資料320 『舎密局必携』巻三附録「撮形術」(ひらがな・読み仮名付き)



  
                  

      『舎密局必携』巻三 附録「撮形術」  

堀江公肅 閲
上野彦馬 抄訳

 
          

           ※  原文の片仮名表記を、平仮名に直してあります。
                   また、引用者が付けた読み仮名は、現代仮名遣いにしてあります。



       撮形術 ポトガラヒー

 

 

 

 

(按(あんずるに))撮影術の 皇国に伝(つたわ)る、茲(ここ)に数年、四方(よも)の君子争(あらそっ)て其(その)術を学ぶ者、又鮮(すく)なからず。惜(おし)む、器械の工(たくみ)、製薬の術、未(いま)だ精巧を究(きわ)めざるを。而(しか)して製薬の業(わざ)は舎密家(セイミか)の管轄する所、故に此(この)書上梓(じょうし)に臨み、撮影術を附録するは、敢(あえ)て是(こ)れを以て、此(この)術を詳(つまびらか)にすと謂(いう)に非(あら)ず。徒(ただ)(その)(おおむね)を挙げ、須要(しゅよう)薬材の名標を題するのみ。
○沃度剝篤亜叟母
(ヨードポットアシュム)(その)他の諸剤塩類は、大率(おおかた)中篇に散出せり。

 

 

 

