風邪に抗生物質は効きません。

ほとんどすべての風邪はビールス(ウイルス)で起こります。抗生物質は細菌を殺すのには有効ですが、ビールスには全く効果がありません。また抗生物質をあらかじめ飲んでおけば風邪にともなって起きるかもしれない細菌感染(二次感染といいます)を防げるというのも、まったく的はずれな考えです。

細菌とビールスはどう違うのですか。

まず知っていただきたいのは、ビールスと細菌では大きさが全く違うということです。細菌は普通の顕微鏡で簡単に見ることができますが、ビールスは電子顕微鏡でなければ見ることができません。当然体の中に入ってきたときに起こる症状にも違いがあります。一般的にはビールス性の風邪は症状が軽く、治るまでの期間も短いものです。もちろん例外もあります。インフルエンザやアデノウイルスなどは症状が激しいので細菌性の風邪と区別しにくいものです。そのため当院では「迅速検査」といって10分から15分でインフルエンザやアデノウイルスを診断できる検査を使っています。

なぜ抗生物質は二次感染に効かないのでしょうか。

私たちの体のあちこちにはいろいろなタイプの細菌がすんでいます。これは常在細菌叢といい、私たちの体をいろいろな感染から守ってくれています。お腹の中にいる乳酸菌などがそれです。

実は抗生物質は私たちの体の外から侵入してくる細菌を殺す作用もありますが、大切な常在細菌叢にも殺菌作用を及ぼして、細菌感染などから身を守る抵抗力を奪う場合もあるのです。

強い抗生物質を飲むと時々下痢をすることがありますが、これも常在細菌叢が弱っていることで起こる副作用の一種です。

風邪を引いて常在細菌叢がビールスと戦っているときに、その大事な善玉菌を抗生物質で殺して二次感染の予防になるとはとても考えられません。

またどんなに強力な抗生物質でも、すべての細菌をやっつけることはできません。条件さえそろえば、つまり風邪で体力が落ちたり抵抗力が下がっているときには、使っている抗生物質にまけないタイプの細菌が体に侵入することは、どんなタイプの抗生物質でも防ぎきれないのです。つまり、抗生物質を飲んでいても二次感染は起こり得るのです。むしろ予防的に抗生物質を使うことは、使われた抗生物質に負けないタイプの菌が増えてくることを進めることにもなりかねません。

抗生物質の予防投与に効果があるのは、抗癌剤などを使っていて白血球数が極端に低下しているときなど、きわめて限られた場合だけです。

特に深刻なのは耐性菌問題です。みなさんも「MRSA」とか「耐性緑膿菌」などという言葉を耳にされたことがあるかもしれません。こうした「抗生物質の効かない細菌」に、手術を受けられた方とか高齢者が感染すると、時にいのちを奪われることもあります。これらは多くの場合抗生物質の濫用によって作られた細菌です。元気な患者さんに短期間抗生物質を飲んでいただいた後に調べたら、3割以上の方に耐性菌ができたという報告もあります。通常抗生物質をやめたら善玉菌である常在細菌叢が復活して、耐性菌が問題になることは少ないのですが、このことからも抗生物質の安易な使用は危険だと考えています。

アメリカでは内科学会や米国疾病予防管理センターがキャンペーンを行って、医師に抗生剤の濫用を慎むように勧告をしています。日本国内では感染症学会などが、風邪に対して安易に抗生物質を使わないように警告を出しています。

抗生物質を飲んだら早くよくなったように感じるのですが。

「でも、抗生物質をもらった方が風邪が早くよくなったように思うが」とおっしゃる方も多いでしょう。しかしもともと風邪は自然とよくなるものがほとんどであり、そうした病気の場合薬の効果があったかどうかを判断することはかなり難しいものです。

実際「咳はあるがレントゲンに影のない」患者さんにいろいろな抗生物質を使って効果があったかどうかを調べた研究もありますが、抗生物質を飲んでいただいた患者さんと偽薬を飲んでいただいた方では、治り方に全く差がなかったことが報告されています。

