【21】




「お帰りなさい」

ルーシーがにこやかに出迎える。
「お邪魔してます」
ステファニーが嬉しそうに笑む。
「いらっしゃい、どうしたの?」
アントニオはにこやかに対応した。そして、食卓のテーブルの上にマイバックを置き、中のモノを取り出して、冷蔵庫の中に入れていく。
「今度のダンスパーティー、ステファニーさんの相手の方が、怪我をしたらしくて、行けなくなったそうで。で、貴方にパートナーとしてお誘いに来たんですって」
――――――――デタラメを・・・
二人に背を向けていたアントニオの顔は、不機嫌極まりなかった。冷蔵庫に食材を入れ終え振り返った。その顔は何時もの笑みである。
「そう・・・」
スーシーはソファーから立ち上がりアントニオに近づく。
「ダンスパーティーなんて、貴方何故黙ってたの?」
ルーシーは呆れたように、言う。
「僕そういう賑やかな所、あまり・・・」
「駄目よ!慣れないと。折角だし行きなさい!」
ルーシーは腰に手を置き、少し怒り口調で言う。
そして、
「女の子に恥かかせたら駄目でしょう?」
耳元で囁いた。アントニオは苦笑して、
「いいよ」
とステファニーに笑顔を向けた。
「有難う!」
スタファニーは両手を握ってすごく喜んだ。
「夕食食べていく?帰りは送ってあげるよ」
アントニオは優しく笑んだ。
夕食は、ステファニーがルーシーに学校でのアントニオの事を話す。彼がどんなに素晴らしいかを、力説する。ルーシーは学校でのアントニオの事が聞けて、とても嬉しそうに笑む。ステファニーがルーシーに気に入られようとしているのは、傍から見ても解った。アントニオは伯母を暮らしているのは知っていた。その伯母に頭が上がらない事も。この伯母の機嫌さえとっておけば、アントニオは自分のモノ、と思っていた。アントニオはスタファニーを殴り倒したいのを、懸命に堪えて、終始笑顔であった。
「味はどうかな?」
「すごく美味しいわ!」
ステファニーは満面の笑みであった。
彼女の家まで車で送る最中も、彼女はうきうき気分であった。アントニオは車からステファニーを突き落としたい衝動を、辛うじて堪えていた。
帰宅したアントニオに
「とてもいい子じゃない」
と、ルーシーは笑顔である。
「そう?」
――――――――あばずれだよ?
アントニオは、小さく笑むだけであった。


次の日、
「おい、お前、ステファニーのパートナー引き受けたらしいな?」
クリントがアントニオに喋りかけた。ステファニーは昨日帰ってから携帯で友達に言いふらしていたのである。そして、朝もクラスメイトに言いふらしていた。クラスメイトは羨ましがっていた。
―――――――もう、言いふらしてんのかよ・・・
アントニオの心中穏やかでない。が、
「うん、折れちゃったよ」
にこやかに言った。
学校帰りにルーシーと待ち合わせをして、ダンスパーティー用の服を買いに行った。
「心配してたのよ?貴方今まで女の子と付き合った事ないでしょう?」
ルーシーは本当に嬉しそうに服を選ぶ。
「・・・そんな事ないよ」
アントニオは苦笑する。
「あら?私が知らなかっただけ?」
ルーシーはアントニオに服を差し出し、
「着てみる?」
「うん」


ダンスパーティーまでの日数、スタファニーは何かとアントニオに構う。もう恋人気分であった。アントニオは辛抱強く、我慢した。

ダンスパーティーの日
「ゆっくりしてきていいのよ?何なら朝帰りも許すけど。でも、相手の親御さんに悪い印象だけは残さないでね?」
とコンドームを渡す。
「え?」
アントニオは吃驚する。
「貴方くらいの子は、セックスに興味ある時期だから、仕方ないと思ってるわ」
「ちょっと、僕、彼女の事何とも思ってないけど・・・」
慌ててソレをつき返そうとするアントニオ。ルーシーは人差し指を立ててチッチッと振る。
「その場の雰囲気でそうなっちゃう場合だってあるでしょう?でも、ちゃんとした社会人になるまでは、相手の女の子の事も考えなさいね?」
いつも、いつも口を酸っぱくさせるくらい言い聞かされている。自分の妹がそうだったからであろう。そして、十代の妊娠が増加しているの事が世間では問題になっている。
――――――――変な所で、理解があるな・・・
「・・・解ってるよ」
アントニオは苦笑する。
車に乗って、ステファニーを迎えに行った。
「本日、僭越ながら、ステファニーさんのパートナーとなりました。アントニオ・サザーランドです」
慇懃なアントニオにステファニーの家族は、驚く。端正な顔立ちもそうであるが、身なりもちゃんとしている。好青年な事は間違いない。今まで彼女のボーイフレンドは、鼻や耳、舌にまでピアスをし、腕や顔にまで刺青をしたあまりいい印象がなかったからである。彼女は、あまり素行が宜しくなかった。
「あ・・・いえ、こちらこそ・・・こんな娘ですが、宜しくお願いします」
両親はいつになくどぎまぎして挨拶をした。

