使うことが少ないのです。 

(3) 教える側の問題
  QC7つ道具を学ぶ上で最も障害になるのは、実用性のない古典的な指導です。講習会や書物に役立つ多くの用途や事例が紹介されていますが、その多くは実務経験なき故の勘違いで、実際にそのようにすると行き詰まり、ムダな活動になることが多いのです。
  この別冊では、以上のような問題点を解消することを狙ったもので、決して全くの未研修者が直ちにQC7つ道具を理解し、使えるようになることを狙ったものではありません。
  1つの例を示そう。西村三郎氏の西村経営事支援務所のサイトは「層別」をQC7つ道具から除外する点で問題ですが、他にも次のような説明があります。
  パレート図はQC7つ道具の中で最もよく使用される手法1)、2)で、重要問題や主要因を選び出す為に使用される。
  1. ある項目が全体のどの程度を占めているかを知りたいとき3)
  2. 問題点の原因を調査したいとき、またその中で重要な問題点を見つけ出したいとき
  3. どの項目の処置を行なえば、不具合をどの程度解決できるかを知りたいとき
  4. 改善前後を比較し、改善効果を把握したいとき
  5. 視覚的に不具合の割合を見たいとき4)
(1) パレート図を 「最もよく使用される手法」 としている点だが、正しく使われる場合だけを指しているのか誤った使い方も含むのか判然としません。というのは、非常に多くの場合に、誤った使い方をしているからです。
(2) それを方針管理で使うのか日常管理で使うのか、という最大の問題点を説明していません。
  例えば、パレート図による「重要問題の発見」は方針管理で役立つが、QCサークル活動などの日常管理には役立ちません。日常管理は小規模で出費の少ない改善であって、重要問題を解決する活動ではないからです。
  指導者側にこの点の適切な認識がないため、QCサークルが日常管理であるにもかかわらずパレート図を使って活動テーマの選定を行なったような誤った発表事例が跡をたちません。
  必要な出費額や技術的な困難性などを考えないで、パレート図だけで活動テーマを選定するなど、できないことは当然です。
  なのに、そういう点の指導が抜けているのは指導者自身に実務経験が乏しい故と思われます。
(3) 「〜したいとき」とあるように、手法の使い方の基本が誤っています。手法はそれが有益なときに使うのであって、必要もないのに「〜したいとき」に使うものではありません。
  例えば、冒頭に「ある項目が全体のどの程度を占めているかを知りたいとき」にパレート図を作るとしています、それがムダ(=誤り)であることが多いのです。→1−2事例研究〔事例1〕
(4) 「視覚的に不具合の割合を見たいとき」には棒グラフで十分で、パレート図は使いません。つまり、正しくパレート図が使われることは極めて希なのです。
  QC七つ道具は、以上のように極めて多数の誤った指導の下に晒されており、注意が必要です。


1 パレート図

 1−1 パレート図の概念
  パレート図とは、問題となる特性(=不良率、損失金額、クレーム件数など)のデータを項目別に分けて、特性値を棒グラフで表わし、大きい順に並べ、さらに全体に対する%の累積和の曲線を併記したグラフを指します(第1−1図)。
  たとえば、工程の不良率を不良項目別に層別してパレート図に表わします。
  その結果、トップの3つ(=ワースト・スリー)の主役が全体の85%を占めることがあります。 そして、ワースト・スリーを手がけて解消すれば、問題は概ね解消することになります。
  かくしてパレート図は、重点管理の原則に沿った「テーマ選定のためのツール」として広く、しかし誤って指導される結果となりました。

〔第1−1図〕
  これはイタリヤの経済学者:Pareto、アメリカの経済学者:Lorenzが発見した経済学の法則をアメリカの経営コンサルタント:Juranが品質管理に応用しようと提唱したものです。
  われわれが使える時間や労力は有限だから、総花的にあまり重要でない問題に手をかけて肝心な問題を見落とことがあれば、労多く功少なしとなります。職場の問題を全体的に把握し、一番困っている問題、改善効果の大きい問題を優先して解決するのが効率的なはずです。そのため多くの問題を掘り起こした上で、悪さの大きい順に柱状図を並べてパレート図を作成し、優先する重要問題を選定し、検討してから解決に取りかかるべきであるように思われます。この考え方を重点管理と呼びます。
  しかし、一見して魅力的なパレート図には、大きな落とし穴があります(最も多いカン違い)。
  パレート、ローレンツ、ジュランといった顔ぶれでは、現場で床を這いつくばって不良問題などの改善に取り組んだ実務経験者はいないと思われます。つまり以上の説明は、現場を知らない人達の理論を無批判に日本の学者が輸入した結果なのです。
  一番困っている問題や改善効果の大きい問題は、往々にして高度の技術や高額の出費を要し、QCサークルがこれにかかりきりになると改善が停滞します。また、小さい問題だといって容易なものを放置するのは、日常管理では許されません。大きな問題は方針管理で扱うべきであり、日常管理はむしろ小問題を総花的に扱うのが本来んあおです。
  ただ、問題をパレート図に表わすこと自体は必要・有益なことです。重要問題の存在を上層部に示して解決を促すことは、問題が地下に潜伏しないようにする効果があります。

 1−2 事例研究
〔事例1〕 QCサークル(小集団活動)で、第1−1図のパレート図を作り、重点管理の原則に従ってトップの「サビ不良」の低減をテーマに選定して取り組んだ。このテーマ選定の方法は正しいか?
〔解説〕「成功すれば改善効果が第1位である」ことを根拠にする点で、誤りである。
  QCサークルは日常管理です。すなわち、方針管理とは違って「大金を投じてまで飛躍的に改善する活動」ではなく、第一線の作業者が行なう簡単で出費の少ない活動です。

〔第1−1図〕再掲

  従って、「成功すれば効果が大きい」ことを根拠に活動テーマを選定すべきでなく、「チリも積もれば山となる」の考え方でなければなりません。さもないと、本来は管理職、専門職、経営者が担当すべき大きなテーマ(=方針管理テーマ)に現場の作業者グループが掛かりきりになり、小さな問題を放置する弊害が生まれます。
  機械から油が漏れ窓ガラスが割れても 「大きなテーマではない」 として放置されては日常管理が不在になります。
 これでは日常管理の充実を目的に導入したQCサークルが、かえって日常管理を妨げることになります。
  QCサークルは不良や納期遅延など、いかなるトラブルについても一応取り組まねばなりません。まして原因が分かっていればパレート図がどうであろうと放置することなく 即座に対策を講じなければなりません。
  解決できる問題が全部が片付いてから 「未解決の問題」 のパレート図を作るべきです、従って、「ワースト3」は、QCサークルの手に負えないテーマとして残った重点テーマということになります。
  つまり「ワースト3」は、経営者・管理職・技術者などが担当すべき方針管理の重点テーマになります。

〔事例2〕 第1−1図のパレート図のトップにある「サビ」不良は、
  • 第1工程で乾燥不十分を原因とするサビ
  • 第5工程で人が素手でつかんで指紋によるサビ
  • 保管室の湿度管理が悪いために生じたサビ
〜などを合計したものです。このパレート図は妥当ですか?
〔解説〕特性値を加算している点で誤りです。
  つまり、原因も対策も異なる「全く別個のトラブル」を合計した点で誤りです。パレート図を作るには、各テーマを純粋なものにして置かねばならず、この純粋化を「特性の層別」といいます。このような間違いを起こしやすい例として、「ダコン不良」と「スリキズ不良」を合計して「キズ不良」としたり、各種の汚れを合計して「汚れ不良」としたりすることが挙げられます。

〔事例3〕 方針管理において、第1−1図のパレート図に基づき、ワースト・スリー(サビ、ハガレ、タレ)を優先的に改善すべく重点管理の方針を決めるのは妥当ですか?
〔解説〕これらについて原因や対策を検討した結果、「解決するには土地を買って工場を建てて設備を新たに購入して、10億円かかる」ことが分かったとします。
  何しろ、生産ラインを止めてはならないから、全てをそっくり用意せねばなりません。だとすると、これらのワースト・スリーは、悪者どころか、10億円の出費を抑えてくれている「有難いトラブル」です。 これを真っ先に解消するなど、とんでもない話ということになります。
  方針管理は、長期方針と短期方針(年度方針)から成り立ちますが、単に「願望」の大きさで方針決定をするのは長期方針です。
  長期方針は検討期間があるから、その期間内にできるだけ多彩な解決策案を揃えて実現性を確認し、そのうち投資効率や満足度に照らして最善かつ採用可能な手段を選定することができたら、その手段と予測成果(目標)をもって年度方針とするのです。
  従って、パレート図で上位を占めることを理由に長期方針とするのはよいが、めども立たないのに短期方針(年度方針)とするのは間違いです。

〔事例4〕 第1−2図は、QCサークル中国・四国支部のホームページに示された進め方(現状把握の意味を間違えた例)で、次のような趣旨です。
 1.現状トータル生産時間(現状値)を把握し、その短縮目標時間(一次目標)を設定する。
 2.現状トータル時間の内訳:A工程、B工程〜をパレート図に表わし、最長の工程時間について一次目標に見合った短縮目標(二次目標)を決める。
 3.これら2つの目標は整合(一致)すること。
 以下、間違いを拾ってみよう。

〔第1−2図〕

〔解説〕
 (1)目標を設定してはならない
  QCサークルは日常管理のであって、小改善の場です。金をかけずに、もっぱら創意工夫で改善する活動です。成功するに越したことはないが、失敗してもいいから、とにかく良いと思う案があったらやってみろ という趣旨の改善活動です。
  事前に出費の少ない改善手段を知っているならともかく、「トータル生産時間の目標と短縮手段を大した検討もなしに知る」ことは、普通、不可能なことです。故に、このような活動は、通常、QCサークル(=作業担当者の仕事)ではなく経営陣の方針管理で扱うべきです。
  方針管理では、特別な理由によって重点的テーマを選定した上で、手段を網羅的に検討し、その中の最善を選んで、それが採用可能なら目標を設定します。
  他方、QCサークル活動は日常管理だから、金をかけずに創意工夫し、専ら試行錯誤でPDCAを繰り返して「目標を設定せずに手段が尽きるところまでやる」活動です。
  本件は、パレート図で、QCサークルの道案内を誤ったワケです。
  つまり、小改善を担当するQCサークルを大改善に導いて、頓挫させてしまうことになるのです。

〔PDCAを繰り返して、行けるところまで行く〕

  よくある例は、経営陣や管理職が、本来自分たちがやるべき方針管理をQCサークルに押し付けて、その審査員を務めるという間違いをするのである。
  もし、前述のQCC中国・四国支部のようにQCサークルが目標を設定して進めるというなら、「達成に1千万円かかる」と分かったら、その先どうするかという次の問いに答えねばならない。
  Q1.目標を達成に1千万円かかると分かっても、あくまでQCサークルにさせるか?
  Q2.目標を達成できなかったときは、「目標達成率:0%」と発表してよいか?
  Q3.テーマ選定、目標設定、重点管理というQCサークルにそぐわない3つの誤りに気づいて、かような手順を廃止するか?
  Q4.それとも今後も延々と誤り繰り返すか?
  以上に対して納得できる回答がなければ(回答できるはずもないのですが)、賛同することはできません。
〔第1−3図〕

(2) 目標と願望(ノルマ)を取り違えている。
  多くの人が「簡単だ」と思い込んでいるものに、「目標の設定」という仕事がある。「全くの未研修者でも、目標ぐらいはすぐにでも立てられる」と思っていませんか?
  一番間違いやすい点は、願望と目標の区別です。目標は「欲しいもの」を指すのではなく、「攻略の対象」を指します。単に欲しいだけでなく、確実に攻略できる具体的手段を持たねばなりません。かつ、それが最善の手段であり、採用可能ものでなければなりません。
  例を出して分かりやすくしよう(第1−3図)。
  戦争中の軍隊の隊長が、敵陣にある丘の上の建物への攻撃を命令しました。大砲を担当する兵は、「あの建物が目標だから狙おう」と目標を設定して砲撃を始めまう。
  しかしピストルしか持たない兵や武器を持たない兵は、(攻略の願望は抱くかもしれないが)直接に建物の攻略を目標にすることができません。
  つまり、手段なければ目標なし は鉄則です。これを知らなければ、「目標を設定した」と思い込んで、実は「願望」を設定してしまうのです。
  目標とは、本来、目印のことです。それが、弓矢や鉄砲の弾丸を命中させる場所を示す印(まと)に転用され、さらに達成するものを目標と呼ぶようになったのです。
 命中させる的(まと)を設定するということは、前提として、弓矢や鉄砲を持っていいなければなりません。何も手段を持たないで的を設置することはあり得ません。目標設定には、達成が確実で、最善かつ採用可能な手段を事前に確保しなければなりません。

  そして、引き金を引いたら直ちに「GO!」で、しかも失敗が許されない「一発勝負」です。
  これに対し、QCサークル活動は、失敗してもよいから、何回も挑戦して行けるところまで行く活動です。

(3) かかっている時間と無駄な時間の区別
  QCC中国・四国支部の事例(第1−2図)のパレート図が、無駄な時間(ロス)を示すなら、有効なパレート図です。 しかし、単に「かかっている時間」でパレート図を作っても無意味なのです。短縮すべき時間を意味しないからです。
  QCC中国・四国支部の事例(第1−2図)のパレート図が、無駄な時間(ロス)を示すなら、有効なパレート図です。 しかし、単に「かかっている時間」でパレート図を作っても無意味なのです。短縮すべき時間を意味しないからです。
  あたかも所得税の計算のように機械的にノルマを課し、具体的な検討を何もせず、何の解決手段もないままにノルマだけを膨らませています。パレート図はかような推定力を持たないから、誤った使い方でなのです。
  QCサークルでの現状把握の活動は、トラブルの原因を推定するために「現場データを収集する活動」を指し、目標設定のために行なうのではありません。

〔事例5〕 第1−4図は、在庫品の品質点検をした結果である。すなわち、どのような不良品が何台あったか、およびトップから累積して全体の何%を占めるか、を示している。
 従って、このパレート図を根拠に、トップの3項目の不良を優先的に改善する必要がある、と品質担当役員が指示した。
  この指示は妥当か?