どんなときにも抗生物質は使わないの。

では風邪を引いて医者にかかっても全く抗生物質を使わないのかと疑問をもたれることもあるでしょうが、決してそんなことはありません。私たちは細菌で起こった風邪を普通の風邪ときちんと区別して、必要があれば適切に抗生物質を使うように心がけています。

鼻風邪ですが抗生物質は必要ないですか。

鼻風邪のほとんどすべてはビールスによるものです。黄色い鼻水を細菌感染の証拠と誤解されている場合もありますが、鼻水から原因菌を調べた研究結果では、わずか2%でしか原因になる菌が証明されませんでした。つまり100人鼻風邪にかかっている人がいたとして細菌で起きたものはそのうち二人にすぎないということになります。鼻風邪で細菌感染が疑われるのは39℃以上の高い熱がある、鼻の周りに痛みを感じる、あるいは鼻の周りがはれているなどの激しい症状があるときに限られます。

のどが痛いのですが。

のどの風邪も高い熱が出やすいものですが、こちらもほとんどがビールスによるものです。問題となるのはA群β溶連菌という菌(俗に溶連菌と言います)で起きる咽頭扁桃腺炎です。のどの風邪の15%から30%がこの菌で起きたものです。これは昔間違えて法定伝染病扱いになったこともある病気ですが、まれにリウマチ熱といって心臓に障害を起こしたり、腎臓病を起こしたりすることがあることと、短期間抗生物質を飲んでも体から菌が消えてくれないというやっかいな特徴を持った菌です。これも10分間で診断できる検査がありますから、私たちはまずこの菌がのどにないかどうかを確かめて、もし菌が見つかれば10日間しっかり抗生物質を飲んでいただくことにしています。また一月後には心臓や腎臓に障害を起こしていないか確かめるために、オシッコの検査と聴診器で胸の音を聞きますから是非来てください。溶連菌以外で起きた扁桃腺炎に抗生物質を使う意味はまったくありません。

咳があるので肺炎が心配です。

先ほどもふれましたが「咳はあるがレントゲンに影のない」風邪には抗生物質は効果がありません。通常こうした風邪の咳はあまり激しくないのが特徴です。一方肺炎では激しい咳が長く続いたり、39℃以上の高い熱、胸の痛み、黄色い痰、息苦しさなどをともないます。赤ちゃんでは機嫌が悪くなり、あやしても笑わないとか、オッパイの飲みが悪くなるなどの症状が出る場合が多いです。

元気がいい子供さんが少し咳が出る程度で、肺炎を疑われることもありますが、診察して肺炎だったことは非常に少ないと思います。

風邪を引くたびにレントゲン写真を撮るのは、特に一年に何度も風邪を引く小さな子供さんではすすめめられません。私たちはまず聴診器で胸の音を聞いて、ぶつぶつと痰の絡んだような音がしてくるとか、右左で空気の入り方が違うとかいう肺炎の兆候がないかどうかを確かめます。また血液検査でCRPという微量なタンパク質が血液の中で増えていないかどうかを確かめる場合もあります(通常風邪の時はこのタンパク質が増えることは少ないといわれています)。幸い子供さんでは胸の厚みがありませんから、聴診器で異常を聞くことが比較的に易しいので、これで診断できる場合が多いように思います。

下痢をしたり吐いたりしていますが。

おなかの風邪の場合、まず食中毒かそうでないかを判断するのが一番大切です。なぜならば食中毒はそのかなりの部分が細菌性ですが、それ以外の下痢や嘔吐は逆にほとんどすべてがノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなどのビールスで起きるからです。通常細菌性の下痢では便に血が混じるとか激しい嘔吐をともなうとか、おなかの強い痛みを伴うことが多いものです。

下痢や嘔吐に軽い鼻水や咳などの症状をともなう場合は、まずビールス性の風邪と考えて間違いありません。また細菌性の下痢に抗生物質を使ったばあい、逆にその抗生物質が下痢を引き起こすこともあるので私たちは慎重に使うように心がけています。

熱が高いのですが。

38℃以上の熱が出ているがほかにこれといった風邪の症状がない場合、まずどこかに隠れた病気がないかどうかを確かめる必要があります。もしどこにも病気が隠れていないのであれば、何かの病気の前触れか、熱だけの風邪だと考えます。こうした風邪はもちろんビールスによるものですから抗生物質の出番はありません。また熱が出ているというだけでむやみに抗生物質を使うのは、熱の後に出てきた病気が薬の副作用なのか、本当の病気なのかをわからなくさせます。

