今日想った事(2005年1月)

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2005年
1月31日(月)

【ランドセル事情】
 昨日,ブログ版のほうでランドセルを買ったことを書いたが,少子化時代にあって市場はどんどん縮小していゆくのみ。それでも売る側とすれば,重要なシーズン商戦であり,また単価が高いことから決して旨みの無い市場ではない。また,デザイン性の向上,軽量化,頑丈な素材など改良できるポイントも多く,商品力を高める動きも出てきている。また,最近では社会慣行の変化から,紙のサイズにも気を配る必要がある。A4サイズ化の流れは企業から役所などへも広がっており,公立小学校の総合学習でもA4サイズの副読本や書類などが使われるようになってきている。従来のランドセルは教科書とノートだけを想定しており,それらはB5サイズ程度であることが多い。そこで,ランドセルの大型化が必要になってきている。ただ,単に大きくすればロッカーに入らなくなったり,重量化にもつながる。そこで,縁部分の縫い目を内側にするなどして,全体の大きさを変えずに中を広くするような手法も要求される。百貨店などではオリジナルブランドのランドセルを販売しているが,このような技術を元に,コードバンを使うなど皮革にこだわったり,また有名ブランドとのコラボレーションによって付加価値を高めている。ただし,値段的にそれほど高くはならないので,こだわりのランドセルを求めるのなら百貨店で選ぶのが一番無難かもしれない。

 スーパーのランドセルといえば,やはりイオンである。一昨年発売した「スーパーライトランドセル カラフルシリーズ」(26,000円)は,ピンクや赤などの24色をそろえている。他の人とは違う色を選びたい人向けだが,横並び意識の強い子供たちが,どこまでオリジナル色を選ぶかは微妙なところではないか。ところで,このランドセルのもう1つの特徴として,NASAが開発した衝撃吸収剤を肩ベルトに採用していること。もっとも,肩ベルトに同素材を採用したランドセルはそごうなどからも発売されているが,他のメーカーでは枕やマットレス,スリッパなどでも使われており,一般的になってきている。今後,普及されていけばイオンのアドバンテージはなくなるわけであり,やはり他の部分での差異化が必要になってくるだろう。そこでイオンが注目したのが素材。一般にランドセルは軽いほうが良いと思われている。しかし,長持ちという観点からは,丈夫な素材が必要になる。ところが丈夫な素材ほど重くなる。ランドセルの普及品では中心価格帯が4万円台の牛革タイプと,3万円台の合成皮革タイプに大きく分けられる。そして,軽量な合成皮革が販売量全体の約8割を占めている。それだけ軽量タイプが求められているのだろうし,値段の安さも魅力なのだろう。しかし,今年のイオンではあえて重量化も選択肢の1つとして加えてきた。

 イオンではおなじみの豪州産牛肉「タスマニアビーフ」。米国でBSEが発生してからは豪州産の牛肉に注目が集まったが,それまで赤字続きだった同部門の採算性がいきなり持ち直した。イオンはPB商品の開発として以前よりタスマニアでの肉牛を生産。豪州の自社直営牧場で穀物肥育した2万頭近い肉用牛をチルド牛肉に加工,日本に直輸入している。ところが現地で肉をさばいた後,余った牛皮などはそのまま捨てられていたそうだ。イオンでは高級素材としての牛皮の活用に着目。そこで,靴・カバン用の素材に流用することとなった。半分をランドセルと紳士カバン,半分を紳士靴に振り向けているようだ。ランドセルは日本で牛皮を染色し加工している。牛革は重くなる分,一般受けは良くないようで,実際店頭に置いてある量も少ない。また色も黒と赤しかなく,上記カラフルシリーズのような展開はない。また,一部は人工皮革を使ってあり,重さとコストのバランスを図っている点がやや安っぽさを感じてしまうところ。さらに骨組みの弱さも少し感じられ,中途半端な商品に仕上がってしまったような気がする。ランドセルに牛革を使うこと自体は結構なのだが,全体的な仕上がりを詰められなかった商品ともいえる。

 さて,一口にランドセルといっても,形状は細かいところでいろいろ違ってくる。現在,ランドセル全体の9割を占めるのが,縦長で下側に錠前が付いている「学習院型」と呼ばれるタイプ。その名のとおり,昔から学習院で通学用背負いカバンとして使われていたのが由来とされる。一方,横長で側面に錠前が付いているのが「慶応型」と呼ばれるタイプ。量は少ないが,一部に強い人気がある。ところでランドセルの大型化が進んでいるが,ランドセル工業会では標準寸法を高さ28センチ前後,幅24センチ前後と規定している。そして10年前に比べ1センチずつ長くなったのだ。ランドセルの原型は明治時代からあまり変わっていないが,サイズが大きくなったことが1つの流れ。また,ランドセルのブランド化も進んでいる。「ミキハウス」や「ベネトン」など有名衣料品メーカー製もあれば,「ミッキーマウス」や「スヌーピー」などのキャラクター付きも多くなっている。素材などにはこだわらず,愛着の持てるランドセルを求める顧客が多くなってきているのだろう。ところでランドセルを実際に使うのは子供であり,本来は彼らが選択すべき。しかし,牛革は重いから嫌だなどと,一瞬の感覚で決めてしまうのもどうかと思う。最長で6年間使うことを考えれば,長い見で見た商品選びを教えてやるのも大切になってくるだろう。
2005年
1月30日(日)

【受験・合格グッズ(下)】
 選挙事務所には必須アイテムとなっているダルマ。倒れないという理由から選ばれているのだろうが,落選した選挙事務所の横に飾ってあるダルマは哀愁が漂うばかり…。ダルマなんて関係ないのだろうが,七転び八起きという言葉もあるように,倒れても倒れても立ち上がるような意思と受け取るのが素直か。そしてダルマは受験グッズとしても古くから認知されている。群馬県高崎市の「今井だるま店」では「合格だるま」を作っている。年間200〜300個ほどの注文があるようだ。ところで「合格だるま」の注文では色が指定できるようだが,5年ほど前から「赤」から「白」に変わったという。これは「合格しろ」という意味で縁起をかついでいるらしい。納入先の川崎大師からアドバイスされて白を売り始めたら,ダルマの売り上げが2割も増えたそうだ。現在では9割ほどが白の注文になっている。大きさもいろいろ選べるが,あんまり小さいとありがたみはないし,大きすぎれば単に邪魔(苦笑)。そこで18センチが定番とのこと。値段は1個1000円で,顔の両脇に「目標達成」とか「大願成就」と書き,中央には金色の塗料を使った「合格」の文字。そして,注文によっては名前や学校名を入れることも頼める。

 全農パールライス東日本では,1986年から「受験合格米」を販売している。まあ,中身的には新潟県産コシヒカリ。何を持って受験合格なのかは不明。唯一の理由はその重さか。「一勝」「一笑」にひっかけて1.5キロ(約1升)というわけ。ちなみにこの重さになったのは3年前から。それまでは5キロだったそうで,ますます受験とは意味が無い。価格は880円でちょっと高いのではないか。袋には満開の桜が咲く尾島町の世良田東照宮の写真が印刷されているというが,説得力には欠ける。それでも毎年5000袋程度売れているというから不思議でならない。ただ発売にあたって毎年,関係者が玄米や米袋などを持って同東照宮を訪れて合格を祈願するそうだ。ところで新潟産のコシヒカリを使うのはやや贅沢かと思いきや,やはりトップブランドを使うことに意味があるのだろうか。以前,学校給食で使用されている「ビタミン強化米」を使ったこともあるが,販売量に変化がなかったそうだ。機能性よりもブランド。受験グッズもそんな程度にすぎないわけだ。一応,全農では「米は栄養があるし力が出る」と説明しているが,ヒエやアワだって栄養はあるぞ。米を販売するなら,合格グッズのセットで売り出せばいいのにね。「受験合格土鍋」「受験合格茶碗」「受験合格箸」などフルセットでさ。

 セットで売り込んでいるところもある。福井県名田庄村の第三セクター「名田庄商会」では,粘り気のある特産のじねんじょを練り込んだ「合格そば」セットを販売している。セットは,そば5袋(10食分),名田庄米を使った紅白もち5個,滑り止め加工をした若狭塗のお箸,村内の神社で合格祈願をした五角形のキーホルダー,必勝はちまきの5点。価格は2700円。5点セットにしたのは,合格の「5」で縁起を担いでいるというが,無理矢理受験関連グッズを詰め込んだ感は否めない。そばとお箸まではいいのだが,それと必勝はちまきはあまりにも不釣合い。そもそもはちまきしながら勉強している人間なんているのかね。かえって頭に血液がいかなくなるんじゃないのか。これだったらかえって合格そばだけで勝負してもよかったような気がする。国産のじねんじょはなかなか手に入らないものだし,栄養価は高い。また,ネバネバすることから,「粘る」という意味もあるわけで,単純にこれらを売り物にしたほうがよかったかもしれない。

 他にもまだまだある。「横浜カレーミュージアム」では1月5日,「合格カレー」なるものを発売した。脳の働きを活性化するといわれるコリアンダーなどを含むスパイスで作ったカレー。刺激を与えるスパイスに注目したのはいいのだが,さらにご飯に受験合格米を使えば最強か(笑)。さらに,上記合格そばを組み合わせた「合格カレーそば」なども考えられるだろう。意外なものが売れたりもする。三重県菰野町の御在所山の山頂にある「日本カモシカセンター」が販売する「おちないカモシカの合格札」(絵馬とセットで500円)が受験生らの人気を集めているのだ。カモシカは,ゴムのような弾力のあるひづめによって,絶壁でも落ちないとされる。これにあやかって,1997年から販売を始めている。特に今年は過去最高の売れ行きだという。受験生に限らず,人生そのものが崖っぷちに立たされている人にも重宝されているのか(苦笑)。ところで,合格・受験グッズ市場は静かな広がりを見せているが,いずれは少子化が進み,大学は全入時代を迎え,市場は縮小へ転じるはず。今は蝋燭が消える直前の勢いなのかもしれない。
2005年
1月29日(土)

【受験・合格グッズ(上)】
 受験シーズンのようだ。年初は神社で参拝をした受験生も多かったことだろう。都合のいい時だけ神頼みしたって,神様は何もしてくれないっつうの(笑)。実力で勝負すればいいだけの話だけなのだが,そう言ってしまえばつまらないか。確かに,ときには人間は信じられない力を発揮することもあり,何かにすがるという気持ちも理解できないわけではない。ただ,企業も宗教も同じだが,人間の弱みに商機がある(苦笑)。そこで「受験・合格グッズ」なるものがこの時期蔓延ることになる。ところで合格グッズとして発売したものではないが,語呂のよさなどでいつまにか受験生の間でお守り代わりになるものもある。その代表格がネスレコンフェクショナリーの「キットカット」だ。「きっと勝つ」を連想させるとして数年前から人気となっている。そして今シーズンは大々的に合格グッズを前面に押し出す。キットカットの広告とともに,受験生への応援メッセージなどで埋め尽くした「受験生応援列車」を全国で走らせている。車両外観は満開の桜のデザインで,車内に学校の先生や母親などの写真や応援メッセージを掲示している。全国14電鉄・25路線での運行しており,運行期間は受験シーズンの2月中旬まで。

 ネスレでは1月11日,キットカットに「受験生応援パック」2種類を追加。1つは「五角形マグカップ付き」(315円)。どこが受験グッズかといえば,五角形と「ごーかく」をかけているところ。かなり強引だ。五角形のマグカップでコーヒーでも飲めば合格できる気分になれるということか。ところでこの商品,価格設定からいっても食玩の流れの1つだね。だから,受験生とは関係無しに,五角形のマグが欲しいという人も買うのではないか。マグ自体に「合格」などの文字はなく,通常の生活でも使えそうだから。もう1つは「紅白パック」(10枚入りで315円)で,ノーマルのキットカットと「キットカット ホワイト」がセットになったもの。全くヒネリの感じられない商品といえる。ネスレも何時の間にか受験生の取り込みに熱心となってしまったようだ。でもチョコレートって,頭の活性につながるのは事実。バクバク食って太らなければ理想的な受験グッズとも言えるんだけどね。ネスレも機能性をうたったキットカットの開発をしてみれば,もっと売れるんじゃないのかな。

 同じように,最初は受験グッズとしては認識されていなかったが,勝手にその仲間入りさせられたのがロッテのチョコレート「パス」。まあ,パスとは「通過する」という意味だから,合格という意味につながっていったわけだ。そしてロッテは1月4日,ウエハースとチョコレートを組み合わせた「パス」に「春サクいちご」(7本,100円)を追加し,全国で発売した。内容としては,ホイップした軟らかいイチゴ味のチョコを軽い食感のウエハースではさんだもの。これを個包装にして食べ分けやすくした。つまり,一個ずつ食べたいという女性に配慮したものだ。実際,10代後半〜20代の女性を主な顧客層に想定している。ここまでの説明では受験グッズの匂いは漂ってこない。しかし,よく商品名を見てみると「春サク」がウエハースのサクサク感と「春咲く」とが重なって,合格のイメージを醸し出してくる。これは随分とお洒落な戦略だわな。ロッテとしても,あえて受験グッズをうたわないようにしたのだろう。えげつないと思われると,冷めた消費者はアッサリと引くからね。同様にさりげない受験グッズといえば,「キシリトールガム」。「きっちり通る」とかけている。これはいいのだが,一番えげつないのが「ウカール」。受験シーズンだけ「カール」は頭の部分に「ウ」を入れている。カールなんて食っても頭が悪くなりそうな感じもするけど。なお製造元の明治製菓では「カールを食べて試験に落ちても我々は一切責任は負えません。頑張って下さい。」という注意書きを入れている(笑)。

 宝酒造ではベネッセコーポレーションとの共同開発による受験生向け清涼飲料「<受験生熱援飲料>合格宣言」(500ミリリットル,147円)を発売している。こりゃまた随分と“熱い”商品名である。さてどこか受験と関係しているかといえば栄養成分。ビタミンAやカルシウム,DHAを配合してあるそうだが,そんな食品はいくらでもあるんじゃないのか。もはや受験生向けとしては定番の成分といえるが,こういうものってずっと前から長い期間摂取してなきゃ意味ないのに,とりえあず飲んでみて頭がよくなった「気分」を味わうだけなのだろ。ブルーベリーの果汁と発酵乳を混ぜ,まろやかな口当たりですっきりとした後味に仕上げたというが,なんだかインパクトに欠ける商品だ。これだったらDHAを配合した「合格にんにく」などのほう受けは良さそうだ。なお,この飲料には,受験に合格した先輩から受験勉強のコツを記載した「先輩たちの応援メッセージ」シールを付けてある。このあたりがベネッセとのコラボによる成果なのだろう。まあ,勉強のスタイルなんて人それぞれ,あんまり役に立つとも思えないんだけどね。なおメーカーの狙いとしては「受験のコツのみ込んで」ということらしい。どのようにでもこじつければいい。それが受験グッズの実態。
2005年
1月28日(金)

【マヨネーズタイプ】
 昨日,豆乳と大豆飲料について取り上げた。両者の違いは既述したとおりだが,大豆飲料も豆乳のようなもの。しかし日本農林規格(JAS)法によって明確に豆乳について定義されているため,大豆飲料という新しい名称を使わざるを得ない。本来なら,豆乳の一種といっても良いと思うのだが,厳格な規定があるためにそのようなことになっている。同様なことがマヨネーズの世界でも起きている。JAS法でマヨネーズは『卵黄又は全卵を使用し,かつ,必須原材料,卵黄,卵白,たん白加水分解物,食塩,砂糖類,香辛料,調味料(アミノ酸等)及び酸味料以外の原材料を使用していないもの』となっている。そしてこの定義に漏れたものは,マヨネーズという表示ができないことになる。そしてこの定義を巡って約2年前,大きな論争が起きる。それが食品会社「ななくさの郷」が製造している「松田のマヨネーズ」はマヨネーズなのか? という論争である。

 「松田のマヨネーズ」が発売されたのが1985年。その後しばらくは通常の販売を続けていたが,2002年7月,突然農林水産消費技術センターがJAS法の品質表示基準違反に該当するとして,表示を変更するように指導。何が抵触したのかといえば,「松田のマヨネーズ」では,甘味成分として蜂蜜を使っていたのだ。ところがJAS法では,糖類の使用は認めているが,蜂蜜は畜産加工品に分類されるため対象外となる。つまり,「正式なマヨネーズ」ではないという判断。「松田のマヨネーズ」が蜂蜜を使うのには訳がある。そもそも「松田のマヨネーズ」は,「究極のマヨネーズ」をうたって発売されたもの。菜種油,有精卵,純リンゴ酢などこだわった食材から作られている。そして甘味は砂糖ではなく,無農薬のクローバー蜂蜜を選択。味に深みを出すためだ。安全性とおいしさを追求した結果選んだ素材が蜂蜜というわけである。それをマヨネーズではないと判断する行政に対して,同商品を愛用する消費者からは農林水産省へ抗議の署名が寄せられるが。「松田のマヨネーズはマヨネーズだ!の会」という組織も結成された。だが結局指導が覆ることはなかった。そこでななくさの郷では,「松田のマヨネーズタイプ」という商品名で発売することとなる。