〔解説〕 第1−4図は、どのように役立つだろうか?
  主役だけを修理して端役は廃棄するという訳にも行かないし、主役には再発防止の対策を講ずるが端役には対策を打たないと言う訳でもない。


〔第1−4図〕

  つまり、パレート図と形は似るが、作成目的がはっきりしない故に、このようなアプローチでは何の役にも立たないことが分かる。
  では、どのように作ったら役に立つだろうか?
  第1−5図は、第1−4図と同じ状況を損失金額で表わしたものである。 これによると、上位の2つは廃棄処分の対象となって100万円以上の損失を出しているが、他は修理で済む故にせいぜい10万円以下である。
  従って上位2つは投資をして設計変更により予防するが、他は発生した時点で修理をすることで対応するという判断が可能となる。
  このようにトップグループと下位グループの扱いが違うのであれば、パレート図としての意味がある。
  換言すれば、第1−4図では、トップグループと下位グループの扱いを決めかねるので、図は作成してみたがパレート図にはならない。

  パレート図を指導するには、作成の手順を教える必要があることはいうまでもない。しかし、その手順の中に、データの層別、作成目的の明確化、日常管理と方針管理の区別、目標設計の手順など、不可欠なものがあることを忘れると、全く誤った指導になる。   また、指導の誤りが多いため、パレート図が正しく利用されず、むしろ弊害となっているケースが跡を絶たない。
  パレート図が正しく使われる事例は、極めてまれなのな実情です。

〔第1−5図〕

〔事例6〕 Q-BPM.orgというサイトで、パレート図の目的を右のように説明している。   このような理解の下、ある慢性不良に取り組むとする。要因を5つほど列挙してみたが、どうやってそれらの影響力をパレート図に表したらよいか手のつけようがなくなる。
  パレート図は、決して特性に対する要因の影響力を把握する手法ではない。実務経験がない故に、このようなピント外れの解説をいとわないようである。
  パレート図を作成することで、どの項目がどの程度結果に対して影響力を持っているのか把握することができる。
  影響力の大きな項目に対しては、重点管理項目として集中的に管理するなど、影響力の度合いによって管理方法を使い分けることで、効率的な管理活動が行える。一般的には累計構成比が80%程度になるまでの項目を重点管理項目にする。

  NIKKEI BPnet の Self-up というサイトで「ITパスポート試験の解説」というページがある。そこに、右のような試験問題があって、 小倉美香氏が解説をしている。彼女によれば、正解は「ウ」だそうである。
  しかし、客観説TQM研究所では、誰も正解を発見することが出来なかった。皆さんは、どうだろうか?
  以下、彼女の解説を紹介し、どこが誤りか説明しよう。
〔問題〕
  問2 パレート図の使用が最も適切である分析対象はどれか。
 ア 生産工程の信頼性
 イ 製品の重量のばらつき
 ウ 品質不良の要因ごとの構成比率
 エ 二つの変動要素の間の関係
〔小倉美香氏の解説〕
  選択肢ウの記述について。品質不良の要因ごとの構成比率を分析し、品質不良を引き起こす重要な要因を把握するためには、「品質不良の要因ごとの構成比率を大きい順に並べた棒グラフを作成し、その累積比率をもとに重点的に管理する要因を把握する」というアプローチが適しています。このような場合に使用される図として適切なのはパレート図です。


  このような解説をする「専門家?」がいること自体が驚きであるが、解説の要旨は「いろいろな要因の影響を比べて、重点管理をする」ということである。
  しかし、実務を知っている人は、こういう工程管理をすることは絶対にないと言うはずである。
  なぜなら、
  1. 「どの要因が不良に対していくら寄与しているか」を調べることは、極めて大変な作業であり、事実上できない。
  2. 実務では不良はゼロがニーズであって、「重要な2〜3の要因だけを管理して他は放置する」という工程管理をしている企業は実在しない。
 軽部文雄(FK-Plaza)氏のサイトでは、右のように説明している。
  「パレート図によって要因の影響力が分かる」などと「飛びつきたくなる魔術のような話」であるが、これが全くの素人のデタラメな記述であること、指摘するまでもない。
  パレート図は不良品の内容などを項目に分けて調査した結果を、大きさの順に並べ棒グラフにするとともに、累積率を折れ線グラフにして、 同じグラフ上に記載したものです。パレート図によって、重要な要因は何か、どれ程の影響があるのかが一目で判ります。

2 チェックシート

  チェックシートには、調査用と点検用の別がある。点検用をチェックリストと呼ぶ場合もある。

2−1 調査用チェックシート
  第2−1図は、ある製造「/」印を使って記録した事例である。 

  不良品が見つかるたびに「/」印をつけることになるが、こうして出来上がったものは、どれが一番の多いとか、現場の状況を判断するデータになる。
〔事例〕 QCサークルの発表会で、第2−1図のチェックシートがスクリーンに映し出されて説明が行われた。

〔第2−1図〕

  作業現場で発見した不良品の現品を項目別に分けて保管し、終業時にそれらを項目別に数えて、このようなチェックシートを作成した〜というのだが、このチェックシートは、妥当だろうか?
〔解説〕 ラインから不良品を除外して項目別に分けて保管しているなら、それを数えて「3」個などと記録すればよいから、「/」 印をつける意味がない。
  もし、作るなら、既に「3」と数値で記してある記録を「///」と、わざわざ書き直さねばならない。
  チェックシートを講習会で習ってきた社員が、こういうものを作って遊んでいる光景をみることがある(本人は良いことをしていると勘違いしている)。QC手法を使った素振りをする目的で作成したもので、妥当でない。

2−2 点検用チェックシート(チェックリスト)
  これは点検作業や組立作業などで、多数の作業を次々に行なう場合に、漏れを防ぐために使われる。
〔事例〕 第2−2図は、ある機械の月1回点検のチェックリストの事例である。これは、自主点検と称して、その機械を使う作業者が点検することが多い。このような使い方は妥当か?
〔解説〕次のような手抜きが自然に起きる。
(1)プーリーのナットは左ねじで、使えば締まる。
(2)スイッチの作動異常は、機械を使えば分かる。
(3)リミットスイッチの異常は、使用中の異常で分かるはずだ。
(4)注油は先月行なった。3ヶ月もつから大丈夫。
(5)荷動ワイヤは3ケ月前に調べたときに、全く異常がなかった。2〜3年は大丈夫だ。
(6)カッターの持ち手は、使うときに点検する。
  こうして、今日も明日も、点検したことにして全項目に○をして終わる。この傾向は、誤った「なぜなぜ分析」で、やたら手順書やチェックリストを増やし、ムダな点検を重ねる場合に見られる。
  対策として、
  • チェックリストを使わず、ポカ除けを工夫し、センサーで自動点検を行なう。
  • チェックリストは、設備保全部門が定期点検・定期交換・予知保全を実施するときに使う。
  • 処置の作業は、設備保全部門の監督の下で自主保全に行なわせる。
    〜という方法に移行するのがよい。
  • 〔第2−2図〕

      ところが、2010-02-27、同年1/19に架線が切れて約3H20分の停電が起きた事故で、JR東海が原因となった作業ミス(パンタグラフの交換時にボルト4本全部をつけ忘れ)をした作業者3人と上司の処分、それに再発防止策を発表した。
      処分そのものの当否を云々する積りはないが、問題は再発防止策である。何と、チェックシートを4月までに完備するという。
      パンタグラフのボルトを全部そっくりつけ忘れる事態が起こりかねない状況で、チェックシートを作ったのでは、その傾向をさらに深めるだけである。日常の業務では、チェックシートが一番危ないのである。
      ここは是非とも「ポカヨケ」をやって欲しい。方法はいろいろあるのではないか?
    1. ボルトを絞めなければ、パンタグラフがすぐに倒れるようにする。
    2. ボルトを4本とも絞めなければ、何かの通電が繋がらないようにする。
      リニアカーを開発する技術レベルを考えれば、こんな「ポカヨケ」は容易なはず。製品設計で実施すべき信頼性設計+FMEAの問題である。例によって国土交通省は、上の再発防止対策の提出を受けて、おそらく何の疑問も感じないでOKにするであろう。



    3 ヒストグラム

    3−1 ヒストグラムの概念
      ヒストグラムは、一群の数値データを区分けし、各区分に属するデータ個数の度数分布表を図化した一種の棒グラフであり、データのばらつき具合(分布形状)を視覚化し、診断する重要な手法である。
      かつてヒストグラムから標準偏差を計算したが、現今では EXcel で簡単に求められ、その役目は終わった。
      現在、ヒストグラムは、
    1. 工程能力指数:Cpkに異常がある場合、および、
    2. 「離れ小島」のような異常がないか確認する
    ために利用する。

    〔第3−1図〕
    3−2 典型事例
     (a)理想の分布形状 --- 富士山のように綺麗な山形状が理想であるが、実際のデータで作ると理想形はほとんど見られない。ただし診断の対象は分布の形だけで、広がりや平均値の位置は工程能力指数 Cpkで診断する。 → 3−3参照
     (b)すそ引き型 --- 下限値が0で負の値にならない特性で、0付近に分布する場合である。例えば、板のそり、不純物の含有%など。そういう条件がないのにこれに似ると、分布異常である。
     (c)絶壁型 --- 選別した場合に起きる。合格ロットでも、この場合は対策を要する。
     (d)高原型 --- 平均値が僅かに異なる数個の分布が重なった場合。層別ヒストグラムを作って、原因を追究する必要がある。→ 層別
     (e)ふた山型 --- 平均値の異なる2個の分布が混入。層別ヒストグラムで原因追究の要あり。
     (f)離れ小島型 --- 異なった分布のデータが僅かに混入。理屈は簡単だが一番の難物。できるだけ多くの機会に作成して診断するのが有益である。
      普通に予測される原因は、
     1.段取り時の試作品を「チョイ置き」で混入。
     2.型交換時に前型品を「チョイ置き」で混入。
     3.不良品を、故意または過失で混入。
     4.余った製品を在庫し、次回ロットに混入。
     5.作業指導で作ったワークが混入。
     6.落下品を拾って混入。
      標準偏差の計算がパソコンに奪われた現在、ヒストグラムの意義はもっぱら「ふた山」や「離れ小島」の発見にある。


    3−3 工程能力指数 Cp、Cpk
     3−2図の山の形をした図形は「ガウスの正規分布曲線」と呼ばれるもので、ヒストグラムを代表した図形である。標準偏差:σは Excelで別に求めるものとする。
      規格下限値:SL、規格中央値:SC、規格上限値:Uに対して、分布の平均値:μの位置はちょうど規格中央値SCに一致するケースである。
      普通の正規分布を前提にすると、データの存在範囲は99.7%が「μ±3σ」の中に入り、ここから外側に外れるデータは千に3個ほどしかない。
      従って、「μ±3σ」のところの外側に規格の上限・下限があれば一応安心できる。この状態を次のように表す。
    工程能力指数:Cp=T/6σ=6σ/6σ=1
      しかし、この状態は余裕がなく、少しの変化ですぐに規格外のデータが発生しかねない。
     そこで両側にもうσだけ余裕を設けたところの外側に規格の上限・下限を置けば安心である。この安心できる状態を次のように表す。
    工程能力指数:Cp=T/6σ≧8σ/6σ=1.33

    〔第3−2図〕

      データ(=ヒストグラム)の平均値:μの値が規格中央値:SCからδだけずれている場合を第3−3図に示す。この場合、余裕が減った側(危険な側)の片側規格巾が
    T/2 → (T/2)−δ
    に減ったから、左半分について、
    工程能力指数:Cpk={(T/2)−δ}/ 3σ
    を計算して、1.33 以上でなければ安心できないことになる。
      一般には規格中央値とデータ平均とは一致しないから、工程能力指数はCpkを用いるのが普通である。Cpは、「平均値は後で調整することにして、とりあえずバラツキだけを検定する」という場合に使う。

    〔第3−3図〕

      CpにしろCpkにしろ、もう1つ問題がある。何個のデータでCpkを計算するか? 100個以上ものデータで計算するなら1.33 で大方問題ないが、20個程度のデータで計算するなら第3−4図に示すように、より大きなCpk値が必要になる。   なお、Cp、Cpk計算用Excelアドインは無料ダウンロードができる(出所:suetake)。