熱も39℃を越えるような高熱は体に害を引き起こすこともありますが、38℃台の熱は体の中に入ってきた細菌やビールスが増えるのを防ぐ体のためになる働きもあるので、むやみに熱を下げすぎるのはあまりおすすめしません。水分の補給に心がけて、熱がこもらないように服の着せ過ぎや布団の掛けすぎをしないように、汗をかいたらこまめに下着を着替えさせるようにして、様子を見ましょう。

解熱剤のことを質問される方も多いですが、ある研究で解熱剤をどんどん使って熱を下げた風邪の子供と解熱剤を使わないで我慢させた子供で、風邪の治り方を比較したものがあります。それによると解熱剤を使っても使わなくても、風邪の治り方に大きな違いはなかったそうです。私は熱が高くても元気なお子さんに解熱剤を使うのはおすすめしませんが、子供さんがきつそうにしていたり、食欲がないならば解熱剤を使っても構わないのではないかと考えています。

高い熱が続くと肺炎になるのではないか、脳に障害が起きるのではないかとご心配になる方もいらっしゃるでしょうが、肺炎や髄膜炎で熱が高くなるのであって、熱があるからこうした危険な病気にかかるわけではありません。

もちろん子供さんの状態は常に変化します。ただの風邪だと診断されても別の病気が隠れていることはあることです。何か様子に変化がでた場合はご相談下さい。特に解熱剤を使ってもなかなか熱が下がらないとか、全然食べたがらないとか、ぐったりしているような場合は、重大な病気の場合がありますので、是非診察を受けて下さい。

抗生物質のことを教えてください。

抗生物質は細菌を殺すために開発されたものです。ビールスは細菌とは構造が違いますから抗生物質はまったく効果がありません。現在ビールスに効く薬もエイズの薬やインフルエンザの薬などのように、いくつか開発されていますが、ほとんどの風邪の原因になる何百種類ものビールスに効果のある薬はまだありません。昔から風邪の治る薬を作ったらノーベル賞ものだといわれてきましたが、これは今でもそうだと思います。

抗生物質はどんなふうにして細菌をやっつけるのか、その仕組みによって細かく分類されています。細菌のほうも形や性質で様々な種類に分類されています。私たちは病気の原因となっている細菌を調べ、その菌に一番効果のある薬を選択する必要があります。ただ実際は菌を調べるのが難しい場合がほとんどです。

肺炎の患者さんでは痰の検査をしてそこにどんな菌がいるのかを調べるのが有効ですが、ちいさな子供さんに「検査をするから痰を出してください」といってもまず無理です。また細菌の検査をしても結果がでるのに何日もかかります。そこで年齢や症状に応じておおよそどんな菌が原因になっているかを予測して、それに効果がありそうな薬を選んで使ってみるようにします。

私たちのところでは風邪の時にあまり長い期間同じ薬を出しませんが、それは薬の効果を確かめるためにそうしているものです。ご不便をおかけしますが、効果のない薬を長々と飲んでいただくよりはいいものだと考えています。

日本では長い間できるだけ多くのタイプの菌によく効く薬がいい抗生物質だと信じられてきました。しかしそうした種類の抗生物質(専門的になりますがセフェム系といいます)は、特に新しいものは先程述べた耐性菌を作りやすいことと、病気がよくなりかけると病気が起きている組織に行きにくいという特徴があります。つまり切れはいいが治りにくいという性質があります。また体の中の善玉菌を殺すことで思わぬ副作用をおこす場合もあります。

私たちはこのタイプの抗生物質はご高齢の患者さんや重症の患者さん用に主に使い、子供さんには一番ふるいタイプの抗生物質(ペニシリンといいます)を使うことを原則にしています。これは一般的にいってペニシリンが子供さんの肺炎などで原因となる菌に対して強い殺菌作用があることと、耐性菌を作りにくいという特性から、多くの感染症の専門家が勧めているものだからです。

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