【31】




「うわ!?」

レイモンドは衝撃で目が覚めた。
当たり一面木々と雑草だらけ。森の中に自分が居る事に気がつく。頭がまだ朦朧としていた。動こうとして自分がロープで縛られている事に気づく。はっとして、顔を上げた。

「ア、アントニオ君・・・?」
頭上にアントニオが、オートマチック銃を構えていた。レイモンドは訳が解らず気が動転していた。
「な・・・何なんだ!?どうして!?」
震えながらレイモンドがアントニオに問う。
「あんたが悪いんだよ・・・」
今までに聞いた事のない、冷たく、そしてどす黒い声。
「僕が・・・?」
レイモンドは何が何だか解らない。
「あんたが、ルーシーに手を出すからだ」
レイモンドは、目を剥いた。
「・・・・君は・・・ルーシー・・・を・・・?」
恐る恐る訊く。アントニオは見下したままである。その目は今まで見たこともないほどの、冷たく、そして狂おしいまでの憎悪に染まっていた。
「そ・・・君とルーシーは、血の繋がった・・・」
アントニオがレイモンドに向かって銃を放った。銃声と悲鳴が一緒に、陽が翳ってきた森に木霊するように轟いた。
レイモンドの右太腿の灰色のスラックスに穴が開いた。見る見るうちに灰色が朱へと染まっていく。レイモンドは呻き声を上げて痛みから身体を逃れるかの様に転げ回る。アントニオは近づいた。「ひ!!」レイモンドは身構えた。アントニオはレイモンドのロープをナイフで切った。レイモンドは震えている。
「立って、逃げろよ」
アントニオは口元を釣り上げて、高慢な冷笑を浮かべる。腰が抜けたようにレイモンドは両手を後ろについていた。恐怖で痛みが消えていた。
「逃げろよ」
開いた足の間に銃弾を撃った。
「・・・わあああぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!」
レイモンドは立ち上がり、脱兎の如く走り出した。が、撃たれている右太腿を抑え跛行しながら懸命に走る。まるで地中から手首が伸び、レイモンドを地獄へと引き釣り込まんとする木の根っこや蔦が彼の行く手を阻む。犇く悪意の森の中に足を獲ら転びそうになるのを、必死に逃げる。その後をアントニオが銃を構えたまま、ゆっくりと追いかける。引き金を引く。銃声と共にレイモンドの周辺の木々に命中する。「ひいぃ!!」レイモンドは頭を庇うかのごとく両手で抱え悲鳴を上げながら、懸命に逃げる。逃げる。逃げる。「こ、殺される!!」汗が滝の様に流れ、目は飛び出しそうなほど剥き出し、呼吸もままならない。心臓が口から出そうな程の恐怖がレイモンドに襲い掛かる。静かな森に、銃声だけが響く。恐怖のあまり、足の激痛を感じなくなる。
「うわああ!!」
レイモンドが木の根っこに躓いて、倒れる。アントニオの草と土とを踏みしめる音が、レイモンドの耳に大音量で響き渡る。恐怖が大牙を剥いて襲い掛かる。
「もう、逃げんの終わり?」
アントニオが口端を釣り上げなら、実に愉快そうに笑う。
「ひぃぃぃぃーーーー!!!」
アントニオに正面を向けたレイモンドが情けない悲鳴を上げた。その悲鳴は小さな生き物達と木々しか聞こえない。
「情けないな・・・」
蔑む。
「お、お願いだーーーーー!!!殺さないでくれーーーー!!」
レイモンドは両手を懸命に振りながら懇願する。
「ルーシーと別れる?」
「ああ!!別れる!!別れるからーーーーーーー!!!」
レイモンドは何度も何度も首を大きく頷く。
「そう・・・」
銃をポケットの中にしまった。レイモンドはゼイゼイ息をしながら、安堵した。
その顔に、衝撃が走った。アントニオがレイモンドの顔を思いっきり叩いた。レイモンドは土の匂いのする地面へと顔をぶつけた。泥と葉っぱが顔につく。
「情けないな・・・。これくらいで、ルーシーを諦めるのかよ?ええ!?」
レイモンドの胸倉を掴み、顔を上げ叩く。レイモンドは悲鳴を上げる。そこにいるのは小さな小さな怯えきった子供。
「俺だったら、例え殺されても、ルーシーを諦めるもんか!!」
再度レイモンドを叩く。叩く。
「た、助けてくれーーーーーーー!!!」
「報いを受けろ!!俺の女に手を出した事をな!!」
レイモンドの顎にアントニオの膝が入る。レイモンドの身体が浮いた。
レイモンドが口から血を吐く。鼻血だらけの顔が地面へとへばりつく。アントニオがポケットから銃を取り出した。銃底でレイモンドの顔を殴る。レイモンドは悲鳴を上げる。
「ルーシーは俺のモノだ!!誰にも渡すかーーーーーー!!!!」
銃底で叩き捲くる。
「助けてくれーーーーーーーー!!!!」
静かな森に、悲鳴が轟く。
アントニオが肩で息をしていた。レイモンドの顔中腫れあがり、血まみれであった。
そのレイモンドの口に銃口を入れた。レイモンドは腫れあがっている目が恐怖で見開く。
「さよなら、お・に・い・さ・ん」
「うーーーーーーー!!!!」
アントニオが引き金を引いた。
銃声と共に、レイモンドの後頭部が弾けた。レイモンドの身体はピクピクしている。その顔に数発、身体にも数発、乱射する。レイモンドの身体は陸に上がった魚のように、その都度飛び跳ねた。弾がなくなる。弾倉を取り替え、もう絶命しているにも関わらず、打ち捲くる。
カチカチ・・・弾がなくなっても、アントニオは引き金を引いたままであった。
アントニオは車へと向かう。かなり下ったので、たどり着くまでかなりかかった。車が見えるその手前に鞄とスコップと斧を置いていた。それを持って又下っていく。レイモンドの許へと辿りつく。周辺を見渡し、抵当な石を見つける。それで、レイモンドの頭を叩き割った。鈍い音を立てる。数回叩きつける。頭はもう原型を止めていなかった。その身体に斧を降り降ろす。返り血がアントニオの降りかかる。数回振り下ろし、身体を分解する。服を脱がせる。その服を黒のゴミ袋に入れていく。そして、スコップで穴を掘り出した。斬り離した死体を入れていく。土を掛ける。動物避けの薬剤を撒く。
近くの座るのに適当な岩に座り、ポケットから煙草を取り出し火をつけた。
「ふーーー・・・・」
大きく吸い込み吐き出す。数回吸い、携帯の灰皿に入れる。そして、近くの川に向った。




「お、久しぶりだな、アントニオ」
夜も更けてきている大学。建物には煌々とまだ灯りが点いている。その校内に居たアントニオに声を掛ける元同級生。
「どうしたんだ?」
「ああ、ちょっとね・・・・」
アントニオが歩いてきた後方には、煙を上げている焼却炉があった。
「久々に飲まないか?」
「ごめん、用事あるから・・・」
アントニオは苦笑して断った。

 

「ルーシー?」
ルーシーの寝室にアントニオが入って来た。ルーシーはまだ眠っていた。アントニオは心配になって、顔を近づける。ちゃんと規則ただしく呼吸をしている。ほっとして、その額にキスをした。
アントニオも自分の寝室に行き、シャワーを浴びて、パジャマに着替え、眠った。

 

 


【31     終】





2010.08.01




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