    〔第3−4図〕


    4 管理図

      管理図が有効な手法であるように説く人がいたら、その人の教えは受けない方がよい。使って懲りた経験がない証拠だからである。

    4−1 管理図の原理
      管理図とは、工程の過去の安定状態を基準に現在の状態を客観的に判断するツールである。そのため、ある特性値を、平均値、不良率あるいは欠点数などの値で打点して一種のグラフを描き、さらに管理限界線を上下に引く。

    上管理限界線(UCL) 中心線(CL) 下管理限界線(LCL)
      管理限界線は中心線CLから±3σの位置にあり、過去の安定状況が現在も変わらなければ、これらの線外に打点されるのは1,000回に3回程度の極めて稀なこととなる。逆に言えば、過去の安定状況から、何らかの変化(条件の異常)が発生したものとして「管理はずれ」とする。打点された点は管理限界内でばらつくが、これは過去に設定された管理条件の許容範囲内の偶然原因によるばらつきとみなされる。

    〔第4−1図〕

      管理限界線の外側に打点されたら、管理条件に見逃せない変化があったという赤信号になるから、原因を探し再発を防止して工程の安定化を図る。
      第4−1図のp管理図(簡略法)は、5月19日の第1ロットで管理はずれになった事例である。
      第4−2図上が (エックスバー)管理図である。各ロット、n=5個のデータの平均値を打点したもので、5月13日の第2ロットが管理はずれである。
      第4−2図下がR管理図である。各ロット、n=5個のサンプル内の範囲:R=(最大値−最小値)を打点したもので、5月19日の第2ロットが管理はずれになっている。
    〔第4−2図〕

      しかし、管理限界線の内側の打点でも、めったに起きない並び方である「連」や「傾向」があれば、工程に異常が発生したことになる。
      ここに「連」とは、「同じ特徴を持つ引き続いた点のつながり」をいい、例えば中心線の一方の側(上又は下)に連が6点続いたときは、異常ありと判定する。
      「傾向」とは、打点の並びが偶然のばらつきを除けば順次に増加傾向、又は減少傾向となることをいう。
      「偶然のばらつきを除けば」とは、「多少の上下の動きはあっても全体として」の意味である。これら、連や傾向が起きたときは、「何らかの見逃せない原因による」と考えられ、その原因を追究できれば改善を図ることができる。

    〔第4−3図〕

    4−2 管理図の実用上の問題点
      「管理図は過去の安定した工程を基準に現在の工程の安定性を診断するから、安定工程がなければ管理図を作れない」とはジュラン(Joseph M.Juran)の言葉である。つまり管理アウトが起きるようなら安定状態にないから管理図は作れないし、管理アウトが起きないような工程なら管理図も不要だから、管理図は「実用性がない」という根本的な矛盾を持っている。現場で実施すると、次のような事態になる。
    (1)原因調査が困難
      管理アウトになったとき、管理アウトの状況が継続せずに正常に戻るので原因調査ができない。しかし、毎回、「原因不明、対策なし」と注記するのは体裁が悪く、何らかの対策を講じた旨の虚偽記載をするようになる。管理図を多数作成する工場は、でっち上げに満ちたものとなる。
    (2)離れ小島に鈍感
      ロットに10個ほどの不良品を混入しても、「管理アウト」として検知することができない。つまり管理図は、管理されている事項について不要だし、管理されていない事項については無力である。
    (3)時系列グラフに劣る
      管理図による異常判定の中で、「連」と「傾向」と「周期性」は、単なる時系列グラフによっても分かるので、その方が簡便で実用的である。また、たまたま起きる「連」と「傾向」から、何らかの有益な改善策が見つかることは、実務では千に一つもない。
        かくして、シューハート(Walter A.Shewhart)が創案した管理図の理論は、数理的な理論そのものは完璧である反面、意外に単純な運用面の矛盾を見落としたもので「全くの役立たず」であることが明らかとなった。

     羽根田修氏のサイト(品質管理.com)を拝見すると、右のように解説している。
      さて、問題なのは次の点である。これらについて全く触れないような解説は、ほとんど実用価値がないというべきである。
     (1) X-R 管理図に異常がなければ、その特性について工程に異常がなく、従って検査も不要なのか?
     (2) P管理図で、異常が出ないときは、「管理状態にある」として、そのまま現状を維持すべきなのか?
      シューハート管理図とは、製造工程が統計的管理状態にあるかどうかを判断するためのグラフです。製品の品質特性値はバラツクのが普通ですから、管理図は品質特性値のバラツキが異常原因(見逃せないバラツキ)か偶然原因(許しえるバラツキ)かを判定するためのツールになります。
      管理図は折れ線グラフに、2本の管理限界線(UCL、LCL)と1本の中心線を記入して作成します。品質特性値にくせがあったり管理限界線の外に出たりすれば、異常原因があったことを示します。
     軽部文雄(FK-Plaza)氏のサイトは、右のように説明している。
      しかし、この説明は特に初心者に対して大きな誤解を与えるもので、非常に危険な説明である。また、実務にほとんど役立たない。
      管理図は、平均値と標準偏差に大きな変化がないかどうかを判定するだけである。従って、例えば、ポカによる作業ミスや突然の異常が起きても、全く検知できず、不良の発生を予知することができない。
      ところが、現場で最も多いのは、このような突然の異変なのである。
      工程の異常発生を未然に防ぐことが出来る。
      管理図は管理したいデータの目標値を中心線にして、上下に管理限界線を点線で表示した図です。この管理図に継続的に取得したデータをプロットしてゆくことで、データのばらつきと変化の推移が視覚的に把握することが出来ます。
      管理図はデータが管理限界の内に収まっていることを見ることが目的ではありません。収まっているなかでも、「徐々にデータが高い値に動いている」また「特徴的な並びが出ている」などの状態を確認することが目的です。こうした状態は、いずれ限界点を超えた不良品が出てくることを暗示しています。管理図はこのことを事前に把握する目的で使います。

    5 特性要因図

    まえがき
      「特性要因図とは何か? どうやって作るか?」との問いに対し、「ここに問題となる特性を書いて、水平に背骨を引いて、そこから大骨5本を出して、中骨、小骨、孫骨まで要因を展開するんだよ」などと言い出す人がいたら、その人からは教わらない方がよい。
      「特性要因図の作り方」を製図の仕方だと勘違いしているわけで、問題なのは「その要因をどうやって見つけ、何のために列挙するか」ということである。
      要因には、将来のトラブルを避けるために「管理すべき条件」と現に起きたトラブルの「原因候補」という2つの種類があって、それぞれ見つけ方が違うのである。
      もう1つ、「ここに問題となる特性を書いて、」というが、その特性のデータがないのにお構いなしに魚の骨状の図を描く人からも、教わらない方がよい。
      なぜなら、「どのように問題なのか」という現場データがなければ、要因を推定することが出来ないからである。例えば、毎日頻繁に起きるのか、普段は起きずにある日突然起きるのか、季節的に起きるのか、起きる量はどうなのか、どこで起きるのか、こういう現場データから要因を推定するからだ。
      このやり方を「データ・アプローチ」(fact control)というが、このような基本的な知識に欠ける人から特性要因図の作り方を教わっても、それは「飾り物の作り方」でしかない。

    5−1 特性要因図の概念
      「特性要因図」とは、ある特性についてその要因を系統的に列挙する場合に使う様式をいう。特性に対して要因をどのように配置して記録するかによって、特性と要因の関係、および要因間の関係などが理解しやすくなる。
      理解しやすい様式として魚骨状の図(魚骨図)を考案したのが石川馨氏であり、「Ishikawa Diagram」とい呼ばれることがある。
      ここに、「特性」とは、管理業務の結果として得られる特定の成績(成果)をいう。従って、例えば、不良率、原価率、クレーム件数、在庫金額〜などのように、数値的に評価できる必要がある。
      次に、「要因」と「原因」は、明確に区別しなければならない。「要因」とは「特性に影響する条件」を意味し、影響するから適切に管理すればトラブルにならないし、管理が不適切だとトラブルの原因になる。
      また、「原因」とは、適切な管理がなかったためにトラブルを招いた要因(管理不十分な要因)をいう。
      要因と原因をこのように解する根拠を説明する。特性に対する因果の関係を考えるとき、次の2つを区別しなければならない。
      (1) 現にトラブルを起こした条件であると確定した条件 → 原因と呼ぶ。
      (2) 「将来、トラブルの原因になるかも知れない条件」、あるいは、「現に起きたトラブルの原因かも知れない候補」→ 原因とは呼ばない=要因と呼ぶ。
      前者は現実の問題として「限られた事項が該当する狭い概念」、後者は可能性の問題として「多数の事項が該当する広い概念」で、同じ用語で呼べない。現実の用例では、現に起きた事件については「原因」を調査するが、「将来原因になるかも知れないもの、現に原因であったかも知れないもの」を「原因」とは呼ばない。

      このことから、前者が「原因」で後者が「要因」に対応する(第5−0図)。
      ちなみに、因果関係とは、「AがなければBもなし」という関係をいう。原因と結果は因果関係にある。原因がなければ結果はないからである。しかし、要因と結果は必ずしも因果関係にない。
      ある特性について要因a,b,cがあるとき、aが不存在でもbの存在によって結果が発生し得るからである。
      具体的な例で説明しよう。
      今、高血圧の要因として日常生活上の「管理すべき要因」を列挙したのが第5−1図である。遺伝的な要因は管理できないので、ここでは除いてある。

    〔第5−0図〕

      喫煙習慣を持たず、適正塩分の食事、適度の運動、体重管理、ストレス解消を実施しておれば、高血圧になりにくい。
      このことは過去の経験や知識で分かっているので、この特性要因図はトップ・ダウン式に(決め付けるように、教えるように)要因を決めて挙げる。
      このように、あるトラブルを予防する目的で管理事項を列挙したものを管理用-特性要因図といい、その管理事項を要因とする。要因とは、「結果に影響するもの」をいう。
      一方、現に高血圧になってしまったときに、その「原因として疑われる候補」を列挙するために作成するのが第5−2図の解析用-特性要因図で、いわば容疑者リストである。
      これは「現に生じたトラブル」について具体的な現場情報(データ)を収集し、データに基づいて原因候補をたどって列挙せねばならず、トップ・ダウン式に決め付けてはならない。
     調べた結果、喫煙と高塩分の外食を利用していたと判明したなら、「喫煙」と「塩分」が候補として挙げられる。解析用の方が、普通、要因数が少ない。
    〔第5−1図〕 〔第5−2図〕



    5−2 古典的な考え方の事例
      特性要因図について最初に石川馨氏が提案された当時から、誤りがあったと思われる。しかしそれが今日まで尾を引いて、古典的な理論の温床になっている。
    〔事例1〕
      右の軽部文雄氏(FK-Plaza)の説明は、完全な矛盾である。
      (1) 「影響を及ぼすと思われる要因」というのは、トラブルが起きる前に作成する予防目的の管理用の特性要因図である。
      (2) 次段階の「原因の究明」や「対策の立案」策定に繋げる、というのは、上記の予防用の特性要因図を(間違って)原因追求用として作成することを意味する。結局、軽部氏は、2つの特性要因図を区別できないことが分かる。
      (3)「重要と思われる要因をマークする」のは間違いであり、QCサ-クルがカンで要因を列挙し、従って原因究明に失敗してウソ話に走る一因になっている。
      特性要因図とは、特性(現象など。課題として取り上げる対象を云う)と、それに影響を及ぼすと思われる要因(特性に影響を与える、もしくは原因となりえること)1) との関係を系統的に網羅して魚の骨のような図にまとめたものである。作成では始めに分類的なレベルの要因を記入して行き、段々と具体的な要因を記入してゆきます。このことで具体的な要因が見えてくるので、次段階の「原因の究明」や「対策の立案」策定に繋げることが出来る2) ことになります。
      作り上げた特性要因図から重要と思われる要因3) をマークして、原因追究のテーマに設定してゆきます。QCサークルでは、要因の解析の段階で使用されます。

      軽部文雄氏(FK-Plaza)のサイトで右のような特性要因図が模範例とされている。
      読者は、この図を見て即座に2つの決定的な間違いが分かるであろうか? もし容易に見つけたなら、最低限度の研究と実践経験を認めることができる。もし分からなければ、全くの初心者である。
     〔第一の問題点〕
      これは予防のための要因効果図 FED(Factor and effect diagram )か、それとも是正のために原因結果図 CRD(Cause and result diagram)か?
      「肥満を治す」とあるから、是正のために原因結果図として作成されたものに違いない。

    軽部文雄氏(FK-Plaza)の特性要因図

      そうだとすれば、第一に、原因候補を推定するための手掛かりとなる現場データがなければならない。
      ところが、それが何もないのである。その痩せるべき人の思想、生活習慣、遺伝、その他の情報が何もない。だから、ここに列挙されたものは、単に頭に浮かんだものを列挙しただけの「単なる当てすっぽう」である。
     〔第二問題点〕
      原因結果図は、5Mに分類して原因候補(対策候補)を列挙しなければならない。
      つまり、分類項目が間違っている。「肥満を治す」ためのプロセスを考えるのだから、その構成要素は次のようになる。
     (1) 人(プロセスの実行担当者)
     (2) 材料(プロセスで処理をうけるもの=肥満者本人)
     (3) 機械、装置、道具など。
     (4) 測定(情報収集、処理、記録)
     (5) 方法(痩せるために行う作業手順)