第二十八図は一個の玉鏡(レンズ)にして土地の形勢人家等ヲ摸写するに供し、第二十九図は二個玉鏡(レンズ)にして肖像を写すに供(きょう)す。而(しか)して第三十図は「ステレウスコープ」に採用する者なり。
『舍密局必携』巻三附録撮形術第30図『舍密局必携』巻三附録撮形術第28・29図
『舍密局必携』巻三附録撮形術第32図『舍密局必携』巻三附録撮形術第31図
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第一 順次整備及び装置照準
先づ玉鏡筥子
(レンズばこ)、及び玻璃板筥子(ガラスいたばこ)を取り出(いだ)し、爾后(じご)
撮影器を三弗多(フート)の処(ところ)に置き、肖像若(も)しくは地景を写すの度(たび)に随ひ、玉鏡(レンズ)の一(いつ)を以て、撮影器に装置す。(この)(わざ)老煉せんと欲せば、地形若(もし)くは家屋を以て、始むるに如(し)かず。
撮影器の後面に、無沢玻璃板(むたくガラスいた)を挿入し第三十一図(ホ)の部玉鏡(レンズ)蓋子(ふた)を取り除き第二十九図(ホ)の部撮影器の運転部分を伸縮し、第三十一図(ヘ)(ペ)の部以て無沢玻璃板上(むたくガラスいたじょう)、肖像を(あらわ)さしむ。此(この)(のち)黒色の綿布を頭に蔽(おお)ひ、密(ひそか)玉鏡(レンズ)度を加減し、物影(ぶつえい)明亮(めいりょう)尖鋭(せんえい)なる肖像、現出するを窺(うかが)ふ。○撮影器内に、日光の漏射(ろうしゃ)するを禁ず。
第二 玻璃板(ガラスいた)を洗滌する法
細意
(さいい)玻璃板(ガラスいた)を以て、紙上或(あるい)は毛布上、扁平に置き、是(こ)れに少許(わずか)の磠砂精(サルモヤックケ゜ースト)を亜爾箇耳(アルコール)と共に滴(たら)し、束綿(たばねわた)を以て其(その)面上を諸方向に琢磨(たくま)し、以て汚点なきに至ると雖(いえども)、尚(なお)毎回少許(わずか)の亜爾箇耳(アルコール)を滴(たら)し、清潔の確徴(かくちょう)を得(う)べし。是(こ)れがために、呼吸気(こきゅうき)を板上に吹き、一線の汚点も見へざるを良(よし)とす。
(さ)きに採用したる玻璃板(ガラスいた)は、二十四小時間、
剝篤亜斯(ポットアシュム)水の溶液に浸(ひた)し、其(その)(のち)清水を以て毎回洗灌(せんかん)し、爾后(じご)同上の法を以て、清浄ならしむ。
第三 格羅細穏(コロジオン)を玻璃板(ガラスいた)に注ぎ蔽(おお)ふ法
板上
(ばんじょう)格羅細穏(コロジオン)を蔽ふには、日光の弱きを択(えら)び強きを忌(い)む。○燭光(しょっこう)を用ゆるときは、細心(さいしん)従事せずんばあるべからず。如何(いか)んとなれば、格羅細穏(コロジオン)内の依的爾(エーテル)既に燭炎(しょくえん)の少距離に於て其(その)炎を引き焚起(ふんき)すればなり。○格羅細穏(コロジオン)を一斉に蔽(おお)ふことは、老煉を要す。故に後嗣開載(こうし・かいさい)するが如く、従事せんことを要す。
毛筆を以て玻璃板上
(ガラスいたじょう)の塵埃(じんあい)を掃除し、此(この)隅角(すみかど)を左手の拇(おやゆび)と、指間(しかん)とに支持し、爰(ここ)に於て全板を蔽ふに須要(しゅよう)適量の格羅細穩(コロジオン)を以て、板の上方より注ぎ始む。○剰余(じょうよ)の分は瞬時(しゅんじ)壜中(びんちゅう)に容(い)れ、固封(こふう)すべし。次の図に參考すべし。
『舍密局必携』巻三附録撮形術第33図
