【4】




シャッ!

遮光カーテンを開けた。眩しい日の光が、ベッドに注ぐ。逆光を受けた長身の男のシルエットが照らし出される。日の光の中、その男の金髪がより一層神々しく耀く。まるで光の中にいる、天使のようである。
「起きて、ルーシー朝だよ」
ベッドに眠っている女に、近づく。そして、耳元で優しく囁く。女は「・・・・・う・・・ん・・・」と言ったまま、起きる気配がない。
小さな花柄の壁。空気清浄機はおいてあるが、煙草臭い部屋である。ベッドと反対側の壁際には小さな机があり、ノート型パソコンがある。その右側にはガラスの灰皿とライター。その直横の壁にはカレンダーが掛かっている。今日の日付を見て
「えっと、本日は、午前11時からテレビ局の人と打ち合わせ・・・か」
その言葉に、女は飛び起きた。
「今!何時!?」
ボサボサ頭を振り乱してキョロキョロと慌てふためく。
「8時だよ」
「そ・・・そう」
目覚ましを7:30にセットしておいたが、気づかなかったみたいである。
ほっと胸を撫で下ろす。
でも、シャワーを浴びたりしていたら、いい時間帯になる。パジャマ姿のルーシーは起きあがった。
「あれ?着替えさせてくれたの?」
手を置いた胸元を見る。
「あのまま寝ていた方が良かった?」
優しい日の光のような金の髪と青空の瞳の青年は、にっこりと笑う。よく酔っ払って帰ってきていた。その都度、彼が世話を焼いていた。
ルーシーは今では、まあまあ売れている小説家になっていた。本日は、今回彼女の小説が2時間ドラマになるのである。その打ち合わせである。
昨夜も、酔っ払って帰ってきていた。
「それよりもトニオ、あなた学校は?」
「僕が学校行っちゃうと、ルーシー昼過ぎまで寝てるだろう?」
下手したら、夕方まで寝ている時もある。
ルーシーは、ぐ・・・と言葉を詰まらせる。本当の事なので、反論できない。
「・・・・御世話をかけました」
頭を下げた。
「いえいえ、何時もの事ですから」
「・・・・最近、可愛くなくなったわね・・・トニオ・・・」
「そうかな?ルーシーの育て方が悪かったんじゃない?」
ルーシーはムスっとして、何時の間にか自分よりも数段大きくなった、アントニオを下目遣いで見た。アントニオは天使のように、優しく笑っている。
彼は、本当にそれと見紛うように美しい青年に成長していた。

ルーシーはシャワーを浴びる。その間に朝食の用意をアントニオがしていた。

アントニオは今は、高校に行っていた。高1である。
「トニオ、もういいから学校行きなさい」
頭を拭きながら、ルーシーがリビングに現れた。
「ルーシーが行ったら行くよ」
「駄目でしょう!ちゃんと行きなさい!」
「大丈夫、僕成績優秀だから」
確かに、成績は優秀であった。幼児期の学力不足を心配していたが、今では普通の子と一緒。いや、優秀であった。スキップしてもいいくらいの成績であった。
テーブルにはコーヒーとサラダ、トースト、ハムエッグを一緒に食べ始める。
家事の一切を、アントニオが何時の間にかするようになっていた。これでなかなか料理は上手い。ドレッシングもアントニオのお手製である。どこで習ったのやら・・・
「今日も遅くなるの?」
「どうかな?食事の用意はいいわよ。食べて帰るから」
トーストを千切って食べる。このパンも彼の手作りである。
本職のパン屋と引けを取らない上手さである。
「そう・・・」
少し寂しそうに目を伏せるが、それにルーシーは気づかない。
「ルーシー、又チャリティーバザーの品あるかな?」
アントニオは、ボランティア活動に熱心であった。月に数回と色んなボランティアに参加している。
「ええ、用意しとくわね」
「有難う」

ドライヤーの音が響く。

ルーシーの黒髪を、アントニオがブローしていた。
「ルーシーの髪って、本当触り心地がいいよね」
肩よりの10cmも長いウェーブがかかった髪にブラシを通して、ドライヤーの熱風をかける。
「あら、褒めても何も出ないわよ?」
ドレッサーの前の鏡に映っている、自分の髪を乾かしているアントニオに言う。
「もう、沢山貰ってるから、い・り・ま・せ・ん」
ルーシーの髪にキスをする。
「愛してる・・・愛してるよ・・・」
小さく囁く。
「何?」
ドライヤーの音で聞き取りにくい。
「気持ちいいな、って・・・」
ルーシーはクスクス笑う。アントニオも嬉しそうに笑む。
「いってらっしゃい」
ルーシーの頬にキスをする。彼女を見送った。それから直にアントニオが自転車に乗って学校へと出て行く。
「アントニオ、おはよう!」
近所の人達が挨拶をしてくる。
「おはよう御座います!」
アントニオはその都度元気良く返す。
そこには、あの虐待され腐った魚の目をした無表情の少年は存在していなかった。
―――――――今、彼は目は、ダイヤモンドのように、キラキラ耀いていた。

 




【4   終】




09.08.31



INDEX
 


後書き
 ↓






























飛鷹が書く男の人は、料理上手ばかり・・・。飛鷹の願望か??