 ところが農水省からの追求は続く。表面の表示は確かに「マヨネーズタイプ」となったのだが,商品説明の裏書きで『マヨネーズと呼んで下さい』『だから100%自然の究極のマヨネーズといわれるのです』という文言が,マヨネーズと誤認させるということで書き換えを要求してきたのだ。結局,『作り方も使い方もマヨネーズと同じです』という文句に変更することになる。農水省がここまで細かくチェックを入れてくるというのも,食の安全施策で批判を受けたことから神経過敏になっていると思われる。しかし,あまりに杓子定規に基準を適用すれば,逆に食品の豊かさを損なうことにもなる。ところで農水省の追求が執拗だったのは,大手マヨネーズ業界の圧力があったという噂もあった。ただ,それが本当かどうかは不明。なぜなら,大手メーカー自身がJAS法で言うマヨネーズを作らなくなってきているためだ。その動きを加速させたのが花王の「健康エコナマヨネーズタイプ」。特定保健用食品(特保)を取得して,『体に脂肪がつきにくい』という表示が認められ,健康志向の消費者はこぞってこの商品へ流れ込むことも予想される。エコナマヨネーズも食用植物油を使っていないので正式なマヨネーズではまぃ,そのため「マヨネーズタイプ」という表示になっている。ところがエコナの成功が,各社をマヨネーズタイプへと走らせている。

 マヨネーズタイプを含む家庭用マヨネーズ市場では,キユーピーが7割を占める。しかし,キユーピーといえども,現在売れ行きが好調なのは「キユーピーハーフ」や「キユーピークオーター」などのマヨネーズタイプ。それらは増粘多糖類や食物繊維のセルロースなど,JAS法で規定外の原料を使用しているため,マヨネーズを名乗れない。それでも今,スーパーなどの売り場で最も目立つ棚を陣取るのは「マヨネーズタイプ」。一方,正式なマヨネーズ市場は縮小傾向。味の素の特保食品「ピュアセレクトサラリア」も急激にシェアを伸ばすなど,マヨネーズタイプの勢いは止まらない。現在,各社ともJAS基準にはこだわっていない。今後は味や素材,機能を追求した高付加価値型のマヨネーズタイプの商品開発が進んでいくことになろう。ただ,通常のマヨネーズに比べて倍近い価格の高さが普及のネックとなっている。そのため市場全体の2割程度しかないが,開発費や設備投資の償却が進み,価格が低下すれば一気に市場を押さえてしまうのではないか。つまり,JAS法で決めた表示などを気にせず,自ら正しいと思った商品を作ればよいということ。松田のマヨネーズ事件も今となってはあまり問題視することもないのではないか。問題は,消費者がそれを受け入れるかどうかにかかっている。マヨネーズかマヨネーズタイプかにこだわる消費者など相手にしなければいい。やがて「マヨネーズ」という商品がなくなるかもしれないのだから。
2005年
1月27日(木)

【豆】
 スーパーで豆乳販売が好調だという。ガン抑制や美肌効果があるとされる大豆由来の成分イソフラボンへの注目が高まっていると分析されている。厚生労働省は,40〜59歳の日本人の女性約2万人を1990年から10年間追跡し,がんの発生率と大豆製品の摂取量との関係を調べた成果,みそ汁に乳がんの発生率低減効果があるという調査結果をまとめている。厚労省では,元々乳がんの少ない日本人女性が,海外に移住した場合,欧米人並みに発症率が上昇ところに着目。長期間の調査の結果,大豆そのものや豆腐,納豆などをほぼ毎日食べる人では,ほとんど食べない人に比べ,乳がん発生率が約2割減少することを突き止めた。ところで,統計的に明白な効果が浮かび上がったのは,なぜかみそ汁だけという。毎日3杯以上飲む人は,飲まない人に比べ発生率が4割低いそうだ。統計的な観点だけでも効果があると断定はできるが,効果の源泉となっているのが大豆に豊富に含まれているイソフラボンと推定できるのである。

 乳がんの一因は女性ホルモンの過剰な働きとされるが,イソフラボンはその働きを妨げるのではないかとみられている。乳がんは特定のたんぱく質に女性ホルモンが結合することで発症するが,イソフラボンは女性ホルモンと形が似ている。そのため,イソフラボンもそのたんぱく質に結合することで,がんの発生を止めていると考えられているわけだ。ところで大豆は,たんぱく質が豊富。肥満大国の米国では,動物性たんぱく質を嫌い,植物性への注目が高まっている。大豆のたんぱく質には,LDLコレステロールや中性脂肪を減少させる効果もある。そして,たんぱく質を分解するとできる大豆ペプチドも注目されている。小腸からすぐに吸収されるのが特徴で,最近ではトレーニングの後に摂取すると筋肉の損傷が少なくて済み,疲労の回復を助けることなどが分かってきている。長期間服用すると,筋力などの増強効果も期待される。何度も書いているように健康食品というものは存在せず,大豆ばかり摂取しても意味はない。しかし,大豆臭を軽減し飲みやすい調製豆乳などが普及し,「とりあえず大豆」という消費者が増えたことは事実なのだろう。常飲者が増えたため,買い置き用として1リットルサイズの販売も伸びているという。豆は旬のキーワードといえる。

 カゴメが昨年9月に発売した「豆」(200ミリリットルル,115円)が売れているという。大豆を使った飲料だが,野菜ジュースのトップブランドとして君臨するカゴメが意外にもようやく初参入した。「豆」は大豆飲料としてシェア15%前後を確保し,安定した売れ行きを保っている。ところで大豆飲料と豆乳はどこが違うのか? 大豆飲料は大豆をそのまま丸ごと砕いて原料としているが,JAS法の定義によれば,豆乳は大豆を搾って副産物のオカラを除いたものになる。オカラには大豆にたんぱく質や食物繊維が残るため,大豆の純度としては大豆飲料のほうが高いことになる。ただ,おからを除かず大豆をまるごと使用したため,そのままでは食物繊維のザラザラ感が残り,ドロッとした飲み口となる。そこで,カゴメでは独自の方法で可能な限り大豆を細かく砕いくことで,なめらかなのど越しを実現したとしている。砕いた粒子を蒸し煮して,殺菌する設備を新規に導入するほどこの商品には力を入れている。

 「豆」の購入層としては,偏りがないのが特徴。同じ大豆飲料である大塚製薬の「スゴイダイズ」は若年層を中心に女性の購入率が8割近い。「スゴイダイズ」は,美肌効果のあるといわれるイソフラボンを含んでいることを前面に押し出して売っているため,美容と健康に意識の高い女性からサプリメント的に飲まれている。また,購入の時間帯も6割が午前中。一方,「豆」は幅広い層の人々から野菜ジュース感覚で時間に関係なく飲まれているようだ。特に,男性の購入が目立ち,購入時間帯も偏りがなく,これが安定した売れ行きにもつながっているのだ。カゴメは大豆飲料に参入するにあたって,自然な素材のおいしさで「カラダにいい=おいしくない」というイメージを払拭することをめざしたという。原料の大豆にこだわり,50種類以上の品種を試したうえで糖分を多く含んだカナダ産を採用。ほんのりした自然な甘さを実現したとしている。「豆」と一文字毛筆書きのパッケージも目を引く要因。これは素材へのこだわりを示しブランド浸透に貢献した。カゴメでは,素材重視の本格的なプレーンタイプ飲料であることをアピールしつつ,自社の一連の健康食品といっしょに陳列し,トータルでの健康を訴えたことも売り上げ増につながった分析している。現在は好調な調整豆乳だが,大豆そのものではない。この認識が進めば,大豆飲料がその座にとって代わる日が来るのかもしれない。
2005年
1月26日(水)

【緑茶戦争】
 伊藤園の主力商品である緑茶飲料「おーいお茶」の2004年の販売量は前年比17%増の6700万ケース(1ケース500ミリリットルペットボトル24本換算)となった。なんと前年比2ケタ増は9年連続となる。「おーいお茶」はもはや古い印象が強いが,派生商品の展開によって成長を持続させている。販売量は既に5年前の2倍規模にも膨れ上がっている。清涼飲料水ではコーヒーとコーラが代表格だったが,緑茶もこれに加わった形になっている。2004年のヒット商品は「おーいお茶 濃い味」だが,これが好調で全体を押し上げ,緑茶飲料でのシェアは約3割で首位を維持した。しかし伊藤園では安閑としていられない。それはサントリーの「伊右衛門」が「おーいお茶」を急追しているためだ。「伊右衛門」は昨年3月の発売されたばかり。竹筒型の容器や名称など特有のマーケティングによって発売直後からブレイク。当初計画を大幅に上回り,3400万ケースを販売した。キリンビバレッジの主力商品「生茶」(3500万ケース)にも迫ったが,3月発売ということを考えれば,実質的には業界2位といってよい。そして「伊右衛門」の2005年の販売計画は,前年比47%増の約5000万ケースとした。まだ「おーいお茶」を抜けるほどではないが,「伊右衛門」の存在は各清涼飲料メーカーにとっては気になる存在であることは間違いなさそうだ。

 昨年は清涼飲料販売は恵まれていた。それは夏場が猛暑であったためだ。また,昨年末までは暖冬ということもあり,それほど販売量も落ち込まなかったのではないか。しかし,今年に入って寒さは厳しく,夏場も去年ほどの猛暑は期待できず,反動減となる可能性が高い。また,原油の高止まりなどもあり,容器などの原材料価格上昇など,収支環境は厳しい局面が続くと予想される。とすれば,商品力そのもので売っていくしかない。すでに過熱しているのが,飲料大手各社による2005年産の国産茶葉を先物買いする動き。総発注量は昨年より5000トン程度増える見通し。緑茶飲料に換算すると,約5000万ケース分で,前年の市場規模から一気に22%の上積みになっている。このため,国産茶葉の供給不安を懸念する声も出ており,海外産茶葉を混ぜてくることもありえるのではないか。これほど先物に買いが入るというのも,消費量の伸びに確信をもっているためか。しかし冷夏ともなれば供給過剰に陥るのは間違いない。在庫が積みあがるような事態になれば業績に与える影響は計り知れない。

 「伊右衛門」の登場で一番危機感をもっているのはキリンビバレッジだろう。折角有力ブランドに育て上げた「生茶」も,今年は「伊右衛門」に抜かれることはほぼ間違いないためだ。そのため「生茶」のテコ入れが最重要課題になっている。「生茶」は発売初年の2000年から大ヒットしたが,2004年は前年比約5%減と落ち込んだ。一部顧客は「伊右衛門」へとシフトしたのだろう。今年は新製法を導入し,ペットボトルなどのデザインを刷新する。2リットルペットボトルにはリサイクルしやすい新容器を採用し,環境面からも訴える。そして,テレビCMも同社として過去最大級の物量を投入し,販売目標を4000千万ケースと強気な設定をした。一方,それを上回る生産計画を立てている「伊右衛門」。キリンとしては2年目は初期投資の回収を狙い,販促を抑制するという甘い考えもあったようだが,サントリーでは昨年並みの投資を行い,業界2位の座を確定的にしようとしている。「伊右衛門」VS「生茶」の争いが今年の目玉となりそうだ。

 2位争いの激しさから,首位の伊藤園も広告宣伝費を積み増して販促を強化し対抗する。また,緑茶飲料の発売20周年などをからませたキャンペーンも展開する予定で,今年も10年連続で2ケタ増を見込んでいる。上位ブランドを持つメーカー以外でも,緑茶市場の攻勢に出てくる。アサヒ飲料は新商品「アサヒ緑茶 若武者」を4月6日に発売する。従来の「旨茶」がコンビニエンスストアなどで商品力を発揮できなかった反省から,夏場を中心に積極的な販促策をとるようだ。「キレ味するどい,男の緑茶」が商品コンセプトで,1100万ケースの販売を計画している。まあ,よくわかんないコンセプトだけどね。若武者と緑茶がどうやってつながるのかが不明だが,男にターゲットを絞ってしまうことで,需要に制約ができるような気もするが。この程度の商品力では,上位3社の激しい販促活動に負けてしまうような気もする。昨年の清涼飲料の市場規模は,猛暑の影響などで5%程度拡大した。しかし今年は良くて前年並み,反動減によってそのまま5%程度縮小する可能性もある。勿論,コーヒーなどからの転向組も取り込めるのかもしれないが,緑茶もそろそろ頭打ちになりそうな感じもある。幼児向けなど,より幅広い層まで広げる取り組みなど,漫然としたテレビCMだけでは売れないと思われる。
2005年
1月25日(火)

【新潟県・分裂(下)】
 北陸新幹線延伸後は,上越新幹線の存在感が一気に薄まる。越後湯沢までは冬時期,スキー客などの需要があるものの,その先の需要がビジネス利用と帰省程度しかないためだ。際立った産業があるわけでもなく,大型の観光資源もほとんどない。そこへきて中越地震によるダメージもあり,新幹線を使って人を呼び込むにはあまりにも魅力が乏しい。沿線自治体では「上越新幹線活性化同盟」の立ち上げ準備に入っている。このままではジリ貧になることは間違いなく,なんらかの対策が必要という危機感が出てきているためだ。新潟市は今年3月の大型合併によって2007年4月には政令指定都市入りを目指しているが,中身を伴わない可能性もある。生き残り策として考えられているのが,新幹線の新潟空港乗り入れ。新幹線が直接空港に乗り入れた例はない。追い風もある。新潟空港の利用者数が増えているのだ。最近では中越地震という“特需”があったが,国際線が大きく伸びているのだ。特に韓国ブームによってソウル線の伸びが著しい。韓流ブームの一過性で終わる可能性もあるが,中国向けも伸びており,日本海側からアジアへの航空便として地位を高めつつあることは間違いない。そこに新幹線が直接乗り入れば,上越新幹線とセットでの旅行は増えることになる。群馬や埼玉県の住民は羽田へ行かず,距離的に近く感じる新潟へ向かうことが期待されるわけだ。

 しかし新潟空港乗り入れの実現性には投資額の大きさから大いに疑問。国,自治体,JR東日本がどのように費用を負担するのかももめることになる。利用者の増加もどこまで見込まれるかはあまりにも不透明。さらに新潟空港には3000メートル化という事業も陳情しており,新潟県へ国税が集中することへの批判も出てくることになる。構想とすれば面白いが,実現したとしても新潟県には大きな問題が取り残される。それが中越地方の活性だ。新潟市を中心とする下越地方が潤ったとしても,中越は単なる通過点であることに変わりはない。もはや打つ手は無いともみられるが,地域振興策として最後の手段が長年話には持ち上がっていた。それが新潟県庁を中越地方の中心,長岡市へ移転するという案である。新潟市は政令指定都市になれば,県庁とのつながりは薄くなる。そうなれば,県庁が移転してもさほど影響は無いという見方もできる。ところがこの案は,中越地方をお膝元としていた田中角栄が全盛だった頃も実現できなかったとされる。それだけ新潟県自身が,移転に対してアレルギーを持っているのだろう。ただし,一部機能の移転などには前向き。長岡市に税源を委譲し,地方から地方への権限移転という方法が採用される可能性が出てきている。

 長岡市に財源が委譲されれば,大きなプロジェクトが立ち上がることも予想される。第四銀行はかねてから長岡地域での貸し出しを増やす計画があったそうだが,税源委譲ともなれば大型融資も視野に入ってくる。第四銀は新潟県で圧倒的な地位を占めるが,主要な貸出先は下越地方でに限られていた。中越地方における貸し出しの積み増しは今後の重要な課題。第四銀は中越地方を「戦略地域」と位置づけ,人員を投入してシェア拡大を目指している。民間レベルでの中越シフトは僅かながらの希望と言えるだろう。また,他県などから投資を呼び込むような税制措置などを取ってもよいのではないか。新潟市では国際交流拠点化を支援するため,海外からの投資誘致を狙った「投資移民制度」を検討中。これは投資が一定額を超える外国人に居住権を与える制度であり,外資の呼び水ともなる。長岡市でも同様の制度を活用して産業を活性化させる方策がとられてもよいのではないか。もっともその前に,地震からの復興が優先されるのかもしれない。それだけに民間投資を刺激する施策をあらゆる限り打って出るしかないだろう。

 下越地方の中心,新潟市は政令指定都市への移行,上記の投資移民制度の導入,そして佐渡市と一体となった観光開発など,大きな動きが続き,しばらくは活発な動きが期待される。また,上越地方は昨日書いたように長野県と一体となって人とモノとの流動性は高まっていくのだろう。しかし,その谷間となった中越地方は今ひとつ今後の展望が描きにくい。既存の産業をより磨くという手法もあるだろう。中越地方はいわずもがなコメどころ。ただ,地震があって中越という名前を知られるようになったが,例えばコシヒカリで有名な魚沼が中越にあるとは誰も気にしたことなどなかったのではないか。中越には個々には有名なブランドが確立されている。例えば,「夏子の酒」で有名になった「久須美酒造」なども中越地方(和島村)にあったことを知っていただろうか。地域全体としてその強みを発揮してこなかったのも問題であったかもしれない。不幸なことではあったが,中越という名称は全国に知れ渡った。これをキッカケとして中越全体でブランド作りに取り組み,人を呼べるような仕掛けを作っていくのが自然な形。大きな投資に頼らず,小さく稼いでいく方法でいいはず。米百俵の精神のベースになっているのは,ソフトと長期的な視点の重要性。一時的に空腹を凌げばよいというわけではないし,ソフトの醸成には時間がかかる。その覚悟を持って取り組むしかないということだ。
2005年
1月24日(月)

