<特集No.27 真空管特集>

今月の特集は、真空管特集です。とはいっても私は専門的なことは全く判りませんので、ここではギターアンプのプリ管として使用されることの多い12AX7(米国)/ECC83(欧州)に的を絞ってご紹介させて頂きます。
アメリカでは1920年頃からラジオ放送が始まり、ラジオ用の真空管を製造する会社が次々に設立されたようです。真空管そのものも次々に新型が発表され、皆さんおなじみの12AX7がRCA社から発表されたのは1948年のことだそうです。
それ以降、1970年頃までに様々なメーカーから数多くの12AX7及びその改良版が販売されました。その中でも真空管オーディオファンやギターアンプ愛好家の間で人気が高い、一部のブランドの50〜60年代製造のNOS(デッドストック未使用品)に関しては、現在高額で取引されるようになっています。
その一方で、最近販売されているNOSの真空管には生産国や製造年が判らないものが多くなりました。
Fake(贋物)が出回っているという話も聞きますが、果たして事実なのでしょうか?
特に人気の高いアメリカのRCA,ドイツのTELEFUNKEN,イギリスのMullardに関して細部を検証してみました。


RCA編
1919年設立のRCA(Radio Corporation of America)は1930年代から1978年頃までは自社で真空管を製造していましたが、1979年にGEに吸収された後、1987年にGEの家電部門ごとフランスのトムソン社の傘下に入り現在に至ります。

オリジナルのRCAの7025と12AX7Aをご覧ください。(7025、12AX7Aは1950年代終わりに発表された12AX7の改良版です。)
左から60年代7025×3本、75年製7025×3本、60年代12AX7A×5本。60年代の7025と12AX7Aは肉眼で見る限りは違いが判りません。しかしRCAのカタログによるとヒーターの構造等が異なっているそうです。


次にオリジナルのRCA7025と、現在秋葉原で販売されているRCA7025と言われるものを並べて比較してみます。左から60年代RCA7025、75年製RCA7025、秋葉原RCA7025。オリジナルのRCA7025には表面に銀色でU.S.A.7025の文字が入っていますが秋葉原RCA7025にはそれが入っていません。


左から60年代RCA7025、75年製RCA7025、秋葉原RCA7025。75年製RCA7025は上部のゲッターのステムが幅広い板状に変わっています。右端の秋葉原RCA7025はプレートの高さが高く、オリジナルとは形状が異なるのが判ると思います。


左から60年代RCA7025、75年製RCA7025、66年製RCA12AX7A、秋葉原RCA7025
秋葉原RCA7025はプレートの上下の絶縁マイカの形状もオリジナルとは異なります。現在秋葉原で販売されているRCA7025はオリジナルとは全く別物ということが言えます。


TELEFUNKEN編
続きましてドイツのTELEFUNKEN(テレフンケン)です。1910年頃から真空管製造を行っていた会社で、ドイツではSeimens社と並ぶ有名企業です。 しかし1984年には真空管の販売を停止し、その設備をユーゴスラビアのEi社に売却してしまいました。


オリジナルのTELEFUNKEN ECC83にはPLATE形状の異なる2種類が存在します。
左からRibbed Plates(リブ付きプレート) 、Smooth Plates 、そして現在秋葉原で販売されているTELEFUNKEN ECC83。


プレートの形状を見ると右端の秋葉原ECC83はオリジナルのSmooth Plate(中央)と非常に似ているのですが、いくつか異なる点があります。


横から見るとよく判りますが、中央のSmooth Plateと右端の秋葉原ECC83にはプレート横の穴の位置と大きさが違います。それにしても秋葉原ECC83は前述の秋葉原RCA7025に良く似ているような気がしますね?


ということで内部構造が同じと思われる5種類を並べてみました。
左からPhilipsECC83、GrooveTube7025、Ei ECC83、秋葉原RCA7025、秋葉原TELEFUNKEN ECC83


左からPhilipsECC83、GrooveTube7025、Ei ECC83、秋葉原RCA7025、秋葉原TELEFUNKEN ECC83
プレートの形状を見ると5種類とも全く同じように見えます。


左からPhilipsECC83、GrooveTube7025、Ei ECC83、秋葉原RCA7025、秋葉原TELEFUNKEN ECC83
横から見ると左の2つは内部構造まで完璧に同じ物。右の3つが全く同じ物であることがわかりました。


欧州製の真空管には通常このようなLotナンバーがプリントされています。
これはPhilips ECC83に書かれているLotナンバーですが、左端の象形文字のような記号がYugoslaviaのElektronski Industija工場(つまりEiの工場)で生産されたことを示し、次の7が1987年、次のEが5月に生産されたことを示しています。EiのECC83とGT7025にも同じマークがプリントされていますので恐らく5種類とも同じEiの工場で生産されたものだと思われます。
冒頭で書いたように1984年に真空管の販売を停止したTELEFUNKENはその設備をユーゴスラビアのEi社に売却したため、1984年から1992年にかけてTELEFUNKENのECC83に似たEi社製のECC83が生産され様々なブランド名で販売されたようです。


Mullard編
続きましてMullardです。Mullard(Mullard Radio Valve Co.)は1920年設立のイギリスの真空管メーカーですが、1927年にオランダのPhilips傘下に入り、1970年代に入るとイギリスの自社工場での真空管生産を打ち切り、1988年にはMullardのブランド名は消滅してしまいました。
Philipsは1920年代半ば以降、世界各国の真空管メーカーと技術提携していた関係で生産拠点が各国に存在し、東欧にもPhilips傘下の工場がありました。


