『電子消費者契約法』 を解読する


 法律の条文って、「何か素人にわからせまいとしてるんじゃねーか?」ってぐらい固い文章ですし、だいたいの意味はわかっても、個々の具体的な事象について適用されるのか否かの判断は難しいですよねぇ。

 例えば、ワンクリック詐欺対策サイト様で、よく、法的無効の根拠として示される法律条文の中に、『民法第95条』がありますが、この条文は、以下のようになっています(引用文中のひらがなは、原文ではカタカタ表記。以下同じ)。

第九十五条  意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

 平ったく言うと、「法律行為(定義を書くとさらに『?』の選択肢が広がりますのでやめますが、有償、無償を問わず契約全般も含まれるとお考えください)の意思表示を行う際に勘違いがあったときには、それは無効です。ただし、意思表示をした人に重大な過失があったときには、無効を主張することができません。」となります。

 でも、『重大な過失』って何なのか? ってことになります。ワンクリック詐欺とかの場合、わかりにくいところに表示されている利用規約を見落とすことは、重大な過失に該当するのか? …… 素人だとなかなか判断できないですよねぇ。

 そんなわけで、かなりとっつきにくいイメージのある法律の条文と、その言わんとしているところを、ワンクリック詐欺に関連する法律を中心に、必要な部分だけをできるだけわかりやすく説明していこうと思います。


 その第一弾として、ワンクリック詐欺対策サイトで、よく登録なり支払い義務なりの詐欺師側の主張が無効である根拠として挙げられる、『電子消費者契約法』(正式な名称は、『電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律』)を選びました。

 この『電子消費者契約法』の条文はすごく短くて、第4条までしかありません。全文のコンパクト版を用意しましたので、ちっこい窓で開けといて、以下の文章を読み進むといいかも知れません。

 尚、補助教材として、経済産業省から発行されている、『電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律・逐条解説』(以下、『逐条解説』。このページからpdf形式でダウンロードが可能)を使います。


 さて、この法律の一番肝心な条文である第3条には、話し言葉風でわかりやすく言い換えると、だいたいこんなことが書かれています。

消費者が契約の申し込み(注) を行う際に、@その申し込みをする意思がなかったとき、Aその内容とは違う内容の意思表示をするつもりだったときには、その契約は無効。でも、事業者が「本当にそれでいいですか?」と念を押すような手順を踏んでいた場合や、消費者側が「確認を取る必要はありません」という意思を事業者側に伝えたときには、消費者側に重大な過失があれば、その契約は有効。

 一行目の『申し込み』は、「申し込み」だけでなく、「承諾」も含めて指します。これ以降、同じ使い方をしていきますので、ご注意ください。

 上の@、Aの例をもっと具体的に言うと、

 申し込みをする意思はなかったのだが、画面に表示されていた『申し込む』『キャンセル』のボタンから、間違って『申し込む』のボタンを押してしまった。…… @

 申し込み数量を『1個』と入力するところを、誤って『11個』を入力してしまい、それを訂正する前に、申し込みボタンを押してしまった。……A

って感じになります。

 で、次に、『業者側が「本当にそれでいいですか?」と念を押す』 の部分ですが、『逐条解説』の方には、その効果的な確認措置の具体例として、次の二つを挙げています。

 送信ボタンが存在する同じ画面上に意思表示の内容を明示し、そのボタンをクリックすることで意思表示となることを消費者が明らかに確認できる画面を設置する。

 最終的な意思表示となる送信ボタンを押す前に申込みの内容を表示し
そこで訂正する機会を与える画面を設置する。

 事業者側がこういう手順を踏んだ上で契約の意思を確認をしたら、消費者側は「ちょっと勘違いしてました。この契約はなかったことに」とは言えないということですね。逆に言うと、こういう手順を踏んでないと、事業者側は、その契約を無効にされるリスクを負わなければならないということになります。

 あと、もう一つのケースとして、消費者側が「確認の必要はありません」という意思を示した場合というのがありますが、これについてはあんまり考えなくていいでしょう。この件に関して、『逐条解説』には、

 「確認措置を必要としない旨表明いたします」というボタンをクリックしなければ商品を購入できないような画面構成としているような場合、たとえ消費者がそのボタンをクリックしてもその行為は消費者の意思の表明には当たらない。

