【11】





「ルーシー!!どうしたの!?」
ホテルに帰ってきたルーシーの首に巻いてある包帯を見て、アントニオが飛んできた。
「ああ、大丈夫よ。お医者さんが大袈裟に包帯を巻いたのよ。ああ鬱陶しい」
ルーシーはあの後、医者に行った。医者に写真と診断書を書いてもらった。

包帯を取り始めた。そこに現れた痣を見て、アントニオは驚愕した。
「・・・・・ママ・・・・?」
絞められたところが青紫色になっている首筋を見て、アントニオは泣きそうな顔をしている。その頭にルーシーが手を置く。
「気にしない。これ(・・)()これ(・・)で、いいから・・・」
アントニオは「?」と不安気な思いとが入り混じった目を向けた。ルーシーはにっこりする。
す・・・
アントニオがルーシーの痣の筋に唇を当てた。薬品の軟膏と匂いが鼻腔と唇につく。ルーシーは吃驚する。
「ちょ・・・」
ルーシーは顔が真っ赤になる。
「・・・ごめんなさい・・・」
涙声であった。ルーシーは苦笑する。アントニオはルーシーをぎゅっと抱きしめる。唇を噛み締める。
―――――――許さない!!
アントニオは烈火の如く心底激昂していた。が、その形相はルーシーには見えない。
ルーシーは小刻みに震えているその頭に手を置いて、
「貴方の所為じゃないわよ」

 

 

次の日
ルーシーの出版社まで、スザンヌは来ていた。
「返しなさいよ!!」
吹き抜けの広いロビーで、昨日の事をまるで反省していないスザンヌがルーシーに怒鳴り散らす。そのキンキン声が響き渡る。その場に居た者達は、「何事?」とばかり遠目で見ながら、通行する。
痣を隠す為に黒のタートルネックを着ているルーシーの横には、レイモンドとモニカが居た。
「貴方と裁判します」
冷たくルーシーが告げた。スザンヌは仰天する。
「・・・な・・・・っ」
両手に握り拳を作り、ブルブル震える。
「連絡先を教えて、裁判所の通知が行くから・・・」
と、義務的に告げ、肩に掛けていた鞄の中から、手帳を取り出す。
「そ、そんな事するもんですか!!あの子の母親は私よ!!」
「来なければ、法的処置で、今度私達の前に現れたら警察に連行してもうらうわ」
ルーシーは冷たく言い放つ。スザンヌの後ろに、ビルの出入口を警備をしている二人の制服警備員が、その動向を窺っていた。

 

 

―――――――数週間後
家庭裁判所で裁判が始まった。

スザンヌは弁護士を雇う金がなく自分一人である。弁護士に依頼をしたが、断れらた。石を投げれば弁護士に当たるとさえ言われるこの国。訴訟問題は日常茶飯事である。が、いざ親権問題、事に虐待をした母親との親権抗争である。虐待規制が厳しく国民感情的にも嫌悪する問題である。こんな母親の弁護を引き受けると言うだけでも弁護士にとってはマイナスイメージである。そして、敗訴になった時にこの女が弁護費用を払えるとは到底思えなかったからである。