按ずるに当今(とうこん)消極像板には格魯細穏(コロジオン)に沃陳(ヨジュム)剤を和して玻璃(ガラス)板上に注ぎ操作す。盖(けだ)し毎回の実験を経(へ)(その)術進奥(しんおう)したる徴(しるし)にして、此(この)法を用(もちう)る時は像影緻密其(その)他の所在澄明(ちょうめい)なること格魯細穏(コロジオン)の右に出(いず)る者なし。昔時(せきじ)は紙に蝋油等を塗りて透明ならしむ。然(しか)れども其(その)纎維透明を妨ぐるの病(へい)を免れず。因(よっ)て蛋清(たんせい)(あるい)は格魯細穏(コロジオン)を用ゆるに至る。然(しか)れども復(ま)た蛋清(たんせい)は乾燥すること遲(おそき)の失(しつ)あり。余、甞(かつ)て蛋清に沃陳(ヨジュム)材を和して玻璃(ガラス)板上に注ぎ、之(これ)を暗所に乾(かわか)して後(の)ち、常法を以て試みしに、光線に感ずること敏捷且(かつ)鮮明なれども、次亜硫酸曹達を以て洗浄する時動(やや)もすれば脱剝(だっぱく)するの恐(おそれ)あり。○格魯細穏(コロジオン)、来舶の品は勿論、自製の者と雖(いえども)(はなは)だ高価なり。因(よっ)て蛋清を是(こ)れに代用して確徴を得んため、他日復(ま)た之(これ)を試(こころみる)こと毎回、而(しか)して其(その)(うれい)は剝脱のみなるを以て、熟考するに全く銀液の醇薄(じゅんぱく)に関渉(かんしょう)す。
格羅細穏
(コロジオン)既に、玻璃(ガラス)板より滴流(てきりゅう)せざるに至るや、第四号の銀液採用に経階(けいかい)すべし。
第四号 銀液を用(もちい)て光線に感じ易(やす)からしむる法
(この)操作は日光の外にして、所謂(いわゆる)撮影術所属の暗室内に在つて、光線弱き蝋燭若(も)しくは燭光を用ゆべし。銀液製法は、百分の清雨水、或(あるい)は同量の淡河水、及び七分の消酸銀を以てす。
(この)溶液は、壜(びん)に容(い)れ、再び之を箱中に納め、居恒(きょこう)密封して、暗黒ならしむるを要す。
銀液既に成りて、澄明
(ちょうめい)に至らば、之(これ)を第三十四図の如き「エラスチカゴム」にて製せる、直立箱に注入し、玻璃(ガラス)を鈎(かぎ)第三十五図に保置す。此(この)時、格羅細穏(コロジオン)をヲ蔽布(へいふ)せる面を以て、箱の斜面に向けつつ挿入す。○格羅細穏(コロジオン)の膜は、銀に接して、濁色を帯び、油様の線を顕(あら)はす。
『舍密局必携』巻三附録撮形術第35図『舍密局必携』巻三附録撮形術第34図 
(かぎ)を以て一二回上下し、以て格羅細穏(コロジオン)の感動を進ましむ。○格羅細穏(コロジオン)に一斉白色「パールムールアクチフ」を与へしむるには、二分時間乃至(ないし)三分時間を以て足れりとす。斯(かく)の如くする時は、舍密力徳(セイミりきとく)により、沃陳(ヨジュム)銀を形(かたち)どる。○注意しつつ、玻璃板(ガラスいた)を箱より引き揚げ、一二秒時間其(その)剰液(じょうえき)を箱中に滴落(てきらく)し、其后(そののち)細意(さいい)以て之(こ)れを玻璃匡(ガラスばこ)第三十六図内に納む。須(すべか)らく格羅細穏(コロジオン)の面位を以て、前方に致し、玉鏡(レンズ)に方向すべし。
『舍密局必携』巻三附録撮形術第37図『舍密局必携』巻三附録撮形術第36図
玻璃匡子
(ガラスばこ)(ご)とに托出(たくしゅつ)すべき内匡子(うちばこ)第三十七図を具(ぐ)す。匡子内玻璃板(はこないガラスいた)を納めたる后(のち)は、之(これ)を保持するに、能く注意して、其(その)所向(むくところ)を正しくすべし。若(も)し否(しか)らざる時は、銀液逆流して、此彼(これかれ)の面位若(も)しくは脇方(わきかた)に汚點を顕(あら)はし、格羅細穏(コロジオン)の膜に、線を生ずる患(うれい)あり。
(かく)の如く操作せる玻璃板(ガラスいた)は、直ちに撮影鏡器内の無沢玻璃板(むたくガラスいた)に代へて挿入し、第五号の所業(しょぎょう)に経階(けいかい)すべし。
第五号 物影反射光線感動のため暗黒装置
玉鏡
