【20】





行った先は、繁華街。夜中にも関わらず昼間のように色んな人種がいる。だが、昼間とは違う人種である。抱き合ってキスするカップル。酔っ払って道端で眠っている男。麻薬の売買を平気で道端で行っている売人。そして、娼婦の姿。その幾人もいるある娼婦の一人に声を掛けた。



モーテルにアントニオの車があった。
シャワーの音がしていた。その部屋で、黒髪の女がベッドで裸のまま、煙草をふかしていた。ベッド脇のゴミ箱はテッシュと使用済みの避妊具があった。腰にバスタオルを巻いてタオルで頭を拭きながら、アントニオが出てきた。
女は黒髪と黒い瞳の、どこかルーシーに似ている。
アントニオが頭を拭きながら、ベッドに腰掛けた。
「俺にもくれよ」
女は煙草の箱をアントニオに向けた。そこから1本貰う。女がライターで火をつける。そこに煙草を咥えながら、火とつけた。
身体全身でそれを味わうように、大きく吸い込んだ。そして吐き出した。
「家でも吸ったら?」
「ルーシーには嫌われたくないからね」
「ルーシーだって吸うんでしょう?」
「彼女の前ではいい子でいたいの」
自嘲気味に煙草を吸う。
「今時煙草くらいでどうこう言うの?息が詰まるでしょう?」
「別に」
煙草を吸い、大きく吐き出す。
「どうしたの?今日は・・・」
女は煙草をふかしながら、言った。
「何が?」
「いつもよりも激しかったから・・・」
アントニオは常連であった。女の名はジェミー。本名かどうか定かではない。
「嫌だったか?」
「いいえ」
アントニオは煙草を吸う。
「・・・・俺、どうだ?」
「何が?」
「他の男に比べて、下手?」
「歳よりは上手だと思うけど?」
「・・・40くらいの奴よりは、下手?」
「歳いってるからって、上手いとは限らないわよ」
ジェミーは笑いながら言った。アントニオは少し口元を釣り上げた。
「何、ルーシーに恋人が出来たの?」
「・・・酔っ払って、間違えて俺にキスしてきたよ・・・」
顔に手を置いて、呆れたように、笑った。
「天国から、一気に地獄さ・・・」
笑って、そして、唇を噛んだ。くしゃ と髪の毛を鷲掴みした。
ジェミーは煙草を吸って、静かに、吐いた。

――――――知っていた。

ルーシーとレイモンドがそういった関係だと言う事は――――――
レイモンドのオーデコロンの匂いが時々ルーシーの身体からしていた事も。その都度心臓は抉られ、引き裂かれる思いをしていた。

―――――――ルーシーも大人の女性だ。恋人が居るのは当たり前。

そう自分自身に納得させる為、何度も何度も言い聞かせていた。嫉妬で荒れ狂う胸を何度も何度も抑え込んできた。

「・・・俺、間違ってるよな・・・・まともじゃないよな・・・」

「恋心は、理性で制御出来るものじゃないわよ・・・」
「でも、血が繋がってる・・・」
「世の中、母親と出来てしまった息子や父親と出来た娘、姉弟、兄妹、一杯いるわよ。それに、最初の私達の子孫とされる、アダムとイブだって、イブはアダムの肋骨からできたのよ?クローンとセックスした訳ね。究極の近親婚じゃない。その後生まれた子供達だって、兄妹同士で結婚しているし。まあ、そんな事、私は信じてないけど・・・」
ジェミーはケラケラ笑う。アントニオも薄く笑った。

 

夜が明ける前に、彼は帰って来た。
少し仮眠を取った後、朝食とルーシー分の昼食を作る。

陽の光が明るさを増してきた頃
2階のルーシーの寝室へと行った。ベッドの中の彼女はまだまだ熟睡状態である。
「行ってきます」
眠っているルーシーの頭にキスをする。彼女は気づかず規則正しい寝息をたてていた。

 

ルーシーは昼過ぎに目覚めた。ボサボサ頭のまま、大きな欠伸をしながら、パジャマ姿で、1階のリビングに来た。
テーブルの上には、いつものように、

        昼食は冷蔵庫の中のを電子レンジで暖めてね。

アントニオの置手紙。
「いつもいつも有難う御座います」
ルーシーは頭を下げる。

早速冷蔵庫の中を開けて、ラッピングしてある皿を取り出した。




ダンスパーティーが近づきつつある。アントニオは様々な女子から誘いを受けるが、全て断っていた。
ある日、
スーパーで買い物を済ませて帰宅したアントニオ。頭の中で夕飯の献立を考えながら、玄関を開けた。リビングから話し声が聞こえた。「誰か来てるのか」と自分で作った青色のチェックの柄のマイバックを持って、リビングへと向かう。
「ただいま」
リビングに入った瞬間
アントニオは
思った。


―――――――――殺そう




リビングのソファーに、ルーシーと向かい合わせに座っている、ステファニーが居た。






【20      終】





09.12.18






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