【新潟県・分裂(上)】
 昨年後半は悪い意味で新潟県にスポットが当たってしまった。夏には集中豪雨,そして秋には大地震。ところで,連日報道された新潟県の位置関係を把握している人はどれほどいるだろう? 地震とは全く関係の無い新潟市内や佐渡島などへも観光客が激減するなど,新潟県を人括りとして考えてはいなかっただろうか。新潟県は上越,中越,下越という3つのエリアに区分される。そして,縦長に伸びている県のため,南から北まで辿り付くには相当の距離がある。そして,地域特性も当然変わってくる。もっとも県内がいろいろなエリアに分断されている例はいくらでもあるが,新潟県の場合,さらに面白いというか,複雑なのは何地方に属しているかが分かりづらいこと。社会科の教科書レベルでは中部地方と大きく括られてしまうが,実際には北陸地方など細かく分類されることになる。中央省庁の地方局でも,新潟県の扱いは異なっている。北陸地方局に新潟県,富山県,石川県,福井県を分類しているところもあれば,関東地方局に組み込む場合もある。NHKのローカルでも関東甲信越に組み込んでいるため,東京の人と同じ番組を見ていることになる。但し,電力エリアは東北電力管内となっており,北陸なのか,甲信越なのか,東北なのか,実に分かりにくい県となってしまっている。

 その新潟県が事実上「分裂」する可能性が指摘されている。このシナリオが実現性を帯びてきたのは,中越地震であった。地震によって2ヶ月程度にわたって上越新幹線,JR上越線,関越自動車道,国道17号線が分断され,関東方面からの人や物資の流通が完全に途絶えた。しかし,商業活動などの流通にそれほど支障をきたしたわけではなかった。人の輸送には羽田空港−新潟空港便が復活し,車両は東北自動車道から磐越自動車道を経由して新潟入りするルートを活用した。輸送方法の多様化が大動脈の断絶をカバーしていた。とすれば,上越新幹線などの必要性もどれほどあるのかという問題も出てくるわけだ。そして2010年以降,北陸(長野)新幹線が延伸する。上越駅まで新幹線が走るようになれば,東京から上越新幹線を使って越後湯沢駅でほくほく線の特急「はくたか」に乗り換え,富山や金沢へ行く人は「ゼロ」になるはず。現在,東京からはくたかを利用している人は6500人。利用度の少ない上越新幹線だが,さらに拍車をかけることになる。また,ほくほく線の存続自体が危うくなることは必至だ。中越地方が「中抜け」の状態になることを意味する。

 新潟県は東京から近いというイメージがある。東京駅と新潟駅との距離は約333km。時間にして2時間ちょっとだ。しかし東京から近いという恩恵を受けているのは,中越と下越地方の人たちだけで,上越地方にあまりメリットはない。ところが北陸新幹線が延伸すると状況が一変する。そもそも上越市は長野県との交流が深い。これには長野県側の地理的条件に理由がある。長野には海がないため,港への一番近い物流ルートとして直江津へのルートが使われている。物流だけでなく,海水浴地としても直江津は利用されており,昨夏,長野から直江津へ海水浴客は60万人も訪れている。長野県としても自前の港という意識があり,1948年度から2002年度までは,直江津港の整備交付金を支出してきた経緯がある。将来的には,中国との貿易が増えるとみられ,自ら港を持つ意味は大きい。そして,北陸新幹線が開通すれば上越駅と長野駅は距離にして60km弱,20分弱で結ばれる。つまり,上越市民にとって長野市が通勤圏に入ってくるわけだ。やがて上越が長野市の経済・生活圏に組み込まれていく…。

 新潟県側にとって非常に危険なのは,消費行動も長野市側に吸い込まれていく可能性があることだ。いわゆる「ストロー現象」である。新幹線の駅が出来たため寂れてしまった都市も多い。人とカネは集中する傾向があるため,魅力的な店舗が揃っている都市へと人は確実に移動する。とすれば,上越側でも魅力的な街づくりをしなければ,北陸新幹線延伸後に寂れていくことだってありえる。新潟県はここ10年,中越地方の復興に向けてかなりの資金投入が必要。そのため上越地方へ手が回らない公算が大きい。最近では,長野県山口村が岐阜県中津川市と越県合併した。越境合併がありえるなら,上越市が長野県の下に入ることも,非現実的ではないのかもしれない。先般行われた周辺町村との合併により,“新上越市”は直接長野県と境を接することになったことも実現性を高まらせている。新潟県とすれば絶対に手放そうとはしないのだろうが,住民の意向はどうなのだろうか。行政のエゴで住民の声を殺してしまうことだけは絶対にやめるべきだろう。
2005年
1月23日(日)

【なんでもスピーカー】
 ここ数年,スピーカーの振動板の素材を追求する動きが出てきている。振動板は一般的に紙やプラスチックを材料とするが,日本ビクターが木材を素材とした振動板を開発。他にも成型加工が難しいとされるマグネシウムの振動板も登場するなど,閉塞感の強かったピュアオーディオの世界に新しい動きがみられる。ところで音質さえ気にしなければ,どんな素材でも振動板になりうる。いろんな形をしたスピーカーが発売されてきている。まずは,「タタミスピーカー」。文字通り,畳を振動板にしたスピーカーだ。デザイナーのヤマモトヒロユキ氏が考案したもの。畳の縁に対角線上に2つのスピーカーが埋め込まれており,畳を通して音を体感できる。また,スピーカーは上向きに設置されているため,音は天井に反射して,上からも降り注ぐように感じられる。畳自体は音を吸収するから,定在波の問題はないのだろう。アンプなどは別に容易。使用イメージはこんな感じ。受注生産で価格は1畳サイズで153,300円。イ草の香りがリラックスさせ,癒し系のスピーカーともいえるか。寝たきりになっても使える(そういう使い方なのか)。

 元々,和室にはオーディオセットは合わないとされてきた。デザインがマッチしないこともあるが,畳だと床がやわすぎるし,壁材などによって音を吸収されがちであまり面白い音にはならないためだ。ただ,音質にこだわらなければ,デザインだけを和室に合うようにすればいい。福島県三島町の第三セクター「会津桐タンス」は,特産の会津桐を使ったスピーカーを試作した。振動板の桐は横45センチ,縦65.2センチ,厚さは中央を5ミリとして,両端を3ミリに加工している。木を使うスピーカーとしては上記のようにビクターが製品化しているが,それはカバ材を使ったもの。やはり高級素材として知られる桐のほうが音がよさそうでしょう(確証なし)。いや,桐は湿度調整に優れる木材だから,季節によって音が変わるという悩みから解消される期待感はある。実際,歪みは少ないという。デザイン的にも艶のある木目を生かしており,土台にも表面に焼きを入れた桐を使っている。会津桐はそもそも,琴の高級部材として扱われているもの。今後は音質データを解析し,安定した音色を目指す考えで,インテリアを重視する消費者向けなどとして商品化が予定されている。どうせならタンススピーカーなんてものも作ってもいいのではないか。

 花はその容姿の美しさを鑑賞するものとされる(私は理解できないが)。この花を振動板にしてしまったスピーカーが「KA−ON 〜花音〜」。もっと花自体は柔らかすぎるため振動板にはならない。生花を挿した水の入った筒の底に振動源を内蔵している。そしてソースを専用アンプを経由させて振動板へと伝えている。その振動が花や葉の葉脈から伝わり空気に触れて音になるという仕組み。振動板は底にあっても,実際に音が出てくる場所は花や茎になっているようだ。つまり,花や葉が通常のスピーカーのコーン紙の役割を果たしている。スピーカーにおいてコーン紙も音を決めるにあたって重要な役割を果たしている。そのため,花の種類によって音も変わるはずだ。開発したのは情報通信機器メーカー「レッツコーポレーション」で,ネット通販をしているほかに,なんと全国の生花店でも販売している。価格は花瓶とアンプのセットで14,500円から。後は自分好みの花を買ってくればよい。用途としては,企業や病院の受付などを想定しているようだ。音は実際に聞いてみなければ分からないが,「華やかな音」だったらオチとしてはうまく決まってくれるのだが。

 家具や雑貨をスピーカーにする商品はいくらでもあるのだが,建物そのものをスピーカーとする商品はあまりなかった。「白寿生科学研究所」は「竹中工務店」と共同で,天井や壁,ガラスなど建材そのものをスピーカーの振動板として利用することで音を出すスピーカー「セラサウンド」を開発した。このスピーカーは,電気信号を加えることで音声信号を振動に変える圧電振動子を耐熱樹脂ケースに収納した振動体と,従来のスピーカーのコーン紙に相当する振動板となる建材で構成されている。つまり,壁の一部をスピーカーとするわけだ。この振動体を建材の裏側に接着し振動を直接建材に伝えることで,安定した大きさの音を室内周囲全体に放射することが可能になったという。イベント会場などでは天井からJBLやエレクトロボイス,BOSEといったスピーカーを吊り下げていることがほとんどだが,どれも業務用であり意匠性に優れたものは皆無。であれば,壁の中にスピーカーを埋め込んでしまえば,空間的にはスッキリするはず。また壁を振動板とすることで真横から音が来るため,耳には聞こえやすいはずだ。価格は39,900円とそれほど高くはない。一般家庭でもリビングや浴室などに導入しても面白そうだ。
2005年
1月22日(土)

【風呂にこだわる】
 食の安全意識が向上したのか,「食育」が騒がれ始めた。これに続けとばかりに「風呂育」を唱えているのが「小林製薬」。風呂の安全を意識する運動ではない(笑)。入浴中の親子のやりとりを,知育や教育に生かそうというものらしい。実際,入浴時には様々な親子の交流がある。同社が,子供との入浴で体を洗うこと以外にしていることを尋ねたところ,「話をする」「数字を数える」「タオルや洗面器などをオモチャがわりにして遊ぶ」「歌う」などが上がったそうだ。昔からやっていることと現在でもそう変わりはない。風呂は狭い空間であり,水を使っているため使える物質的な制約も出てくる。その限られた条件の中で,いかに時間を有効に使うかを考えるのが風呂育の基点となろう。親子関係の距離は広がっているとされるが,風呂場だけはそういうわけにはいかない。また,風呂は癒しの場としても注目を集めている。温泉人気は疲れた現代人という需要に応じただけにすぎない。風呂に入るという空間と時間をどう使うかは,現代社会にっとって大きな意味を持っているようである。

 高層ビル上階の部屋にあって外の景色を展望できる浴室を「ビューバス」と呼ぶ。「全面ガラス張り」などバスルームに大きめの窓が設置されており,入浴しながら夜景をゆっくり楽しめる趣向。最近,商業ビルなどで「パノラマトイレ」が取り入れられているが,これの風呂版だ。ホテルの客室に導入され人気に火がついたとされる。特に,スイートルームなどの目玉設備となっている。一方最近では,人気の高層マンションでもビューバスが目玉設備とされてきている。都心型の高層マンションではホテル並みの夜景を楽しめる点が大きな売りとなる。最上階だけではなく,全戸をビューバスとなるマンションも発売されている。伊藤忠商事系でマンション分譲を手掛ける「伊藤忠都市開発」は,港区に全住戸の浴室を共用廊下側ではなくバルコニー側に設置できる超高層マンション「フェイバリッチタワー品川」(地上31階建て)を発売した。完成予定は2006年12月。バルコニー側に浴室を設置すれば,ビューバス感覚が味わえるわけだ。マンションも供給過剰により競争が激しくなっているが,ビューバスへ設計変更できる仕様は魅力の1つになることは間違いない。

 キッチンの蛇口に浄水器を付けている家庭も多いのではないか。値段はピンからキリまであるが,価格が高いものはそれなりに効果はあるようだ。口の中に入れる水の安全性を高めたり,味をよくすることはごく自然な行為といえる。ところで,水の安全性を高めるのであれば,全身の肌を直接さらす風呂の水にも気を配ってもおかしくはない。そこで浴室内で使用する水を浄水する装置「風呂用浄水器」が静かに注目されている。塩素の持つ酸化力は,体質によって「髪を傷める」「皮膚をヒリヒリさせる」などの症状を引き起こすことがある。ヘアケアやスキンケアを気にする女性や,皮膚病の患者などは「ナマ水」は天敵。そこで浄水器を使って水道水に含まれる残留塩素を取り除くわけだ。浴室内の浄水器と言えば,従来はシャワーヘッドに取り付けるタイプが一般的だったが,最近では据え置きタイプも普及し,機能も強化されている。機器の価格が下がり買いやすくなったこともあるようだ。また,シャワー型と異なり浴槽用とシャワー用の双方で浄水が利用できることや,機器の設置やフィルターの交換などが簡単に済むことなども普及の後押しになっているという。浴室設備の充実は今後も続くことになろう。

 昨年は温泉の偽装表示が問題となった。ただ,天然であればなんでも良いというわけではない。効能さえあれば,人工温泉だっていいのではないか。あとは気分の問題だろう。というわけで,自宅で温泉気分を味わってもよい。「アース製薬」では,温泉湯治気分を味わえる薬用入浴剤「薬湯めぐり」を発売している。各地の人気温泉から4つをピックアップし,構成成分を参考に商品化。少し青みがかった白色の湯色が特徴の「岩手 須川の湯」,澄んだだいだい色をした「石川 深谷の湯」,森の香りがする黄色の湯色の「愛知 湯谷の湯」,山の新緑を思わせる黄緑色の「鳥取 関金の湯」4種類を詰め合わせ(18包入り)。毎日,気分を変えてお風呂に入れるのもよかろう。ところで最近はゲルマニウム鉱石が注目されている。エステではゲルマニウム温浴が注目されており,関連商品の充実は必至といえる。「満天社」では,3種類の天然鉱石で温泉気分を楽しめる「ゲルマニウム温浴器 スリムストーン」を発売した。ゲルマニウム鉱石,角閃石,蛇紋岩という3種類の天然鉱石を不織布で包み,卵形のケースに収めた。これを浴槽に入れて使用すれば,発汗を促したり,水質をやわらげたりする効果が期待できるという。使用期限は約1年だが,3000円弱という値段は安い。効能は不明だが,自宅のお風呂ライフを充実させることは,根強いトレンドになっていく可能性が高いと思っている。それほど現代人は疲れている。
2005年
1月21日(金)

【製薬会社の逆襲】
 ここ二日間,製薬専業会社が大衆薬で苦しんでいる実態を書いてきた。しかし,家庭用品で強みを持つライオンが台頭するなど,工夫次第では市場を広げられないこともない。ただ,製薬側が最も頭を悩ませているのは,特定保健用食品(特保)市場が急速に広がっていることだ。特保は1991年にできた食品の区分で,「血糖値・血圧の上昇を抑える」,「腸の調子を整える」といったデータを臨床試験によって集め,厚生労働省から承認が取得できれば,特定の効能をうたうことができる商品。効能表示ができるため限りなく大衆薬に近くなっている。ただ,以前は整腸作用があるヨーグルトや飲料などしかなく影は薄かった。ところが最近では生活習慣病につながる高血圧や高脂血の予防を目的としたお茶や食品など,商品供給力に厚みを増してきている。この市場が大衆薬市場を侵食しており,挽回するのはかなり難しくなっている。であれば,製薬会社自身が特保市場に殴り込めばいい。そして,製薬メーカーによる「逆襲」が始まったのだ。

 立て続けに特保商品を投入し,存在感を見せつけようとしているのが大正製薬。大衆薬トップメーカーとしても,切り込み隊長的な役割を担っているのだろう。大正製薬は2002年に特保市場へ参入。2003年から健康食品分野の統一ブランド「リビタ」を立ち上げ,コレステロール吸収を抑える「コレスケアネオ」(150グラム,210円),血糖値上昇を抑える「グルコケア」(190グラム,126円)などを投入。さらに昨年10月末にはゼリー飲料「ドゥファイバー」(200ミリリットル,210円)を発売した。保水性が高い食物繊維「サイリウム」成分を配合し,整腸作用があるのが特徴。ただ,サイリウム配合商品は以前から多い。ブログ版でも書いたことがあるが,日清食品からはサイリウム配合で特保認定のカップラーメンが発売されているほどだ。ただ,値段が高く,知名度も低いため普及に至っていないだけ。実売りで200円を切る価格帯になってくればなんとか普及する可能性も出てくる。大正製薬は経営的な体力はあるのだから,当初は採算度外視で低価格路線を張ってみるのもよいのではないか。量産化できるようになれば黒字転換もできようし,まずは市場のパイを大きくして,その次にシェア,そしてリピーターの確保という段取りがよいはず。

 一方,大きな市場には目をくれず,小さな市場獲得という戦略をとったのがエスエス製薬。昨年9月に発売した同社初の特保飲料「こつこつ健骨改善生活」(100ミリリットル,200円)は,骨のカルシウム維持に役立つとされる大豆イソフラボンを1本で40ミリグラム配合しているのが特徴。中年以降の女性に増えるとされる骨粗しょう症の予防効果をうたって,1日1本の摂取を推奨している。大正製薬が打って出た整腸作用などはヨーグルトを筆頭にした特保商品がひしめきあい,有力ブランドを生み出すことはかなり難しい。そこでエスエスでは食品メーカーが先行した領域をあえて避け,対象領域を骨粗しょう症に絞っている。飲料の色も無色透明にして紅茶味を付けるなど,見た目のシンプルさと飲み安さも追求している。製薬会社は医薬品開発を手掛けていることから,有効成分を配合し飲みやすくする技術を持っている。そのため,従来の特保には少なかったカプセルタイプの開発など,摂取のしやすさを提案することで差別化を図れることも考えられる。