    〔事例2〕 情報マネジメント というサイトの記述

      未発生の特性を予防的に管理・検討するような場合は、関係者の経験や知識、またはブレーン・ストーミング1) などによって管理すべき要因を網羅的に列挙・整理する(対策検討型)。
      一方、すでに発生した結果から原因を探るときは、全ての要因を列挙するのではなく、影響の強いものに絞って2)、 問題と主要因の因果関係を明確にする(原因追及型)。
      では、管理用と解析用に相応して「対策検討型」と「原因追求型」に分けて下のように説明している。この分け方は正当であり、内容の乏しい記事で占められる一般のサイトに比較すれば真面(まとも)である。しかし、実務経験があれば普通に思いつくような肝心な点で誤っている。
     (1) 前者の場合、トップ・ダウン式に知識・経験で判断して全ての要因を列挙するが、普通はブレーン・ストーミングをしない。ブレーン・ストーミングは行き詰まっときに使う手法である。従って後者の原因追求の場合でも、行き詰まればブレーン・ストーミングをする場合がある。
     (2) 後者の場合に、「影響力の強いものに絞る」というのは、2段構えになる。まず、現場を観察したデータ(測定値、目撃情報などの事実)から結果を説明できるような原因候補をボトム・アップ式に列挙する。ついで、実験や層別などによって、原因候補から原因と思われるものを絞る。
     (3) 2つの型に分けるのはよいが、「対策検討型」と「原因追及型」という名称は、好ましくない。なぜなら、目的を整理すると、
     前者=要因を列挙して対策を講ずる。
     後者=原因らしきものを列挙して対策を講ずる。
    〜という訳で、名称と目的が整合しないからである。
    〔事例3〕 新潟大学:木村勇雄氏の講義
      第5−C図の特性要因図が右の説明にあるように、「原因追求」のために掲載されている。
      しかし、中身をみると「原因追求型」ではない。現場データ(=情報)から原因候補を推定するなら、せいぜい数個にとどまるはずなのに、現場データを無視して「思いつくまま」や「なぜなぜ」で要因を列挙しており、原因が見つかることは千に1つもないと知るべきである。
      「品質変動が大きい」というような問題点を特性とし、思いつくままに要因を挙げ、さらに「なぜ○○○なのか、×××だから」を繰り返す。例えば、「なぜ体調が悪いのか、睡眠不足だから。なぜ睡眠不足なのか、夜更かしするから。」と言う具合に。そして、重要な要因をまるで囲う。
    〔第5−C図〕

    〔事例4〕 上の新潟大学の特性要因図の誤りを指摘しよう。
    1. 特性が層別されていない。
      特性(Effect)として「品質変動が大きい」は、どの品質特性なのか具体性がなく具体的な原因も特定できないから不適切である(層別の意義を理解していない)。
      「キズ不良」も、「スリキズ」と「打痕キズ」を分けて別々に特性要因図を作成しなければならない。
    2. 特性が数値的に把握されていない。
      品質管理では、特性を数値的に把握しなければならない。ある製品の不良率や原価なら、数値的に把握できるが、「この工場は全般的に品質特性が変動する」という評価は数値になじまず、特性として扱えない(実務経験が全くない)。
    1. 管理用(予防用)と是正用(再発防止用)
      この特性要因図は、予防目的なのか是正目的なのか不明である(予防用と是正用の区別を知らない)。
      管理用なら全要因に対策を打たねばならないから、特に重要な要因だけに○印をして対象を講じ、他は放置するという本件のような行動はとれない。反面、是正用なら、現場データに基づいて要因を列挙するから、ごく少数の原因候補しか列挙できないから、多数の原因候補を列挙する本件のような行動はとれない(基本的な知識を欠いている)。
    2. 現場データが不明
      どのような現場データをどのように解析して○印の「疲れ」と「教育不足」を原因候補として導いたのか、全く不明である(データで判断せよ、という基本を理解していない)。
       ⇒「6-3 要因による層別」のようにすればよい。
    〔事例5〕 新潟大学の講義で、特性要因図の要因の列挙の仕方について説明している。特に注意をひく点は、「問題点を思いつくままに挙げ、後で整理・採用する」という最初のステップである。
     (1) 「思いつくままに挙げ、」とは、知識・経験から思いつくものをトップ・ダウンに挙げよ〜の意味か、現場のデータ(手がかり)に合致すると思われるものをボトム・アップに挙げよ〜の意味か?
     (2) 「後で整理・採用する」とは、知識・経験から妥当なものを採用するのか(演繹法)、それとも、現場のデータ(手がかり)に合致するものを採用するのか(帰納法)?  
      作成のポイント
    ・問題点を思いつくままに挙げ,後で整理・採用する。
    ・現場,現物,実際の現象を直視する。
    ・最終的にはデータの取れる要因や,具体的に取れる対策を挙げる。
    ・うまく書くことを目的としない。
    ・(現実には)複数人で検討し,何度も書き直す。
      この第一歩での詰めが甘いために、結局はモノにならないのである。
    〔事例6〕 下に示す 羽根田 修(品質改善.com) 氏のサイトで、特性要因図を古典的な姿で説明する。
     (1) 「要因とは重要な原因のこと」と、国語辞典に書いてある。専門用語を国語辞典で学んだようで、専門用語として誤りであることは言うまでもない。
     (2) 特性要因図は、「重要な原因の候補をリストアップ」するとは限らない。重要かどうか、後で検証する場合は、結果に影響したかも知れないもの(=候補)は全て列挙するのが普通である。
      また予防管理用の特性要因図要因では、要因を列挙するのであって、「原因の候補」を列挙しない。
     (3) 「特性要因図は、あくまで仮説」に限らない。例えば、対策先行型のうち、逐次実施型というべき活動がある。これは、要因を思いついたら直ちに対策を実施し、効果があれば要因として特性要因図に登録し、効果がなければ「要因にあらず」として記載しない。
      特性とは結果のことです。要因とは重要な原因のことです。1)
      特性要因図とは、重要な原因の候補をリストアップし2)、図で整理したものです。特性要因図は、あくまで仮説3)ですから本当の原因をデータで確認するための準備として使うツールになります。
     解決しようとする要因は数多くあるのが普通4)ですから、その要因を系統的に図示しておくと、問題解決にとても便利です。また、目的と手段の混同を防止するためにも有効です。
      こういう活動では、特性要因図は実証された要因しか記載しない。
     (4) 「解決しようとする要因は数多くあるのが普通」というのは、管理用特性要因図である。本件の場合は解析用だから「解決しようとする要因は少数なのが普通」であり、羽根田氏は完全にカン違いをしている。
     同氏は、さらに次のように指導している。

     特性要因図の作成手順です。
     1.問題点の決定:問題点を右に書き、左から太い矢印を引く。問題点は、であるとする。
     2.原因集約項目の決定:問題の原因(要因)の集約項目を□で囲み、太い枝と太い矢印で結ぶ。
     3.集約項目の細分化:問題の原因(要因)の集約項目ごとに細分化して細い枝を記入し、末端をアクションが取れるまで細分化する。
     4.重要項目のマーク:特性要因図が一通り完成したら、その要因の中で特に大きく影響すると思われるものに◎印をつける。1) もし、内容がわかっているのなら細部説明を加える。2)
      敢えて注釈の必要もないかもしれないが、念のため触れておく。
     (1) 「特に大きく影響すると思われるものに◎印をつける」とあるが、それが分かるなら、とうに改善されてテーマとして残っていないと思われる。
     (2) 「もし、内容がわかっているのなら細部〜」とあるが、内容が分からないなら「特に大きく影響する」という判断もできないから説明が矛盾している。かような指導で改善が進むとは思われない。
      日常の管理で「特に大きく影響すると思われるもの」に対策を講じて、それでも解決しない場合に特性要因図を作るようにした方がよい。
      さもないと打つ手を知っているくせに、わざわざ特性要因図を作らないと行動しない悪習慣がつくからである。同氏が原因追求と称している下の特性要因図は、実は予防用であって、列挙した全ての事項を管理しなければならない。また、この特性要因図は多くの間違いを含むので模倣してはならない。
    • 「物流部の仕事に時間がかかる」とは、納期問題かコスト問題か、層別が必要。
    • 「内部」とか「営業管理」とかでは、経営資源の分類になっていない。
    • どれが要因なのか不明確である。


      上の特性要因図は、どのような作り方、および使い方をすべきか説明しよう。
    (1) 「内部」「顧客」「営業管理」「子会社」「営業」などは管理主体だから、それぞれの特性要因図を作る。「内部」の特性要因図、「顧客」の特性要因図、「子会社」の特性要因図〜が必要である。
    (2) 各特性要因図は、5M(設備、人、材料、方法、測定)で構成する。列挙漏れ防止のためである。
    (3) 予防管理の目的で事前に作る。納期遅れが頻発してからでは遅い。
    (4) 「重要」な要因ではなく、「全ての」要因に対策を講ずる。さもないと予防できない。

    5−3 管理用と解析用
      特性要因図には、作成目的により、管理用と解析用がある。より詳しく対比してみよう。
     (1) 管理用
      プロセスを設計するときにトラブル予防ツールとして作成する。知識・経験などから、管理すべき要因を漏らさず全て列挙して対策を講じなければならない。故に、要因の数は一般に多く、検討が進むほど多くなる。
     (2)解析用
      実際にプロセスを稼動してトラブルが起きたときに、原因候補としての要因を列挙して作成する。要因の探し方は、現場の状況データから割り出して列挙する。従って、列挙できる要因の数は、多くないのが普通である。
      列挙する要因の数を、どう理解すべきか? 神ならば原因を知り給うから1個だけ、通常の人は数個挙げるが、初心者は何十個も挙げる。つまり、解析用では知能が低いほど当てずっぽうに多数の要因を列挙する傾向となる。その現象は、体裁のために多数列挙するQCサークルの事例発表をみれば分かる。
     (3) 対比図
      第5−3図に管理用と解析用の対比を示したので、それぞれの対比事項について違いを確認して欲しい。解析用-特性要因図を作成しないで工程を流し始め、その後トラブルが発生したときは、原因探しのための解析用だけでなく、予防のための管理用も作成しなければならない。
    5−4 5Mと魚骨図
      石川薫氏が発表わして以来の伝統的な特性要因図では、通常、第5−4図の魚の骨のような図を描いた。これを魚骨図(Fishbone Diagram)と呼ぶ。
     (1)右端に「特性」としてトラブルの名称を表示する(例:セミナー開催不能)。そこから横に矢印を走らせて、これを「背骨」と呼ぶ。
     (2)背骨に対して、「人」、「機械」、「方法」、「測定」、「材料」という5M(注1)の分類表示から斜めに矢印を走らせ、これを「大骨」と呼ぶ。

     (3)大骨に対して、「担当者」という分類項目から水平に矢印を走らせ、これを「中骨」と呼ぶ。
     (4)中骨に対して、「年齢」という要因項目から斜めに矢印を引き、これを「小骨」と呼ぶ。
     (5)小骨に対して、「高齢」という水準項目から水平に矢印を引き、これを「孫骨」と呼ぶ。

    〔第5−4図〕

    (注1)「5M」とは、プロセスを構成する次の5種類の経営資源を指す。


    機械
    方法
    測定
    材料
    Man
    Machine
    Method
    Measurement
    Material
    担当者、管理者、協力者などに関する要因
    機械、設備、道具、建物施設、部屋、椅子やテーブルなどに関する要因
    技術、作業手順、やり方などに関する要因
    情報収集、プロセスの条件の確認、結果の測定などに関する要因
    そのプロセスで処理を受けるものに関する要因

    (注2)5Mに対して、「環境、マネージメント、マネー」などを追加すべきであるとする異論もある。しかし、次の理由で否定すべきである。

    環境
    マネージメント
    マネー
    自然環境は管理できず要因ではない。社会環境の管理事項は、それ自体が特性である。
    マネージメントのやり方は「方法」に属する。
    マネーは、結局5Mのどれかに変化するから、独立の経営資源ではない。

    5−5 実務上の注意事項
     (1)系統図法
      特性要因図というと、すぐに魚骨状の特性要因図(魚骨図)を考え、「背骨」を描き、「大骨」を描くように考えられやすい。しかし、実務では魚骨図ではなく系統図法(表)で作る。そうすれば、要因の追加・削除・対策・効果などの記載も可能となる。→ 第5−7図参照
     (2)特性の層別
      「特性のデータ」は常に純粋でなければならない。異なる特性のデータを混ぜてはならず、層別されていなければならない。
      例として、「キズ」という不良項目を特性にして特性要因図を作成する場合に、「キズ」のデータに、「すりキズ」と「打痕」のデータが混ざっていてはならない。「すりキズ」と「打痕」では原因・要因が異なるから別の特性である。このように特性データを純粋なものにして区別することを「特性の層別」という。
     (3)悪意の管理者のアプローチ
     管理用-特性要因図を作る場合に、最後に、「わざと不良を作れるかどうか」を検討する。「このようにすれば、不良を作れる」という余地があれば、いずれ、そのような不良品が出る危険がある。