(レンズ)の蓋(ふた)を密閉し、玻璃匡子(ガラスばこ)の挿蓋(さしぶた)を高く引き揚げ、爾后(じご)(これ)を鏡器上に曲寄(まげよ)す。○爰(ここ)に於て注意しつつ玉鏡(レンズ)の蓋を解放し、光線の正(ま)さに玉鏡(レンズ)を貫通して、格羅細穏膜(コロジオンまく)に射(さ)し、恰(あたか)も前(さ)きに無沢玻璃板上(むたくガラスいたじょう)に見るが如き、像影を写さしむ。○斯(かく)の如く光線に感ぜしむる時間は、太(はなは)だ暫時(ざんじ)にして、地景家屋の如きは、通常八秒時より、四十秒時迄を以て足れりとす。玉鏡(レンズ)の大にして、重復なる者、兼(かね)て地景家屋を写し得(う)べき、内匡子(うちばこ)を具(そな)ふる者は、其(その)操作時間、前に比(ひ)すれば速(すみやか)なり。而(しか)して時宜(じぎ)により、十秒時乃至(ないし)十二秒時以上を要することあり。
光線幾多
(あまた)の強力あり。操作幾多(あまた)の速さなるも、格羅細穏(コロジオン)及び銀液の種類により、遅速に感動を起(おこ)す、復(ま)た著(いちじ)るし。○適時間(てきじかん)を実験発明するは、撮影術に於て、最も冀望(きぼう)する事件なり。
光線の感動を受くる、至れりと察せば、玉鏡
(レンズ)の蓋(ふた)を密閉し、挿蓋(さしぶた)を再び挿入すべし。○爰(ここ)に於て玻璃匡子(ガラスばこ)を直立して、保持しつつ暗室に搬(うつ)し、第六号の操作、即ち像影を顕(あらわ)す所業(しょぎょう)に経階(けいかい)す。
第六号 肖像を顕(あらわ)すこと
光暉(こうき)弱き蝋燭火(ろうそくび)、若(も)しくは燭光の側(かたわら)に至り、匡子(はこ)より玻璃板(ガラスいた)を出(いだ)し、像影を顕(あらわ)さんがため、格羅細穏(コロジオン)の面を上方に向く。此(この)時未(いま)だ像影現出せず。○此(この)像影を顕(あらわ)すに、二法あり。一(いつ)は硫酸鉄を用ひ、一(いつ)は没食酸を用ゆ。○鉄剤を用ゆる時は、像影現出すること、太(はなは)だ疾速(しっそく)容易なれども、没食酸を用ゆるが如く、其(その)図鮮明ならず。
 ○鉄液の法
四十微古窒
(イクチー)の硫酸鉄と、四百微古窒(イクチー)の水より製し、之(これ)に加(くわう)るに、八微古窒(イクチー)の醋酸を以てす。但(ただ)し此(この)剤は是(こ)れが為に、所属の度量器、第三十八図の如き者を用ひ量るべし。而(しか)して又之(こ)れに加(くわう)るに硫酸十滴を以てす。○此(この)溶液を扁平の鉢第三十九図に注ぎ、玻璃板(ガラスいた)の格羅細穏(コロジオン)面を上になし、慎意(しんい)しつつ鉢内へ容(い)る。斯(かく)の如くする時は、三十秒時を歴(へ)て、像影現出す。○鉢より玻璃板(ガラスいた)を取り出(いだ)し、其(その)中央に清水を注ぎ、諸方向に流し洗滌す。
『舍密局必携』巻三附録撮形術第39図『舍密局必携』巻三附録撮形術第38図
(この)所業最も注意して、格羅細穏(コロジオン)面の破裂するを防ぐべし。○爰(ここ)に於て、此(この)図を瞬間時、日影(ひかげ)に向(むかい)て伺ふべし。是(こ)れ即ち消極像影(ネガチーフベールト)にして天部は黒色、陰影部は透明なる如く、互(たがい)に反対の者となる。
第七号 得(う)るところの肖像をして再び光線に感動せしめざる法
(この)(わざ)(ま)た宜しく弱き日光、若(も)しくは蝋燭火を用ひて行ふべし。
百微古窒
(イクチー)の次亜硫酸曹達(オンドルズウァーフェリフシュールソーダ)を、五百微古窒(イクチー)の水にて溶(とか)し、之(こ)れを「エラスチカコム」にて製せる、箱第四十図に注ぎ、得(う)るところの玻璃板上(ガラスいたじょう)の図、其(その)湿気あるに乗じ、格羅細穏(コロジオン)面を上方になしつつ、此(この)箱中に入(い)る。
『舍密局必携』巻三附録撮形術第40図
(この)溶液は沃陳銀を奪ひ一二分時の後は、悉(ことごと)く白色となり、其(その)(の)ち黒色に変ず。○箱中より玻璃板(ガラスいた)を取り出(いだ)し、清水にて之(こ)れを洗滌すること、上に記載するが如し。終(つい)に之(こ)れを斜(ななめ)にし、壁へ凭依(もたせよせ)乾燥す。○既に乾燥する時は、後嗣開載(こうしかいさい)するが如き、積極撮影術に進奥(しんおう)す。第八号
 