年代別に並べたMullard ECC83。60年代前半までは特徴的なShield(盾)の中にMullardの文字があるOld Logoで、64年頃からNew Logoになり、BVA表記が付くのは60年代の中頃までのようです。 生産国表記も59年製は「BRITISH MADE」で60年以降は「MADE IN GREAT BRITAIN」または「MADE IN GT.BRITAIN」に変わるようです。


プリントが消えてしまっている場合もありますが、Philips傘下のMullardやAmperexの真空管には各国に複数存在する生産工場のうちどの工場で何年何月に生産されたものかを表すためのLotナンバーが記されています。左はB0F4で、BがMullardのBlackburn工場、0が1960年、Fが6月、4が第4週に製造されたことを表しています。右はB9G1で同じくBlackburn工場で69年の7月の第1週に製造されたことを表しています。他にI61とかI63という真空管種別を表すCODEもプリントされています。上2桁はValveCodesであり、I6はECC83を表しています。下1桁はRevisionナンバーです。


同じくMullard ECC83の高信頼管であるCV4004 M8137、CV4004、CV492です。米国のJAN規格と同様に英国ではCVで始まる真空管が軍用の高信頼管です。
CV4004はプレートが箱型になっておりBOX PLATE(BOX ANODE)と呼ばれます。CV492はECC83と全く同じ構造です。CV492はECC83と同じくBlackburn工場製が多いようですが、CV4004は殆どMitcham工場製です。


さて、それでは現在流通しているMullard ECC83 3種類と60年代のECC83を比較してみます。
左から60年製ECC83、現在流通しているECC83×3、69年製ECC83
オリジナルと比較すると、現在流通している3種類は妙に文字が太いですね。△浪晋里MADE IN ENGLANDと書いてあります。3種類とも、60年代のMullard製ならばあるはずの、Bで始まるLotナンバーが見当たりません。


,魯廛譟璽箸侶曽はオリジナルの60年製と全く同じなのですが、プレートの間にオリジナルにはない金属の棒があります。


ゲッターの形状もオリジナルの60年製はリング状なのに、,里魯廛譟璽半になっています。Philips工場製のECC83にこれと同じsolid metal getterを持つ真空管が存在するようです。ということで,蓮△そらく70年代以降にMullard以外のPhilips傘下の工場で生産されたものなのでしょう。


次に、現在流通しているOld LogoのMullard ECC83◆蔽羆)ですが、内部構造が全く同じ真空管を発見しました。それが右端のRCAとプリントされた12AX7/ECC83です。管壁には何故かMADE IN JAPANとプリントされています。


PLATEは3つとも全く同じように見えますが、実はオリジナルの60年製(左端)と他の2つには違いがあります。


オリジナルの60年製には内側のPLATE横には穴がありません。しかし△箸修瞭鰻燭隼廚錣譴RCA12AX7Aには内側にも穴があります。


左端のオリジナル60年製は細長い穴があいているのが特徴ですが、中央の△髪γ爾RCA12AX7Aは絶縁マイカに小さな穴が2個あるだけです。
Philipsの世界戦略により、松下電器も1952年にPhilipsと技術提携し、1979年頃までに、かなりの数の真空管をOEM生産して輸出していたそうです。MullardにもOEM供給していたそうですから、この△亡悗靴討呂修瞭本製ECC83である可能性があります。右のRCA12AX7Aは、その日本製ECC83をRCAがPhilipsからOEM供給受けて、RCAブランドにして販売していた可能性が高いですね。


さらにもう一本の現在流通しているNew LogoのMullard ECC83と内部構造が全く同じ真空管も発見しました。右端がそのRCA12AX7A/ECC83です。こちらは管壁にGT.BRITAINとプリントされています。


これもプレート形状はオリジナルの69年製と全く同じに見えますが・・・・。中央のの管壁には東欧製の真空管に良く見られるE35というLotナンバーがプリントされています。


横から見ると、やはりオリジナルの69年製には内側のプレート横に穴がありません。と右端のRCA12AX7Aには内側にも同じように穴があります


69年製は絶縁マイカに細長い穴がありますが、中央のと右端のRCA12AX7Aは1個丸い穴が空いているだけです。 はMullard工場製の69年製ECC83とはかなり相違点があります。したがって60年代にMullard工場で作られたものではなく、70年代以降の東欧製である可能性が高いのですが、どこでいつ頃作られたものなのかは特定できませんでした。
右側のRCA12AX7AはPhilips傘下の工場で作られたECC83(と同じモノ)のOEM供給を受けたRCAが自社ブランドで販売したものなのでしょう。
ここでとりあげた現在流通しているMullard ECC83は3種類とも、60年代にイギリスのMullardの工場で生産されたものではなく、Philips傘下の企業であるMullardが、70年代以降にPhilips傘下の各国の工場で生産された真空管を自社ブランドで販売したものであると思われます。


現在販売されている真空管にはFakeが多いと言われますが、販売しているお店に聞いてもFakeとは言いませんし、よく調べてみると一概にFakeとは呼べないということが判ります。
1970年代に入ると各メーカー間でのOEM供給が盛んに行われるようになり、イギリスのMullard製の真空管をアメリカのRCAブランドで販売していたり、またその逆もありますし、イギリスのMullard製の真空管をドイツのTELEFUNKENブランドで販売していたり、極めつけは日本製の真空管がアメリカ製として販売されていますから、70年代以降に生産された真空管には何があっても不思議ではないというのが実情です。

まあ何の疑いも無くプリントされているブランド名を信じれば、なんとなく良い音がするような気がするので、本物なのかFakeなのかは大きな問題では無いのかも知れませんね。