××× サマー タイム リフレイン ×××

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読書感想
偉人への羨望


有栖川有栖
月光ゲーム

秋山瑞人
イリヤの空、UFOの夏 その1
イリヤの空、UFOの夏 その2
イリヤの空、UFOの夏 その3
イリヤの空、UFOの夏 その4
DRAGONBUSTER 01

綾辻行人
十角館の殺人

伊坂幸太郎
終末のフール
砂漠

歌野晶午
葉桜の季節に君を想うということ

円城塔
Self-Reference ENGINE

小林泰三
海を見る人


月光ゲーム
     有栖川有栖著     ★★★    




有栖川有栖の処女作。火山が噴火したキャンプ場というクローズドサークルで起こる連続殺人というのはなかなか面白かったけれど、犯人当て小説だからかなのかサプライズよりも「読者に当てさせないこと」を目的とした推理小説で、トリックがいま一つだった気がした。探偵役の推理もなんとなく腑に落ちないものが あるし、わりとどうでもいいダイイングメッセージと多すぎる登場人物にも疑問が。とりあえず、ただでさえ多すぎる人物なのに呼称がバラバラでわけがわから ないです。いやまぁ楽しく読めたんですけど、残念。

このシリーズの続きはなかなか面白そうなので読もうと思います。



イリヤの空、UFOの夏 その1
     秋山瑞人著     ★★★+    オススメ!




 めちゃくちゃ気持ちいいぞ、と誰かが言っていた。
 だから、自分もやろうと決めた。
 山ごもりからの帰り道、学校のプールに忍び込んで泳いでやろうと浅羽直之は思った。



 僕がこれまでに読んだ本の中で最も感動した本と言えば村上春樹「海辺のカフカ」なのですけれども、最も衝撃を受けた本と言えばこの秋山瑞人の「イリヤの空、UFOの夏」なのです。

 ぶっちゃけて言えば僕は秋山信者です。秋山瑞人という作家は、物語・構成・文章すべてにおいてピカイチの鬼才なのですが『超遅筆、しかも途中で投げる』 というどーしようもない悪癖の持ち主で、彼の書いた文章はどのページから切り取ってもコピペとして使えるような名文のオンパレードで鳥肌の立たないラスト なんて存在しないような出来なんですけれども、既刊巻数十二冊で、デビュー十年にして投げっぱなしは既に五作、ファンたちも「どうせ出ないよ。EGFマ ダー?」と渇き切っている有様です。しょうがないから今までに出ている既刊を何度も読み返して「やっぱし秋山は天才だよなぁ」「でもどうせ書かないんだ よなぁ」「EGFマダー?」などとつぶやく始末。

 他人から見れば「馬鹿じゃねぇの」と思うかもしれませんが、秋山作品を読めばわかります。リズムカルで映像喚起力が高いその文章の虜になれば、あなたも 秋山中毒です。気がついたら「EGFマダー?」とか言ってます。陸空海三部作を求めてSFマガジンのバックナンバーを手に入れるために奔走するはずで す。「ドラゴンバスター01だぁ? どうせ続かないんだろ」とか言いつつも発売日にちゃっかり購入しちゃうのです。

 ところで全然イリヤの感想を書いていない気がするのですが、まあいいじゃないですか。

 その1は物語の序章にしかすぎません。夏は始まったばかりなのです。


イリヤの空、UFOの夏 その2
     秋山瑞人著     ★★★★+




「約束する? 誰にも言わないって」
 

 陰謀渦巻く日曜デートの最終地で、伊里野は衝撃的な過去を語りだす──『正しい原チャリの盗み方 後編』


「根性ぉ─────────────────────────────っ!!」
 

 圧倒的筆力で書き上げられる園原中学校学園祭『旭日祭』。浅羽、伊里野、晶穂の新聞部部員の微妙な関係の行方は!? 『十八時四十七分三十二秒』
 
 
 第二巻です。このシリーズは全四巻なのですが見事に『起承転結』の形になっており、今回は承に当たります。今巻は明るめの雰囲気で、特に秋山瑞人の独特 な文体で語られる文化祭の様子は、祭りの喧騒と寂寥感を巧みに描き出し、これでもかと詰め込まれた細かいギミックも文化祭の混沌とした様子を上手く表現し ています。浅羽への気持ちに揺れ動く晶穂、過酷な日々に限界を感じる椎名、物語も少しずつ不穏な動きを見せ始めます。『正しい原チャリの盗み方』でも、伊 里野の荒涼とした過去が垣間見えるあたり、秋山は本当に構成がうまいなあチクショウ!


