【16】




その日

「知らないわよ!」
アパートの廊下に、ルーシーとダニエルが口論をしていた。
―――――――何だ?
学校から帰ってきたアントニオは、足を止めた。
「そんな事あるものか!!言え!!」
ルーシーの胸倉を掴んだ。
「止めろ!!」
アントニオが割って入る。ダニエルの腕をルーシーから離した。ルーシーを庇うように立ちはだかる。アントニオはダニエルを睨みつける。
「あいつはな、『金を貰ってくる』って言って、出て行ったんだよ。それっきり帰ってこない。携帯も通じない。何かあった事は確かだろうが!!」
ダニエルがルーシーを睨んだ。
―――――――あの女!!誰にも言うなって言ったのに!!
アントニオは握り拳を作った。
「私は知らないわよ!!裁判所から半径100m以内には近づかないよう、命令が下ったのよ!!そんなに心配なら警察にでも行きなさいよ!!」
ルーシーは怒鳴る。
――――――――警察!?
その言葉に、アントニオは心臓を掴まれた。
ルーシーの言葉に、ダニエルは戸惑った。どうやら、この男もあまり警察沙汰にはしたくないらしい。
「これ以上纏わりつくなら、警察に電話しますよ!」
ルーシーが携帯を取り出した。
「ふん!又来るからな」
ダニエルは、分が悪そうに、その場を去った。

「大丈夫?ルーシー・・・」
リビングのソファーに座っているルーシーに、淹れたてのコーヒーを渡す。「ありがとう」ルーシーは受け取った。
一口飲む。緊張していた身体が、解れた。
「・・・・・もう・・・あの子は・・・碌でもない男と・・・」
どう見ても、真っ当な男ではない。ルーシーはカップをテーブルに置くと頭を抱えた。
「今度来たら、迷わず警察に通報しよう・・・」
アントニオはそう言うと、ルーシーの肩を抱いた。
「ええ・・・・」
「夕食、ルーシーの好きな物作るね」
アントニオが立ち上がり、キッチンへと向かった。

ルーシーがベッドへと寝った。アントニオはアパートから出て行った。アパートから少し離れた所で、携帯電話を取り出た。

「ああ、俺。頼みたい事があるんだけど・・・」


街の酒場に17.8歳くらいの3人の少年が入って来た。キョロキョロと店内を見渡す。その視線が停まる。カウンターに熊のようなダニエルが居た。
腕の髑髏を確認して、そのダニエルに声を掛けた。
「何だ?」
「ダニエル・クライアン?」
3人の少年の一人が言った。ダニエルが眉間に皺を寄せた。
「なん・・・!?」
腹部に、周りから見えないように拳銃を突きつけられた。
「一緒に来い」

いつ解体するのだろうか、数年もそこに墓標のように立っている廃墟ビルに、ダニエルが連れてこられた。剥き出しのコンクリートの支柱が均等に立ち並ぶ白と黒の広い広い空間。20名くらいの少年達がダニエルを取り囲んでいた。
「・・・・な・・・・何の用だ・・・?」
熊のような男でも、やはりこれだけの人数の前では、腰が引けていた。
その少年達が、道を開ける。
トムとアントニオが現れた。

「お前・・・!」
ダニエルは目を剥く。
「この男でいいのか?」
トムがアントニオに訊ねる。
「ああ。すごいな、こんなに早く見つかるなんて・・・」
アントニオは感嘆の声を上げた。
「ここら辺では、警察よりも情報網は上だよ」
得意気に片眉を上げる。トムは少年達に、顎で促した。一斉に少年達がダニエルに暴行を始めた。
「うああぁぁぁ!!止めろ!!」
ダニエルは悲鳴を上げて必死に身体を手でガードするが、この人数である。袋叩きにされる。その光景をアントニオは笑みながら見ていた。暗く広いコンクリートの塊にダニエルの悲鳴が反射していた。埃と塵だらけの白いコンクリートの床に、ダニエルの血飛沫が飛び交う。トムがアントニオに煙草を差し出す。それをアントニオは手にし口に咥える。トムがライターに火をつけアントニオの煙草につけた。アントニオは煙草の煙を身体中に吸い込んだ。「ふー・・・」と気持ち良く吐き出す。いい見世物であった。

ダニエルはボロ雑巾になって、血飛沫の跡の冷たい床にへばっていた。
「後は、俺がするよ」
アントニオは手袋を嵌めながら言った。「そうか」とトムはアントニオに銃を渡した。トムたちはその場を去った。
アントニオがうつ伏せ状態のダニエルに近づく。その身体を足蹴りにする。ダニエルが微かな呻き声を上げる。
「馬鹿が!大人しくしてたらいいようなものを・・・。所詮あの女と一緒で【金】だろうが・・・。似た者同士だな・・・」
アントニオが卑下するように言う。
「あの女と一緒の所に逝かせてやるよ!」
銃をダニエルに翳した。
熊の手が、アントニオの足を掴んだ。その拍子にアントニオは声を上げてひっくり返った。危うく甲頭部をコンクリートの床にぶつけるのを、手を付いてなんとか庇った。が、そのアントニオにダニエルが襲い掛かった。反射的に銃をダニエルに向けたが、その銃をすごい力で撥ね退けられた。銃が床を滑って離れた。ダニエルの両手がアントニオの喉を捕らえた。アントニオは目を剥く。
一気に、形勢逆転であった。






【16     終】





09.11.21






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