今月の特集は茶から黒への過渡期のプリンストンです。

<特集No.35 64年製プリンストンアンプ>

特集No.23(2003年4月)で改造した64年製ブラックフェースのプリンストンですが、色んな実験を行ったあと、結局オリジナルの回路に戻してしまいました。
オリジナル回路に戻したブラックフェースプリンストンは私のような素人が改造してバランスが崩れてしまった状態と違い、やはりオリジナルならではの安心感があります。(笑)
さて、今回ご紹介するのは同じ64年製でありながら、ちょっと珍しいブラウントーレックスからブラックフェースへの過渡期のホワイトノブのモデルです。birdmanさまが「六本木で飲んだらお土産にもらった」と表現していたことから、所謂ブラックフェースのプリンストンと区別するために、通称「六本木プリンストン」と名づけました。
プリンストンアンプはTweed期は6V6×1本の回路(Tweed期最後は「5F2」)でしたが、1961年の終わりにブラウントーレックスにモデルチェンジされる際に6V6×2本の「6G2」回路へと変更されます。
その後、1963年後半に実施されたブラウントーレックスからブラックフェースへの移行時に、キャビもシャーシも新設計であるプリンストン(AA964=64年9月)及びプリンストンリヴァーブ(AA764=64年7月)発表までの「つなぎ」として、基本構成はブラウントーレックスの「6G2」そのままに外観だけブラックトーレックスにマイナーチェンジされました。こうして誕生したのが六本木プリンストンです。
で、面白いことにこの六本木プリンストン、ブラックフェースの外観をしていながら、まるでTweed Ampのような感じで良く歪みます。そこで六本木プリンストンほどは歪まないブラックフェースプリンストンとどこが違うのか検証してみることにしました。


まずは外観です。(左:六本木プリンストン 以下六プリ、右:ブラックフェースプリンストン 以下黒プリ)
大きさは六プリが高さ41cm×幅48.3cm×奥行き24cm、黒プリが高さ41cm×幅50.8cm×奥行き24cmと、違うのは横幅だけです。
どちらもスピーカーはノンオリジナルですが、この状態での重量は、六プリ10.5kg、黒プリ11.3kgです。



ブラウンプリンストンのオリジナルスピーカーは当初アルニコマグネットのスピーカーでしたが、62年の半ばよりフェライトマグネットのスピーカーに変更されたようです。
田村六蔵さん所有の63年12月製六プリには画像のオリジナルスピーカーが付いています。10J4-Iという型番で、137 338のEIA-codeが表しているようにCTS製の63年38週製造です。マグネット部分が四角いので一見するとアルニコマグネットに見えますが、右の画像で良くみると四角いフェライトマグネットであることが判ります。
ちなみにスピーカーがオリジナル状態の六プリの重量は10.22kgだそうです。



ブラウン&ホワイト期には未だPATENT PEND.と書かれたモデルも存在していましたが、殆どのブラックフェースのフロントパネルにはDESIGN & CIRCUITSのナンバーが入っています。左の六プリはA-1、右の黒プリは70ですが、フェンダー社内で管理するための単なる製品番号なのか、他に何らかの意味があるのかは不明です。(ちなみにブラウンプリンストンが001、黒プリンストンリヴァーブは68です。)



裏側のパネルにも番号が入れられています。六プリがA-2 、黒プリが71と、表側との続き番号になっています。


シャーシを比較してみます。上が六プリ、下が黒プリです。黒プリはなんとなくパーツが右側に集中しているような感じがしますが、↓で中を見るとその理由が判りました。


六プリ(上側)の回路はブラウントーレックス期と全く同じ6G2です。 TweedのVibrolux(5F11)のINPUTを3個から2個にし、GROUND SWを 付加して12AX7のUNIT1とUNIT2の割り振りを変更すると6G2とほぼ同じ回路になります。
Tweed Ampみたいな音がすると思ったら、回路は殆どTweed Vibroluxそのものだったんですね(笑)。