 このほかにも,ロート製薬は昨年3月から特保の飲料「タクティTG」,「タクティIS」(ともに50ミリリットル,242円)を発売している。TGは食後の血清中性脂肪の上昇を抑える「グロビン蛋白分解物」を含み,ISは食後の糖の吸収をおだやかにする「難消化性デキストリン」を含んでいる。ありがちな商品だが,大衆薬では食っていけないという危機感の表れだろう。日本医師会の調べによれば,高血圧症は国内に700万人の患者がいるとされる。糖尿病も約230万人,高脂血症も約100万人いる。ただ,その予備軍はそれぞれ3300万、1600万,2000万人と,それぞれ4倍強から20倍の潜在的に潜んでいる。患者は医師からの処方箋を受けるためそれほど重要な数ではない。問題は予備軍の市場をいかに掘り返せるかにかかっている。特に,高血圧症予備軍はメーカーにとっては魅力的な市場と映っていることだろう(笑)。そこで彼ら予備軍に対して,成人病の恐怖感を植え付けさせ,商品を買ってもらうマーケティングが必要になってくる。食品メーカー優位の特保市場だが,製薬メーカーの技術力も侮ることはできない。静かに始まった特保商品への挑戦だが,しばらくは高見の見物としてみるか。
2005年
1月20日(木)

【ライオンの大衆薬】
 昨日は大衆薬を取り巻く事情について書いたが,改めていうまでもなく状況は非常に厳しい。このまま衰退し続けるとは思えないが,この市場で実は元気なメーカーが存在する。製薬専門の企業ではないが,家庭用品業界で二位のライオンが大衆薬に力を入れている。ライオンは2001年に策定した中期経営計画の中で,薬品事業を「コア事業」の一つと位置づけた。家庭用品は当時から進行していたデフレによる価格下落に苦しんでいた。一方,当時はまだ規制緩和が進んでいなかった医薬品は,安定した価格で売れることから,経営計画が立てやすいとの思惑があったようだ。さらに,高齢化社会とセルフ・メディケーションの流れにうまく乗れれば,安定した収益を生むと判断したのだろう。2002年に入ると,目標を年商400億円と明確にする。当時,薬品事業は300億円程度で,業界7位の規模にとどまっていた。3年間でいきなり100億円の上積みは到底無理かと思われたが,実は薬品事業は2000年月降,四期連続で売上高営業利益率で家庭用品事業を上回った。つまりライオンのコア事業へと変貌を遂げている。なぜ製薬専門のメーカーが出来ずに,ライオンが可能となるのか。もっとも,既存製薬専業会社とは異なる開発や販売手法が功を奏するということもあり,ライオンとしてもそこを突破口にしたようだ。

 意外と知らない人も多いとは思うが,解熱鎮痛剤でトップシェアを誇る「バファリン」はライオンの商品である。最近になってイブプロフェン配合の鎮痛剤が主流となり,アスピリン配合の鎮痛剤はいずれ廃れていくのかもしれないが,知名度としては抜群。アセトアミノフェンを使った小児用バファリンも常用する家庭も多いのではないか。しかし,バファリンとライオンを結びつけるものが見えない。同様に目薬の「スマイル」もライオンの商品だが,これも会社名と商品名が全く結びついていない。商品力のブランドがあれば会社ブランドは必要ないのかもしれないが,多品種展開するならば会社ブランドを育てる必要もある。特にライオンの場合,家庭用品メーカーという顔が強すぎるため,なおさら医薬品と結びつかないという事情もあるのだろう。ただ,逆に攻勢に打って出るのであれば,余計なイメージを付加しないですむ。さらに競争が激しい家庭用品の発想で商品開発をすれば,製薬事業でも十分にシェアを取っていけるという判断があったのかもしれない。

 当初ライオンでは,事業拡大が軌道に乗るには2年以上はかかるとみていた。しかし,翌年からその効果が現れ始める。ところで下痢止め薬市場では「大幸薬品」の「正露丸」が圧倒的なブランドを持つ。今の大人であれば,幼少の頃は誰もが一度は口にしたことがあるかも知れない。商品数が少ない時代にあって,正露丸は家庭に1個必須の薬であったが,さすがにあの強烈な臭さは薬とはいえ許容できない人も多い。実際,胃腸の調子が悪くて正露丸を飲んだら,臭いが気持ち悪くなって吐いたという人もいる。そのため,攻めやすい市場ともいえるわけだ。ライオンでは,2003年12月に発売した下痢止め薬「ストッパ下痢止め」で早速市場からの支持を得る。開発のコンセプトは「朝の通勤時に駅のトイレはいつも混んでいる」という視点。製薬専業メーカーからはなかなか出てこない発想だろう。なぜ駅のトイレが常に混んでいるかといえば,通勤電車内のストレスによるものだそうだ。そのため発売後は首都圏の駅のトイレに広告を出手法を採る。奇抜ながら分かりやすいネーミングも商品の認知に役立ったのだろう。初年度からいきなり10%以上のシェアを獲得してしまう。2004年7月には外出時の胃痛などを対象にした「ストッパ胃腸薬」を投入したが,ストッパシリーズには目新しい成分が使われているわけではない。マーケティングの力だけで売上を伸ばしたにすぎない。

 2003年になると店頭での本格的な販売促進に入り,それまで卸業者に頼みっぱなしだったことを見直し,営業部門がドラッグストアの訪問を強化する。ここでは家庭用品の売り込みノウハウが役立ったのだろう。その結果,テレビCMの集中放映と製品出荷のタイミングが合うようになり,機会損失が減少したという。ただし,開発体制の問題から新薬を立て続けに投入することはできない。そこで勢いを増すにはM&Aが手っ取り早い。そんな中,業績が低迷していた中外製薬の大衆薬事業が売りに出される。栄養ドリンク剤「グロンサン」「グロモント」は,リポビタンDに次ぐほどの老舗ブランド。中外にも事情があるのだろうが,ライオンにとっては大衆薬事業の厚みをつけるには魅力的だったのだろう。ただ,自社内に組み込んだ後,ライオン効果をどれほど注入できるかは未知数。製薬会社のイメージが希薄なだけに,既存ブランドの活用方法が試されることになる。中外の大衆薬事業買収によって,事業規模約500億円となり当初の中期計画を上回るペースとなっている。次の目標は2006年度に600億円のようだが,それでも業界トップの大正製薬はまだまだ遠い。ライオンが大衆薬をコア事業と位置付けるにはまだまだ物足りないが,低迷する大衆薬市場に喝を入れたことは事実であり,他の製薬メーカーも大いに反省すべきであろう。
2005年
1月19日(水)

【大衆薬事情】
 医師の処方箋なしで購入できる大衆薬(一般用医薬品)は,薬剤師さえいれば店頭で手に入れられる手軽さがいい。利用者にとっては有り難い大衆薬だが,実態としてはそれほど利用されているようには思えない。国内の大衆薬市場は1997年に9000億円近い市場規模となったが,以降縮小し,2003年は7000億円を割り込んだ。所得環境の悪化により,支出を抑制するため,健康保険点数を使って病院で薬を貰う人が多くなったのではないか。また,さらに従来医薬品であったビタミン剤などの栄養補給薬は,自然の健康食品などに主役が取って代わられたことも影響している。そのため各社の大衆薬事業はほとんどが赤字。事業再編も必至と見られているが,切り札とみられていたのがスイッチOTC。医療用医薬品を転用した大衆薬だ。ところが日本医師会などの圧力もあり,思うように普及していない。しかも認可にはコストがかさみ,それ相応のリターンが見込めない開発に腰が引ける会社も多い。ではリスクは開発コストを分散すれば,積極的な製品開発も可能となろう。そこで大正製薬,武田薬品工業,エスエス製薬の大手3社が中心となって,開発提携する動きが始まった。

 異例ともいえる共同開発だが,厚生労働省の苛立ちが背景にあったのではないか。厚労省は,医療費抑制の一環として,2002年に新薬効の大衆薬の開発をメーカーに促す指針を出した。特に病気を未然に防ぐ大衆予防薬の開発を重要視している。ところが各メーカーの動きが遅いため,共同開発を迫ったようだ。今回共同開発の対象となるのは高血圧症,糖尿病,肥満など生活習慣病に関する予防薬など。大正製薬など大手が核となり個々の研究テーマを提案し,参加の意思を示した3〜5社で臨床試験を手がけ,新薬の承認申請に必要な症例データを集める。承認後は各社が自社ブランドで販売する。これにより,一社で数十億円はかかる開発コストを削減できるほか,情報を共有することで,未知の新成分の発見も期待できる。早ければ3年後あたりに共同開発品の第一弾を発売する予定というが,オール・ジャパン体制に頼らざるを得ないというのも,いずれは業界再編のキッカケとなるのかもしれない。

 当日記の昨年11月8日分で,医薬品第二次販売規制緩和について取りあげた。一部大衆薬を医薬部外品へ移行することで,コンビニなどでも購入できる種類が増えた。ただ,コンビニでも従来品を置くだけでは売れない。購入層の所得水準には限界があるため,単価が高い商品は売れないのだ。そのためメーカーでは,サイズを小さくしたり,目立つように梱包を変えたりしている。逆に,開発コストがかかっているのが現状だ。携帯サイズなど使いきりなどはコンビニ的な需要にマッチし,少量による単価割安感を演出することはできる。しかし,メーカーにとって開発費は2倍に膨れ上がる。そのうえ規制緩和後は半値以下になった商品もあるという(笑)。コンビニではほぼ定価だが,ドラッグストアで安売り競争となっているためだ。医薬品専門の卸業者は,コンビニやスーパーなどと取引がない。そこで製薬会社は食品問屋などを利用しているが,この分野では激しい競争が繰り返され,一円単位で流通コストを削減している。医薬部外品と食品とは同じ扱いとなったわけだ。中身は同じでも,仕組みが変われば値段も変わる。規制が必要とはいえ,リスクを負ってでも利益を得たいという願いも聞いてもらいたいものだ。

 大衆薬にとって今や強力なライバルは特定保健用食品(特保)。いずれ詳しく述べようと思うが,相手は製薬会社ではなく,一般の食品メーカーだったりするわけでさらに収益を圧迫している。特保食品には医薬品ほどの効能はないのだが,確実に大衆薬の市場を侵食していることは間違いない。そこで,業界トップである大正製薬の動きが注目される。大正製薬では,一番の問題点はマーケティング力不足であることを認めている。食品メーカーは,消費者の的確なニーズを汲み取って特保商品を開発しており,成分ありきで始まる製薬会社とは視線が全く違う。結果として,従来より存在する栄養剤やビタミン剤などに頼るしかなかった。そこで業界全体での共同開発となったわけだが,消費者が必ず受け入れるという保証はない。ただ,生活習慣病を予防する効能があるとされる「ハーブ薬」などに着目しており,まずは効能の選別から始めなければならないだろう。そして大衆薬はブランド勝負とも言われる。使っている成分は似たり寄ったりの場合もあり,指名されるブランド力を持つことも必要。とにかく,空前の健康ブームの中で縮小している製薬メーカーの大衆薬事業は,お粗末の一言でしかない。業界再編の動きもあるが,食品ベンチャーの買収など,異業種のM&Aによって幅広く展開する方法もあるはず。従来的な発想からまず抜け出すことが重要だろう。
2005年
1月18日(火)

【IHクッキングヒーター】
 拙宅のIHクッキングヒーターがちょっと前から不調。設置して5年以上が経過するが本来ならまだまだ使える期間内。個体差の問題で,不出来だったんだろうねえ。というわけで,今年か来年あたりに買い換える計画を立てている。IHクッキングを取り巻く環境はこの2,3年で大きく変わった。大容量化による熱量の増強や,一般の鍋でも使えたり,煙の発生を抑える機能を強化するなど,進化しつづけている。オール電化住宅の普及と相まって,各メーカーが製品開発に力を入れだしたという背景もあるのだろう。とにかく,拙宅にある機種は金額は高ったが,平凡な機能しか持っておらず,ここで買い換えてもよいなと思っているわけだ。IHの利点は当サイトで何度も書いているが,安全性に尽きる。直接鍋に触れなければ,火傷をする危険がないためだ。唯一気になる点といえばは,電磁波か。IHの原理上,電磁波の影響から逃れられることはできない。人間にどの程度の影響があるのだろうか。北里大学の研究チームでは心臓のペースメーカーが,IH機器から34センチしか離れていないと,誤作動を起こす可能性があるという報告をまとめている。それ以内の距離でもすぐに異常がおきるわけではないが,30センチ程度はなれた作業であれば,特に問題はないということになる。

 IHヒーターは言うまでもなく,コイルから出る磁力線が金属製の鍋を通る時に発生する熱で調理する。その仕組みゆえに,従来は基本的に磁石がくっつく鍋しか使えない制限があった。IHヒーターにするのはいいが,専用の鍋にそっくり買い替える負担を大きいと感じる人も多かった。しかし,松下電器産業の「KZ―SMSW32A」はその問題を解決。市販のフライパンやアルミ片手鍋も使える「オールメタル対応」が特徴で,ステンレス多層鍋や銅製鍋も使える。土鍋など特殊なものを除けば大抵は大丈夫そうだ。銅鍋にこだわる人でも,IHヒーターが使える時代となった。一方,天板サイズのワイド化を売り物とするのが東芝コンシューママーケティングの「BHP―M47WS」。各社は従来,幅60センチのタイプしか作っていなかったが,住宅においてキッチンの役割が大きくなった現在,ワイド化が望まれるようになり,相次いで75センチタイプの商品を投入している。BHP―M47WSも75センチで,コンロとコンロの間隔を33センチと広げ,大きな鍋を二つ並べてゆったり置けるようになっている。家族や来客が多い場合などに活躍することとなろう。

 IHヒーターは天板はほぼ完全な平面であり,吹きこぼれしてもサッと一拭きできるなどメンテナンスお手軽。さらに燃焼による上昇気流が少なく,室内への油煙や飛び散りも抑えられ,壁や換気扇の掃除の手間も少ない。キッチンをよりリビングに近づけた「アイランド・キッチン」が最近の流行。これを可能とするのも煙の回り込みが少ないIHヒーターが普及してきているためだ。メーカーではさらなる「減煙」も追求している。日立ホーム&ライフソリューションの「HTW―4WFS」は「ケムレスロースター」と名づけ,自動車の排気対策にも使われるパラジウム酸化触媒を採用した。低速排気で騒音を抑え,煙とにおいを同時にカット。煙は従来機に比べ約92%減ったそうだ。三菱電機も「パラジウム脱煙システム」を搭載し,パラジウムの触媒反応を活性化させ煙粒子を分解する。これも従来より煙を約90%を減らし,においも分解する。最上位機種「CS―G3204―BDSW」では,75センチタイプとし,さらに直径25センチのピザも焼ける「ワイドグリル」が特徴。従来は難しかった炊飯,パエリアといった米飯メニューに加え,焼きチーズケーキなどお菓子作りもできるようになった。洋食作りに励みたい人には最適な機種となる。

 地味な機能ではあるが,IHは自在な温度調整を得意とする。さらに一定温度を持続する機能もあるため,天ぷらなど揚げ物調理を素人でもしやすい。ただし高温の状態を一定に維持するのは難しい。三洋電機の「JIC―B531GR」は高温度調整に着目し,200グラム程度の少量の油でも揚げ物ができるようにした。これにより冷凍食品も上手に揚がり,朝のお弁当づくりなどで威力を発揮しそうだ。ところでIHヒーターは今まで上記メーカーなどの寡占状態だった。市場規模がまだ小さいし,買い替え需要が少ないため,それほどうまみのある市場ではないためだ。ところがシャープが同市場に本格参入してきた。従来は三洋電機からOEM供給を受けていたが,に自社生産体制を整えた。シャープの「KH―BA75S―S」も高温でも的確な温度調整ができるのがポイント。特殊なセンサーを使い250〜300度といった高温時の火加減制御の精度を高めている。各社とも得意な機能を競っているが,選ぶほうはかなり迷いそう(苦笑)。今年もまた新しい機種が登場するかもしれないが,じっくり選ぶ必要がありそうだ。
2005年
1月17日(月)

【ヘルシオ】
 一時は成熟商品と呼ばれた白物家電だが,技術の進歩に停滞はなく,省電力化や高機能化という進化を続けている。そんな中で,オーブンや洗濯機,ドライヤーなどスチームを活用した家電が増えている。特に注目を浴びているのがシャープのオーブンレンジ「ヘルシオ」。“電子”オーブンではない。摂氏300度という高温の気体(スチーム)を食材に噴射して調理する機器だ。電磁波が発生しないという恩恵だけではなく,調理によって余分な脂や塩分を流し落とすことができるという付加価値がある。昨年秋に発売され,価格は10万円前後と高額だが,根強い人気を持っている。技術的にはそれほど目新しいものではない。洗濯乾燥機でもスチームが利用されている。ところで,洗濯中にスチームを吹き付けると,衣類に残る皮脂のたんぱく質などが分解される。つまり,汚れが落ちやすくなるわけだ。ヘルシオの原理もそれを流用したものと考えれば分かりやすいが,オーブンレンジへ転用したところが素晴らしい。