○没食酸を用ひ像影を顕(あら)はさしむる法
(この)(わざ)も復(ま)た光線弱き蝋燭、若(も)しくは燭光を採用す。一微古窒(イクチー)の没食酸(ガルノートシュール)を三百微古窒(イクチー)の水に溶(とか)し、之(こ)れに三十微古窒(イクチー)の醋酸を加ふ。○此(この)溶液は、暗所に於て僅(わず)かに四日より、五日の間ならでは、貯へ置くこと能はず。○此(この)故に小量に製するを良(よし)とす。其(その)法、二粒の没食酸、六微古窒(イクチー)の醋酸と、六十微古窒(イクチー)の水を以てす。○此(この)溶液を少許(わずか)づつ、玻璃板(ガラスいた)上に注ぐ。但(ただ)し玻璃板(ガラスいた)は、左手にて水平に持つべし。○暫(しばらく)あつて像影現出す。爰(ここ)に於て、再び玻璃板上の溶液を還注(かんちゅう)し、直ちに二三滴の銀液を加へ、亦(また)再び板上に注ぐ。須(すべか)らく注意して旋転(せんてん)し、板面の所在、蔽(おお)ひ至らざる処(ところ)なかるべし。○像影(ぞうえい)赤色を帯(おぶ)る乎(か)、又は茶褐色を帯(おぶ)る時は、久(ひさし)きに過(すぐ)るの徴(しるし)とす。復(ま)た像影著(いちじる)しく現出すべき者なれども、其(その)現出明著(めいちょ)ならざる者は、早きに過(すぐ)るの徴(しるし)とす。○斯(かく)の如き期(ご)に望<ママ>まば、清水を以て洗滌したる后(のち)、再び其(その)格羅細穏(コロジオン)面に、少許(わずか)の銀液を滴(てき)したる新鮮の没食酸を注ぐべし。○水を以て洗滌したる后(のち)は、上に説示(せつじ)したると同法にて、次亜硫酸曹達を用ひ、洗滌乾燥す。
第八号 格羅細穏(コロジオン)を用ひ、玻璃(ガラス)板上に得(う)るところの像影を以て、紙上に発兌(はつだ)する法
(う)るところの消極玻璃(ガラス)像は、之(これ)を紙上に写し、積極像(ホスチーフベールド)となすを要す。
数多
(あまた)の発兌(アフドリュック)を行(おこなわ)んと欲せば、消極玻璃(ガラス)像に仮漆(フェルニス)を布(し)き、以て格羅細穏(コロジオン)面の、損ずるを防ぐ。
(この)法を行はんと欲せば、次に示す仮漆(フェルニス)を以て、恰(あたか)も格羅細穏(コロジオン)を以て、玻璃(ガラス)板上に注ぐが如くす。○仮漆(フェルニス)を注ぎたる后(のち)、玻璃(ガラス)板より之(これ)を漏滴(ろうてき)し、乾燥せしむ。
 ○仮漆
(フェルニス)の法
    百微古窒
(イクチー) 即百拇(ドイム)立方 亜爾箇耳(アルコール)
    八微古窒
(イクチー)      ゴムラック
    一微古窒
(イクチー)      サンダラキ
右溶解したる后
(のち)、汚物沈澱して、其(その)液澄明(ちょうめい)になる、之(これ)を清浄なる壜(びん)に貯(たくわ)ふ。若(も)し沈澱せざる時は、漉紙(こしがみ)を以て篩過(しか)すべし。此(この)時注意して、仮漆(フェルニス)を同所に二回、触れしむること勿(なか)れ。
 ○積極紙製法
(この)製法は滑(なめらか)なる積極紙に、薄く塩酸銀を布(し)く者なり。是(こ)れがために、溶液を製する、左の法を以てす。
 百分
  水
 五分   磠砂
(ろしゃ)又は同量の食塩を代用す
(この)溶液を四線、若(も)しくは五線の高さより、扁平の鉢に注ぎ、所謂(いわゆる)積極紙を以て適宜の大(おおき)さに截(き)り浮(うか)ばしむ。紙の滑(なめらか)なる面を以て液の方に浸すべし。○五分時の后(のち)、紙を塩液槽より取り出(いだ)し、其(その)隅角(すみかど)を懸(か)け乾燥す。○滴下(てきか)乾燥を進ましめんため、下辺の隅角(すみかど)より、小切せる漉紙(こしがみ)を以て受く。○此(この)操作は、日光になすを禁ぜず。而(しか)して斯(かく)の如く塩剤を施(ほどこ)せる紙は、塵埃(じんあい)湿気を防ぎ、一月間宜しく貯(たくわ)ふべし。