1Volume/1Toneの6G2の回路にトレブル、ベースのコントロールを加え、整流管を5Y3からGZ34に変更し、負帰還の抵抗値56kΩを2700Ωにする等の変更を加えると概ね黒プリのAA964(下側)になります。
後述しますが、電源トランスは同一なのにもかかわらず、整流管がGZ34に変更されたことにより回路図上では出力管のプレート電圧が100V以上高くなっています。
AA964(下側)を見ると左側に隙間がありますが、これはキャビとシャーシのサイズが共通であるプリンストンリヴァーブ用の長いサーキットボードを収める為のスペースです。出力トランス等を右側に寄せたのは、このスペースを確保するためだったんですね。


左が六プリ、右は黒プリの電源トランスです。6G2の回路図には125P1Aと記述されていますが、64年のある時期から125P1Bに変更されるらしく(birdmanさまと田村六蔵さんの63年12月製の個体はどちらも125P1Aだそうです)、私の六プリには既に黒プリと同じ125P1Bが使用されていました。但し同じ125P1BでもEIA-codeの記述方法に違いがあり、六プリの64年36週製にはハイフンはありませんが、黒プリの64年45週製の125P1Bにはハイフンが使われています。


出力トランスは六プリも黒プリも同じく125A10Bが使用されています。 しかし、良く見ると六プリの125A10B 64年35週製(左)は紙巻で、黒プリの125A10B 64年45週製(右)には金属カバーが付いています。同じ型番でも製造週によって違いがあるというのが興味深いところです。


キャビはどちらもソリッドパインの3/4インチ(約19mm)厚のフィンガージョイントですが、バッフル板が異なります。
フェンダーアンプのバッフル板は、Tweed〜Brown期には5/16インチ(約8mm)のplywood(合板、ベニア)が使用されていましたが、ブラックフェース期には厚さ1/2インチ(約13mm)のMDF(Medium Density Fiberboard)が使用されるようになり、TwinReverbだけはより厚い3/4インチ(約19mm)のMDFが使われるようになるようです。
この左の画像の六プリではブラウン期のままのplywoodが使われているのが木目で判ると思いますが、ノギスで厚さを測定したところ、やはりTweed〜Brown期と同じ約8mm(5/16インチ)でした。
右は黒プリのバッフル板で、厚さ約13mm(1/2インチ)のMDFです。



左の六プリのTube-ChartにはプロダクションNoが書かれておらず、Date-Codeのスタンプもありません。(過渡期に良くありがちな仕様ですね。)この六プリはトランスの64年36週というDate-CodeとP098xxというシリアルから推測すると、64年9月以降に製造された最終ロットであると思われます。
ブラウントーレックスのプリンストンは1961年のシリアルP001xxからP07xxxまでですから約7000台、六プリはシリアルP07xxxからP09xxxまでですから約3000台生産されたようです。右のAA964のTube-Chartに記載されたProduction#1とNLというスタンプから、黒プリは64年12月頃から生産が始まったのではないかと推測できます。


フェンダーアンプはTweed,Brown,Black期と、それぞれ音に特徴的な違いがあると言われています。
その要因として「回路そのものの変化」と「使用される電子部品の変化」「外装の違いによる先入観(笑)」等が挙げられると思います。
私はアンプに関する専門的な知識を持たないので詳しいことは良く判りませんが、この2種類の64年製プリンストンに限って言うならば、
「同一の電源トランスを使用していながら、異なる整流管を使用することで出力管のプレート電圧が変化」している点と、「バッフル板の厚みと材質を変更」したことによる影響が大きいのではないか?という仮説を立ててみました。
この仮説を検証するために
々プリの整流管(GZ34)を5Y3に差し替え
黒プリのヘッドを六プリのキャビで鳴らす
という実験を行ってみようかとも思いましたが、他にも負帰還抵抗やトーン回路の違い等の要因もあるし、どっちにしても私の耳では違いが判らないはずなので、無駄なことはしないことにしました(笑)。

それにしてもこの六プリ、『外観はブラックフェースなのに音を出してみるとTweed Ampそのもの』というのが非常に面白い!
やはり人もアンプも『外見だけで判断してはいけない』ということですね(笑)。

(完)

Special thanks to : birdmanさま、田村六蔵さん