     (4)ポカの扱い方(第5−5図)
      「人がポカで装置の温度設定を誤って不良を作る」というシナリオを特性要因図にどのように表わすか?
      「ポカ」は「人」の行為に関する故障モードであり、それを起因としていろいろな条件の故障モード(間違い、もれ)が発生し、要因の管理に異常をきたし、特性に異常をきたすことになる。
      つまり、これは工程の信頼性の問題であるから、既に出来上がった特性要因図を利用して、どこに「ポカ」があり得るかを追記し、対策を検討するものと理解すればよい。
     〔注〕ポカは、人が知識を忘れることではなく、行動を忘れることである。
     (5) 原因追求での行き詰まり
     解析用を作るような原因追求活動において、しばしば、現場情報を収集しても原因候補を推定できずに行き詰まることがある。その場合、「さしたる根拠もなしに、いわば手探りで、片っ端から要因を挙げてみる」という活動にならざるを得ない。この場合、2つのアプローチの仕方がある。
      第一は、先に特性要因図に原因候補を列挙して、その上で「同じ実験で同時に確認できそうなグループ」に分けて、合理的な実験を計画するような場合である。これを蓄積型と呼ぶ。
      第二は、要因を1つ思いついたら(P)、即座に対策を講じ(D)、結果を観察し(C)、ダメなら次の要因を考える(A)というP,D,C,A活動である。これを即時実施型と呼ぶ。
      この即時実施型は、QCサークルなどの小改善で威力を発揮する。
      しかしQCストーリーの誤った指導を受け、その結果、「特性要因図を描いて、多数の要因を列挙し、そのうちの3つほどを重要な要因と判断して対策を講じてみた」というような作り話をすることが多い。

     (6) 要因の代わりに方策を列挙する場合
     特性要因図中に要因として「錆び」の代わりに「防錆処置」と記載する場合がある。同様に、「汚れ」の代わりに「清掃」と書く。これは要因と、その対策(=管理方法)を併記したものと解すべきである。
    〔事例〕即時実施型=年賀葉書の印刷トラブル
      パソコンとプリンターで年賀葉書を印刷した。手差しトレイに載せた数十枚の葉書の宛先印刷が終わり、裏返して「謹賀新年」の面の印刷に取り掛かった。間もなく「葉書がプリンターの中で止まり、トナーが固着せず、触ると滲む」というトラブルが頻発した。紙が詰まるトラブルは従来も時折発生したが、不良にした分は印刷し直してその場を凌いできた。しかし今回は頻繁で、しかもお年玉つき葉書の一部分に業者印刷を依頼したものであるため、枚数が足りなくなってしまう。
      そこで、思いつくアイデアを片っぱしから実施してみた。
    1. トナーを新品と交換 → 頻度は少し減ったが、解決しない。
    2. 予備の新品プリンターを使う → 全く変わらない。
    3. 手差しトレイの葉書の反りを凹型に変形してみた。→ 成功。
      分かってみれば「成る程」だが、先に宛先を印刷したことによって葉書が反って、それを裏返しにしたことが「プリンターにとっては支障のある反り」だったのである。
      この現場情報は存在するにもかかわらず、有益な情報とは気がつかないから、なかなか収集の対象にならないのである。

    5−6 演習問題
    〔演習問題1〕
      有料の講習会を企画し、受講者を募集する。しかし、講習会の当日になって「開催不能」という事態になってはならないので、その予防のために管理用・特性要因図を作成せよ。
      「人」は主に講師に生じる故障であるが、病気が考えられる。
      「材料」は受講者であるが、1名だけの申込みでも開催するので管理事項はない。
      「設備」には多数あり、それぞれの故障がある。
      「方法」として、日常管理(出来るだけよくする)と方針管理(絶対に失敗が許されない)が考えられるが、この場合は後者のアプローチとなる。従って、対策は金に糸目をつけない傾向となる。
      「測定」として、機器の点検、電車の運行情報、人の健康診断、などが考えられるが、当日になって開催不能となることを防止するための管理事項として有効なものは見当たらない。

    〔第5−6図〕演習問題1の解答例



    〔第5−7図〕

    〔演習問題2〕
      ある講習会の当日に「開催不能」が起きてしまった。「コンセントに電気は来ているが、パソコンの電源が入らない」という現場データから原因候補を推定する。

    〔解答例〕
     現場データから、アダプタとパソコン本体のいずれかに故障があると考えられる。  


      次に、それぞれ、新品に交換するなどで、どちらに故障があるかを判断することができる。
      さらに、どの部品がどうなったかなど、立場に応じた原因追求が可能となる。少なくも管理用に比較して、はるかに要因が少ないことが分かる。

    〔第5−8図〕演習問題2の解答例



    6 層別

    6−1 層別の概念〔第6−1図〕
      データは、一般に、いろいろな情報が混入して成り立っている。そのため、そのままでは有益な情報を取り出すことができない。層別とは、データを「場合分け」することによって純粋化と区別を行ない、生じる差(層間差)を見て有益な情報を引き出す手法をいう。
      例えば、ある社会の人口が100人だというだけでは何も特徴が得られないが、性別で男性10人、女性90で成り立つと分かれば、極めて特殊な社会であることが分かる。
      さらに職業で分けて、医療関係者30人、主婦60人、乳児10人で成り立つと分かれば、産婦人科病棟であることが分かる。
    〔第6−1図〕

      層別を理解するには、
     (1)何を(特性を、要因を、結果を)層別するかの問題と、
     (2)何を使って(数値で、パレート図で、グラフで、散布図で、直交配列表で)層別するか、
     (3)結果をどう表すか、
    という3つの方面で理解しなければならない。
      層別は、特に、「要因の影響力を直交配列表で調べる」のに有効である。

    軽部文雄(FK-Plaza)氏のサイトでは、右のように説明されている。
      これは初心者に誤った知識を与えかねない有害な説明である。特に赤の文字で示した部分は全くの間違いである。層別は他の「各手法に加えて使用」するものではない。層別の結果を表すためにグラフなどを使う場合があるというだけのことである。
      例えば、直交配列表で層別をした場合に、その結果をグラフ等に表すこともあるが、表さないこともある。
      層別はデータ分析を効果的にする方法です。データ分析には他のQC手法であるパレート図、散布図、ヒストグラムなどを用いますが、層別はこれらの各手法に加えて使用します
      例えば漠然としていた散布図があった場合に、作業者ごとに層別してみると、「一人は正の相関関係」と別のものは「負の相関関係」になっていたと判るかもしれません。
    6−2 特性の層別
     (1) パレート図 → 参照:パレート図〔事例2〕
     (2) 特性要因図
    〔事例1〕〔第6−2図〕
      「キズ」という不良特性について特性要因図を作成する場合に、その「キズ」が同じ原因で起きていると判断して不自然でなければ特に問題はない。
      しかし、
    「キズ」=「すりキズ+打痕」
    の場合は、「すりキズ」と「打痕」では一般に原因が異なるので、特性要因図を別個に作る必要がある。このように、特徴が異なる特性が混ざっているときに、特性を特徴別に分けることを「特性の層別」という

    〔第6−2図〕



    〔事例2〕〔第6−3図〕
      「書類作成に時間がかかる」という特性について特性要因図を作るのは、人件費を問題にしているのか納期遅れを問題にしているのか明らかでなく、両方の要因が混入して原因の究明が困難になる。
      故に、作成時間(コスト)と遅れ時間(納期遅延)に分ける必要がある。

    〔第6−3図〕

    6−3 要因による層別
      QC七つ道具の中で、最も重要な手法を挙げよと言われれば、それは「要因の層別」である。
      ある不良の原因を究明するために、特性要因図を作り始めるとしよう。ブレーン・ストーミングなどででたらめに列挙するのではなく、データに基いて列挙せねばならない。
      ところが、「サッパリ、原因候補の心当たり」がない場合はどうするか?
      実は心当たりがあるなら、それに対策を打てばよい訳で、特性要因図を作る必要がないのである。
      次のようにして、「何が変われば結果も変わるか」を追求していく。これが要因の層別である。そして、原因候補が見つかったら、特性要因図にそれを原因候補として列挙する。
      従って、是正用特性要因図の要因数は、極めて少ないのが通常である。

    1. 寸法などの計量値の不良なら、ヒストグラムを見る。そこに、分布の状況から、何(高原、ふた山、離れ小島など)が起きているか把握できる。また、工程能力指数Cpkを計算する。
    2. 外観不良なら、不良率の時系列グラフを見る。毎日起きているのか、突発的なのか、その状況がかなり詳細に把握できる。
    3. 機械が複数あるなら、号機で層別して値の違いを見る。明らかな違いがあれば、一応、原因候補である。
    1. 曜日によって値が違うかどうか、2交代勤務なら昼と夜の違いはないか、を見る。
    2. 材料や部品が2社発注なら、発注先による違いはないか。
    3. 似たような製品が同じ工程で流れているなら、製品機種別の違いはないか。
    4. 処理の各種の条件を変えてみて、変化は出ないか。

     (1) 棒グラフ  〔事例1〕 〔第6−4図〕
      3台の機械を使って同一の加工を行なう工程があり、ある不良が発生する場合に、「号機」で層別した結果が第6−4図の棒グラフである。号機が関係しないなら左の図、大きく影響していれば右の図のようになるはずである。

     〔事例2〕 〔第6−5図〕
      全国に多数の営業所を持つある建設業者がリピート率対策Aを実施している営業所とそうでない営業所のリピート率を集計してみたら、第6−5図のようであった。
      この図から方策Aが有効なように見えるが、必ずしもそう言えない場合がある。Aを実施した営業所の多くが同時に方策Bも実施した場合は、Aが無効でもBが有効ならこのようになる。

      このように影響力が混ざることを「交絡」という。交絡を防ぐには、直交配列表を用いて多数の要因を同時に層別するとよい。

     (2) ヒストグラム  〔事例〕〔第6−6図〕
      ヒストグラムが「ふた山」になっている場合、平均値が異なる2つの分布が重なっていると考えられ、平均値の差を生んでいる要因を探す。 ある電気製品に使用している部品のメーカーが2つある場合、A社とB社で右図のように対応するならメーカーによる影響であるといえる。  

    (3) 直交配列表

     → 多数の要因について、同時に層別する(6-5 参照)

    〔第6−4図〕



    〔第6−5図〕



    〔第6−6図〕

    6−4 結果からの層別
     〔事例〕〔第6−7図〕は、ある物質の混入量Xと処理温度Yによって所定の硬度を得たときの、XとYを散布図に表わしたものである。
      硬度は全て良好であるが色彩に異常が見つかり、そのケースを● 印で表わすことによって許容できるXとYの範囲が判明する。
    〜と、言われればその通りかもしれないが、こういうことが実際にあるかというと、絶無と言っても過言ではない。
      選定すべき条件範囲が狭くてきわどいならともかく、十分に余裕のある範囲を選定できる状態で、かような調査を必要とする事態が起きるとは思えない。学者が考えた「実際には使えない使い方」である。
    〔第6−7図〕

    6−5 直交配列表

      「はじめに」のところで、羽根田 修 氏のサイトでは、「層別はパレート図、ヒストグラム、散布図などと組合わせて使えば差異を発見する上で大きな力を発揮するが、それ自体はQC7つ道具の1つとして使うべきものではない」としたのは失当だと、当研究所の見解を述べた。   それが最も顕著になるのが、「直交配列表により層別」の手法である。彼がいうようなパレート図、ヒストグラム、散布図などと組み合わせて使わないからである。
     Q-BPM.orgというサイトでは、次のよう解説している。
      QC7つ道具は、日々の活動のデータを収集しそれを分析して問題の発見・解決に役立てるものであるが、データを分析する際の重要な概念が層別である。層別とは、データの母集団をいくつかの層に分割することであるが、層は母集団の部分集合である。例えば、層としては、時間帯別、地域別、作業者別、製品別などが挙げられる。
      層別することで、同じデータでも異なる状況を導き出す可能性がある。どんな層でデータを分析するのかが問題特定に非常に重要になる。
      こんな曖昧な説明では何のことか分からず、層別の利用は進まない。具体的に説明しよう。
      いま、会社の営業部の月間売上金額を「女性営業担当」と「男性営業担当」に分けてみたら、「女性=500万円、男性=200万円」であった。次に、関西地区と関東地区に分けてみたら、関西=800万円、関東=100万円」であった。
      するとこの層別の結果、「関西地区で女性営業担当だけで商売をすればよく、関東地区と男性営業マンは不採要素として廃止しよう」という結論になるようにみえる。
      ところが、そう簡単ではない。関西地区に女性営業担当が多く関東は少ないのかも知れない。また、女性は女もの、男性は男ものの製品を扱っているとすれば、差を生じた原因が「地域の違い」か、「営業担当の性の違い」か、「扱った製品の違い」か、判断できない。
      つまり層別を単純に「パレート図、ヒストグラム、散布図などと組合わせて」使っても、結論が間違ったり出なかったりすることが実際には多いのである。そこで、層別をもっと効果的に行う方法として、直交配列表が使われる。

    (1) 直交配列表の有益性
      上のことを〔第6−5図〕で説明すると、特性値yが、要因の水準=x1の場合とx2の場合で、層間差が大きく出れば要因xの影響力が大きいと判断するのが、一般の層別である。
      しかし影響力がありそうな要因が他にもあると、1つずつ扱ったのでは労力が大変なだけでなく、検証精度も落ちる。
      営業担当者の性別、営業地域、販売製品の売上対する影響力を調べようとしても、性別と地域と製品の組合せが 2×2×2=8通りあるわけだが、もし地域が多数あり、製品も多数あったら、グラフなどではどうにもならない。

