【7】







学校の校長室に、アントニオが座っていた。その周りを記者が取り囲んでいた。カメラのフラッシュとテレビカメラ、アナウンサーと記者がアントニオにインタビューをしている。その傍らに、校長先生と数人の教師、ルーシーも居た。

アントニオは、YFN賞の最優秀賞に選ばれたのである。高校生でこの賞を取ったのは例がなく、アントニオが初の快挙であった。このYFN賞は以前ルーシーも応募した事はあったが、入選も出来なかった賞である。
それを処女作で行き成りの最優秀賞である。この賞を取った著名人達はほとんどが作家として活躍していた。かなり高度な賞であった。本の出版予定も発表された。

緊張を隠し切れない笑顔で応えるアントニオを、ルーシーは目に涙を溜めて微笑んで見ていた。

 

 

「・・・・これ、読んでくれる?」
とある日、アントニオがノート型パソコンを居間で寛いでいるルーシーに持ってきた。
「これは?」
「・・・小説かな?・・・書いたら誰かに読んで欲しく・・・」
照れくさそうに頭に手を置く。ルーシーは驚く。今まで書いているなど全く知らなかったからである。
「酷評してくれていいから・・・」
「そう?では遠慮なく」
ルーシーはにっこりとして、それを読み始めた。アントニオは居たたまれないのか、自分の部屋に引っ込んだ。

数時間後
「トニオ!!」
とノックもせずに入って来たルーシーに、自分の机で読書をしていたアントニオは吃驚する。
「な、何!?」
思わず本を落としてしまった。
「これ、本当に貴方が書いたの!?」
興奮気味のルーシーにアントニオは戸惑いながら頷く。
「賞に出しましょう!!」
思いもかけない言葉に、アントニオは目を剥く。
「・・・・・え・・・?」
「すごい!!すごい!!入選するかもよ!」
「へ?そんなの無理だよ・・・」
「駄目元!!さあ!早速応募よ!!」
ルーシーはアントニオの意向を無視して、応募した。


「アントニオ君は我校の誇りです!」
校長先生がルーシーの手を握って祝福をした。
報告を受けたアンとウィルも涙ながらに喜んだ。

 

その日のニュースではアントニオのインタビューが映し出された。まだ若く甘いマスクのアントニオはテレビ栄えした。
その晩はルーシーの家でアンとウィルを招いて4人だけの盛大な祝賀会を催した。
「飲みなさい!」
ルーシーが数万するシャンパンをアントニオに注ぐ。アントニオはちびちびと飲む。ルーシーはがぶがぶ飲む。高級シャンパンが台無しである。深夜までそれは続いた。ルーシーはソファーで泥酔状態。アントニオはアンとウィルを見送った。騒ぎ疲れたルーシーをいつもながら部屋まで運んでパジャマに着替えさせた。自分の事のように喜んでくれるルーシー。子供のように眠っているその額にアントニオはキスをする。
「貴方のお蔭ですよ」



次の日から、学校・自宅にまで取材陣は殺到した。学校関係者や友人もインタビューを受ける。雑誌にも取りざたされ、一躍アントニオは時の人となってしまった。その為アントニオの過去が赤裸々に明かされた。アントニオに同情の声が上がる。その再現ドラマも作ろうと申し出したテレビ局に、ルーシーは断固として断った。
そんな中、過去を知った友人クラスメイトは何ら変わらずアントニオに接してくれた。

「おい!何か奢れよ!」
友人達にせがまれる。アントニオは「解ったよ」と照れくさそうに快く承諾する。

 

喧騒だった数日が漸く穏やかになろうとしている

 

ある日の

――――――――下校時、
友達と一緒に学校を後にしようとするアントニオに
「・・・・・・・アントニオ・・・・」
その声に、アントニオの身体が、凍りついたように、固まった。
「どうした?」
友達は、「?」である。
アントニオが蒼白な顔になっていた。その目の先に、まるで娼婦のような派手な化粧をした、女が立っていた。
アントニオと同じ、金色の髪と今のような澄んだ空色の瞳。
「まあ・・・大きくなって・・・」
女は喜々として、アントニオに近づく。
アントニオの顔は、蒼白から、死人の色へと変わっていく。
過去の出来事が、
自分を、痛めつける、目の前の女。
恐怖でしかなかった。
忌まわしい過去が、
フラッシュバックのように、アントニオの頭、身体、
そして、まるで自分の周辺で渦巻く映画館のスクリーンのように、大音量と共に、駆け巡った。

―――――――来るな!

―――――――来るな!

―――――――来るな!

心の中で、叫んでいた。

アントニオは微かに震えていた身体が、段々、異常なまでに、大きくなってくる。酔っ払っているかの如く、身体が前後に揺れ動く。顔が土色になってきていた。まるで水を被ったような汗が大量に溢れ出ている。視界が狭まる。
「おい?大丈夫か?」
アントニオに触れようとするが、異常なアントニオに、躊躇する。
「アントニオ?ママよ?」
母、スザンヌはアントニオに近づく。
途端、
声にならない絶叫を吐いて、その場に倒れこんだ。周りは騒然となった。
「おい!?しっかりしろ!!ちょ・・・誰か、先生!!先生呼んでくれーーーーーーー!!!」
友達は、アントニオを揺さぶる。が、全く反応がない。スザンヌもただただ驚いて呆然を立ち尽くしていた。



【7   終】





09.09.21




INDEX