(この)紙は「パピールサーレ」と名(なづ)くる、筥子(はこ)内に納め置く。若(も)し悉(ことごと)く之(こ)れを採用せば、復(ま)た同上の法を以て積極紙を製すべし。
次に示す事件は暗室に在
(あり)て、蝋燭火を採用し、所業す。
  三十微古窒
(イクチー) 硝酸銀
  二百微古窒
(イクチー) 水
右溶液となす。○之
(こ)れを扁平なる瓷製(かめせい・いしやきせい)の鉢に注ぎ、塩剤を施せる紙の表面を下に向け、浮(うか)ばしむ。
(ここ)に於て、紙中に塩酸銀を形どる。○紙を浮べ置くの時間は、應(ま)さに五分時間なるべし。而(しか)して后(のち)乾燥せしむること、上に記載したると同轍(どうてつ)なり。○此(この)所業(しょぎょう)(ま)た暗室に在(あり)てなすべし。○銀剤を施せる紙は、暗所にあると雖(いえども)、暖気のために、茶褐色に変じ、廃物となるがゆへ、僅(わず)かに暫時(ざんじ)(たくわ)ふことを得(う)
『舍密局必携』巻三附録撮形術第41図
「コピールラーム」
第四十一図を取り、其(その)(ふた)を放(はな)ち、其(その)底をなす厚玻璃板(あつガラスいた)を掃清(そうせい)し、此(この)上に消極玻璃板(ガラスいた)の玻璃面(ガラスめん)を置く。○塩酸銀を形(かたち)どれる紙の表面を以て、玻璃板(ガラスいた)の格羅細穏(コロジオン)面上に置き、此(この)上に蓋(ふた)を蔽ひ、再び「ラット」発条(バネ)を具せる条板を云(いう)固定す○斯(かく)の如くする時は、発条(フェール)のために其(その)紙、格羅細穏(コロジオン)上に圧迫され、扁着(へんちゃく)す。○此(この)「コピールラーム」を戸外に搬(うつ)し、玻璃面(ガラスめん)を以て、青天若(も)しくは日光に向(むか)ふ。
暫時
(ざんじ)(かく)の如くし置く時は、白色塩酸銀は、光線の匡中(きょうちゅう)に射入(しゃにゅう)する強弱に随ひ、容易帯色(たいしょく)す。○爰(ここ)に於て、今應(ま)さに積極像影を形(かたち)どり、晷(ひかげ・(注)日の光)(か)つ光線を反射して、物影忽然(こつぜん)として、天然の本相を顕(あらわ)す。
四分時若
(も)しくは五分時の后(のち)「コピールラーム」を暗室に搬(うつ)し、光線の感觸至極(しごく)なる歟(か)を検査せんがため、其(その)紙弁(しべん)の一端を開き伺ふ。○若(も)し夫(そ)れ曇影(どんえい)の処、緑色様に帯色(たいしょく)し、白色の地、微赤色を帯(お)ぶ時は、像影(ぞうえい)(ま)さに鮮明なるの徴(しるし)とす。○若(も)し復(ま)た斯(かく)の如くならざる時は、「コピールラーム」を元の如く整復し、光線に向(むか)ふ。○諸像影悉(ことごと)く同等の度を得(う)るを要せず。唯(ただ)(その)美味は規律の因(よっ)て示すところなり。○像影其(その)適宜なる度を得(う)る時は、暗室に在(あり)て「コピールラーム」より取り出(いだ)し、清水を填(み)てる槽(おけ)に投じ、以て剰余の銀を溶解せしむ。○爰(ここ)に於て像影を居恒(きょこう)暗室に在(あり)て操作す。一分の次亜硫酸曹達と、五分の水より製せる、溶液に浸(ひた)し、十分時乃至(ないし)二十分時に至らしむ。復(ま)た紙を日光に向けて伺ひ、澄明(ちょうめい)に至るをまつ。