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 「 蝶 道 」


 百篇の詩を詠んで、感銘を受けるフレイズは ひとつあればいい方だ。
 でもそれはただの道標。可能性であって、たったひとつの真理には成りえない。

 「そんな難しいこと考えて生きてるの?」
 「難しくないよ。考えてるだけだもの。」

 むしろ考えないで生きていける方が恐ろしい。それとも本能で嗅ぎわけて、いるのだろうか。だからある日唐突に予想もしなかった言葉を吐きだすのだろうか。

 この目に映るのは彼の人の世界だ。
 告げられたその言葉は貴方の欠片だ。
 この身に触れてこの芯を揺らしても 溶けこむことはない。

 「口先ではなんとでも云えるのに、それでもそんなに大事なものかなぁ。」
 「なんとでも云えるからだよ。」
 「変なの。」

 そう、頬づえをついて目を逸らす。その所作の一瞬にも、思考は生まれて消えるのに。
 言葉にしてくれればいいのに。
 己の為に 乞う。

 甘い蜜の味を占めると、もっともっと と 求めるのは、生ける物の性分なのか。
 しばし 酔う。
 時に 繰り返し味わう。
 その内に 向こうの花には何が在るのか 気もそぞろ。

 次々と舐めては笑み、感涙し、そして他の花に飛ぶ。いつしか 味わった感覚だけ胸に、馨しさや場所や装飾全てのことは忘れ去る。繰り返し繰り 返し。

  

 蝶 だ。

 ほら、あの蝶は同じ道を行ったり来たりを繰り返している。自分のルートを行ったり来たり。
 何故なら
 己の真理には辿り着けないから。
 こうして他人の思考を覗き見してつじつま合わせをしてひとつの花を夢見てみても
 その蜜の味も 寄せ集め。

 甘い。
 甘い。
 けれどこれは、違うんだ。

 「見つからないから、考えるだけ。」
 「考えて見つかるの?捜しに行かなきゃ。」

 またひとつ。
 貴方の吐きだした言葉に、羽根の振動が止まる。

 「そうだね。」

 

 

 また新たな道標。
 ベクトルは絶えることなく点々と繋がって行く。
 複雑に斑にけれど雑なわけではなく、そこには確かな法則がある。
 癖。

 

 「本当に、あなたって面白い人。」
 「アンタほどじゃない。」
 「そうか。」
 「そうよ。」

 

 予想もつかない蜜の味ほど 酔えるものはこの世にない。
 それが 私の世界だ。

 


060210

 

 

 

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