 一般の電子レンジはマグネトロンと呼ぶ真空管の一種で加温する。ヘルシオはスチームを使うことで,余分な脂分や塩分が食材から表出して流し落とせるほか,通常の水蒸気より高温のため,から揚げなどは皮をカリッと揚げられるという。しかし,水蒸気を使うことで食材が湿ってしまうのではなど誤解も呼びやすい。そこで,理論よりも実演や具体的な食材を例に出して説明する方が優先されている。ターゲットは健康志向の家庭と明確なため,世代別にヘルシオの特徴を理解してもらうセールスマニュアルを作成し,店頭実演もこれまで約1000店舗で実施。ヘルシオで作れる料理レパートリーの研究とその普及に向け,50人ほどの専門担当員を全国に配置。主婦の視点を重視するため,担当員はすべて女性だという。今後は,季節ごとの料理も作れることをPOPなどで訴求していくようで,幅広い使用方法を提案できればまだまだ普及していくことになるだろう。

 減脂・減塩を売り文句にしているヘルシオだが,開発当初は食品の酸化やビタミンCの減少を抑える低酸素調理がテーマだったようだ。水蒸気が庫内の酸素を追い出すため,食品の劣化が抑えられる点に着目。ところで新技術の実証試験が終わり,商品化される段階になれば技術部に開発が移る。しかしヘルシオではソフト開発の問題に突き当たる。シャープの場合,電子レンジのノウハウは豊富だが,スチーム式は初めて。そして,最適な仕上がりになる調理温度や時間を組み合わせたソフトを一からつくる必要があったのだ。試作機では,中までは熱が通っているものの,表面に焦げ色が付かないなど従来のソフトでは対応できないものだった。そして,開発担当と技術部は調理やデータ収集の日々を続ける。その過程で,脂や塩分が減ることに気づいたという。当初,製品名はウォーターオーブンということで「水」をイメージした名前で固まりかけていたが,「健康」を強調する案に発売直前になって変更したそうだ。

 デザインはAV機器をイメージしたものとなっており,従来の白物家電は趣が違う。もっとも,電磁波の漏れを防ぐ必要がないため,窓部に網目状の加工が不要となったことから可能になった。庫内が明るく見やすいため,安心感も出てくる。このようにヘルシオは従来のオーブンレンジとは別物としてもよいほどの存在感がある。そして,シャープは年内にもヘルシオを米国で発売する。肥満が社会問題化している米国では一段と需要が見込めると判断したようだ。ただ米国では,大きな七面鳥などを焼く需要に対応する必要があるため,高温蒸気の噴射装置の出力を高め,製品も大型化するようだ。シャープとしてみればヘルシオを足がかりに,冷蔵庫や調理器具など「メジャーアプライアンス」と呼ぶ高付加価値の大型白物家電や太陽電池を米国で販売する考え。また液晶テレビなども含め,シャープ・ブランドの浸透を図っていくのだろう。ただ,ヘルシオの仕組みは分かりづらいところもある。米国人が受け入れるためには,よほどうまい説明がないと難しいのではないか。
2005年
1月16日(日)

【広島新球場(下)】
 地域活性化の期待から各地でJR駅前再開発事業が進められているが,土地があるから何かに活用しようという単純な発想も多い。本当に何が必要で,投資した分のリターンがあるのか厳密な計算が本来は必要。しかし,採算性を横において夢ばかり語る再開発が多いため,頓挫する場合も多い。昔なら銀行も企業も自治体と一体となって事業を進めることが多かったが,民間のほうはバブル崩壊後,事業選別にはシビア。しかも外資系ともなればよりリターンにこだわるわけであり,中途半端な事業参加など考えられない。広島市ではサイモン・プロパティ・グループなどの企業連合「チーム・エンティアム」を批判したが,その場所に新球場を建設することによって,広島市民どのようなメリット・デメリットがあるのか十分な議論をしていたのだろうか。カネさえ出してもらえばいいなどという安易な発想で事業が計画が進んでいたとしたら論外。東北楽天ゴールデンイーグルスは老朽化が激しい本拠地・宮城球場について「改修」という手段を選んだ。投資額は約40億円。単なる老朽化対策というのなら,修繕工事で対応することも1つの選択肢ではないのか。

 エンティアム撤退で萎みかけた広島新球場計画だが,昨年のプロ野球危機を目の辺りにして,地元政財界が団結を始めた。そして国内初の本格的な「球場証券化」が実現する可能性が出てきた。中断した建設論議に弾みが付いたのは昨年11月,広島商工会議所の新会頭に宇田誠・広島銀行会長が就任したことが始まりとされる。副会頭には中国電力やマツダといった地元有力企業のトップが就任し,まさに「オール広島」で推進する体制が整った。カープを含む官民合同の「新球場建設促進会議」も発足し,今年3月をメドに建設案の大枠を固めるという。そして,最大の懸案のである資金調達の方法として,証券化が重要なキーワードとなっている。もっとも証券化については苦肉の策といった側面が強い。広島東洋カープの場合,あくまで市民のための,市民による球団のためにメインスポンサーとなる有力企業が存在しない。そのため楽天のような機動的な経営判断ができない。カープ球団に約30%出資しているマツダも,口は出さないが,カネも出さないという姿勢を維持している。現球場を管理しているのは広島市だが,現在「財政非常事態」を宣言中。新球場建設のための資金供与など不可能な状態。

 そもそも,キャッシュフローの裏づけがあれば何でも証券化できるわけで,米国では野球やアメリカンフットボールの「スタジアムボンド」が定着している。広島で検討されているのは現在地に建て替える案で,投資総額は200億円弱。この資金は新設する特定目的会社(SPC)への出資金や債券発行で賄う。毎年の返済原資はカープが広島市に支払っている年間使用料5億〜6億円に加え,球場の命名権など数億円分が想定されている。しかし証券化のスキームが成立するのはあくまでキャッシュフローの実入りが前提。ところが,今後観客を安定して呼び込めるかの保証はなにもない。実際,地元経済界では,カープへの直接的な資本注入も避けられないという見方がでてきている。信用力を高めるにもSPCへの出資比率を高めるしかない。そのため,広島市としても相当な税金の投入が欠かせない。地元では建設を後押しする募金活動も始まった。現球場を建設するキッカケとなった樽募金だ。市民自身が新しい球場でカープの野球を見たいという願望が大きくならないかぎり,新球場建設の実現性は遠い。

 官民合同の新球場建設促進会議は会合を重ねている。しかし,行政側と経済界側で建設費の負担を巡って鞘当てすることが多いようだ。市にはSPCが第三セクターとなり,資金確保や運営面で責任が大きくなることを敬遠する空気が強い。一方,体力の弱っている経済界が主体になるのは厳しい。負担方法が新球場問題を決するわけで,避けては通れないところ。そして議論を深めていくと,資金調達方法は相当厳しくなることが判明。建設の主体として想定するSPCは約200億円弱のうち,90%近くの出資が必要。新球場は収益力が低いため,有利子負債を抑制する必要があるためだ。出資側では永久に無配となる可能性も高く,事実上の寄付金となってしまう可能性が高い。それだけに出資金額には腰が引ける企業が多くなるとみられ,必要な分の出資を集められるかも不透明だ。そもそも借入金返済の原資さえ生み出せるかどうかも分からないという。将来,金利上昇局面となれば,一気に収支が悪化することも予想され,銀行側もどこまで融資するかも難しいところだろう。市民運営手法の限界なのか,それとも団結して運営を維持できるかの分岐点にきている。
2005年
1月15日(土)

【広島新球場(上)】
 昨年はプロ野球界が大いに揺れたが,球団がフランチャイズとする球場運営会社にも荒波が打ち寄せていた。まず,ダイエーの再建問題絡みで,いわゆる福岡三事業の1つである福岡ドームが,運営会社からコロニーへ売却された。年末にはソフトバンクへ興行権が売却されるなど,外側から見えにくいが,当事者にとっては戸惑うことが多かったのではないか。一方,第三セクター方式の大阪ドームは事実上経営破綻。今年は近鉄とオリックスの合併により,フランチャイズを神戸球場と分け合うため開催数が半減。収益がさらに苦しくなる。神戸球場といえばヤフーBB球場から名称を変更。これはソフトバンクがダイエー球団を買収して,福岡ドームに拠点を置くための措置。神戸グリーンピア球場に戻さなかったというのは,オリックスへの鞘当てなのか。球場運営が苦しいのは巨人戦を抱える東京ドームも一緒。最近ではようやく格安で閑散時間帯に貸し出すなど,収益アップに知恵を絞るなど,ハコモノ事業運営にようやくメスが入ったような感じだ。そのような状況で,広島東洋カープの本拠地,広島市民球場が老朽化という問題に直面している。

 話は2002年にさかのぼる。広島市では都市再開発問題で,JR広島駅東側の貨物ヤード跡地の利用について検討を重ねていた。広島市では市土地開発公社が1998年に同用地を取得。この活用に迫られていた。そして,ここに新球場を建設しようという構想が持ち上がっていた。そんな中,広島市の要請に応じて,米国商業デベロッパー「サイモン・プロパティ・グループ」を中核とした「チーム・エンティアム」,五洋建設が主導する「ピースフラワー」,NKK,三菱重工業を代表とする民間4グループの事業提案が持ち上がる。その中で,屋根のないオープン球場と付帯商業施設を運営するエンティアム計画を軸に事業化が検討されていた。参加する企業はサイモンのほか,電通,鹿島といった顔ぶれ。広島市では当時,エンティアムに対する期待感は相当に高かった。ただ,「屋根無し」に対する懸念もあった。エンティアム以外の3グループはいずれもドーム球場を計画。さらに五洋建設,三菱重工の2グループは広島カープの意向に沿う天然芝を提案しており,野球事情に詳しい人の間ではエンティアム案はあまり人気がなかったのだ。

 エンティアムとしてはドーム球場は,「採算性がない」という実に分かりやすい論理で切り捨てた。広島市自体も財政は苦しい。そのような環境でドーム球場はやはり非現実的であったともいえる。当時エンティアムが想定していた総事業費は約400億円。ドーム球場を作れる予算だ。これに大規模専門店街やスパ,シネコンなどを併設し,野球がない日でも集客できる施設を目指していたわけで,集客力という点でもかなりの説得力を持っていたのは事実だ。それでも地元経済界の意に沿う五洋グループの「ピースフラワー」の計画も対抗馬として残っていた。キリンビール広島工場跡地開発などオーバーストアを避けるため,ホテルや定期借地権付きマンションなどで物販・飲食テナントの営業面積を抑制し,バランスの良い市街地計画を反映させたためだ。しかし,資金調達に不安があったのが最大の弱み。その時点ではスポンサー探しも不透明であり,広島市としては事業の実現性からみて不安があったに違いない。そこでエンティアム中心に広島新球場の建設が動き始めたかに見えたのだが,事態は思わぬ方向へと進むのである。

 2003年12月1日の記者会見で,広島市の秋葉忠利市長は「我々は裏切られた」と声を荒げた。チーム・エンティアムが同日,貨物ヤード跡地の再開発事業から撤退すると決めたためだ。エンティアム企業連合の中心メンバーであるサイモンは,同年5月,大阪市と信用保証条件が折り合わず,同市阿倍野地区再開発から撤退していた。日本での事業の採算性を再度見直した結果,広島への進出はありえないという方針を固めたとされる。広島市の土地開発公社が取得した土地は一等地。11ヘクタールに及ぶ広大な「更地」は,税金の無駄にもほどがある。市民の間には「市は外資に振り回された」と同情する意見もあったようだが,企業に全てを任せ,広島市自身で事業を本格的に推進しようとしなかった無責任な側面も指摘されていた。市民から徴収したお金をどのように使っていくのか。そんな明快な役割を果たせなかったお役所だったということに過ぎない。エンティアム撤退の後,貨物ヤード跡地は「駐車場」として利用されているようである(笑)。
2005年
1月14日(金)

【交通事故事情】
 警察庁のまとめによれば,昨年1年間の交通事故死者は,前年より344人(4.5%)減の7358人で,1956年以来48年ぶりに7500人を下回った。2001年から4年連続で減少しており,03年に続いて7000人台で,この傾向は続きそうな気配だ。背景には道路交通法の改正を繰り返し,死亡事故や重大事故を引き起こさないような施策を続けられていることが大きな要因だろう。実際,飲酒運転や速度違反による死亡事故が着実に減少している。しかし死者数ゼロは達成できない。1つは歩行者側の無謀さが後を絶たないことだ。特に高齢者絡みの事故は全く減っていない。一段と死者数を減らすには,高齢者対策は欠かせない。しかし,相手が相手だけに効果的な策が講じられないというのが実態だが(苦笑)。また,都道府県別では13年連続で北海道が1位。人口比でいえば東京がトップになるのが順当だが,逆にベスト3にすら入らない。まあ,車のスピードが違うので当然なのかもしれないが,気になるのは交通事故の発生件数と負傷者数は過去最悪だった03年をさらに上回ったこと。特に負傷者数は6年連続で100万人を超えている。つまり,交通マナーが向上しているわけではなく,法令によって重大事故を押さえ込んでいるにすぎない。根本的な解決方法とはいえず,交通戦争の戦いは依然として続いているのである。

 法令の縛りはまだまだ厳しくなる一方。ただ,一般ドライバーが窮屈になるものだけではない。先の道路交通法改正により,警察官が暴走行為を確認した時点でただちに摘発が可能となった。今後は「積極摘発」によって暴走族などをきっちりと取り締まってもらいたいもの。もっとも毎年恒例の山梨県河口湖周辺などの暴走行為は今年に限ってはかなり減ったようだ。取締りが厳しくなったからではない。大晦日に関東地方で珍しく降雪があったため。さすがに族連中も雪には勝てなかったというわけだ(苦笑)。一方,今年の6月に施行される改正道路交通法では,駐車違反をした者が交通反則金を支払わない場合に駐車車両の所有者が支払う「放置違反金」が課せられる。普通自動車の場合,違反金は1万円〜1万8千円。今回の改正では,「所有者責任」が明確となったことが特徴。そのため納付責任は車の所有者となる。さらに駐車違反関連では,駐車違反取り締まりを民間委託できるようになる。そのためカネに余裕のある都道府県によっては積極的な取締りが期待されている。以前,当サイトでも書いたが駐車違反は犯罪の温床。粘り強く取り締まることで,一般の犯罪の減少も期待したいところだ。

 大事故の発生原因としては,ちょっとした自動車の故障による場合がある。停車しているところへ,スピードを出していた車が追突し,さらに玉突きになるようなケースだ。勿論,追突した車が悪いということにもなるが,原因の一旦でも作ることはやはり罪といえるだろう。ちょっと衝撃的な事実だが,国土交通省と自動車点検整備推進協議会が共同で実施した車の点検・整備に関する意識調査によれば,日ごろ自分では車の点検を全くしない人が約3割にのぼるという。法律が義務付けている「一年点検」も,「必ず実施している」人は半分にも満たないというのだ。特に日常点検について,女性が全くしていない。さらに29歳以下の若年層も半数近くが行っていない。驚くべきことに,点車検時の点検整備である「二年点検」については8割弱が「必ず実施」と回答しているものの,6%の人は全く実施していないと答えているという。つまり無車検で車を走らせているというわけだ。勿論,自分自身で点検できる人であれば無車検も結構だろう。業者がやれば安全というわけでもないからだ。実際,空車検を繰り返していたディーラーなども存在する。しかし,無点検で車を走らすのは,包丁を振り回すことと同じ行為。車は凶器であることをしっかり認識する必要がある。

 地方の小中学校などでは,遠距離の学童に対して自転車通学を認めている。そして彼らは,通学時において必ずヘルメットを着用する。自転車として軽車両だから,車両の一種。バイクとの違いが原動機があるかないかだけ。下り坂なら相当なスピードが出るため危険だ。ところで,学童らはヘルメットを着用させられるのに,なぜ一般人はヘルメットを着用しないのか。法令で義務付けられていないこともあるが,格好が悪いというのが最も大きな原因か。そして,一番危ないのが母親の後ろに乗せている子供だろう。自転車同乗中の子供の死傷者は年間2000人以上にのぼっている。しかも半数が頭部の怪我だ。いわゆるママチャリが転倒した際,一番頭部の負傷から守るには,やはりヘルメットが必要になるはず。昨年5月にはようやくこの問題が国会で取り上げられるなど,子供のヘルメット着用の機運は盛り上がりつつある。こうした流れを受け,自転車産業振興協会はヘルメット着用を勧めるチラシ約150万枚を作製。自転車の補助椅子メーカーに依頼し,椅子販売時に製品に入れてもらっているほか,自転車販売店にも配布した。一方,東京都は今年4月,都内の全幼稚園・保育園約3000園にポスターなどを配布するほか,ヘルメット2000個を一部の園に提供するという。ただ,大人がまずは着用すべきか。そのためにはお洒落なヘルメットの開発が望まれることとなろう。
2005年
1月13日(木)