    〔第6−5図〕再掲

      そこで、疑わしい複数の要因を一度に層別する手法が求められる。それが直交配列表である。
      慢性不良の原因の要因を技術的な観点、及び、現場データから絞って、それでも複数の候補が残るときは、やむを得ず候補を絞ることになる。それには直交配列表による実験で、影響力を検証するのが有力な手段となる。生産工場は言うまでもないが、商店の売上、病院の患者数、その他で応用することができる。
      ところが、直交配列表の使い方を解説している書物は「実験計画法」だけであり、これを勉強する人は限られて、一般には存在すら知られていない。大学の理科系学部でも、履修科目として選択する学生は少ない。
      まして、企業の作業者・下級・中級・上級職員などで直交配列表を利用する人は極めて少ない。
      その原因は、直交配列表を分散分析・有意差検定・平均値の推定などの統計処理を前提に使うものとしていることにある。これだと、一般の人は数式を見ただけで頭が痛くなって手が出せない。
      私は、全く統計処理をせずに直交配列表を使うことをQCサークルに推奨している。それで何の問題もなく、コンピュータ・ソフトを使う必要もなく、きわめて便利に使える。知っている人には無用な説明だが、初心者のために例題を示そう。一度覚えれば目をつむっても使えるから、最初だけ丁寧に読んで頂きたい。

    (2) 演習と解説
    <例題>
      薄い板状の金属製品の「仕上げ処理工程」でサビが出る。要因としてA・B・Cが考えられるが、実験によって対策を講ずる必要のあるもの(主要因)を明らかにせよ。
    <解説> 要因Aの影響力を調べるには、Aを日常的に変わり得る範囲内で変化させてみて、それに対応して特性がいくら変わるかを見る。
      しかし、変化するのは要因AだけでなくBもCも変化するから、単にAだけに着目してはならない。
      要因に与える変化(段階)を「水準」といい、全ての要因を2水準に変化させる実験を「2水準系の実験」という。
      いま、各要因の水準を第6−8図のように設定する。以下、要因ABCについて、A121の組合せが最善か、それともA211の組合せが最善か、というような検討を進めることになる。
    〔第6−8図〕
    要因 内容 水準の設定
    A:処理後の待ち時間 処理後、洗浄乾燥まで防錆液に漬けておく待ち時間 1 = 1 日 2 = 2 日
    B:防錆液中での製品の状態 ばらばらか、重なっているか 1 =ばらばら 2 =重なり
    C:防錆液の新しさ 新しく用意したものか、 反復使ったものか 1=新しい 2 = 3 回め

      第6−9a図の中央の「1と2が並んだ部分」が直交配列表の本体である。この図は使用前の状態を示す。
      第6−9b図は、使用後の状態を示す。
    (1) 割り付け --- どの列にどの要因を割り当てるかを決めて、「要因欄」に要因の記号を記入する。
      最上行のA、B、Cが要因で、eは空欄を示す。次のオレンジ行の1〜7は、列の番号。影響力が大きいと思われる順に、第1列、第2列、第4列、第7列、あとは順序不問に割り付ける。
    (2) 実験番号 --- 左端列の縦の1〜8は実験番号であり、8回の実験をする。
      実験を実際に行なう順序は、必ずでたらめな順にすること。番号順や逆順に実行すると、考慮していない要因の影響を受けて実験誤差が増えるからである。
      例えば、朝の気温が低いときにNO.1から順に実験を始め、気温が高くなった正午にNO.8で終了したとすると、要因Aが本来、「A1=アルミニウム、A2=亜鉛」という材料の違いを表わす要因だったものが、「A1は低温、A2は高温」にすりかわってしまう。

    〔第6−9a 図〕
    (3) 直交配列表の本体の数字「1,2」の意味
      1は水準1を、2は水準2を表わす。実験番号1の実験をするときは、[A1・B1・C1]の組み合わせで実験をすることになる。
    (4) 結果・不良率% --- 右の「結果・不良率%」は、実験番号ごとの成績。実験ごとに資料を百個ずつ使い、そのうちサビ不良になった個数と考えてもよい。
    〔第6−9b図〕
    (5) 水準合計値 (1)、(2)
     下の(1)は、例えば要因Bについて、
    1の合計値=0+0+0+0=0
      同じく(2)は、例えば要因Bについて、
    2の合計値=2+3+7+8=20
    (6) 水準合計値の差
      「差」は、(1)と(2)の差である。
    Bの差=20−0=20
      これは、要因Bが水準1 → 水準2と変化したときに特性値がどう変るかに関係し、Bの影響力を示すことになる。この値を各列について概観すると、第6−10図のようになる。
    〔第6−9b図〕再掲


    〔第6−10図〕
    (7) 交互作用
      もし、第3列の差が誤差程度(=0〜2)なら、
  • 第1列のAの影響力=中程度、
  • 第2列のBの影響力=大、
    となる。しかし、上の結果は、第3列が空欄であるにもかかわらずAと同じく「差=10」である。これは何か?
  •   その正体は、AとBの交互作用である。稀にこういうことがあるから、注意しなければならない。
      なぜ、交互作用だと分かるか?
  • 1のときは、Aが1でも2でも成績は=0。
  • 2のときは、A1の場合とA2の場合とで、成績は10も違う。
  • 〔第6−9b図〕再掲
      つまり、「Bの水準(状態)によって、Aの影響力が変わる」=AB間の交互作用である。
      結局、BがB1でさえあれば、AはAでもAでもよいことが分かる。B1は製品が重ならないようにすることを意味し、直径1ミリのプラスチック・ボールの粉を一握りほど防錆液に混ぜて、製品と製品がピッタリ重なるのを防げばよい。
    (8) 成分表 --- 一番下の欄が、交互作用が現れる列を示す成分表である。
      第3列(a・b)は、第1列(a)と第2列(b)の交互作用が現れる列に当たるから、第1列と第2列に最も有力な要因を割りつけて、第3列はできるだけ空白にする(ただし、技術的見地から、交互作用がないと分かっているときは別)。
    〔第6−9b図〕再掲
     〔注〕第1列と第7列の交互作用は、
    a(a・b・c)=a2・b・c=b・c
    と第6列に出る(二乗=1と計算する)。

    (9) 要因の数が多い場合
      第1列〜第7列と、最大7つの要因まで割りつけることができる。その場合、空白列がなくなっても一向に支障ない。

      なぜなら、7つが全て有力な要因ということは滅多にないからである。上の例題でもCは無視してよいものだった。このように、影響力の小さいものをeとみなし、この「みなしe」よりも2倍以上の大きいものを主要因とすればよい。
    〔第6−9b図〕再掲
    10 留意事項
     (1) 以上の使い方は数学的には間違っており、実験計画法の先生は絶対に薦めない。しかし、実用的には全く間違っていない。この方法で得た結論が正式な計算の結論と違うことは、まずない。
      また、直交配列表には無数の種類があるが、[図表9b]のものだけで十分である。要因数がさらに多いときは、この表を使って何回かに分けて絞っていけばよい。要因が1〜2個で実験数を減らしたいなら、[図表9b]の実験番号1〜 4、 列1〜3の部分を使って4 回実験用に改造すればよい。
      正しいかどうかの問題と役立つかどうかの問題は、分けて考えなければならない。例えば、虚数「i」は「−1」の平方根であって実在しない。その実在しない数の加減乗除を行なって非常に役立っている。
     (2)7つもの要因について実験しても、際立った要因が見つからないことがある。しかし、それでも容疑者リストから外すことができ、要因の範囲が絞られる。
      そして「犯人は全く別の所にいる...」と考え方を切り替える機会になり、次回は別の要因について実験することができる。

     (3) 要因には、炉の温度やコンベアの速度のように連続的な数値をとるもの(連続因子)と、作業者・部品メーカー・材質・機械設備のように、数値的でなくしかも不連続なものがある(層別因子)。だが、そのようなことは心配しないで、[ 作業者A1・A2 ] [ 機械B1・B2 ] のように水準を設定すればよい。
     (4) 水準の距離を大きく取れば、影響力も多く出る。従って、日常あり得る範囲内で水準を設ける必要がある。一方、影響力が認められたら、日常あり得ない範囲を選択することによって画期的な成果となる可能性も考慮する必要がある。
     (5) 作業者が3人の場合はどうするか? 実は、3水準用の直交配列表がある。だが多くは「機械は2台で、材料は3種類で、人が5人いて、おまけに夜勤と昼勤の2交代だ」という具合だから3水準用のものを使っても仕方ない。しかも、3水準用は、実験数が格段に多くなって、むしろ不便である。
      その場合には、熟練者1名と経験の浅い人を1名選ぶ。材料も、最も信頼できるものと怪しいものを選んで2水準にしてしまう。
     その他、ケースに合わせて様々な工夫すると有益である。


    7 散布図

    7−1 散布図の概念〔第7−0図〕
      散布図は、対になった計量値のデータ(x,y)の関係を表わすためのグラフである。多数のサンプルの計量値(x,y)がそれぞれの平均値のまわりに正規分布状にばらつく場合に、横軸に要因xの値をとり、縦軸に特性yの値をとって、対応する交点に対のデータ(x,y)を多数打点したものが散布図である。
      第7−0図の場合、一見して、x が増えると y も増える関係にあることが分かる。あたかも、x のヒストグラムとyのヒストグラムを平面に展開した関係になる。従って、x の分布、y の分布、及び、x と y の関係を読み取ることができる。
     〔注1〕変数yとxの関係を表す場合、例えばエアコンを使う時間xと消費した電力yの関係をプロットしたものは散布図ではない。

     〔注2〕1個のサンプルについて多数のデータを得ても、例えば、1人の身長と体重を繰り返し測定した値を打点しても、散布図にはならない。

     〔注3〕x、およびyの点の範囲が正方形に収まるように目盛を設定する。
    〔第7−0図〕

    7−2 典型散布図
    (a)強い正の相関:x−y2
      xが増えればy1も直線的に増える傾向が強い場合の散布図である。
      x が要因で y2が特性の場合は、xを管理することによって y も目標とする値に維持することができる。その場合は、回帰直線を求める。x、y2が共に特性の場合は、一方から他方を推定することができる。

    (b)強い負の相関:x−y3
      xが 増えれば y3が直線的に減少する傾向が強い場合の散布図である。
      x が要因で y3が特性の場合は、x を管理することによって y3も目標とする値に維持することができる。

      その場合は、回帰直線を求める。 x、y3が共に特性の場合は、一方から他方を推定することができる。
    (c)無相関:x−y4
      xが増えてもyの増加が見られないので、x と y4の間に相関があるとはいえないという。
      y4を管理するためには、y4に影響を与えている他の要因を見つけ出す必要がある。
    (d)疑いのある相関(1):x−y5
      この場合、2つのデータ群が存在するのか、それとも連続する負の相関にありながらデータが欠けているのか。
     いずれにせよ、データが不足して、確かなことが言えない。データを増やして確認しなければならない。
    (e)疑いのある相関(2):x−y6
      x が増えても y6の増加が見られないので、x と y6の間に相関があるとはいえない。
      しかし、z と y6の間には強い正の相関が推測されるので、要因 z を見つけ出す必要がある。
    (f)疑いのある相関(3):x−y7
      x と y7の間には正の相関が推測され、他方で他にも要因zの存在が推測される。

       このような関係は、データを層別することによって発見されることが多い。
    (g)異常点
      ヒストグラムでの「離れ小島」に相当する異常点が現れた場合、その原因を究明する必要がある。
       ・不良品
       ・原材料の変更
    などに注意する。
    (j)一部無相関
      y が特性、 x が要因で、一見して無相関の場合である。
      x のばらつき範囲が狭いために y もばらつきが少ないために、無相関に見える場合がある。
    (k)曲線相関
      y が特性で x が要因の場合に、一見して無相関の場合である。
      打点を増やしていって曲線が見えてくることがある。


    7−3 散布図の利用価値
      散布図は、利用価値の少ない手法である。特性に対して複数の要因が存在することが多く、直交配列表による要因の影響力の精査ができなければ散布図が役に立たないことが多い。
      特に最近は、多変量解析ソフトが販売され、その方が多数の要因を考慮した解析が可能で便利である。
      しかし、要因の影響力が分かっているようなケースで散布図が役立つ場合があるので、以下にその事例を紹介する。


    7−4 応用事例
      近頃はメタボリック・シンドロームと称して、太りすぎを戒める教訓がはやっている。長寿となるに従って、老人病の率が増えてきたことも関係するであろう。
      ところで筆者も(口走る内容は幼いが、肉体年齢は)老人の部類に入るわけで、「そろそろ注意しなくては」などとのんびり構えていたら、思いもかけない事態になっていた。
      体重をいくらに減らさねばならないか、いろいろな観点から、散布図を使って調べてみよう。
      健康診断で指摘される事項は人によって違うから、あくまで自分自身の過去のデータを解析する。
      幸か不幸か、私は2007年4月以降の毎月のデータを持っているので、以下のように解析できた。このようなデータを持っているのは老人の故であり、若い人はデータなどないであろうから将来の参考として頂きたい。
      ただし、次の点をお断りしておく。
      (1)データの解釈はあくまで統計的解釈であって医学的な判断ではない。
      (2)データは、本来、多数のサンプルから抽出しなければならない。以下の事例は、同一人について1か月の間隔で測定した数年分のデータであるが、その同一人のみに関する情報を得る上で支障ないと考える。他人に適用することはできない。

