【30】




ある海辺の近くにある閑静な場所にあるホテルのレストラン。

高級感溢れるレストランのウエイトレスに案内されて、レイモンドがやってきた。
「あちらの窓際の席の方で御座います」
そう言われ、レイモンドは見た。その目が、「?」となる。
そこには、ブロンドの長い髪に薄い紫色のサングラスを掛けたの白いワンピース姿の女が座っていた。手にはレースの手袋をしている。レイモンドが首を傾げながら近づく。
「あの・・・・?」
「僕ですよ」
アントニオがサングラスを少しずらす。
「え?ア、アントニオ君??」
レイモンドは吃驚して目を見開く。アントニオはにっこりして頷く。
「席に座って」
レイモンドは促されるままに、座った。ウェイトレスが注文を訊きに来た。レイモンドと、声音を変えたアントニオが注文をした。アントニオの声は女の声に聞こえた。
「・・・・そ・・・その格好は・・・?」
レイモンドが、恐る恐る訊いてきた。
「ええ、これが、僕のひ・み・つ です」
とおどけて見せる。その仕草も女そのものであった。レイモンドは聊か放心気味である。
「・・・僕、女性になりたかったんです。ずうっとルーシーには言えなくて・・・。だって、こんな僕を育ててくれて・・・・。でも、もう、限界なんです」
俯いて話すアントニオは、本当に綺麗で美しい女性であった。レイモンドは見惚れてしまう。
「・・・・・・・そう・・・だったんだ・・・・」
戸惑いながら言った。
「レイモンドさんも、僕を軽蔑しますか?」
薄い紫のサングラスの奥から、神秘的な目がレイモンドを捉える。一瞬ドキンと胸が高鳴る。
「いや・・・僕の友達にも、ゲイや姓転換した人がいるからね。色々と相談されるよ。ああ、僕は違うけどね?・・・・そうか、・・・・そうか・・・」
とレイモンドは腕組をして頷く。まるで自分自身を納得させるかの如く。
「僕、レイモンドさんとルーシーが結婚する。って聞いて、嬉しかったんです。『ああ、これでルーシーを任せられる』って。僕の秘密を知ってしまったら、彼女はショックを受けると思ったから・・・」
「まあ、少なからず衝撃は受けるとは思うけどね・・・・でも、彼女はそういうのには理解があると思うよ?」
「そうでしょうか?よくテレビとかで、性転換手術を受けた子と親が訣別する・・・と・・・。僕はそう・・・なりたくないです。ルーシーは大切な人だから・・・」
アントニオは俯いた。涙を流していた。丁度その時、ウェイトレスが料理を持ってきた。
「まあ、食べよう、僕も力になるからね?」
レイモンドがチラっとウェイトレスを見ながら焦る。傍から見れば、別れ話をしているカップルに見えなくもない。
「ええ・・・ごめんなさい・・・」
涙を拭ってアントニオとレイモンドは食べ始めた。
二人はゆっくりと食事をした。二人はにこやかに会話も弾んでいた。

食事も済み、二人はテーブルから離れた。「え?」レイモンドは驚く。アントニオが自分の腕に腕を絡ませ、頬を寄せたのである。
「あ・・・あの・・・」
「いいでしょう?駄目?」
甘えた声を出す。
「あ・・・あのね?僕には・・・その・・・」
「解ってますよ。今だけ」
レイモンドは頭に手を置き、戸惑う。が、そのままレジに向かう。傍から見れば恋人同士に見える。
――――――アントニオ君、僕の事を?
内心焦る。
会計を済ませ、レストランを出た。
「すみません、送ってくれますか?」
アントニオが言ってきた。
「え?ここまでどうしたの?」
「タクシー」
アントニオがレイモンドの車の後部座席に座った。
「助手席乗らないの?」
「隣はルーシーのでしょう?」
アントニオはにっこりする。
レストランの駐車場から車を出し、アントニオの指示で道を行く。
暫くして、
「すみません、止めてください」
「ああ・・・・?」
レイモンドは車を止めた。
「どうし・・・」
後ろを振り返ろうとした時、
アントニオがレイモンドの顔にハンドタオルを押し当てた。レイモンドは驚き、抵抗したが、直に意識をなくした。アントニオは後部座席から出て、レイモンドの運転席を開けた。そして、レイモンドを助手席へと追いやる。懐から携帯電話を取り出した。電源を切る。そして、車を発進させた。道はほとんど車が走っていない。
暫くして前方道路脇に四輪駆動の自動車が見えてきた。その車の後ろにつける。
レイモンドを担ぎ、その車に乗せる。そして、ロープで縛る。車から自転車を取り出し、レイモンドの車へと乗せる。そして、レイモンドの車を運転してその場を離れた。
道は閑散としている。行き交う車もない。そういった場所をあえて選んだ。
到着した場所は、波が激しく叩きつける崖であった。逃げ場のない白い飛沫が、上へとせり上がる。車から自転車を取り出し、サイドブレーキを甘くかけ、車から降りる。そして、坂になっている上から、車を押した。車はゆっくりと坂を下って行き、崖から海へと落ちていった。大きな水飛沫を上げて大量の泡を吐きながら、ゆっくりゆっくりと沈んでいく。その海に目掛けて、レイモンドの携帯も投げ捨てた。そしてポケットからあの指輪を出した。それも海へと投げ捨てた。ダイヤモンドに陽の光が反射して、耀いた。白波を立てる海へと吸い込まれた。
「もっといい物を買ってあげるからね」
アントニオは自転車に乗ってその場を去った。
先ほどの道に戻って来たアントニオは、自転車を四輪駆動に乗せ、車に乗り込んだ。レイモンドは眠っている。車を発進させた。




【30     終】




2010.07.11





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