傍聴席には、スザンヌの内縁の夫の、口髭を生やしマッチョな両腕には髑髏の刺青した、まるで熊のような体格のダニエルが座っていた。ルーシーは親権問題の専門家の弁護士を雇っていた。
ルーシーは、来たばかりの頃のアントニオの身体を診断した医師を呼んでいた。医師はその当時のアントニオの身体の写真を証拠として提出していた。
「あれは、この子がやったのよ!!」
スザンヌはルーシーを指差して叫んだ。
「私は過去に何回か息子のアントニオとの面会を求めましたが、姉が拒否しました!」
―――――――はあぁ?
ルーシーは、唖然とした。
スザンヌを見る。スザンヌはツンとしている。
―――――――この!!よくもいけしゃあしゃあと!!
今まで、1回もスザンヌはルーシーを訪ねてきた事など有りはしなかった。電話の1本とてない。
今度はルーシーの弁護士が発言した。
「何故、貴方は、息子さんをお姉さんに預けたのですか?」
弁護士が質問する。
「・・・・・生活に困っていたからです・・・・」
「先ほど、貴方はアントニオ君との面会を求めた。と言われましたが、いつ頃ですか?」
「・・・・はっきりとは覚えていません・・・・」
「今回、貴方は、アントニオ君の高校まで行かれましたね」
「はい。自宅だと姉が会わせてくれないと思ったからです」
「――――――・・・そうですか。・・・では、何故過去、アントニオ君の小学校、中学校に行かれなかったのですか?」
「・・・・それは・・・、場所が分からなかったからです・・・」
「変ですね。ルーシーさんの地区からだと、どこの小学校や中学校に通っているかは、解りますが?貴方もその学校へ通学していたでしょう?」
スザンヌは俯いた。
「貴方には内縁関係の男性が居られますが、貴方とその彼は仕事をしていますか?」
「・・・・してます・・・」
「そうですか?調べましたら、貴方と内縁の御主人は3ヶ月近く決まった仕事をしていらっしゃらないご様子ですが?」
スザンヌの身辺は調査済みである。
「・・・・・・・・」
スザンヌは唇を噛む。
「それで、どうやって息子さんと暮らされるおつもりですか?」
「こ、これから、仕事を探します!」
「そうまでして息子さんと暮らしたいのですか?」
「息子です!私がお腹を痛めて産んだ子です!一緒に暮らしたいと思うのは当然でしょう!」
スザンヌはことさら強調した。スザンヌの嘘八百の言動に、ルーシーは心中怒り狂っていた。膝の上に置いていた両手を握り締める。
「―――――息子さんが、賞を受賞されたのを知ったから、迎えに来たのではないのですか?」
「いいえ!違います!」
声を荒げる。
「裁判長」
弁護士が発言した。
「これをお聞き下さい」
録音機を取り出した。そこにマイクを近づけた。再生ボタンを押した。
《「今まで、何の連絡も寄越さなかったくせに・・・」》
法廷に音声が響き渡る。スザンヌは仰天した。
――――――――あの時の会話であった。
「あ、あんたいつの間に!!」
スザンヌは怒鳴った。
「静かに」
判事が冷たく言った。
《「悪かったと思っているわよ。だから来たんでしょう!返しなさいよ!!」》
《「嫌よ」》
《「なによ!!あんたは充分に稼いでるでしょう!!あの子の稼ぎまで横取りするの!!」》
《「・・・本音が出たわね」》
《「いいじゃない!!貴方だって自由になりたいでしょう!!返しなさいよ!!」》
《「あの子が、あんたを怖がっているのが解らないの!!」》
《「あの子は大人しい子だったわ!!あんたがあの子をそうさせたんでしょうが!!」》
《「あんたが、虐待したからあの子はそうなったのよ!!ここへ連れてきた時、あの子の身体中のあった痣はなによ!!まさか『転んだ』なんて言う訳じゃないわよね?」》
《「煩い!!あれは躾よ!!母親は私よ!!さっさと返せ!!アントニオはどこよ!!」》
《「あんたには、絶対に言わないし、渡さないわ!!」》
《「このーーーーーーーーー!!」》
二人の倒れる音がした。
弁護士が停止ボタンを押した。
「この後、ルーシーさんはそこにいるスザンヌさんに首を絞められました。これがその時医師が撮影した写真です」
と裁判長に写真と診断書を持って行く。ルーシーは取材する時のクセで、いつもICレコーダーを持ち歩いていたのである。
「作り話よ!!」
スザンヌが怒りに身体を震わせながら、裁判長に怒鳴った。
弁護士はそんなスザンヌを無視して、
「お隣の奥様が駆けつけて来られて、ルーシーさんは難を逃れました。もし、お隣の奥様が駆けつけなければ、死亡していたかもしれません。お隣の奥様を証人として呼んでおります。―――――――それに、先ほどのスザンヌさんのお話ではルーシーさんを訪ねたとか。そのようなお話は一切聞けませんでした」
「みんなグルよ!!」
スザンヌは懇願するように、裁判長を見る。
「この件に関しましては、ルーシーさんは告訴をしないと言っておられます」
弁護士はスザンヌを冷たく見る。
「――――ですが、今平穏に暮らしているアントニオ君をスザンヌさんに渡すと、又、昔のような酷い仕打ちを受ける可能性は今の状況から察せられると存じます。―――――そして、このテープでもお察しの通り、スザンヌさんはアントニオ君の賞金が目的で来たのは、明白です!」
弁護士が語尾を強めた。弁護人は判事長に礼を述べて、着席した。
「アントニオ・ルパート・サザーランド君を証言台に」
判事長が告げた。





【11    終】





09.10.18




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