○此后(こののち)暗室の外に在(あり)て、像影を多分の水に毎回洗滌し、而(しか)して五時乃至(ないし)六時間清水に浸して、一時毎(ご)とに転回し、以て妨害たる曹達塩を脱せしむ。○爰(ここ)に於て懸乾(けんかん)し、爾后(じご)適宜に截切(さいせつ)し、護謨(ゴム)を以て白筥(しろばこ)に綴附(ていふ)し、光沢を与へんがため之(これ)を搾出(さくしゅつ)す。之(これ)を全成の者とす。○色分(いろわけ)をして、活潑ならしめんため、蝋を塗ることあり。佛朗察(フランス)に於ては專(もっぱ)ら此(この)法を行ひ和蘭(オランダ)に於ても、通常此(この)法を採用す。○其(その)法、火上徐々に少許(わずか)の白蝋を熔解し、是(こ)れに適量の老賢垤爾(ラヘンデル)油を注ぐ。(も)し止むを得ざる時は、帝列並丁油を代用す。(こ)れ蝋の温と、固さを保存し、指を以て延暢(えんちょう)し、易(やす)からしめんためなり。○此(この)蝋の少許(わずか)を、指にて像影紙上に屑糸(くずいと)(あるい)は屑麻(くずあさ)を以て徐々に圧拍(あっぱく)し、沢色(つや)の出(いず)る迠(まで)摩擦す。上文開載(じょうぶん・かいさい)したる操作は、地景家屋の写真に適当すと雖(いえども)、肖像に於(おい)ては、未(いま)だ清美を尽(つく)さず。如何(いか)んとなれば、其(その)色、茶褐色若(も)しくは黒褐色なればなり。此(この)故に肖像に於(おい)ては、青黒色にして、澄明色(ちょうめいしょく)を得(え)せしめんことを要す。○其(その)法、次に記載するが如し。
像影を水より出
(いだ)し、次亜硫酸曹達の溶液に代へ、少許(わずか)の金液を注げる槽中に投入す。此(この)金液は、一微古窒(イクチー)の塩酸金と、五百微古窒(イクチー)の水、及び四微古窒(イクチー)の次亜硫酸曹達と五百微古窒(イクチー)の水より製せる者なり。○第一溶液、即ち塩酸金溶液は暗所に貯ふべし。○此(この)溶液を混和するには、暗所に於て次法に随ひ、今採用せんと欲する半時前、或(あるい)は一時前に製し置くを要す。○目度器に、適宜なる分量の次亜硫酸曹達の溶液を填(うめ)て、之(これ)を瓷槽(かわらおけ)に注ぎ、其后(そののち)徐々に攪動(かくどう)しつつ、同量の金液を加ふ。○慎(つつしん)で次亜硫酸曹達の溶液を金液中に注ぐこと勿(なか)れ。若(も)し然(しか)する時は、其(その)溶液直ちに黒色となる。○暗所に於て此(この)混液中に、積極像影紙を四分時間、若(も)しくは五分時間放置し、金液の陸続(りくぞく)たる舍密力徳(セイミりきとく)を保たしむ。爰(ここ)に於て其(その)色青黒色に、紫黒を帯(お)ぶ者となる。○此(この)法を行ふ久(ひさし)きに過ぐべからず。若(も)し過久(かきゅう)なる時は、美色を損ず。
佛朗察人
(フランスじん)は此(この)操作を「ヒラケ゜」と名(なづ)け、此(この)着色槽より積極像影を出(いだ)し、直ちに次亜硫酸曹達の槽中に投じ、洗滌すること、上に示したるが如し。○美にして久貯(きゅうちょ)変ぜざる積極像影は、金液槽の操作、善良なる徴(しるし)とす。○積極像影には、酸液槽を用ゆることを禁ず。○酸液を用ゆる時は、方(ま)さに美黒色を顕(あらわ)すと雖(いえども)、硫化銀を形どり、其(その)積極像影、後日消滅するの恐(おそれ)あり。
 ○格羅細穏
(コロジオン)配合
        百微古窒
(イクチー)   格羅細穏(コロジオン)
   其の一  一微古窒
(イクチー)   ヨヂュレ、デ、カドミュム
        四分一微古窒
(イクチー) ブロミュレ、デ、カドミュム