 しかし、僕が本当にすごいと思うのは旭日祭の伝統の描写。中学校の文化祭が何故に大規模な行事となっているのか、ということを細部にわたって書き込んでいる。本来なら中学校の文化祭なんてたいしたもんにはならないのですが、そこにリアリティを出す文章は圧巻です。


 蝉の死骸を見つけて泣き出す伊里野。いよいよ夏の終わりの足音が聞こえ始めました。


イリヤの空、UFOの夏 その3     秋山瑞人著     ★★★★+




「今すぐ基地に帰りたい?」
 勇気を振り絞れ。
「それとも、僕に助けてほしい?」
 いつまでも鳴り響く空襲警報の中で、浅羽は、伊里野にそう尋ねた。
 伊里野は肯いて、肯いたまま、子供のように大声を上げて泣いた。


 
 シリーズ第三巻。物語が大きく動き出す、『転』の章です。おそらく小説史上初の、晶穂と伊里野のプライドを賭けたフードバトル『無銭飲食列伝』。園原基 地の大規模爆発、水前寺決死の殿山取材、第二次空襲警報が鳴り響く中、水前寺不在の新聞部部室で浅羽は決意を固める──『水前寺、応答せよ』。

 
 このシリーズが初秋山だった当時の僕は知る由もありませんでしたが、秋山の得意技「持ち上げて叩き落とす」が存分に発揮されている巻です。無銭飲食列伝 で晶穂・伊里野の問題を解決し、ボーリングのシーンで次第に周囲と打ち解け始める伊里野を描いておいて急転直下の物語を展開する。さすが鬼畜秋山、この手 法は秋山作品全般に渡って使われているので注意が必要ですが、注意しても無意味でしょう。


 軍事物の記述になると急に筆が踊りだす秋山です。合間に挿入される世情ニュースが読者の不安を煽ります。平穏なクラスメイトと衰弱する伊里野──日常と 非日常の立場に挟まれ、椎名に殴られても『伊里野を守る』決心が固まらない浅羽。スーパーマンみたいな人だと思って、頼り切っていた水前寺の最後の叫びを 聞いて、ついに浅羽は伊里野に尋ねる────。


 注目すべきは浅羽がトイレで自分の首にナイフを突き立て、埋め込まれた無線機を取り出すシーンでしょう。あまりの痛々しさに読んでいる自分の首を抑えてしまいます。こういう自虐シーンも上手いんだよなー。『ミナミノミナミノは……もういいでしょ』じゃねーよ!!

 無銭飲食列伝も抱腹絶倒もののコメディで傑作ですが、浅羽が一年生のころの新聞部を描いた番外編「ESPの冬」も水前寺の語りが魅力的で素敵。

 二人の逃避行はどこへ向かうのか。次は、いよいよ最終巻です。


イリヤの空、UFOの夏 その4
     秋山瑞人著     ★★★★★




 この夏は、永久に続くと思っていた。
 いつまでも音楽に合わせて踊っていればよかったのだ。楽しいことはいつまでも終わらないと信じていた。音楽がいつの間にか止まっていることに気づかなかった。
 そして、気がついたときにはもう、自分の座る椅子はどこにもなかったのだ。



 『イリヤの空、UFOの夏』最終巻。浅羽と伊里野の逃避行の顛末を描いています。見えない追手と馴れない生活、そしてさまざまな外的要因によって追い詰められた伊里野と浅羽はついに限界を迎え────。
 病状が悪化し、記憶が退行し始める伊里野。二人が出会ったころまで記憶が戻る時、夏を追いかけるように南下していた二人の逃避行もついに終末を迎えます。

 僕は『イリヤ』を1〜3巻までは何十回も読み返すのですが、この最終巻だけは再読数が圧倒的に少ない。なぜなら、とても痛々しいから。秋山瑞人は本当に 容赦がない。叩き落とすときは、完膚なきまでに破滅させる。浅羽の自慰シーンと伊里野の強姦シーンを同時に進行させること自体、この人はジュブナイルSF を書くつもりが一ミリもありません。事実、読者の間でもこの四巻は賛否両論に分かれています。ですが、僕は間違いなくこの四巻はシリーズの中でも傑作だと 思っています。