【インド洋大津波(下)】
 12月26日にスマトラ島沖が大きく揺れたしばらく後,「イラク戦争の影」がインド洋を覆ったとされる。発生直後はこれほどの被害が及んでいるとは誰一人として思わなかったのではないか。太平洋にしか存在しない津波早期警報システムは全く意味をなさず,衛星画像が公開されたのも随分後の話だ。しかし,2,3日が経過するとかなり深刻なのではないかと各国が考え始める。特に地元よりもプーケットなどのリゾート地へ旅行していた外国人の死者が増えるにつれ,欧米各国が騒ぎ出した。最初は静観していた米国がようやく動きを見せたのが12月29日。米国海軍第七艦隊から原子力空母「エイブラハム・リンカーン」(乗務員5600人)を中心として艦船12隻を編成。ブッシュ大統領の命令によって,緊張の走る海峡の横を通り,南シナ海を一気に南下してマラッカ海峡へ到達。被災地での救援活動に当たらせたが,まさに有事の軍事行動とも受け取られてもおかしくはない。しかし,あくまで「人道支援」であり,イスラム教徒が多いインドネシアとしても米国の行動に遺憾の意を示すことなどできない。米国の狙いは,いち早く復興支援を打ち出した中国をけん制する狙いも込められていたとされる。そして,これをキッカケとして,国際舞台では奇妙なパワーゲームが開始されることになるのであった。

 海軍による救援部隊の編成と同時に,ブッシュは米国,日本,オーストラリア,インドの四カ国で救済活動の「地域コア(中核)グループ」を組む構想も表明した。東アジアでの「有志連合」の結成ともとれ、イラク戦争での米国の外交姿勢を想起させる動きだ。日本の海上自衛隊も米国艦隊と歩調を合わせるかのように,29日にタイ沖へ艦船を派遣し,被災者の捜索活動に入った。イラク戦争の影とはまさに「有志連合」結成のことである。イラク戦争の際も,米国を中心として英国,日本,オーストラリアなどが「仲良し連合」を組織し,国連中心の枠組みから外れた行動を取る。これに対してフランスやドイツなどが猛反発し,もはや西側といった概念は崩れ去ってしまった。今回のコアグループ結成の動きについては,EU全体が反発。フランスのシラク仏大統領は「支援は国連主導で進めるべきだ」と主張して,ブッシュを中心とした仲良し連合に釘を指す。さらに中国はもっとおもしろくなかったはずだ。中国は津波発生の直後に約3億円の援助を決めていたが,米国などの動きをみて,31日には急遽約62億円の援助追加を発表した。米国だけではなく,日本の動きにも神経を尖らせていたはずだ。インド洋大津波はアジア全体の問題。日中関係の不調和が続いているが,関係打開においても中国は主導権を握りたいはず。くだらないことだが,アジアでの覇権意識がパワーゲームを一気に推し進めることとなった。

 国際舞台において,軍事力とマネーがモノを言うのは当然。イラク戦争では軍事力だったが,インド洋大津波ではカネが主役。支援金について他国の動向を見ながらどんどん吊り上げている。ここ数日の間でも,日本では谷垣禎一財務相が,約40億円の追加支援を表明。英国のブレア首相も50億円近い義援金を追加することを発表,カナダのマーチン首相も約360億円増額すると発表した。先に行われたジャカルタの緊急首脳会議では,合計50億ドルの国際支援策がまとまったが,その後も支援金の積み増し競争は続いている。日本では500億円の無償資金供与などを決めたが,ドイツや豪州がそれを上回る支援額を打ち出している。この動きについて,国連のアナン事務総長は「これは美人コンテストではない」と各国の支援競争に懸念を示したほどだ。国連でも支援金がまだ足りないことは十分認識しているが,パワーゲームの一環で資金提供をしてもらっても,救援金の意味が薄れるという判断だろう。もっとも政治を知る人間にとってみれば,単なる善意だけとは受け取っていない。中国が経済成長を続けているが,いずれはインドが中国を追い抜く可能性が高い。インド洋周辺国は今後30年を見据えれば爆発的な市場規模の拡大が予想される。その国々に今のうちから恩を売っておくのが得策という判断があってもおかしくはないのだ。イラクの場合は石油権益といった分かり易い構図だったが,インド洋津波の場合はさらなる深謀が隠されている。

 政治とは無関係に,個人レベルで救援金を送る人もいる。スティーブン・スピルバーグ,レオナルド・デュカプリオ,ペ・ヨンジュン,松井秀喜など有名人が続々を支援金を送ったようだが,とりわけミハエル・シューマッハーの10億円という金額の多さに驚いた人もいることだろう。事情はよく分からないが,シューマッハーの場合,知人がプーケット島で亡くなったことからこのような額にしたとのこと。ところで,単なるゴシップ記事で終わりそうなネタに痛く刺激されたのがサウジアラビア国内。昨年,サウジを始めとする産油国は未曾有の原油高によって過去最高の歳入を記録。つまり,世界的に一番潤っている国でありながら,インド洋津波に対するし遠近は当初10億円にとどまっていた。ところが全く同じ額をシューマッハーは個人で拠出するという。しかも,サウジの人たちが反応したのは,宗教的な問題からであった。今回の津波では,インドネシアを始めとして,イスラム教徒の人たちが多くの被害にあった。それなのに,非イスラム教徒であるシューマッハーが産油国の代表国であるサウジと同じ額というのはあまりに恥ずかしいという声が噴出してきたのだ。その後,ファハド国王や民間企業,あるいはテレビ放送で呼びかけた個人からの寄付金などが集まり,サウジも20億円の支援金増額を決定。宗教が絡んだマネーゲームが始まるとは意外なことであったが,これもおかしな話。政治や宗教などにかかわらず,自分たちでできる範囲の支援をすればよいことだ。ところで今回の津波被災地では,イスラム教徒とキリスト教徒が合同で葬儀を行われたところもあった。死とは人間共通の運命。政治や宗教など死んでしまえば関係ない。そのような壁を取り払われる可能性として,合同葬儀のシーンは強く印象に残った。
2005年
1月12日(水)

【インド洋大津波(上)】
 20万人以上の人命を奪ったスマトラ島沖地震とそれに伴って発生したインド洋大津波。国連のアナン事務総長は「これほど完全な破壊が何マイルも続くのを見たことがない。人々はどこに行ったのか」と語るほどの悲惨な状況だったようだ。もっとも世界の誰もが知っているニュースだし,あえて当サイトで取り上げるまでもない。そこで,テレビなどの取り上げ方とはちょっと違う側面から捉えてみたい。インド洋周辺の各国へ被害をもたらした今回の大津波だが,特にタイのプーケット島での被害が大きく取り上げられている。プーケット島は世界的なリゾート地であり,ヨーロッパの人々が多く訪れることでも知られている。ワイハなどへ行き飽きた日本人の間でも近年,注目されていたスポットでもある。そのため,プーケットの被害者は地元タイ人以外が多く犠牲となったが,結果として世界のメディアはこの地域を一番注目することになってしまった。しかし,地元の人たちからしてみれば被害は被害として,生きるためには復興が必要。「生きる」現実と直面している。

 日本人は良い意味でも悪い意味でも慎重。そのため,しばらくはプーケットへリゾートへ行こうなどと思う人はしばらく出てこないのではないか。ところが,ヨーロッパの人々はテロなどに対して慣れているせいか,リスクに対して強い耐性を持っている。プーケットのホテルでは,2月のもう予約はほぼ満室となっているようだ。顧客の中心は当然,欧州系の人々。彼らの多くは元々1月に予約していたが,日程を2月に延期して再予約しているという。旅行会社からキャンセルを促されたものの,断って予約を入れなおした人もいるようだ。「テロには屈しない」という強靭な精神は,災害にも負けないという気持ちへとつながっていると説明されている。もっともテレビでは被害が酷い場所の映像しか放映されていないが,実際は無傷の場所も多いという。とはいえ,元々貧しい地域ともされる。そして,津波被害は貧困層の人々の生活に大きな打撃を与えている。

 プーケットで唯一の産業ともいってよいリゾートだが,施設が壊滅した地域では,生存者たちは「失業」という問題に直面している。木陰では何もやることがなく,ただ砂浜を眺めるだけの地元の人々が目立つという。彼らの大半は,ビーチパラソルやベッドの貸出業者やマッサージ師ら。施設もない,モノもない,人もいないでは稼ぐ方法がなにもない。そもそもタイの地元行政当局は大津波直後から,砂浜での商業行為を全面的に禁じている。まずは乱れた景観を元に戻すことが先決のようだ。リゾート地としてのイメージを大切にしたいのだろうか。また勝手に商売を始めて,資金が不法組織に流れるのを防ぐ狙いもあるようだ。プーケットでは12月から4月が一番旅行客が多い。北半球に住む人間にとっては,寒い時期に暖かいプーケットを訪れるためだ。ところがちょうど一番儲かる時期に津波がやってきたため,今年の生活はかなり苦しくなるとみられる。

 とはいっても,生きていくためには何かをしなければならない。就労人口の7割以上を観光関連産業の従事者が占めるといわれるプーケットだが,やはり観光収入に活路を見出すのは一番分かりやすい。そして,島で最も賑わうとされるパトンビーチの繁華街にあるレコード店では,なんとCD―ROM版の大津波写真集「TSUNAMI PHOTOGRAPH」の販売を始めたそうだ。内容は,津波の直後に逃げまどう人々などの生々しい画像約350枚を収録したもの。そして現在,欧米からの観光客らを中心に,一日15枚程度を売り上げるヒット商品になっているという。販売店側では,津波の恐ろしさを知って欲しいために企画したと説明しているが,商売目的に利用することに遺族などから不快感を示す人も多い。実際,ある土産物店でも津波の写真を販売していたが,見回りにきた地元の警察に注意されて撤去したそうだ。ただ,販売側からすれば観光収入が大きく落ち込む中で,あまり奇麗事ばかりも言っていられないというのが本音なのだろう。「同情するならカネをくれ」と叫びたいのは彼らなのだろう。
2005年
1月11日(火)

【2005年は愛知県(下)】
 日本国際博覧会(愛知万博)の波及効果はまだまだある。東急不動産などが15年間の契約で運営するシネコンなどの複合商業施設「ラ・バーモささしま」がオープンする。国鉄清算事業団が管理した貨物駅跡地は,長年塩漬けとされてきた。旧国鉄の財産処分が始まったころ,バブルが頂点に達する。しかし,土地の高騰に火をつけるとして処分が見送っているうちに,今度はバブルが崩壊し,逆に買い手がつかないという事態が続いていたのだ。しかし,愛知万博をキッカケとしてようやく土地利用がメドが立った。大規模の土地利用としてはお決まりのショッピング・センターやシネコンとはいえ,不動産に流動性が出てくることは経済の活性化の象徴ともいえる。万博関連ではまだまだいろいろな施設がある。徳川美術館の隣に昨年11月に開業した「徳川園」は,名古屋市が44億円をかけて,美術館に隣接した野球グラウンドなどを大名庭園に変えた。日本の自然景観を再現した池泉回遊式の日本庭園に仕立て上げたのだ。中でも園内の「ガーデンレストラン徳川園」が人気を集めている。運営はカフェバーなどを手掛ける外食企業「ゼットン」が受託。庭園を眺めながら,瀬戸焼の器を使ったフランス料理を堪能できるという。日本の伝統的な様式美を取り入れながらも,様式の料理を取り入れるという趣で,店内約100席は常に満席という状態のようだ。

 現代的施設とは別に,史跡である名古屋城も「新世紀・名古屋城博」を開催して集客を図る。3月19日から始まるイベントでは,シンボルである金のしゃちほこを地上に下ろし,間近で眺められるようにするという。それほど関心を呼ぶわけでもなさそうだが,マスコミは食いつきやすいネタといえるか。ところで「名古屋城」は有名だが,「名古屋嬢」という言葉が最近聞かれるようになった。高級ブランドのバッグを身につけ,ハイセンスの洋服を着こなし,巻き髪のお嬢様風ファッションの女性のことを「名古屋嬢」と呼ぶ。実際,名古屋市にはそのような女性が多く存在するとされる。よく考えてみれば,中古ブランド品の百貨店「コメ兵」は名古屋が発祥の地。名古屋の女性は,安くて良いものを買う選別眼をもともと持っていたのだろう。コメ兵は東京進出を果たしたことで,名古屋の優位性は薄くなったが,所得が豊かでセンスを持ち合わせる女性がいることに,実はファッション業界がこれまであまり重視してこなった。しかし,いまや愛知県を狙い始め,名古屋中心部の栄地区の大津通には海外ブランドの進出が相次いでいるのだ。

 名古屋嬢たちは親と同居するいわゆる“パラサイト・シングル”が多い。自由になるお金も持つため,可処分所得をファッションなど趣味の分野に心置きなく振り分ける。そう睨んだルイ・ヴィトンやプラダ,GAP,ティファニーなどが名古屋に進出している。昨年4月にはスペインの「ZARA」が路面店を出し,今春には米国「コーチ」も東海地区では初めての大型路面店を開業する。名古屋嬢は確かに,ルイ・ヴィトンなど有名ブランドのバッグを必ず持っているとされる。ブランド品だけではなく,人目を引くファッションや派手めのメークも特徴とされる。そして名古屋嬢たちに昨年から人気が出始めたブランドが「アプワイザー・リッシェ」。「プチセレブ」と呼ばれ,フェイクファーで豪華に見せながらも,比較的値段が安いというところが,しっかり者の名古屋嬢の心をつかんだのかもしれない。実際,高価なバッグは持っているものの,ニットの服などは1万円程度に抑制しているそうだ。また,トートバッグやキャリーバッグの中には安物の化粧品が入っているということもあるらしい。その意味で,有名ブランド店がこぞって名古屋へ進出しても成功するとは限らない。名古屋嬢の厳しい眼を洗礼を受けることになる。

 名古屋嬢は5年ほど前に名古屋で「神戸エレガンス」と呼ばれるファッションに火がついたのが発祥とされる。その後,名古屋嬢は独特の髪形“名古屋巻き”などで全国に踊り出た。ところで名古屋嬢はなにも表面的に着飾っているわけではなく,内面的な向上も図っている。女性向けのマナー講座「名古屋嬢パック」なるものが登場している。この講座では立ち居振る舞い,敬語の使い方,テーブルマナーなどの習得に重点を置いており,ファッションだけでなく,年相応のマナーや知識も身に付けたいというニーズに応じている。万博・空港の二大プロジェクトで今年は国内外から大勢の旅行客らが訪れる。「名古屋嬢パック」には,万博パビリオンのアテンダントなども個人的に参加しているようで,マナーや内面に磨きをかけて「もてなし」の心を持とうする機運も高まってきたようだ。外見だけで満足しないその貪欲さが,愛知県の元気を生み出す源なのかもしれない。
2005年
1月10日(月)

【2005年は愛知県(上)】
 今年の前半は愛知県が話題の中心となることが多くなるはず。まず,2月17日に愛知県常滑市沖に中部国際空港が開港する。関西空港の業績が不調の中で,また1つ国際空港を作って成功するのかという懸念もあるのだが,トヨタ流のコスト削減策を導入するなど,従来のお役所的な空港作りとは異なる点もある。さらにテナントの誘致も独特なものがあり,空港が「飛行機に乗る」場所から,「空間を楽しむ」場所へと変わる可能性もある。そのため,開港後の動向については注視していきたいとも思っている。そして,3月25日には瀬戸市などを会場とした日本国際博覧会(愛知万博)が開幕する。今回の万博は日本の技術を世界に見せしめるだけの意味ではない。小泉純一郎は「愛知万博の開催で,今年は観光振興の大事な年になると思う」と発言。“観光立国”を掲げる小泉にとって,愛知万博は大きな目玉と捉えている。世界各国の人も,今まではあまり観光スポットして知名度のなかった「アイチケン」や「ナゴヤ」を認知する機会となるのだろう。

 ところで中部新空港と愛知万博の二大プロジェクトのみに関心が向いているが,実は愛知県下ではそれ以外にも魅力的な見所が多いという。特に愛知万博の開催期間中,万博の本会場以上に込み合うと予想されているのが「ポケモン・ザ・パーク2005」(通称ポケパーク)。その名のとおり,ポケットモンスターを題材にした遊園地だ。名古屋駅近くにできる万博の「ささしまサテライト会場」で3月18日から9月25日まで開かれる。会場の広さは12万平方メートルと万博本会場の1/10以下だが,会期中の来場者数はなんと300万人を見込んでいる。単純なキャラクター遊園地ではない。ポケモンはゲーム,アニメ,映画など様々なメディア展開がなされている。しかしそれらのメディアはバラバラの状態。ポケパークではそれらのすべてを結びつけた世界を作ったとされる。

 ポケパークに設置されるアトラクションの詳細はまだ明らかになっていないが,観覧車内で出されたクイズにゲーム機の通信機能を使って解答したり,ICタグを利用した会場内の宝探しなど,子供が自然に情報通信技術を利用することを目的とした万博らしい先進性を盛り込むというのだ。テーマパークとしては最強の設備を投入してくるわけ。ただ,これで東京ディズニーリゾートのように入園料が5000円以上するようであれば,利用者もやや腰が引けるところ。しかし驚くことに入場は無料だという。もっとも「ポケモン大観覧車」「バトルコースター裂空」などは有料アトラクション。しかし有料施設でも先端の技術を投入してきている。飲食施設などを含め料金の支払いには電子マネーの「エディ」を利用できるのだ。インフラの先進性だけではなく,物販店ではアニメの中で悪役として登場するロケット団が資金稼ぎに運営する設定だったり,ゲームに出てくる飲み物を提供するなど,全施設にストーリー性を持たせている。これは万博パビリオンよりもずっと面白いのではないか(苦笑)。