    〔第7−1図〕 体重と中性脂肪の関係
      中性脂肪は悪玉コルステロールの予備軍であり、30〜149 が正常である。
      この観点からは、73kg以下に減量すれば十分と推測される。
    〔第7−1図〕
    〔第7−2図〕 体重とL/H 比の関係
      LDL(悪玉コルステロール)とHDL(善玉コルステロール)の比、すなわち L/H 比 は、心筋梗塞のリスクを示す重要な指標であり、1.5 以下はリスク小、2,0 を超えるとリスク大になる。
      とりあえず、 L/H 比=2.0 を求めたいが、この近辺のデータがなく、体重との関係が明確でない。
      直線なら体重 60kgまで、2次曲線なら体重 66〜67kgまでの減量が必要となる。
      今後の推移を見て決めよう。体重66kgに減量すると、これはちょうどBMI=22、となる理想体重である。しかし66kgに下げる以前に、72kg程度で「顔がこけて病人のようにみえる」という問題をどうするか?
    〔第7−2図〕
    〔第7−3図〕 HbA1C(ヘモグロビン・エーワンシー)
      HbA1C(ヘモグロビン・エーワンシー)は、過去2〜3ヶ月の血糖値の状況を示し、糖尿病の程度を示す指標である。
      5.6 以下であれば健康、 定常的に 6.2 を超えれば糖尿病であり、血糖値管理が必要になる。
      この観点からは、70kgに減量する必要があると推測される。
    〔第7−3図〕
    〔第7−4図〕 尿酸値
      尿酸値は、通風になるリスクを示す指標で 7.0 以下であれば健康、定常的に 7.0 を超えれば将来、通風を患う危険がある。
      医学的な根拠はないが傾向は2次曲線のように見え、この観点から、72kgに減量する必要があると推測される。
      以上が私の場合の体重と「問題ある指標」との関係であり、 第7−2図のL/H 比を今後の重点指標として体重管理をすればよいことになる。
      今のところ、HDL(善玉コルステロール)の改善薬は発見される見込みはなく、L/H を管理する方法もない。
    〔第7−4図〕


    8 グラフ

    8−1 グラフの概念
      グラフは、数値データを可視化する手法である。
     第8−1図は体重の測定データであるが、これを見ただけではデータの意味が分からない。減量が急激に過ぎるかとか、緩慢に過ぎるかとか、というような情報を得ることは難しい。
      すなわち、数値データ表を見ただけでは情報を取り出すことは難しいので、これをグラフに可視化することによってデータの意味を読みやすくするのである。
    〔第8−1図〕


      可視化の方法として、いくつかの方法があるが、ケースバイケースで選んで使えばよい。
      第8−2図は、上のデータを時系列の折れ線グラフにしたものである。
      これでデータからの情報の読み取りが容易になる。
      これにより、今後の方針を立てたり目標を設定したりするよりどころになる。
    〔第8−2図〕


      第8−3図は、ある人の集団についての円グラフである。   健康診断の結果が異常な人の全体に占める割合を表わしたものである。
    〔第8−3図〕


      第8−4図は、ある人健康診断の結果を表わしたレーダーチャートである。   これにより、その人の特徴を示すことができる。
    〔第8−4図〕


      第8−5図は、在庫品の不良品の損失金額を表わした棒グラフである。   これにより、どの不良の予防にいくらの投資が可能かを知ることができる。
    〔第8−5図〕
    8−2 解析事例
      グラフにはいろいろあるが、原因解析に役立つのは、唯一、時系列折れ線グラフである。
      (1) 現状把握として、職場に存在する種々の問題を1つの時系列折れ線グラフに表して、全体を監視することができる。
      (2) 現状把握として、それぞれの特性の時系列なバラツキの特徴(急変、慢性、突発、季節変動等)を把握することができる。
      (3) CAPDサイクルを繰り返したとき、各サイクルの効果の確認を統計的に判定することができる。
      従って、QCサークル活動で、現状把握、CAPDの繰り返し、効果の確認に便利に使うことができる。
      第8−6図は、A・B・C・Dの4項目の不良について、横に日付、縦に不良率%をとった時系列折れ線グラフである。ここに示す不良項目A,B,C,Dの不良率のグラフから、次のように情報を読み取る。
    〔第8−6図〕

     定常不良A --- 毎日、ほぼ一定の%で発生する。どこかの機械に欠陥があるままで長期間に使われ、条件や作業方法が不適切なのに適切だと信じ込んでいる場合などに見られる。故に、その究明は簡単ではなく、根気よく要因を挙げては実験で確認することの繰り返しとなる。
     周期不良B --- 不良率が次第に上昇、あるとき急落する。例えば、「給油すればよくなるが、そのままにしておくと次第に不良が増える」とか、「洗浄水槽の水を新しくすればよくなるが、使っているうちに汚れて不良が増える」とかの場合である。
     突発不良C --- 普段は全くでないが、ある間隔で急激に発生する。これと同じ時期に変化するものが何であるかをB不良の内容から推測してみる。定常不良A以外は、不良率の変化に対応する現場条件の変化を探す活動になる。
     交代不良D --- ある期間ごとに不良率が高低が交代する。2社発注の部材の交代、夜勤組みと昼勤組みの交代、残業が続いたり止めたり、2台の機械の1台を使ったり中止したり、などの交代である。どの交代と不良率の対応をつきとめ、さらに詳細を詰める。
     〔注意〕
     (1)同一品に複数の不良項目が存在する場合に、同じ1枚の用紙に全項目一括して色分けして表示するのが便利である。
     (2)「時系列折れ線グラフ」を使いこなすのがQC活動の要である。そのためには現場に詳しく、かつ種々の解決手段を着想する固有技術を持たねばならない。
    (3)グラフの変化に対応する要因を容易に見つけられるとは限らない。その場合、思いついた要因候補に次々と即座に対策を講じてみる即時実施型に活動が有効なことが多い。
    8−3 効果確認事例
      第8−7図は、1つの特性について対策aを講じ、その結果を見て次の対策bを講じ、これを繰り返した事例である。これはPDCAを反復して改善を進める小改善の典型活動であり、日常管理(QCサークル等の小集団活動)で多くみられる。
      このグラフから、「対策 a」と「対策 d」には効果が認め得るが「対策 b」と「対策 c」には認められないこと,一目瞭然である。
      では、なぜ、一目瞭然なのか? その根拠は?
      「効果があった」ということは、特性値の変化(グラフの落差)が「単なるバラツキ」と明確に区別できるということである。

      そこで、「対策 a」による落差をみると、その前に起きたバラツキを超えた大きさである。単に偶然に起きたもので対策とは無関係だ、という主張は統計的に無理である。
      従って、「対策 a」の効果が認められ、「対策 d」も同様である。他方、「対策 b」と「対策 c」による変化は、バラツキと区別できないから、効果は否定される。
      このように、 効果の証明 は、バラツキとの関係で示さねばならない。
    〔第8−7図〕

    〔例題1〕
      第8−8図はある不良項目についてロットごとの不良率を記録した表であり、それを時系列折れ線グラフにしたものが第8−9図である。
      対策を講じたのはロット番号9であるが、第8−9図のグラフでみると、対策の前後の平均不良率で0.1%程の改善効果があったように見えるが、果たして効果ありと判断してよいか。
    〔解説〕
      これは、同じ母標準偏差の2つのデータ群A,Bがあって、それぞれの平均値xAとxBの間に差があるかどうかを検定する「平均値の優位差検定」の問題である。

      対策前のデータ群Aと対策後のデータ群Bについて、正規の計算を行なって検定してみる。
      データ数:nA=nB=8
      平均値 :xA, xB
      平方和 :SA=(1.2)2+・・・+(1.4)2=11.16
          SB=(1.1)2+・・・+(1.2)2=9.42
      分散  :VA=SA/(nA-1)=1.59
          VB=SB/(nB-1)=1.35
    〔第8−8図〕

    〔第8−9図〕
      このことをグラフの上で示したものが第8−10図である。すなわち、上のグラフではデータ群Aとデータ群Bを混ぜたときに、2つのグループを識別できない場合は、効果があるとは言えない。
      下のグラフになると、辛うじて2つのグループが識別できる。この程度の違いがないと、効果を認定できないのである。
      このように、いちいち「t検定」をせずとも、実用上はグラフの上で簡便に判断することができる。
      QCサークルの改善事例発表で、多くは、平均値の差をもって「効果」として発表はするが、それは認められないものとして指導する必要がある。
      しかし、管理図のところで述べたような連続した「傾向」の形になっていれば効果を読み取ることができ、次の〔例題2〕でその例を紹介する。
    〔第8−10図〕

    〔例題2〕金型設計担当者の雑用を減らす改善である。
     1.トラブルの内容: 金型設計担当者が調べたい過去の図面が見当たらずに探し回ったり、注文して届いた金型部品が仕様違いであったり、部品が到着しているのに気付かずにいたり、外部から頻繁に電話がかかるなど、毎日がいろいろな雑用で時間をつぶし、本来の仕事が遅れがちである。
     2.手順計画: 元来かくも雑用の多い制度ではなかったが、いつの間にか増えていたものである。
     3.原因分析・対策の立案・実施: 最初の1か月間は、どのような雑用で席を立ちいくら時間を費やしたか詳細にデータを記録するだけだったが、それだけでは進まないので、雑用で席を立つたびに対策を検討して直ちに実施することにした。
     4.効果の確認: 右の時系列グラフで効果は明白だが、このグラフで効果を確認できる根拠は、「何らの効果もなければ、このようなデータ傾向となる確率は極めて低い」という点にある。
     5.歯止め: 有効性を認めた個々の対策を継続するように、職場管理規定に規定した。
    〔第8−11図〕

     〔注〕この改善事例では、要因と対策は検討するが特性要因図を作成していない。
     (1) 雑用が1つのシステムから発生するわけではなく、特定のシステム設計の特性要因図として成り立たないこと、
     (2) 雑用の発生後直ちに対策を講じてしまうので特性要因図で検討する機会がないこと、
     (3) 要因と対策を職場規則に記載するので特性要因図として保管する必要がないこと、
    〜などを考慮したものである。
      これは、「QCストーリーは活動者が発表に際して自作するものでなければならない」 ことを示す一例である。


    9 事例研究

      浜銀総合研究所の「時間工場」というサイトがある。そこで岡部雄一郎氏が藤本隆宏・東大教授の著書を参考に仮想の改善事例を模範例として紹介している。
      しかし拝見すると、「QC7つ道具間違い事例集」のようなものである。反面、私どもには到底思いもよらぬ間違い事例を提供してくれる点で貴重な資料といえよう。
      それを敢えてここに紹介するのは、「QC7つ道具は、学者が表した著作物を読めば、実務経験のない素人でも理解でき、使える」と誤解してはならないと警告するためである。
      以下を読めば、何を誤りやすく何が正しいか、理解が進むと思う。以下、枠の中が岡部氏の記述であり、講評は枠の外側に記述する。
    チュートリアル 「QC7つ道具による問題解決」   以下では、Fig.1の「QC7つ道具」がどのように活用されるか、仮想例を使って説明していくことにします。ここで取り上げるのは、「金属板から必要な金属部品を切り出す」という作業で、現在は不良品が多発している状態とします。
    Fig.2 事例のイメージ −金属板から必要な金属部品を切り出す作業−

    (1) 課題の整理
      最初にどのような不良品が多いのか整理するため、要因別に分類した「パレート図」を作成しました(Fig.3)。その結果、「サイズ不良」に関するものが最も多く、全体の50%を占めることが明らかになりました。そこで、以下ではこの問題の改善に重点的に取り組むことにしました。
    Fig.3 不良要因に関するパレート図


    〔講評〕
      枠内の冒頭に仮想例とあるから実例ではないことは明らかであるが、問題なのは、このようなやり方を実際の仕事として実行してよいか否かである。結論を言えば、絶対的に不可である。以下、説明する。
      (1) 品質管理というのは、「改善するためにデータを取ってパレート図を描く」のではなく、改善するかどうかに関係なく日常的にデータをとって、必要ならパレート図も日常的に作っておかねばならない。
     
    改善しよう → テーマを決める
      → それにはパレート図が必要
      → だからデータをとる
    という活動をしてはならない。
      つまりデータは常に収集してあり、見ようと思えばいつでも見られる状態、これが品質管理をしている姿なのである。
      上の指導例では、テーマを決めるためにデータをとってパレートを作っており、これは不可である。