 この巻は特に名文が溢れています。練りこまれた構成も素晴らしいとしか言いようがない。張られた伏線が回収され、物語が収斂していく様には感嘆を禁じえ ません。特筆すべきは伊里野出撃のシーン。秋山得意の専門用語連打と芸術的なまでに無駄が排除された文章には何度読んでも鳥肌が立ちます。

 そもそも、なぜこの物語が中学校を舞台にしているのかということに着目してみれば、中学生という未だ自己が確立していない──誰かに対して依存している 状態、よく表現されるように「ヘタレ」な主人公浅羽直之の成長を描くためなのではないでしょうか。中学生らしくない『スーパーマンみたいな人』部長水前寺 に完全に依存しきっている浅羽が、『世界を滅ぼす覚悟』によって自己を確立する──そんな話だとも言えます。高校生になれば何処かに自己が確立しているも のですが、中学生はまだひとりで生きるのはつらい。まだ子供の範疇を抜けていない──。水前寺の不在により、自らの力で伊里野を守ろうとする、その実依存 の対象は逃避行によって水前寺から伊里野へと移行しているのです。

 互いに依存し合う二人の逃避行は、無論うまくいくはずがなく、壊れてしまった伊里野。そんな伊里野をどうすることもできなくなって、榎本に引き渡した浅羽は、あの時点では未だヘタレのままでした。

 しかし、非日常の境界を越え、伊里野に再開した浅羽は、建前だけでも『世界を滅ぼす覚悟』ができたのです。伊里野と別れ、水前寺の手から離れた浅羽はこの夏を通して少しは成長したと言えるのではないでしょうか。

 この作品はハッピーエンドか否かで意見が分かれています。作者としてはハッピーエンドらしいのですが、僕も同意見です。



 果たしてだれが幸せならば────だれにとっての幸せならば『ハッピーエンド』なのか。
 それは、この物語を読んだ人間が決めることです。


DRAGONBUSTER 01
     秋山瑞人著     ★★★★




『待望』という言葉がもはやギャグにしか聞こえない、秋山瑞人の新作。ニセ中国を舞台にした青春剣戟ファンタジー。起承転結でいえば承にすら至ってないのに二巻で完結する予定らしいです。二巻が出るのかどうかすら危ういんですが、それは言わない約束ですよ。

主人公であろう卯王第十八皇女の月華が実は剣の才能があったり、道場の下男に甘んじている涼孤が実は失われた剣術の使い手だったり、まあ言ってしまえばあ りがちな設定なのに、嫌な予感がビンビンするのはこれまでさんざん秋山にもてあそばれてきた経験によるものなのでしょうか。明確な敵が出てきてないのに 「次回は血が流れます」ということらしいので、まったく先が読めない──というよりは秋山を先読みしようという考えがすでに無謀なのですが──これからが 非常に楽しみです。

というわけで、みなさん、果てしないマダーの日々を送りましょう! デストローイ!!



終末のフール
     伊坂幸太郎著     ★★★★




 八年後に地球が滅びる。そんな残酷な宣告を受けてから五年。残された時間は、あと三年。

  つまりはそういう舞台の短編集です。なんだかSFチックですが、内容はどこまでも日常です。評判を漏れ聞くところによると、伊坂幸太郎にしては毒がないと かパンチがない、らしいんですが氏の作品は「魔王」しか読んでいないのでむしろ「伊坂幸太郎の本」ということをあんまり考えずに読むことが出来たと思うの ですが、そういう面で感想を行きますね。

 こういう設定で話を進めるとどうしても 凄惨になってしまい厭世観漂う内容になってしまうと思うのですが、そこを上手く料理してあります。僕はどことなく重松清っぽいと思いました。「日曜日の夕 刊」と「その日のまえに」を筆頭にして彼の小説が好きでかなりの作品を読んではいるんですが、どうも重松清の小説の人物はキレイ過ぎると感じます。なんと いうか、メロドラマめいてるというか。この本もどことなく日常を描いているという点で重松氏のそれと似てはいるのですが、そのキレイさが目に付かない。物 語に出てくる彼らは「ここまで達観できるのか」とも思いますが、それは僕が人類滅亡の危機に面していないだけであってその気持ちがわからないだけだ、と思 わせるほどこの本の世界は強固にしっかりと形作られている。うーん、伊坂幸太郎、さすがに上手いです。