と書かれていますので、かなりはっきりとした形で消費者がその意思を表明しない限り、「確認の必要はない」という意思表示だと法的に解釈されることはないと思います。


 では、ちょっと見方を変えて。

 『逐条解説』の、電子消費者契約法第3条の『趣旨』の記述から、有用と思われる部分を抜粋してみました。

 近年の電子商取引の拡大等に伴い、インターネットを利用して契約締結等を行うに当たり、消費者がパソコンに付随するマウスのクリックを誤るなどの操作ミスによって、@契約する意思を有しないのに誤った申込みをしたり、A商品等の契約内容について入力・選択ミスをしたまま申込みをしてしまう、といったトラブルが急増するようになった。

 こうした操作ミスを起こした消費者の民事的な救済については、民法第95条が適用されることとなる。ところが、同条に規定する錯誤無効が認められるためには「表意者(この場合は消費者)ニ重大ナル過失」がないことが求められ、消費者側が操作ミスによって意図しない申込みをしたとして意思表示の錯誤無効を主張したとしても、事業者からそれは消費者の重大な過失によるものであるとの反論を受けることになり、重過失の有無を巡って紛争がなかなか決着しないということになりかねない。

 そこで、本法第3条においては、電子契約は一般の消費者が通常の注意を払ってもミスをしやすい特性を有することにかんがみ、事業者・消費者間の取引においては、事業者による確認措置の提供がなかった場合等について、取引の安全を保護する民法第95条ただし書の規定を適用しない措置を講ずることとした。


 以下は、同『趣旨』内の、「電子消費者契約の特性と民法第95条ただし書との関係」より。わかりやすくするために、一部言葉を変えてあります。

 電子消費者契約は、事業者が用意した画面に表示する手順に従って、消費者が自分のPC、携帯電話などの映像面を介して、申込みアイコンをクリックし、又は氏名、住所、数量等の契約内容を入力・送信することによって契約の申込みなどの意思表示がなされる。

 この結果、事業者側の意思表示が事前に十分な検討を加えた定型的なものであるのに対し、消費者側の意思表示は、書面や口頭等の通常の方法で契約を締結する場合と比較して、消費者側が操作ミスや一時的な勘違いなどのエラーを犯す可能性が高くなる。

 また、電子消費者契約を締結する過程で、事業者が消費者の意思の確認を求める措置を講じるのは、それほど難しいことではない。そうであれば、確認措置を講じることにより、消費者の操作ミスを事前に防止することを怠っていた場合、消費者の、「錯誤なので意思表示は無効だ」という主張に対して、重大な過失があるとの反論を許さないこととしても、取引の安全を不当に害することはないと考えられる。

 そこで、電子消費者契約においては、当事者間の衡平の見地から、民法第95条ただし書き、つまり、表意者に重大な過失がある場合には、錯誤による無効を主張できないというルールを原則として適用しない、とした上で、事業者が消費者に対して契約の申込み等を行う意思の確認を求める措置を講じた場合や、消費者が、「確認を求める措置は必要ありません」という意思を表明した場合には、原則どおり、同条ただし書きを適用する。


 ふぅ、結構な量になっちゃいましたね。でもまぁ、ここまで読み進めば、電子消費者契約法が、何をするために作られたものかもわかるでしょう。

 で、結論としては、

PC、携帯電話などを介した電子的方法で結ばれた契約に関しては、消費者側が意思表示の内容に間違いがないかを確認し、それを訂正できるような手順を経ずに行われた契約は、消費者側が、確認が不要である旨の意思表示を明確にしていない限り、

@ 消費者に申し込みの意思がない状態だったとき、あるいは

A 消費者が違う意思表示をするつもりだったとき

に関しては、その契約(意思表示)は無効。



 ただねぇ、自分はちょっと思うんですよ。……

 ここに挙げた根拠だけで、『ワンクリは無効!』って、本当に言い切れるのかどうか。…… いやね、ワンクリックだけなら完全にダメですけど、確認画面もどきが出てた場合とかね。ヤツら(←詐欺師のこと)だって、いずれは多少知恵もついてくるだろうし。

 自分の感触では、この電子消費者契約法は、ワンクリック登録詐欺のように、事業者側に明確な悪意があるケースはあまり背景に盛り込まれていないように思えるんですよね。この法律ができたのは、2001年と、かなり前ですし、それ以降一度も改正されてませんからね。

 ってことで、自分的には、やや『電子消費者契約法だけでは、ワンクリック登録、および類似の事例については、完全に無効とは言い切れない。』という含みを持ちつつ、別の法律に根拠を見出す旅に出たいと思います。

このページの法解釈に誤りを発見した方は、是非ご一報くださいませ。

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