      (2) このパレート図は「件数」ないし、その比率で作成しており、その結果「サイズ不良」がトップになっている。
      しかし正確に言えば、これはパレート図ではない。なぜなら、件数が多ければ「重要テーマ」だという関係にない(パレート図として役に立たない)からである。もう少し詳しく言うと、
      a) 「サイズ不良」を解決するには膨大な費用がかかるが、その他は大してコストもなく解消できるようであれば、「その他」を解消することが最優先になる。
      b) どれを解消するのも似たようなものであれば、これら不良特性要の扱いを区別する必要はなく、やりやすいものから手がければよい。
      「作ってはみたが役に立たなかった」とは言いにくいので、役に立ったようなウソ話を作る必要が生じてくる。
      もし、パレート図として作るなら、件数ではなく「処理に要するコスト」で比較しなければならない。「サイズ不良」が断然コスト高になっているなら、これは重要テーマになる。
      しかし、「サイズ不良」は規格より大きめに切り出して後で削る修正だけにすれば低コストになるかも知れない。かえって、「歪み」や「へこみ」は修正できずに廃棄するしかなく損失金額が多いかも知れない。
      このような問題があるため、実務では「件数」パレート図を作って重要テーマを調べることはない。

     (3) この指導例は初心者向き、つまり方針管理ではなく小集団(QCサークル)向きに書かれている。
      すると、パレート図で重要テーマを選定する「方針管理のやり方」を教えてはならない。なぜなら、「重要テーマ」というのは、往々にして技術的に解決困難とか、高額投資を要する場合が多いからである。
      普通に考えると「サイズ不良」を日常的に選別しているはずで、「この不良は何とかならんか?」と長い間解決できなかったテーマである。
      つまり、容易に解決する手段が見つからないテーマのはずである。
      このようなテーマを生産技術課や管理職や経営者が取り上げてテーマにするなら方針管理として処理すべきであり、小集団活動では対処できないのが普通である。
      もしパレート図を描いてテーマとして選定すれば解決できるなら、なぜ今まで放置してきたのか説明が難しい。
      管理職や経営者が「難しいテーマ」を小集団に押し付け、その結果、小集団が「難しいテーマ」に取り組む一方で「やさしいテーマ」を数多く放置する姿が、最も避けるべき事態である。

    (4) 岡部氏は、要因別に分類したパレート図と述べているが、正しくは 不良特性別に層別したパレート図である。
    (2) 現状の把握
      サイズ不良に関する問題が最も多いことは(1)で判明しましたが、切出サイズが大きすぎるのか小さすぎるのかは、この段階では分かっていません。この点の現状を把握するため、現場で加工品のサンプルを抽出し、切出サイズに関する「チェックシート(記録用)」と「ヒストグラム」を作りました(Fig.4、5)。 その結果、規格範囲(良品と判定する範囲)に対して切出サイズが上回るというケースはなく、不良品は全て9.75cm未満のサイズ過小となっていることが判明しました。
    Fig.4 切出サイズに関するチェックシート

    Fig.5 切出サイズに関するヒストグラム
    〔講評〕
     何が既知で何が初めて判明したか、正確にしなければならない。
     (1) 「サイズ不良に関する問題が最も多いことは(1)で判明しました」とあるが、ウソ話です。毎日選別している現場では、「そんなことは昔から皆が知っている」周知の事実である。

      (2) また「切出サイズが大きすぎるのか小さすぎるのかは、この段階では分かっていません」というのも、毎日選別して知っているからウソ話である。データは、日常的にとられ、常に分かるようになっていることが品質管理の前提である。
    (3) 問題点へのアプローチ・検証
      (2)で問題点の内容は明らかになりましたが、それがなぜ生じているかについてはこの段階では不明なままです。そこで次に2つの観点から検証を行いました。
    (時系列の観点からのアプローチ)
      時系列の観点から検証を行なうため、1日5回の頻度でサンプルデータを収集し、「管理図」を作成しました(Fig.6)。折れ線グラフが、管理限界線(LCLおよびUCL)の外に出る場合には問題が発生している可能性がありますが、今回は平均・範囲とも内側に収まっており、この結果として時系列的に問題が発生している可能性は低いと判断できました。

    Fig.6 切出サイズに関する管理図


    〔講評〕
      「なぜ生じているかについてはこの段階では不明」とある。毎日選別をしてサイズ不良が出ており、しかも原因が分からないとすると、段取りの調整などではどうにもならない相当の難問である。
      次に、この管理図の作成は完全な間違いであり、作成してはならない。理由は次の通りである。
     (1) 管理図は、特性が安定して全く問題が起きない工程の状態(=安定状態)を実現した上で、その安定状態からの変化を検出するツールである。従って本件の「切り出しサイズ」のような不安定な特性に管理図を作成しても無意味である。

     (2) それなら「安定状態」が実現したら管理図が何かの役に立つかというと、これも全く役に立たない。「安定状態」が実現したら、もはや管理図に異常が出ることはないし、仮に異常が出ても原因を突き止める間もなく正常に戻ってしまうからである。

      ただし、管理図ではなく、不良率の時系列折れ線グラフを作成して、その変化の特徴から要因を推定するなら妥当な活動である。例えば、日によって著しく上下するとか、毎日ほぼ横ばいとか、という情報は、要因を推定する上で大変に役立つ。

    (作業グループ別の観点からのアプローチ)   一方、作業グループの点で差異はないか検証を行なうため、データをA・Bの2つの作業グループ別に収集して「層別」を行いました(Fig.7)。その結果、Aグループの切出サイズは全て規格範囲に収まっており、サイズ過小の問題は全てBグループで発生していることが判明しました。
    Fig.7 切出サイズの層別
    Aグループ

    Bグループ
    〔講評〕実態にあわず、誤った活動である。

      (1) 品質管理を行なっている工場では、選別時のデータが日常的に記録されており、もし高い不良率の特性が存在するなら、「Aグループからは全く不良が出ないのに、Bグループから大量に出る」ことは既知の事実である。しかも、ゲージなどで寸法が大きいのか小さいのか、どちらが多いかというデータもとられている。
      従って、実務では、このような活動を改めて行なうことはしない。


     (2) 「Aグループからは全く不良が出ない」、「サイズ過小の問題は全てBグループで発生」としているが、このような判断も実務ではあり得ない。なぜなら、Aグループは規格ぎりぎりをクリアしているに過ぎず、工程能力指数Cpk=1 の状況にあるため、Bグループと大差ない程度の悪い状況にあるからである。
      工程能力指数Cpkを考慮しない人はヒストグラムを指導する能力はなので、是非、指導を止めて頂きたい。
    (4) 改善案の考案
      (3) の結果、サイズ過小の問題は全てBグループの側で発生していることが判明しましたが、これだけでBグループの「人」の問題であると判定するのは誤りです。問題の真因にアプローチするには、モレなくダブりなく系統的に要因を整理していく必要があります。そこで以下では、一般的な「人・方法・材料・設備」の要因をベースに「特性要因図」を作成しました(Fig.8)。

      この図の段階での因果関係は仮説に過ぎないため、別途データなどから事実の検証を行なっていく必要があります。上記の「人」の項目に関しては「知識・経験・人数」などの要因が考えられますが、これらの点に関してはA・Bグループ間で明らかな違いがなかったとしましょう。そうすると、残りの「方法・材料・設備」の中に真の要因がある可能性が高いと考えられますが、関係者の議論およびデータ分析の結果、原因は主に「設備→加工機械→歯の材質」の部分にあると判明したとします。

      すなわち、Aグループの歯は鋭利で正確に金属板を切り出すことができるのに対して、Bグループの歯は切れ味が鈍く、切り出す際に過度に金属板を削ってしまっている状態だとします。ここまで原因が特定できれば、改善方法を考案する準備はほぼ完了です。

    Fig.8 切出サイズに関する特性要因図
    〔講評〕特性要因図の作り方を誤っている。
      特性要因図には、「予防目的の管理用」と「是正目的の解析用」の2種類がある。
      ・「予防目的の管理用」は、管理をしなければ将来トラブルの原因になりかねない全ての要因(=管理事項)を知識・経験・カンなどから推測して列挙し、網羅しなければならない。
      ・「是正目的の解析用」は、現に起きたトラブルの原因かも知れない候補(=原因候補)を列挙したもので、トラブルが関係する現場データ(情報)をヒントに推測する。
      この現場情報には、ヒストグラム、不良率の時系列グラフ、層別結果、目撃情報などを含む。原因候補は、普通、極めて少数である。
      以上の区別をせずに漫然と作成したものは、特性要因図の形はしているが、管理事項を示すわけでも原因候補を示すわけでもなく、全く役に立たないのである。
      本件で言えば、AグループとBグループでは、構成する5M人(人・方法・材料・設備・測定)のどこが違うか、を調査しなければならない。

      その最も簡単な方法は、AグループとBグループの間で、
      ・ 設備を交換してみる(設備自体はそのまま移動せずに、他を一式移動してもよい)
      ・ 人を入れ替えてみる(数人いるなら、1名ずつ入れ替えて、結果の変化をみる)
    〜という具合に、いろいろ入れ替える。そして「ある設備を交換したら結果も変わった」となれば、まず、「その設備のどこが違うのか」の問題となる。そして、ここから特性要因図の作成が始まる。
      * 工具台の位置が違うのではないか?
      * 工具台の遊びが違うのではないか?
      * 材料の固定装置の遊びが違うのではないか?
    〜と、このように「技術的な可能性」を要因として列挙しつつ、どんどん確認を進め、あるいは修理や対策を進める。
      そして確認の結果、「違いなし」となった要因、および修理しても改善善効果のない要因は無関係として削除してゆく。従って、最後に残る要因(=原因候補)は、ごくわずかな数になる。
      単に頭で考えて「特性要因図を作れ」というのでは果てしないものとなり、お手あげになる。
     (5) 改善案の実施・効果検証
      (4)でサイズ過小の原因が特定できたため、後は具体的な対処方法を探っていくことになります。今回の場合は加工機械の歯の部分に問題があったため、最も簡単な対応はBグループの歯をAグループと同じものに取り替えることだと考えられます。しかし、歯の取り替えに時間や多額の費用がかかるとすれば、別の対処方法も同時に考慮していく必要があります。そこでここでは、加工機械の切断圧力の部分に着目することにしました。
      すなわち、Bグループでは歯の材質に対して切断圧力が強すぎるため、金属板を過度に削っているのではないかと考えたわけです。この考えに従って切断圧力を調整した結果、以下の「散布図」(Fig.9)に示すように切出サイズが規定範囲内に収まるようになったとしたら、この改善案は有効と評価することができるでしょう。

      今回のチュートリアルの作成にあたっては、藤本隆弘「生産マネジメント入門」を参考にしました。

    Fig.9 切出サイズの改善前・改善後の散布図
    改善前
    改善後
    〔講評〕
      4つほどの問題がある。
      (1) 前述のように「段取り調整などでは解決できない 相当の難問 」のはずが、単に空圧調整で済んだという話で終わるから、これを参考にするとウソ話の習慣がつくのである。

      (2) 「サイズ過小の原因が特定できたため、後は具体的な対処方法を探っていく」とあるが、実情に合わない。前の特性要因図のところで述べたが、原因不明の状態で対策を打つ場合が多いからである。
      実務経験が少ない人は、「対策というものは、原因が判明してから打つもの」と思い込む。

      原因が分からなければ対策など考えようもない、と主張して譲らない。
      しかし、出費の少ない対策を先に打ってみて「効果がなければもともと、効果が出れば儲けもの」という活動が実務では一番多いのである。
      効果が出たらそれが原因だと分かるから、原因が容易に推定できない場合は、安い対策を次から次へと考案して実行していける「飽くなき挑戦」が結局は成功するのである。
      一方、方針管理のように高額投資をする場合は、失敗の許されない「一発勝負」だから、原因が明確に特定しなければ対策を講ずることはできない。

      (3) Fig.9 は「散布図」ではない。 藤本隆弘「生産マネジメント入門」を参考にしたというのは、全くの誤解である。
      「散布図」とは、xの値とyの値がともにばらつく場合に、それぞれを自然なバラツキ状態にしたままの測定値を打点したものをいう。
      ところが、Fig.9 は、圧力レベルをゼロ付近から10 Lv付近まで人為的に変化させた場合に、サイズがどう変わるかを打点したグラフである。いくらなんでも「加工機械の切断圧力」が、自然なばらつきとして「ゼロ付近から10 Lv付近」まで変化する訳はない。
     従って、自然なばらつきの状態はどうなのか全く分からないのであって、効果も判定できない。
      (4) Fig.9 の状態ではバラツキが大きく、工程能力が満たされず、工程は依然として不安定状態である。
      「Bグループでは歯の材質に対して切断圧力が強すぎるため、金属板を過度に削っているのではないかと考えた」とあるが、それでは平均値が移動するだけでバラツキが減らないから、解決にならない。
     元来、圧力を加減調整するだけで済むようなテーマが未解決の状態で残っていたとは考えられない。


    〔全体講評〕
      結論として、このような活動はあり得ないし、行なったとしても問題は未解決である。
     末尾に 「チュートリアルの作成にあたっては、藤本隆弘『生産マネジメント入門』を参考にしました」 と述べ、かつ、仮想のテーマとの前提で記述されているので、QCストーリーやQC7つ道具の考え方を紹介するに留めたものと思う。
      「初心者にQCストーリーやQC7つ道具をやさしく指導しよう」 とする試みは、相当の注意を要する。

      特に実務経験の少ない人は 「自分は十分に理解し、指導の能力がある」 と錯覚しやすいが、実態に合わない指導になることが多いことも事実である。
      本件の事例では、指導する人が 「指導される人と同じようなウソ話」 を作っていることが指摘される。
      繰り返しになるが、仮想例ウソ話は、全く違うことに注意しなければならない。

    (QC7つ道具 終わり)

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