 ポケパーク事業は,イベント会社などで作る「ポケパークプロジェクト」が主催し,NTTドコモなど幅広い企業がスポンサーとして参加している。JTBは期間中,万博本会場との間などを結ぶ車体にイラストを描いた「ポケバス」を同社のツアー参加者向けに運行するなど,タイアップ効果を十分に活用する。とりわけ,ファミリー層を開拓する意味は大きいのだろう。愛知万博単体ではどうしても大人中心の施設となってしまう。ここにポケパークをブッキングすることで,ツアーのファミリー性が強調されてくるというわけだ。万博がつまらなかったという子供を納得させる切り札として,ポケパークが使えそうだ。サテライト会場にはポケモン以外にも,大型ディスコや手塚治虫のコスモゾーンシアターなど合わせて10の期間限定施設が開設されるということで,さらにファミリー相乗効果は高まる。全国のテーマパークは,愛知万博に客を取られ,今年の夏も苦戦するのではないだろうか。
2005年
1月8日(土)

【なぜか突然,PSPが欲しくなる】
 一昨日のことだが,任天堂の株価が続落した。もっとも株価水準がすでにボックス圏の上値と判断され,利益確定売りが出やすかった状況ではあった。しかし,最も売りのキッカケとなったのはソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が昨年12月12日に発売した「プレイステーション・ポータブル(PSP)」の販売好調が伝えられたことによるもの。SCEは5日,PSPの昨年末までの生産出荷台数が51万台になったことを公表した。当初計画は50万台だったが,発売初日の数時間で完売状態となったため,久多良木社長自らが増産を指示。しかし,年内の上乗せは1万台にとどまった。ソニー商品ではお決まりのことだが,初期ロットの不良品が少なからず報告された。そこで,台数よりも品質を重視したことによって台数上乗せが難しくなったのではないか。とにかく,第三四半期の目玉商品であったため,数量確保ができなかった生産体制について,SCEは改めて反省すべきだろう。特にSCEでは今後,欧米でもPSPを発売する予定。しかも3月までに全世界で300万台を出荷する当初計画を持っているが,実現できるのだろうか。まずは日本での供給体制を整えるのが先行事案だと思っている。

 というのも,私も意味も無くPSPが欲しくなってさ(苦笑)。そしたら一昨日,プレイステーション・ドットコムからメールが届く。内容は「1月7日正午からPSPを予約販売」というもの。現在,各店舗ではPSPの予約はほとんど受け付けていない。さすが,本家本元のサイトだけあって数量を確保したんだなと思っているうちに,購入を決意しはじめる。買っても絶対使わないんだろうけどね。思い起こせば,プレステ2の予約を入れたのが2000年の2月。予約初日はプレステドットコムのサーバが落ちて,ほとんどの人が購入できず,翌日冗談でアクセスしたらなぜかつながって,買うことになってしまった(あはは)。で,ご丁寧に発売日の3月4日に届けられたのだが,現在までほとんど使わず,単なる武骨な箱と化している。PSPを買っても同じような運命を辿るような気もするのだが,ただ前回とはちょっと違う予感もしたのだ…。そして昨日の正午を待っていたのだが,仕事の野暮用が発生して正午キッチリに席へ戻れなかった。12時10分ごろサイトにアクセスしたところ「予約は終了しました」との表示。想定していたことではあったが,数分で枠が埋まったんだろうね。今回のは1月14日出荷分だが,このような生産体制で大丈夫なのだろうか。

 任天堂に話を戻せば,このような状況の中で,「ニンテンドーDS」とPSPとの販売競争の激化が懸念され,株が売られたようなのだ。しかし,DSも販売は好調。2004年の出荷台数は,日米で280万台に達した。小売店での販売ベースでも,年始までにほぼ完売した状態。発売前に予定していた200万台を4割上回るペースであり,絶好調と言ってもよいのではないか。しかし,PSPの量産体制が整えば,DSは失速すると市場は先取りしているのだろうか。実際,両機種とも携帯ゲーム機とはいえ,購入単価が高いので,両方買う顧客層は少ないとみられる。税込み2万円超はもはや子供の玩具とはいえない。そこで,厳しい選別の目にさらされれば,PSPのほうに分があるということか。

 今月5日からラスベガスで国際家電見本市「CES」が開催されているが,PSPは米国で初お目見えとなった。そして前夜祭の段階から,米国人記者らはPSPに大きな関心を寄せていたという。ソニーでは,高度な情報処理技術と大容量メディア,ブロードバンドという「三位一体のデジタル基盤」がそろったと認識。PSPも独自開発の高性能プロセッサ,小型大容量光ディスク(UMD),そして無線通信機能(IEEE 802.11b)の機能を備え,ゲーム機がスタンド・アローンからネットワーク機器としての性格を持ち合わせる可能性が出てきている。デジタル時代にあって現時点においてはその象徴的な存在ではないか。ソニーはネット経由で携帯型テレビに配信する「ロケーションフリーテレビ」の構想を持っている。バッテリなどの問題が克服されれば,PSPの次世代機ではテレビとして使われることも出てくる。ソニーの安藤社長は「携帯プレーヤーにビデオカメラや携帯電話の機能が加わったら,何が起こるのか」と語る。まずは音楽プレーヤーとして使われることが現実的。デジオンでは,PSPでMP3などの音楽データを再生すオーディオソフトの開発を開始すると発表した。PC上で楽曲を編集し,PSP上で再生可能なファイルフォーマットとして作成。PSPで利用するメモリスティックに保存することで再生できるようになる。現行PSPではまだ限界があるが,そのポテンシャルは未知数。私が急に欲しくなったというのも,使い方によっては面白い発見があるかもしれないという期待感が湧いてきたからなのだろう。ただ,入手は当面難しそうだ。
2005年
1月7日(金)

【今年の日本ビクター】
 昨年の話だが,日本ビクターの平成16年度9月中間期決算は,連結最終損益が43億円の赤字となった。デジタル景気などと言葉に浮かれている業界に暗い影を落としたとされるが,連結ベースでは少なくとも営業利益を出している。連結で最終損失が膨らんだのは転進支援制度経費などを特別損失に計上したからだ。法人税等の支払い額が昨年と変化がみられないことから,全額否認で特損計上したのだろう。ただ,単体ベースとなると営業損益レベルでも赤字になっている。これは欧米でビデオカメラが苦戦したことによるもの。今やビクターの主力分野となったビデオカメラ市場では,韓国勢などの攻勢が激しく,単価の下落が激しい。また,ビクターも斬新な新商品を投入できなかったことも単価下落に拍車をかけた。もっとも昨年秋には,HDDを記憶装置として使うビデオカメラ「エブリオ」を投入し,今年も年始早々25倍光学ズーム搭載の機種を発表するなど,決して悪い話ばかりではない。

 ところで話はちょっと変わるが,ビクターはエブリオで,はがきによる「愛用者カード」を廃止。代わって採用したのが,インターネットのウェブを使った購入者のアンケート。通常のビデオカメラの場合,最も多い購入動機は「子供の成長記録」とされる。例えば,学芸会,運動会,入学式,卒業式などのイベント記録で最も活躍するのだろう。ところがエブリオの場合,「レジャーに持っていく」が最も多い理由。さらに「日常の出来事を記録する」という理由が多い。つまり,記録媒体にHDDを採用したことで,何度でも撮ったり消去したりすることが簡単になったことが影響している。従来のテープ式のビデオカメラに比べて,手軽にカメラを回すことで,取り逃がしも防げるし,被写体がカメラを意識させない撮影も期待できる。カメラを意識しない表情は少ないし,また本当に価値があるものといえるだろう。また消費者の声をネット集計に絞った結果,集約・分析の時間が劇的に速くなり,それらを反映した次の製品開発に既に取りかかったようだ。消費者の声をすばやく,的確に反映した商品を供給できるようになれば,ビクターもまだ捨てたものではない。

 ところで昨年末ギリギリあたりに,秋から下落を続けていたビクターの株が反転の兆しを見せ始めた。エブリオ効果ではない。さすがに1商品だけでは買い材料とはならないだろう。デジタル景気が見せかけのものだという認識は市場にもほぼ浸透しているが,ここへきてなぜビクターの株が買われるようになったのか。これは,リアプロ販売強化の報道を手がかりとしているようだ。ビクターは横須賀工場に40億円を投じて,D-ILAの生産ラインを新設。昨年7月には北米で2機種を先行発売したが,今年度中に日本でも製品を発売する予定。リアプロはプラズマや液晶に続き,「第3の薄型テレビ」とも言われている。ビクターがフル稼働生産に移行すれば,2ケタの増益が見込めるともされる。ただ,話はそれほど簡単ではない。日本では馴染みはないが,米国や中国で薄型テレビで主流となっているのは,プラズマや液晶ではなく,リアプロだ。リアプロの優位点は,コストが安く大画面化できる点に尽きる。フロントプロジェクターが劇的に安くなっているが,さらに見逃せないのが高輝度・高精細のデバイスがどんどん発売されていること。フロントプロジェクターの技術をそのまま転用できることから,コストは当然安くつくわけだ。従来のリアプロは,「暗い」「粗い」といった欠点が大きすぎたが,最近は技術面の向上で不満がなくなってきていることもリアプロ普及の期待感につながっている。

 松下がプラズマ,シャープが液晶に特化する中,全方位作戦を採していたソニーがプラズマから撤退し,液晶とリアプロに専念するなど,薄型テレビを巡っては昨年末に大きな動きが相次いだ。ソニーの場合,リアプロでも勝負をかけるのは部品の内製化が自信となっているためだ。2006年春からリアプロの基幹部品である高温ポリシリコン液晶を増産し,利益率を一気に高める狙いがある。ビクターがリアプロに力を入れるのも,フロントプロジェクターでは定評のあるD-ILAのチップを使えるため。画面サイズも70型を含む6機種前後に増やして,ラインナップを拡充する。さらに,70型より大型サイズでは走査線を縦1080本,横1920本とし,「フルハイビジョン」対応とする。プラズマでも70型を今年投入できるか分からないし,薄型テレビの大画面派ではリアプロが牽引役となるのは間違いない。映像用半導体を自製できるソニーとビクターが大きなシェアを持つことから,利益を稼ぐことは十分考えられる。ただ,問題は日本でリアプロが普及するかという問題だ。プラズマや液晶に比べれば,やや厚みは出来てしまう。また,投射機を内蔵するため床からの高さもある。そのため,日本の狭い住宅環境では微妙な「圧迫感」が出てくるのだ。多少画面が小さくても,プラズマや液晶で十分という家庭も出てくるはず。そのためリアプロはさらなる低価格が必要になってくるのではないか。ビクターもソニーの価格設定を睨んでのこととなるが,利益を優先するか,シェアを優先するか悩ましいところ。とすれば,リアプロがビクター株の買い材料というのは大いに疑問があるといわざるをえない。
2005年
1月6日(木)

【義経ビジネス(下)】
 義経ビジネスに京都が食指を動かしている。「新・都ホテル」は義経にちなんだ宿泊プラン「くらま温泉・峰麓湯(ほうろくゆ)」を発売する。鞍馬や貴船など山間部を散策したい人向けのプランや,市内中心部を散策したい人向けのプランなど六種類を用意。特典として鞍馬山の入山料や露天風呂の入浴券,土産物引換券などを付ける。さらに,プランの種類によっては,タクシー代や市バス・叡山電車の一日乗車券などが付くという。料金例は,「牛若丸コース」の場合,鞍馬までの片道タクシー付きでツインが一人一泊(朝食込み)13,000円。鞍馬は義経幼少の頃にゆかりのある土地だが,自然を楽しむことをメインとする商品企画は悪くないし,名称もあえて義経を強調していないところもよい。ここまでは分かるのだが,広域的な集客作戦に出てきている動きが理解に苦しむところ。。京都市では先日,ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)と組み,仙台市で共同の観光客誘致策を展開した。京都とUSJの共通点は何かといえば,両者とも観光名所とはいえ,冬季は寒いことから観光・入場客が落ち込むのだ。そして,どこから客を呼び寄せるかと考えたところ,仙台市に白羽の矢が立った。

なぜ仙台市か。京都市とUSJによれば,仙台市は源義経とも関係が深いとしているが,そんな話はあったっけ? 単に岩手県と宮城県の区別がついていないだけの話ではないか。実際,関西人は関東以北の地理的知識にかなり疎いところがある。だとすれば,大勘違いということにもなりかねないが…。また仙台市という地名は昨年の後半,全国的に1つのキーワードになったことは事実。ライブドアがプロ野球参入の際,本拠地球場として仙台を挙げたためだ。その後楽天が正式な本拠地としたが,その話題性だけで目をつけても,義経との関連性を見出せなければ意味はない。特に,USJでは「遠いところ」から客が集まればよいという程度の意識しかうかがえないのだ。単に京都ブランドを活用して関西地方広域の共同キャンペーンを呼びかけたようだ。そして,仙台市出身の舞妓さんややUSJのキャラクターらが仙台市役所やマスコミ機関を回ったようだが,効果はあったのだろうか。京都市では義経とは別に,非公開文化財の特別公開やライトアップイベント「京都・花灯路」なども売り込む狙いがあるが,わざわざ東北から行くほどの催しとは思えない。

人気キャラクターが出てくれば,食傷気味ではあるがとりえあず「食玩」を出しておくというのが最近の流行。「カバヤ食品」では,源義経をあしらったフィギュア付きの菓子「義経風雲録」を全国で発売している。大河ドラマの放映に合わせて,菓子の売り上げ増につなげたい狙い。人形は6種類あり,平清盛や武蔵坊弁慶,静御前などゆかりのある人物と義経の出会いの場面などを描いているという。フィギュアとチューインガム一枚のセットで315円。一応,一種類はシークレットとされているが,これを買い集める人はいるのだろうか。まさか高齢者が食玩にはまっているとも考えられないし,市場調査がどうなっているのか興味のあるところだ。

昨日書いたように山口県下関市が義経に最も傾倒している地域だが,和菓子「巌流焼」という商品名の白あんドラ焼きは,全国的な知名度はそれほどないものの,下関を代表する土産物とされる。巌流焼を製造するのは,1930年創業の老舗菓子メーカー「巌流本舗」。そして,老舗にもかかわらず,ここ最近はトレンドに乗った商品作りをしている。まず,2002年に黒あんの『おそいぞ武蔵』を発売し,これがヒット商品となる。ただ既存商品のラベルを変更したわけではなく,黒あん新商品の開発途上で,大河ドラマ「武蔵」の話を知り,このような商品名にしたということだ。同社では,バブル崩壊以降は売り上げが伸び悩んでいたことから,2000年から2年に1回,新製品を出す計画を立てている。そして2004年に発売したのが『義経八艘飛』。読みがズバリとあたる形となったが,3回も4回も同じようなことが起きるわけではない。そのため反動減に対する警戒も強いようだ。そのため中身で勝負するというのは本来の姿。義経は永遠のヒーローなのかもしれないが,商品自体は陳腐化が早い。義経に限らず,キャラクタービジネスの見極めができない限り,地域振興などは夢物語に終わる。メーカーも期間限定販売によってリスクを回避しているが,そのようなビジネスモデルは長い目で見ればブランド劣化の恐れも覚悟しておく必要があるのではないか。
2005年
1月5日(水)

【義経ビジネス(上)】
 今年のNHKの大河ドラマは「義経」。昨年の「新撰組!」は三谷幸喜を脚本に迎えるなどして話題を呼んだが,それほど高い視聴率が取れたわけではない。テレビ離れが進んでいるし,デジタル録画機器の普及でまとめて鑑賞するスタイルも多くなっていることから,質的な低下があるとは一概に言えない。ただ,主演は今年も滝沢秀明を起用するなど,やや軟弱化が進んでいるところは気にかかるところだが。ところで,大河ドラマと地域ビジネスは必ず密着している。新撰組の場合は京都が中心だったが,主要人物のゆかりの地などで名産品などが売られている場合もあった。しかし,義経の場合,特定の地域に依存することはない。戦果の場所としては「一の谷」「屋島」「壇ノ浦」などがあり,逸話としては「安宅の関」,そして最期の地としては衣川があり,それら各地で義経ビジネスが盛り上がることも考えられるわけだ。現在,一番盛り上がっているのは山口県下関市ではないだろうか。

 義経ビジネスにいち早く力を入れてきたのが「下関大丸」。昨年秋,オリジナルの「義経グッズ」20種類40アイテムを企画した。まず,ネクタイ(6300円),カシミヤセーター(105,000円,60枚限定),ゴルフボール(一ダース8400円)の3種類。を発売。ネクタイは義経・弁慶・静御前を描いたデザインなど5柄,セーターは義経と弁慶の五条大橋の対決などを描いた2柄。ゴルフボールには義経の八艘飛びの場面をプリントしたという。このほか,Tシャツ,携帯ストラップ,ボールペン,シャープペンシル,マグカップ,湯飲みなど17種類の商品を企画されている。小物類については,下関市唐戸町の商業施設「カモンワーフ」でも販売する。実は,下関大丸では2003年にもその年の大河ドラマにちなんだ「武蔵グッズ」を発売し,相当の売上を上げた実績を持っている。武蔵では下関から巌流島が近いということもあったが,義経の場合は壇ノ浦に近いということから再度大河ドラマに便乗。今回もうまくいくのか。