 この人は会話が上手く、テンポがありそれでいてしっかりとしている文でぐいぐい作品に引き込んでいきます。会話の括弧のあとに文章がどんどん続いていく のは当たり前、長い地の文の最後に会話が来る事もあります。ですがそれは全く不自然ではなく、僕らがしている日常会話を文章にしたならばこうなのでは、と 実に上手く表現しています。

 世界が滅びるといっても直前でもなく宣告の直後でもなく五年後という微妙な時を舞台にしているんですが、今何が起こるわけでもない、しかし未来はない、 という心理を巧妙に物語にしています。面白かったです。僕は「太陽のシール」と「冬眠のガール」が好きですね。あと短編内の登場人物同士がたまーに絡み合 うところがなんとも僕好みです。あと、帯の宣伝文句はやっぱり間違ってると思う。「田口美智、五教科四七五点、おまえは正しい」は笑いました。ホント、会 話が上手いというか面白いというか。


十角館の殺人
     綾辻行人著     ★★★+



孤島に建つ十角館にやってきたK大推理小説研究会の面々を待ち受ける、連続殺人の魔の手!

最近は世間でいわゆる名作と呼ばれているものを手当たり次第読み漁っているのだが、今回は
それが裏目に出たという感じ。新本格の流れを作った──という今作は確かに凄いものだとは思うのだけれど、やはり当時の衝撃は感じることができなかった。 二十年も前の作品だし、時代を経て推理小説も年を追うごとに内密さを増しているのもあるのだけれど、この作品はいろいろと物足りなさを感じた。

確かに、一行でひっくり返る鮮やかさは見事だとは思ったが、僕としては(ネタバレのため白文字)さすがに大学生にもなって海外作家の名前をあだ名にするのはありえないだろうと思ったので叙述トリックには気が付いてしまった。

あとは、四重殺人との関連性がもっとあればよかったと思う。文章も拙いと感じた。

やはり、この作品はリアルタイムで楽しむべき作品なのだろう。せめて、もっと早く──ミステリにハマり始めたころに読みたかった。とはいえ、海外の名作ミステリはいま読んでも十分面白いのだけれど。うーん。


葉桜の季節に君を想うということ
     歌野晶午著     ★★★+        



 探偵物としては秀逸ですが、叙述トリック云々があまりスマートではないかなと思ってしまいました。確かに騙されましたが、驚きがないというか、それに よって事件が一転するわけじゃないですよね。技巧としての用い方に疑問を持ってしまいました。それ以外は大変面白いのですが。本編よりもやくざの惨殺事件 の方が……。



Self-Reference ENGINE
     円城塔著     ★★★★★         オススメ!




 ああもうわけがわからん。のっけからブッ飛んでる円城塔の傑作SF。同じ著者の『オブザベースボール』は芥川賞候補作。今作はこのSFが読みたい2008で第二位を獲得しました。黄色い装丁で有名な本。

 だいたい文章が達者な人間がSF書いたらおもしろいに決まってるじゃないですか。そんでもって書いてることがわけがわからなくて、全く読者にやさしくな いのにグングン読める。で、終わったら唖然。何度も読んでますけど理解するにはもっともっと勉強しなきゃいけないんでしょう。SFマニアの方々は大喜びで すし、初心者の方々にも『なんかわからんけどヤバい』ってことは伝わる傑作。この人の頭ん中どうなんてんのか知りたいわホンマ。



海を見る人
     小林泰三著     ★★★★+              オススメ!




情緒感に溢れる表題作を中心に、細部にわたって計算しつくされたハードSFの傑作短編集。僕としてはなによりも各章の合間に挿入された二人の詩的な会話が たまらなく好みでした。文章が良いSF作家の作品は間違いなく傑作というのが僕の持論ですが、今回もそれに当てはまります。どの作品も終盤でくるりと世界 が引っくり返るような仕掛けが施されていて、最後まで目が離せません(本なんだから当たり前だが)。

個人的な話ですが大学入試の試験が終了した次の日に読んだので、独特の世界観を想起しながら読み進めていくことに試験で疲弊した脳みそが悲鳴を上げまし た。そんなわけで電卓を叩いてみると深みが増すという解説を実行する気にはなれませんでしたが、ディープなSFファンには一層の楽しみが用意されていると いうお得な仕組み。

とにかく、切なさ溢れる表題作「海を見る人」を読まないままでいるのはもったいない。ぜひ書店へ。