【6】



―――――――日曜日

ブロック塀・コンクリート塀・閉じたシャッター・アスファルトの歩道にまで、卑猥な単語のスプレー文字が色鮮やかに占領していた。それらを、アントニオと学校の有志達・その周辺の住民達と共に、懸命に消していた。ラクガキを綺麗に消す事によって、犯罪率が減る事が証明されている。治安の悪いこの地域の治安改善の為、ボランティアでこの地道な作業をしていた。その周辺の道のゴミも拾っている。
「ちょっと!ゴミを捨てないでよ!」
アントニオのクラスメイトの女子達が声を荒げている。
数名の同い年くらいの少年達がその周りにいた。
「うるせぇな・・・」
ガムを噛みながら、少年の一人が女子達に近寄る。女子達は虚勢を貼っているが身体が震えている。
「こんな事止めて、俺達と付き合えよ」
少年達の手が女子達に伸びる。女子達は身体を強張らせた。
「どうしたの?」
ゴム手袋をしてタワシを持っているアントニオが来た。額は汗だらけである。数本の金髪が額にくっついている。
女子達は安堵の顔をする。不良少年達は露骨に嫌な顔をする。
「この子達、借りていっていいだろう?」
少年達はアントニオを威嚇するような態度である。
「今、掃除中なんだ。止めて欲しいんだけど・・・」
アントニオは静かに言った。ずい・・・と少年達がアントニオに近寄る。女子達は怖がる。アントニオと少年達とでは、どうみてもアントニオの方が分が悪い。でも、アントニオは引かなかった。
「どうした?」
その声に少年達は驚いたように後ろを振り返った。そこには、少し年上だろの、鳶色の髪と黒緑色の目をした青年が居た。その青年は少年達とアントニオを交互に見た。女子達はその青年の年齢に相応しくない異様なまでの威圧感に益々怯える。少年達も、どこか怯えていた。どうやら、この少年達の上役なのだろう。
「トム、こいつが生意気だから・・・」
トムと呼ばれた青年は、アントニオを見る。アントニオは目線を外さなかった。
俺達(・・)()()を綺麗にしてくれてるんだろう?」
トムは口元を釣り上げた。
「邪魔したら悪いだろう?うん?」
トムが少年達を見る。少年達はびくつきながら、相槌を打つように頷いた。そして、逃げるようにその場を去った。
「悪かったな」
とアントニオと女子達を見た。
「いえ」
とアントニオは応えた。静かにトムはその場を去った。
「・・・・・・怖い・・・」
女子達が小声で言った。静かな佇まいが、返って不気味さを増す。
「そう?今助けてくれたじゃないか」
アントニオは少し微笑んで答えた。
「知らないの?あいつ、この一体を仕切っている少年ギャングのトップなのよ!警察沙汰なんて日常茶飯事なんだから!マフィアとも関わっているとか。噂では人殺しも平気でするって・・・悪魔のような奴よ!」
「噂だろう?全くの悪人なんていないよ?」
その言葉に女子達はお互いの顔を見合わせる。
「アントニオって、世間知らず?」
「そんな事ないよ」
アントニオは可笑しそうに笑う。
「アントニオって、・・・牧師さんになったらいいんじゃない?」
「僕が?」
アントニオはきょとんとする。
「そう!全ての罪を許す牧師様!アントニオって善人だもの。いえ、聖人だわ。牧師は貴方にぴったりの職種だわ!」
言った女子は腕を組んでうんうん頷く。
「僕は善人でも、聖人でもないよ」
「あら、アントニオが聖人でなかったら、周りみんな悪人だわ」
アントニオは笑いを必死で堪えていた。
「アントニオが牧師様なら、私毎日曜日教会に行くわ。そして懺悔を聞いてもらうの」
「例えば?」
一人の女子が言った女子に訊く。
「ママのお財布からちょっと拝借したとか、花瓶の取っ手を割って接着剤でくっつけたとか・・・」
「それはお母さんにちゃんと言った方がいいよ?」
アントニオは顔を綻ばせて笑った。

 




【6     終】




09.09.11


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