【29】





「ひぁああ!!」

モーテルにジェニーとアントニオが居た。ジェニーの上にアントニオが彼女の両足を自分の肩の上に置き、自分のペニスを根元まで、押し込んでいた。ベッドが壊れるくらい、激しい動きをするアントニオ。ジェニーは悲鳴に近い声を上げていた。
「どうして!?どうして!!どうしてなんだよーーーーーー!!!」
アントニオは泣きながら、ジェニーを壊すくらい抱き続けた。

「・・・・死ぬかと思ったわ・・・」
ふーー・・・と煙草の煙を吐きながら、ベッドの背凭れに背をついているジェニーが言った。
「・・・・ごめん・・・」
シャワーを浴び、肩にタオルをかけてベッドにまるで叱られた子どものように背を丸め座っているアントニオが、小さく、言った。ベッドしかない薄暗い部屋。近くの道路を走行する車のヘッドライトの光が暗い部屋の中を端から端へとアントニオをかすめて、流れていく。
あの後、レイモンドが帰り、ルーシーが寝入ったのを確認してから、家を出た。
「どうしたの?」
「・・・・結婚するって・・・」
「・・・・そう・・・・」
ジェニーが煙を吐いた。さっきまで悲鳴のような媚声が聞こえていた部屋が、今は静まりかえっている。モーテル脇の道路を通る車の音だけが光と一緒に過ぎていくだけ。
その静寂を
「・・・・させるかよ・・・」
アントニオの声が壊した。
ジェニーは、少し目を広げた。
「・・・誰にも、誰にも、誰にも!」
アントニオは行き成り立った。
「ルーシーは俺のものだ!誰にも渡すものか!・・・くっ・・・ははは」
部屋中に響き渡る哄笑。ジェニーは煙草を吸いながらそのアントニオを見ていた。
やっと笑いを止めたアントニオは服を着だした。そして、金をジェニーに渡した。
「多いけど?」
料金の3倍以上の金額をくれた。
「あんたには、世話になったよ。―――――――――もう(・・)来ない(・・・)
「・・・・・・そう・・・・」

 

 

アントニオは大学を中退した。
「執筆活動に専念したい」とのアントニオの言葉に、ルーシーは渋々承諾した。



針葉樹林が両脇を占める人気のない舗装されていない道路の脇に一台の車が停まっていた。前方から、一台の車が現れた。そして、その停まっている車へと近づく。そのすぐ隣で停まった。パサーウインドが開く。サングラスを掛けた男が、茶色の紙袋を窓から先に停まっていた車の主に渡す。それを受け取ったこちらもサングラスの男が、紙袋を渡す。
お互いに紙袋の中を確認する。
「言ってる値段でいいんだぞ?」
呆れたような声。その声はトムであった。
「いいんだよ。世話になってるから」
アントニオの声である。
「弾は7発だ。予備のマガジンが2つだ。足りるか?」
「ああ、大丈夫」
紙袋の中には、オートマチックの拳銃とマガジン(弾倉)が入っていた。
「今度ゆっくり飲もうよ」
アントニオがトムに言う。トムは口端を釣り上げ、静かに首を振った。
「・・・・そうしたいけどな。やめとくよ」
サングラスの奥のアントニオの目が翳る。
「じゃあな、元気でな」
「トムも、・・・気をつけてね」
トムは口端を上げ、手を軽く上げた。パワーウィンドが締まる。が、停まった。
「そうそう、俺の女がお前の小説面白いって言ってたぞ」
「有難う」
窓が閉まった。そして、車が発進した。アントニオの車も発進した。お互いに砂煙を上げ、反対方向へと走って行く。
アントニオの鼻の奥がツンとする。
トムは少年ギャングのヘッドを後輩に譲り、今は2代勢力の一つのマフィアの、この若さで幹部の一員となっていた。



「ふああ・・・・」
寝ぼけ眼のパジャマ姿のルーシーがリビングに降りてきた。いつもどおり髪はボサボサ。
「お疲れ様。どう?仕事は?」
先に朝食を摂っていたアントニオは立ち上がり、ルーシーの分の食事を用意する。
「うん・・・さっき、編集部に送信したから・・・これにて終わり〜〜〜〜」
大きく伸びをする。
「御苦労様」
ルーシーの前に煎れたてのコーヒーを置く。
「有難う」
キッチンでアントニオが料理をしだす。フライパンの上でベーコンの焼ける美味しそうな音と匂いがたち込める。ルーシーも眠気眼でコーヒーを飲む。いつものブレンドコーヒーの仄かな香ばしい香りが、仕事後の疲れきった身体に、優しく流れていく。
「ああ、美味しい」
その言葉を背後に、アントニオは嬉しそうに笑む。
アントニオは両手の皿に、焼きたてのパンとサラダ、焼いたベーコンとスクランブルエッグを持って、ルーシーの前へと置く。
「有難う」
ルーシーはナイフとフォークを持つ。

「ルーシー?」
椅子に凭れかかるように眠っているルーシーの肩を揺する。起きる気配は全然ない。
ルーシーを抱きかかえ、2階の寝室へと運ぶ。
ベッドへと寝かせる。
「ゆっくりお休み、明日(・・)()()まで(・・)・・・」
ルーシーの額にキスをする。そして、ルーシーの左手の薬指からダイヤの婚約指輪を外した。
リビングに戻り、食器を流しに置く。
ルーシーのマグカップを見る。
「分量間違ってないよな・・・」
ルーシーのコーヒーに、睡眠薬を入れていた。


アントニオは自転車の乗って、出て行った。
ルーシーは、ベッドで死んだように、眠っている。

 

 

【29     終】



2010.06.20


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