【12】
  




アントニオが俯いて証言台についた。

「アントニオ、もう怒らないから、一緒に帰りましょう」
スザンヌが最大限の優しい猫なで声で、アントニオに言った。
「静かに。発言を許してません」
判事長がスザンヌに言った。アントニオは全くスザンヌを見なかった。
嘘・偽りを言わないと、アントニオは宣誓をした。
「君は、母親のスザンヌさんに、虐待されていたのかね?」
裁判長が優しく訊ねた。
「してないわ!!」
スザンヌは怒鳴った。
「今度発言したら、退場させますよ」
判事長が言った。
アントニオの身体が、震え出した。証言台に、両手を付いて、ブルブル・・・と傍から見ても、震えが大きくなっていくのが、解った。
「大丈夫だよ?君の証言が必要なんだよ?解るね?」
判事長は労わるように、言った。こういった裁判は過去にも何回か扱っている判事長は、アントニオの態度を把握していた。ルーシーは涙が出そうになる。
「・・・・・・・・・・は・・・・い・・・・」
「やってないわ!!」
スザンヌが飛び出しそうになった身体を、二人の警備員が捕まえた。
「お母さんと、伯母さん。どちらと暮らしたい?」
「・・・・・・・伯母さんです。ルーシーです!」
アントニオは震えている声ではあったが、しっかりと自分の意志を告げた。そして、揺ぎ無い目を裁判長に向けた。
裁判長は頷いた。
裁判長が木槌を叩いた。


「大丈夫ですよ」
帰り、弁護士がルーシー達に笑顔で告げる。



―――――――判決の日


「――――――判決を言い渡します。アントニオ・ルパート・サザーランド君はこのままルーシー・メグ・サザーランドさんを養母とし、スザンヌ・メリル・サザーランドさんの親権を剥奪します。スザンヌ・メリル・サザーランドさんは、今後半径100M以内の、アントニオ・ルパート・サザーランド君及びルーシー・メグ・サザーランドさんへの接近を禁止します。 もし、命令に背いた場合は、最高半年の懲役刑、もしくは、罰金3万ドルに処します――――――――」

その判決にルーシーサイドは歓喜が沸き起こった。スザンヌは唇を噛み締めルーシーサイドを睨みつけた。
裁判長が木槌を叩いた。


法廷の別々の出入り口から、ルーシーの一行とスザンヌとダニエルが出てきた。スザンヌは恨みがましい目で、ルーシーを睨みつける。アントニオは震えていた。そのアントニオをルーシーが抱きしめる。
「・・・・このままでは済まないわよ・・・」
恨みの込めた声をスザンヌは放った。そしてダニエルと一緒にその場を去った。
「大丈夫よ?」
アントニオに優しく囁く。ルーシー達は、反対方向に歩き出した。アントニオは盗み見るように、スザンヌの背中を見ていた。

アントニオとルーシーはホテルのレストランで食事をしていた。

「あのね、前々から考えていたんだけど・・・・」
「うん、何?」
アントニオは顔を上げる。
「家を引っ越そうかと思っているの」
アントニオは少し驚く。
「その・・・学校も変えたいんだけど・・・いいかしら?嫌だったら、止めるけど・・・」
「ううん!引っ越そう!又、ママが来るかもしれないから」
「お友達とも別れるけど・・・」
「大丈夫だよ。新しい学校で友達を作ったらいいし」
――――――それに、ルーシーと一緒が一番だ!!
アントニオは嬉しそうに笑む。ルーシーも笑って頷く。
「いい物件があるのよ。今度見に行く?」
「うん!」

 

二人は久々に我が家に帰ってきた。
――――――その夜

ルーシーの部屋にアントニオが静かに入って来た。ルーシーは疲れているのか、ぐっすりと眠っている。足音を忍ばせて、部屋の隅にあるルーシーの鞄の中を探り、手帳を取り出した。




「ルーシー、今度の休みツーリングに行ってもいいかな?」

アントニオの趣味の一つに、自転車でのツーリングがある。自然豊な道路もあまり舗装されていない道を、マウンテンバイクで走行するのが好きであった。

「あまり人が踏み入れない森に入るとね、緑の匂いがすごく濃いんだ。鳥の囀りや川のせせらぎを聴くと、心が安らいで、すごい開放感に浸れるんだ」
と行く度に、アントニオは嬉しそうにルーシーに話した。ルーシーはいつも嬉しそうに聴き入っていた。

「ええ、私も仕事で遅くなると思うし。でも、充分気を付けてね?スザンヌが大人しくしているとは思えないから・・・」

「解ってるよ」
ルーシーの頬にキスをする。


深夜、アントニオが家から抜け出した。

浮浪者や娼婦があちこちにいる繁華街から少し離れたある地下の薄暗いバー。どう見てもまともでない人が、あちらこちらにいる。辺りにはドラッグの売人や、マリファナや覚せい剤を使っている奴など居た。その匂いで薬をやっていないにも関わらず酔いそうになるほど、空気が淀んでいる。大の大人の男でも近寄らない店である。

「ほい」
隅の立ちテーブルに、茶色の髪の少年が居た。その横に少し年齢が上の、鳶色の髪と黒緑の瞳の少年が居た。
鳶色の少年が、内ポケットから何かを取り出し、す・・・とそれをテーブルに滑らせ、その少年の前に置く。

「へ〜。ちゃんとしてる」
そのカードを手にとる。その声はアントニオであった。いつもの優しい雰囲気は、ない。カツラの所為ばかりではない。
「当たり前だろう。そうじゃないと、直にバレるだろうが・・・」
鳶色の髪の少年はあきれ返るように言った。アントニオが手に入れたのは、運転免許証である。偽装の――――。その免許証の写真には、
()彼の姿が載っていた。
「それと、コレ」
手提げ袋をテーブルの上に置く。アントニオは中を見る。その中には割れないようにエアークッションに包まれた500ccの茶色の瓶が2本入っていた。ラベルからして薬品のようである。
「取り扱いには充分気をつけろよ?」
「ああ、解ってる。有難う」
アントニオはポケットの中から、札束を取り出す。それを鳶色の少年に渡す。その少年はそれを数える。
「多いけど?」
鳶色の少年はにっとする。
「いらないか?」
アントニオはビールを飲む。
「何かあったら、協力するぜ」
「ああ、又宜しくな。トム」
そして、自分の勘定とトムの勘定分を余分に置いて、手提げ袋を持って出て行った。
「あ〜あ・・・折角バイク買おうと思ってたのに・・・」


トムとは、偶然にもこことは違うバーで知り合った。その場の雰囲気とは毛色の違うアントニオに絡む少年達が居た。その場を何となく助けたのが、トムであった。傍から見れば、全くの正反対のように見えるが、どこか共通する部分を、見い出した。
それ以来、時々トムがよく来るこのバーへと来て、一緒に飲んでいた。
この事は、ルーシーは全く知らない。
 


「気を付けてね」
「うん。ちゃんと冷凍庫の中に、食事作ってあるからね」
いつも出かける時には、ルーシー分の食事を作って、冷凍庫に入れている。
「いつも言ってるけど、外食するからいいのよ?」
ルーシーは苦笑する。その頬にアントニオがキスをした。ルーシーが出て行くのを見送った。アントニオは持って行く鞄の中から小瓶を取り出した。以前カウンセラーから貰った精神安定剤である。それを数粒飲んだ。そして、マウンテンバイクの荷台に荷物をセットして、出て行った。

 





【12     終】




09.10.23






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