        百微古窒
(イクチー)   格羅細穏(コロジオン)
        半微古窒
(イクチー)   ヨードポットアシュム 
   其の二  十分三微古窒
(イクチー) ヨヂュレ、デ、カドミュム    
        十分一微古窒
(イクチー) ブロミュレ、デ、カドミュム  
        十分二微古窒
(イクチー) ブロミュレ、デ、アンモニュム 
「ウォンクトーフ
ン」氏ノ著書中記載せる者に比すれば、此(この)法を優れりとす。否(しか)らざれば、預(あらかじ)め此(この)簡法に従事し、習学せんことを要す。
 ○格羅細穏
(コロヂオン)製法
    五微古窒
(イクチー)  綿火薬
    二百微古窒
(イクチー) 亜爾箇耳(アルコール)
    三百微古窒
(イクチー) 硫化依的爾(ズウアーフルエーテル)
 酷暑の時は、亜爾箇耳
(アルコール)と、硫<ママ>依的爾(ズウアーフルエーテル)同量を以てす。」
先づ依的爾
(エーテル)を綿火薬に注ぐ。爰(ここ)に於て其(その)纎維分折(ぶんせつ)す。爾后(じご)、手を留(とど)めず築動(つきうごか)しつつ、亜耳箇爾(アルコール)を加(くわ)ふ。斯(かく)の如くする時は、綿火薬直ちに溶解に至る。○静定沈澱(せいていちんでん)の後(の)ち、全く澄明(ちょうめい)に至らば、其(その)澄明の分を他壜(たびん)に注ぎ、後時(こうじ)以て、上に記載したる、沃陳(ヨヂュム)剤を加ふるに供す。
爾他
(じた)の製薬に枸櫞酸(シトル。ウンシュール)適量を準備して、醋酸に代用す。其(その)配合は没食酸と同量を和す。○枸櫞酸(シトル。ウンシュール)を用ゆる時は、酸臭(さんしゅう)の散逸(さんいつ)せざる利あり。
 ○附考
一生窒米的耳
(センチメートル)立方の水は、其(その)秤量(しょうりょう)涅垤蘭土(ネーデルランド)の一微古窒(イクチー)となす。
同立方の依的爾
(エーテル)は、僅(わず)かに零微古窒(イクチー)
同立方の亜爾箇耳
(アルコール)は、僅かに零微古窒(イクチー)
(この)故に百微古窒(イクチー)の依的爾(エーテル)は、百四十五生窒米的耳(センチメートル)立方に同じ。
百微古窒
(イクチー)の亜爾箇耳(アルコール)は、百二十五生窒米的耳(センチメートル)立方に同じ。
百微古窒
(イクチー)の格羅細穏(コロジオン)は、百三十五生窒米的耳(センチメートル)立方に同じ。
○格羅細穏
(コロジオン)濃厚に過(すぐ)る時は、板上之(これ)を注ぐ時に方(あた)つて、線或(あるい)は雛<ママ・カ>を生ず。故に少許(わずか)の依的爾(エーテル)を加へ、稀液となすべし。
操作の時、暖度の高きに随ひ、格羅細穏
(コロジオン)は稀薄になし採用す。否(しか)らざれば、依的爾(エーテル)の精、忽(たちま)ち蒸発するの患(うれい)あり。
撮影石版術
撮影術(ポトガラヒー)を発明せし二賢の裡(うち)、尼布設(ニープセ)氏剏(はじ)めて撮影石版術を経験し、華耳斯(ハルス)質殊に亜斯巴爾多(アスパルト)土瀝(どれき)土脂石脂の類人造にては石炭より分析すを採用して、華耳斯(ハルス)の稟性(ひんせい)を覚悟せり。其(その)法、亜斯巴爾多(アスパルト)を老賢垤児(ラヘンデル)油に溶解して、板面に乾燥し、暫時(ざんじ)日光に曝(さら)し試(こころみ)るに、此(この)物再び油中に溶解することなし。○故に学者宜(よろし)く疑惑を容(い)れず。光線は能く華耳斯(ハルス)質をして、大気より酸素を吸収せしめ硬固(こうこ)且つ溶解すべからざるに至るの理あることを察すべし。○甞(かつ)て尼布設(ニープセ)氏、此(この)理に因循して、銅版を施行するに、酸類を以て竄蝕(ざんしょく)せしむることを試験せり。○其(その)後、達傑兒列(ダゲルレ)氏、他法を以て之を施す。其(その)発明は光線の賦力(ふりょく)を陰影にて感ぜしむ。然(しか)るに、尼布設(ニープセ)氏の首唱、未(いま)だ地に落ちず。計らざりき、千八百五十四年の左右、巴列察(パレイス)府より報告あり。曰(いわ)く、毫(ごう)も筆者の手を労せず、直ちに写真影石版を発兌(はつだ)せりと。○当時人咸(みな)之を表(ひょう)して、尼布設(ニープセ)氏の首唱せし亜斯巴爾多(アスパルト)の試験再興し、且つ冥秋(めいしゅう)を得たりと云へり。而(しか)して学者種々の疑(うたがい)を容(い)るべきに、却(かえっ)て之(これ)を試験し、忽(たちま)ち其業(そのわざ)を全(まっとう)せり。○是(これ)美芸にして、宛(あたか)も老煉術者の石上に図書(ずしょ)せるが如く、太(はなは)だ鮮明、人咸(みな)(その)新発明を賞せざるはなし。
目今
(もっこん)遵用(じゅんよう)する所の操作法は、撞末(とうまつ)せる亜斯巴爾多(アスパルト)を硫酸依的児(りゅうさんエーテル)に溶解し、暗処(あんしょ)に於(おい)て、清潔なる石盤を水平に安置し、其(その)調匀溶液(ちょうきんようえき)を注ぐ。爰(ここ)に於て其(その)稠膜(ちゅうまく)乾燥する時は、細微(さいび)無数の破線を生ず。○今夫(そ)れ此(この)石は、光線に感じ易(やす)きがゆへ、随意(ずいい)積極像影(ポジチーフベールド)を施し得(う)べし。先づ発兌(はつだ)せんと欲する消極像影(ネガチーフベールド)玻璃(ガラス)板に撮影したる者を以て、石上に覆ひ、又其(その)上に玻璃板(ガラスいた)を置き、暫時(ざんじ)(その)面を日光に向(むけ)つ。○此后(こののち)(その)石を再び工局(こうきょく)に搬(うつ)し、多分の硫酸依的児(りゅうさんエーテル)を注ぎ、而(しか)して洗灌(せんかん)す。○此(この)所業により、石面の黒色部の所在亜斯巴爾多(アスパルト)の光線に感ぜざる部分徐々に消逸(しょういつ)し、次第に石面の処々膚(はだ)を著(あらわ)し、終(つい)に其々(それぞれ)石面上鮮明の像影現出す。爾後(じご)、紙上発行の業(わざ)、尋常の石版術と同じ。而(しか)して尋常の石版に比すれば、美なること逈(はる)かに遠し。
 (按
(あんずるに))墨製及び発兌法等、中篇石版の篇、擧(あげ)て詳(つまびらか)なり。
舍密局(セイミきょく)必携巻三前篇

 

 

 


  

  (注)1.上記の「『舎密局必携』巻三附録「撮形術」(ひらがな・読み仮名付き)」
     
は、資料319の「『舎密局必携』前編、巻三附録「撮形術」」の本文の片仮
     名を平仮名に改め、常用漢字のある漢字は常用漢字に改め、読みやすいように
     と引用者が読み仮名を付け加えたものです。
    2.読み仮名に、適切でない読みがつけられている恐れがあります。お気づきの
     点をお知らせいただければ幸いです。
            なお、引用者が付けた読み仮名は、現代仮名遣いにしてあります。
    3.『舎密局必携』や、訳者の上野彦馬については、資料319の「『舎密局必携
     前編、巻三附録「撮形術」の注を参照してください。

 

 



 

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