 自民党の武部幹事長は,郵政公社改革啓蒙の“切り札”として「紙芝居」を投入してきたが,効果のほどは不明。郵政族から一斉に反発を浴びたが,本人だけはなぜか満足げ。改革の主旨が分かりづらい,説明不足と叩かれつづけられる小泉周辺だが,分かりやすい手法として紙芝居を使ってきたというのは,なるほどと思わせたけどね。これでわかんないやつは,理解できないほうがアホという理屈も成り立つからだ。ところで,「しものせき観光キャンペーン実行委員会」は今年一年間,壇の浦沿いの「みもすそ川公園」で,紙芝居「壇之浦合戦絵巻」を上演するという。武者姿の読み手が午前10時から午後3時までの一時間,計6回読み聞かせる。一回の上演時間は約10分で,最後に市内にある源平ゆかりの名所・旧跡も紹介する。観覧は無料。上演は市内の町おこしNPOに委託する。下関では官民あげて観光客誘致の各種キャンペーンに取り組んでいるが,紙芝居はデジタル社会全盛にあって,意外としぶとい存在感を見せつづけるのかもしれない。

 下関市と関門海峡を挟んだところに位置する北九州市でも,義経ビジネスに参入してきている。「門司港レトロビール」は,「源平浪漫麦酒 義経」を発売した。毎月中身のビールが変わる“義経ラベル”のビールを含むセット商品で,一年間だけの限定商品。商品は330ミリリットルびん3本セット(1680円)と6本セット(3360円)の2種類。ただ中身は,同社が経営するビアレストラン「門司港地ビール工房」の「ぺールエール」「ピルスナー」と,壇の浦での八艘飛びをイメージしたラベルを張った月替わりビールをセットにしたもの。門司港レトロ地区にある門司港地ビール工房と北九州市観光協会売店,めかり山荘売店のみで販売する。北九州のほうでも昔から義経に対する思い入れはあるのだろうか。それとも単なるビジネスとしてか捉えていないのだろうか。バックボーンが商品に反映されていなければどうしても存在性の希薄さを感じてしまう。単にラベルだけ張り替えるようなやり方は,そろそろ通用しなくなるのではないか。
2005年
1月4日(火)

【今なぜか「金時」(下)】
 金時ニンジンは元来よりブランド力を持っていたとはいえ,洋ニンジンに比べて,栽培や選別の手間は3〜4倍かかるとされる。また,洋ニンジンは長さが30センチ程度だが,金時ニンジンは長いもので50センチほどにもなり,土地の制限を受ける。水はけのいい土地を好み,種をまいたあとしばらくは一日数回,水まきが必要になる。そのためコスト高になるのはやむを得ないが,逆に新たらしい産地が参入しにくいというメリットもある。競争相手が少ないためコストの価格転嫁がしやすく,一度生産が軌道にのれば利益率は悪くない。金時ニンジンの特徴は,平均で13〜14度という果物に近い糖度数にある。そのため,ニンジンジュースを作っても口当たりがいいという。今後は新たに品種開発する必要はないが,味のいい物,丈夫な物を選抜していい系統を残していくことが課題のようだ。

 一方,この金時ニンジンを加工食品の新しい食材としてとらえる動きも出てきている。坂出市の老舗菓子店「名物かまど」では,金時ニンジンと金時イモ,金時ミカンという地元青果物を材料にしたプリン「金時三昧プリン」を市商工会議所などと2002年7月に開発(10個,800円)。金時ニンジンは8月に種をまき,出荷期はその年の12月から翌年の3月までに限られる。しかし,ペーストなどの中間製品に加工しておけば保存が容易となり,菓子材料としての新しい市場が期待されている。JR四国も金時ニンジンなど四国の食材を使った高級スープ「SHICOOK SOUP(シコックスープ)空海」を発売している。金時ニンジンの場合,小売価格は一袋180グラム入りで380円とかなり高い値段。主要駅のキヨスクなどで販売するほか,東京・大阪などのホテルの業務用としての用途もある。これは規格外のサイズの金時ニンジンを活用するために生まれた事業のようだ。販売期間や材料の活用など,ブランド名をあげるには加工食品のほうがやりやすいだろう。

 徳島県にあるレンコン加工品最大手「マルハ物産」は,昨年11月から徳島名産のサツマイモの一種,「鳴門金時」の加工・販売を始めた。第一弾として天日乾燥で甘みを増した干し芋を四国,関東,東海地域で発売する。新製品名は「鳴門金時の干し芋」で,関係会社で有機・低農薬栽培に取り組む農業法人「マルハファーム」が鳴門金時を選別,洗い,カットしたうえで,マルハ物産が皮むき,天日乾燥の二次加工で製品化している。価格は170グラム入りで300円前後。鳴門金時は青果物自体だけではなく,ダイス加工品や練り込んだペーストがパンや菓子の材料に使われ販売されている。同社によれば,干し芋としての加工品は珍しいものの,保存ができることから全国に販路を拡大できるとしている。全国に築いたレンコン加工品の販路を使い,食品メーカーや問屋・量販店を通じて,順次販売地域を拡大するという。

 流通規模の拡大に備え,マルハファームでは今年2月にも徳島県松茂町に敷地面積約2000平方メートルに新しい加工工場を新設する。そして2003年度に10トン程度だった鳴門金時の加工量を2005年度には100トンの規模まで引き上げる。鳴門金時だけではなく,マルハファームは有機・低農薬栽培が売り物の国産レンコン加工量も倍増させる計画。つまり,国産品の農作物重視に転換するわけだ。マルハ物産は中国に自社,合弁,協力合わせ15の工場を持ち,売上高の8割を中国産野菜で占めている。しかし食の安全の意識向上から,中国産に比重を置く経営はリスクが高まっている。また単に国産野菜を使えばいいというわけではない。やはり,特定のブランド野菜を使っていくことも必要。そこで,鳴門金時のような競争力のある野菜や果樹を加工することで付加価値を高めていく戦略が手っ取り早い。そしてブランド野菜として「金時」という文字はなぜか妙な力を持っているような気がしてならないのである。
2005年
1月3日(月)

【今なぜか「金時」(上)】
 高校の時の話で経緯はよく思い出せないのだが,「金時」とはどういう意味なのかと疑問に思ったことがあった。何かの辞書で調べたのだが,確か意味は「金太郎のこと」とかそんな感じだった。分かったような,分かんないような消化不良気味な理解だったが,金時の名称を使った食品は多い。使われる理由はいろいろあるのだろうが,目出度いとか,勇ましいといった印象を受けるためだろう。ただ,食品以外ではお目にかかることが少ないという,不思議な単語でもある。その金時の名を使った食品は,地方と密着していることも多い。宇治金時など和風デザートとして定着したものもあるが,鳴門金時など単体の食材としてブランド化しているものが結構多い。しかも,地域だけにとどまらず,全国的に展開する動きも徐々にだが出てきている。かなりマニアックな視点の話にはなるが,今回はそんな金時ブランドのマーケティングについてのお話。

 石川県金沢市の伝統野菜といえば「加賀野菜」があまりに有名。その一つに「五郎島金時」というサツマイモがある。焼き芋などにしたときの独特な食感や甘みへの評価が高い。市場ではサツマイモの中では最も高い卸値が付くとされる。他のサツマイモと比べてべたつかず,ホクホクとしてさらりとした粉質の食感が特徴。上品な甘みで後味も良いという。金沢市内でも海岸にほど近い五郎島町で生産されることから,このような名称が付けられたようだ。品種としては九州,四国でも一般的な「高系14号」と同じ。しかし,水はけや通気性が良く,粒も大きい「内灘砂丘」と呼ばれる土壌が,他産地ではまねのできない食感を生むとされている。そのため卸値は,他産地のものより2割程度高く取引されている。

 栽培についても十分な配慮がある。土が含む養分が減らないように,サツマイモを作った翌年はスイカとダイコンを作っている。また,サツマイモを作る年は苗を植える前に牧草を生やして土にすき込み,土壌を殺菌する。さらに収穫量が減るのを覚悟で,間隔をあけて苗を植えている。肥料も米ぬか主体の有機含有量の高いものを使っている。約40戸の農家からなる五郎島さつまいも部会ではこれらのノウハウを共有し,品質の向上・均一化を図っている。ただ,生産量の少なさはしょうがない。JA金沢市では集荷した五郎島金時の約8割を地元向けに出荷し,県外へは2割しか出荷されない。販路拡大へ向け昨年から関東や関西の生協と相次いで販売契約を結んだが,今後は全国の一般消費者向け通信販売にも力を入れる。来年度には貯蔵施設を新設し,作付面積も約3割ほど拡大する予定。いずれは焼酎などへの供給まで手が回れば,強力なブランド焼酎が誕生する予感もある。

 金時といえば「イモ」というイメージがあるが,そうではない。香川県では「金時ニンジン」を生産してる。金時ニンジンは,「京ニンジン」とも呼ばれ,糖度が洋ニンジンに比べ格段に高いとされる。色も濃い赤色をしているためサツマイモの品種と同じ「金時」の名で呼ばれるようになったそうだ。おせちの煮物料理によく使われるが,その甘さに注目してプリンや高級スープに加工した商品が相次いで登場し,ブランド化が進められている。主な生産地は坂出市の松山地区だが,これには理由がある。1950年代までは塩づくりで栄えた地区であったが,安い工業塩の登場で塩田は転用を迫られる。水はけのいい砂地で育つ作物ということで,金時ニンジンが選ばれたという。金時ニンジンは,それまで坂出市の海岸沿いの砂地で栽培されていた実績あったのだ。ところで,京ニンジンと呼ばれるように,もともとは京都が産地であった。そういう意味でも,京野菜の1つと言ってもよいのだが,京都の都市化で現地生産は実質的に難しくなっている。塩田の跡地に加え,70年代からは減反政策によって水田からの転作も進んだ。(つづく)。
2005年
1月2日(日)

【斑尾高原農場(下)】
 念願のレストランオープンを果たした斑尾高原農場であったが,さらに並行してブドウ栽培にも着手し,1990年にはワイン製造の本免許取得した。そして,本格生産を開始するまでになった。まさに欧州のワイナリーどおりの事業展開であり,理想どおりであったわけだが,企業経営とはそんなに単純なものではない。キャッシュフロー管理無しでは,経営の継続性など成り立たないのだ。実に単純なことなだが,ワンマン経営の場合などでは良く無視される項目であり,「帳尻合って現金無し」の事態に陥って経営破綻する例も多い。斑尾高原農場もそのような甘い経営計画の中で次第に財務体質が悪化の一途をだとる。ところがカリスマ経営者へ,現場の経理担当の声が届かない。設備投資のために借入金が膨らんでいくが,売上高はそれを上回ることができない。とうとう経営危機が表面化したのは,1992年春のこと。資金ショートだった。当面の資金が7000万円足りなくなったのだ。つまり,売り上げは7億円しかなかったのだが,借入金は8億円。という状態。明らかにキャッシュフローは赤字なのに,借入金の返済が迫れれば,ぶん殴っても鼻血すら出ない状況であったといえる。

 そもそも欧州的ワイナリー経営は超長期的な経営計画が必要。ぶどうの種を蒔いてから最終成果物のワインを得るまでには相当な時間がかかる。その期間,投資額を返済する猶予があるかが重要になってくる。特に,斑尾高原農場の場合,ジャム販売とは相乗効果をあげにくいレストラン事業など,赤字事業を抱えていたことも問題だった。不良債権の対象となる会社は,多角化事業での失敗が非常に多いが,斑尾高原農場も同じ道を辿ってしまったというわけだ。事業の好転からそれまでは銀行も喜んで金を貸してくれたという。時代がバブル期と重なっていたこともあったのだろう。しかしこれもよくあることだが,一度資金ショートが明らかになると,手に平を返したように経営責任を追及し始めたそうだ。それまで久世良三社長は,従業員に対して経営状況の説明など一切していなかった。ただ,ここに至りようやく説明責任の必要性を感じとる。従業員全員に経営の現況を話し,現実経営へと方針を変更することになった。

 結果的に,従業員重視の姿勢を持つようにもなったという。経営でも経費の無駄遣いを徹底的に削り,本業に集中する。本社周辺での直売や生協などへの卸販売をこつこつと営業を続けることで,危機をなんとか凌いでいく。そして1997年にくるみバターなどが長野冬季五輪の公式ライセンス商品に選ばれたのをキッカケとして経営は立ち直り始める。さらに99年の夏に開業した軽井沢プリンスホテル内のショッピングセンターに出店したことが,飛躍の土台を築きあげた。店舗の坪効率で一,二を争う売り上げをたたき出したのだ。ワインだけという相手の要請に対して,ジャムやソースなど一そろいでと強行に押し切って出店したところ大成功。この自信を得て県内各地に出店し,念願だった旧軽井沢にも進出。その後,県外からも出店要請が相次ぐようになった。今では急速に全国展開となったわけである。値段が高くても付加価値が高ければ買ってもらえるという風潮をいち早く取り入れたことができたともいえる。

 2000年に資本金は5倍近くの3億円以上の規模になる。以前から交流のあった米国在住のワイナリーオーナー,佐藤康三氏などが出資に応じたという。また,銀行も出資するなど,大幅な増資によって経営の安定度は以前とは比べ物にならないほど盤石なものとなった。売上高に占める借入金も今では約1割にまで減少しており,数年内にほぼ無借金にする予定。資金の余裕ができたことで,社員の間でも,理想を掲げたいという気持ちが広がってきたという。百貨店やスーパーに卸して,商品は売れていたが,理念を持って商売をしているとは思えなかったからだそうだ。そして,海外研修などを毎年実施しており,社員の間から新製品の開発などの提案が次々に上がるようになり,意識は変わってきているという。。これを商品化し,将来は欧米に逆輸出することも考えているようだ。コストの問題もあり簡単にはいかないのだろうが,カントリー・コンフォート(田舎のもてなし)というビジネスモデルを日本で成功させた経営手法は評価に値するだろう。
2005年
1月1日(土)

【斑尾高原農場(上)】
 主に長野産の果物を使った自家製のジャムやワインなどを直売する「サンクゼール・ワイナリー」。小規模な店舗ながら,出店すればかならず人気店になるという。そのため,有力テナントとしていまや全国的に引き合いが強くなっている。もっともサンクゼール・ワイナリーが大都市の商業施設での出店を始めたのは昨年のこと。「東京ドーム・ラクーア」や「玉川高島屋SC」など東京に4店,大阪の「なんばパークス」に1店を開設。今年に入っても「クイーンズイースト」など横浜市内に2店,福岡市などにも進出。また,年末には関西でも有数の大型商業複合施設「ハービス エント」でも開業しているが,どれも高感度な客が集まる話題の商業施設ばかり。ところでそれら有名大型商業複合施設の保証金はかなり高額になる。しかし,サンクゼール・ワイナリーの場合,保証金の額を引き下げてでも出店の要請があるというのだ。そこまで集客力に抜群の信頼がおける店つくりとはどのようなものなのか。

 サンクゼール・ワイナリーを運営するのは「斑尾高原農場」。この「農場」が世に現れたのは以外と古い。斑尾高原農場を経営する久世良三社長はもともと,1975年,斑尾高原でペンション経営を始めた。経営自体は久世社長の接客が功を奏し大いに繁盛したそうだが,これを支える妻の理解が得られなかった。そのため結局ペンションをたたんでしまうことになる。ただ,ペンション時代,その妻が朝食用として出していた手づくりのイチゴやアンズ,ブルーベリーのジャムが糖度を抑えた味で好評だったことが次なる事業のヒントとなる。そして「斑尾高原農場」のブランドで食品の製造販売事業を思いつく。試しにペンションや近所で売ってみたら,かなりの売れ行きになり,その後は幅広く営業活動を行うようになった。ただ,特定地域のブランド名がゆえ,邪魔になることもあったようだ。例えば,軽井沢では「斑尾高原」では違和感があり,販売を拒否されるようなこともあったようだ。それでも次第に白馬や志賀高原など長野県内の主要観光地にある土産物店を次々と開拓し,商売も軌道に乗ったため1982年,斑尾高原農場が設立された。

 その後事業は順調に滑り出したが,一つだけ困ったことが持ち上がる。それは顧客から「斑尾高原農場に行ってみたい」という声が日々に増えてきたというのだ。斑尾高原農場は単なる企画販売会社にすぎない。手作りが発祥とはいえ,量産品はその地域の工場に委託生産してもらっているだけであり,実際に『農場』は存在しなかったのだ。ブランド名とはいえ,顧客を混乱させることは間違いなかった。ワインの産地である欧州では土地とブランドが一体化しているの通例。ちょうどその頃,斑尾山の南麓に広がるリンゴの名産地であり,村制百周年で農業立村を打ち出していた三水村の誘致を受けることとなる。フランス旅行で思いついた,欧州のワイナリーのようなビジネスを日本でも実現しようと考え始める。87年,1万6千平方メートルの用地を取得。その後数年間は,事業拡大に走っていった。88年にはワインの試験製造免許を取得し仕込みを開始。89年には,菅平などの山々や田園風景を丘の上から一望できるレストランを開店し,一躍観光名所となった。フランスでは,大人が楽しめるレストランを併設しているワイナリーも多い。このように,欧州的なビジネスが順調に進んでいるかに思われたのだが・・・。

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