「こちらこそ」
アントニオはにっこりする。家の者達はそのアントニオに一瞬で好意を持ってしまった。ステファニーは真っ赤なミニのカジュアルドレスに身を包んで出てきた。
「じゃあね、遅くなるから・・・」
アントニオの腕に自分の腕を絡めて、手を振った。アントニオの車へと乗った。そして、学校の体育館向かった。
「そのドレスとても似合ってるね」
「そう?有難う!」
ステファニーは喜々としていた。
―――――――豚に真珠だな・・・
ミラーボールが耀く、生徒会主催のダンスパーティーは、バンドが派手な音楽を鳴らしてた。その音楽に合わせて所狭しと踊っている連中。ちゃんと保護者や教師も見張り番として参加していた。卒業間近く行われるプロムの予行演習みたいな感じである。
が、一部の学生は、その目を盗んで、陰に隠れて、禁止されているドラック等を服用している連中。体育館の隅っこで、抱き合ってキスしあう連中。中には、裏手又は校舎に入ってセックスしている連中もいる。
 
―――――――気分悪・・・
熱気ムンムンの体育館に、アントニオは、辟易する。
「ね、踊りましょう!」
人を掻き分け、ホール中央へと向い、踊り出す。アントニオは笑って踊るが、内心、嫌々である。クリントンや他の友達も楽しそうに踊っている。ミラーボールの光が、床や壁、踊っている学生に降り注いでいた。
チークタイムになり、二人は寄り添って踊る。
―――――うわ・・・香水くせ〜〜
アントニオはステファニーを突き飛ばしたい衝動を、辛うじて堪える。
―――――降り撒けばいいってもんじゃないんだぞ・・・
益々気分が悪くなってきた。
―――――お前の上から吐いてやろうか・・・
とさえ、思う。
「ねえ、私を付き合わない?」
精一杯の甘い猫なで声で、誘惑気味に囁く。
「・・・・いいよ」
夢にまで見た言葉に、ステファニーはアントニオを見上げた。
「君がこんなに綺麗だとは思わなかった・・・僕の方こそ付き合って欲しい・・・」
夢にまで見た言葉に、ステファニーは目を耀かせた。
「嬉しい!」
ステファニーはアントニオに抱きついた。その耳元にアントニオが囁いた。
「ここ出ない?僕、少し気分が優れないんだけど・・・」
「大丈夫?」
これからが本番という中、犇く体育館の人ごみの割って、二人は早々にそこから去った。
「おい?もう帰るのか?」
クリントンが少し驚いたように声をかけた。その隣には今付き合っている彼女を伴っていた。アントニオは片手を上げる。外にも夜風に涼んでいるカップルが数組居た。
帰りの車中で、
「僕の伯母さん、結構厳しいんだ。あまり遅くなったら怒られるんだよ」
「・・・そうなの・・・」
ステファニーは内心「くそ!」と思った。上手く行ったら、アントニオとセックスしようと思っていたからである。
「君を一旦家に送った後、会わない?抜け出せない?」
思いもかけない誘いに、スタファニーは驚いてアントニオを見た。
「ええ!!抜け出すわ!」
「家族の人達に知られないように、誰にも、友達にも僕とこれから会う事もメールや電話しないでね?もし、伯母さんに知られたら、僕すごく怒れるんだよ。そんな事になったら、君とこれから付き合えないしね。前付き合っていた子が『内緒にしてて』ってお願いしたんだけど、友達に喋っちゃって、それが伯母さんの耳に入って無理やり別れさせられちゃったから・・・」
「まあ!そうなの。ええ!大丈夫よ!絶対に言わないわ!それに私よく抜け出しているから!」
―――――――おいおい・・・まあ、都合がいいか・・・
「じゃあ、君を送った後、僕も一旦帰って抜け出してくるから、1時間後に近くの教会前に・・・」
ステファニーは嬉しそうに何度も何度も頷いた。
「絶対に誰にも言わないでね?メールも電話も」
アントニオは念を押した。ステファニーは何度も何度も頷いた。
余りにも早い帰宅にスタファニーの家族は驚く。
「すみません、僕少し体調が・・・」
と慇懃に詫びた。ステファニーの親はアントニオの心配をした程であった。
「じゃあ、来週学校でね」
「ええ」
アントニオは帰って行った。スタファニーは自分の部屋に戻り、ドレスを急いで脱ぐ。そして、洋服ダンスから服を取り出し、鏡の前で着せがゴッコをし始めた。
アントニオは家に帰った。2階の寝室兼書斎のルーシーの部屋へと行った。
「あら?もう帰ってきたの?」
パソコンで小説を書いていた。アントニオはルーシーの頬に「ただいま」のキスをする。
「うん・・・ちょっと気分が悪くなって・・・彼女には悪いと思ったけど。彼女も承諾してくれたよ。ああ、ちゃんと送って行ったから・・・」
「まあ、大丈夫?」
アントニオの顔を覗き込む。
「うん。少し疲れたから寝るね。ルーシーも仕事ほどほどにね」
と貰ったコンドームを机の上に置いた。
「使わなかったから・・・・」
ルーシーは苦笑する。
「お休み」のキスをして、出て行った。
自分の部屋に行き、部屋に鍵をかける。今まで彼女が部屋に入って来たことはないが、念の為にかける。そして服を脱ぎ、普段着に着替える。事前に用意していた鞄を持って、部屋の窓からルーシーに気取られないように静かに芝生の庭に降り立つ。そして、自転車に乗って出て行った。






【21     終】




2010.01.11



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