【17】






「このガキがーーーーーー!!!殺してやる!!」

顔が赤く腫れ、血を流し目が充血し完全にいって(・・・)いる(・・)手負いの熊が、アントニオの首をものすごい勢いで絞める。アントニオはダニエルの手を払いのけようともがくが、細身のアントニオとガタイのいいダニエルとでは、体力的にも圧倒的に差があった。アントニオの視界が霞んでくる。
――――――――ルー・・・・シー・・・・・
愛しい人の面影が、脳裏に浮かんだ。
アントニオの身体から力が抜けた。抵抗していた腕が、冷たい汚れたコンクリートに、落ちた。
銃声が轟いた。
重い巨体がアントニオの身体に圧し掛かった。
「おい!?大丈夫か!?」
トムが走ってくる。アントニオはぐったりとしている。上に乗っているダニエルを払い除ける。
「おい!?しっかりしろ!!」
アントニオの顔を叩くが反応がない。呼吸をしていなかった。トムは慌てて人工呼吸をした。口から息を数回送る。
「・・・・・・・・ぅ・・・・ゲホ・・・・・ゴホ・・・・ゴホ・・・」
アントニオは息を吹き返した。激しく咳き込む。
「ふ〜〜・・・良かった・・・」
トムはその場に座り込んだ。アントニオはゆっくりと頭を振る。ぼやける視界で周りを見渡した。
「・・・・・ト・・・ム・・・・?」
視界がはっきりした先に、口元を釣り上げて苦笑している彼が居た。
「どう・・・・して・・・・?」
アントニオは喉を押えながら掠れる声を上げて、上半身を起こした。
「気になってな・・・」
胡座をかきながら、薄く笑う。アントニオは倒れているダニエルを見た。さっきまで自分殺そうとしていた男の屍。呆気ない最期。アントニオは、「面目ない」と言った顔をトムに返した。
「さあ、行けよ。後はやっとく」
アントニオは目を瞬かせて、
「でも・・・」
「大丈夫、ちゃんと解らないようにしといてやるよ。俺は刑務所に入ったら懲役500年以上の刑の持ち主だぞ?一人増えたところで、変わらん・・・この前余分に金貰っただろう?これで帳消しだ」
トムはウインクした。アントニオは心の奥から、熱いモノが込み上げてきた。目が潤んできた。
「おら!ルーシーの許へ帰んな」






「すごいね・・・」
アントニオとルーシーは、新しい家を見に行った。アントニオはぽかんとして言った。彼は首の痣を隠す為、クリーム色のタートルネックの服を着ていた。想像していたのとはあまりにも違う豪華な家に、ただただ、呆然としていた。
「でしょう?まあ、中見て!」
ルーシーはアントニオの腕を掴んで、家の中に招く。家の中も広くて明るい。オフホワイトを基調とした造り。
「すごいけど、思ったよりも安いのよ!私も最初はあまり気乗りしなかっただけどね?」
ルーシーはウキウキ気分である。ルーシーはこういう『お城のような豪邸に住む』事が夢であった。それはアントニオも知っている。
不動産屋と一緒に室内を見て回る。建物は2階建てで、部屋には全部にバスとトイレが付いていた。広いキッチンダイニング。ルームシアター。地下室まであり、かなり広い。そこにもバスとトイレ、キッチンまであった。まあ、言うなれば、『地下シェルター』である。こういった豪邸は結構ジョーク(?)で造ってある。だが、本当に核で汚染されても大丈夫なように空調設備も万全とした造りである。10人住んでもまだ広い。まるでプチホテルのようである。
広い庭には、これまた定番のプールまである。家の周囲にはアラベスク調の鉄格子。等間隔でカメラも設置してある。高級住宅街である。
「大丈夫なの・・・?その・・・殺人事件があったとか、幽霊が出るとか・・・」
アントニオがルーシーの耳元で、手を翳して囁く。
「私も安いから気になって色々調べたわ。一応そういう事はないから。前の持ち主ね、事業に失敗して・・・この家を売りに出したそうで・・・」
と不動産屋を無視して話し出す。その声は最早小声ではなかった。最近巷はかなりの不景気である。それもあり、売りに出した当初よりも半額以下の値段である。お買い得な物件には違いなかった。不動産屋は、咳払いをする。二人は思わず口元に手を置く。
「あ、でも、貴方が嫌なら、違う物件探すけど?」
顎に人差し指を当てて、可愛くルーシーはアントニオを窺い見る。
「ルーシーが良かったら、僕はそれでいいよ?それに、ルーシーがお金を払えなくなったら、僕が(小説で)稼ぐから・・・」
即金とはいかず、やはりローンである。アントニオはウインクする。
「まあ、頼もしい!」
ルーシーはアントニオに抱きついた。アントニオは不動産屋の手前、抱き返したいのを、我慢する。
ルーシーは契約書にサインをした。

 

 

高級ホテルの大広間で、アントニオの授賞式が執り行われていた。トロフィーを手にしたスーツ姿のアントニオは記者のフラッシュの中で、眩しそうに目を細めながら笑顔であった。
「このような素晴らしい賞を頂けるのも、僕をここまで育ててくれた伯母の御蔭です。この賞はその彼女に捧げたいと思います」
ルーシーは来賓席で、ハンカチで涙を押えていた。
授賞作品は、本になり、本屋に平積みにされ、売れ行きは好調であった。



「遊びに来てね」
引越しの日、アン達とお別れをするルーシーとアントニオ。
「うん!アン達も遊びに来てね」
アントニオは、泣いているアンとウィルにキスをした。

 




【17    終】




09.11.27



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